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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード047 獣耳の少女

「よーしゼヴィ! そのまま突っ切れ!」

「ヒャハハハハハハッ!」


 視界が悪い中、私はゼヴィの背中に乗ったまま指示を飛ばす。


 ゼヴィは四足歩行で瓦礫の山とドローンの合間を縫うように駆けた。そして、レクスが壊したであろう地下ネットへ続く扉まで迫ると、そのまま中へ飛び込む。


 内部はコードや配線がむき出しになった足場の悪い坂道だった。ゼヴィは障害物を避けながら、勢いを殺さず前へ前へと進んでいく。


「! ゼヴィ、止まれ」

「ヒャハッ!」


 私の合図で、ゼヴィは火花でも散りそうな勢いで靴底を滑らせながら急停止した。


 完全に止まったところで背中から降り、目の前にある巨大な基盤みたいな壁へ手を伸ばす。


「……行き止まりか」


 周囲を見ても、抜け道はない。どうしたものかと壁を調べていると……。


「おっ」


 指先にわずかな沈み込みを感じた。


 押し込むように触れると、微かな駆動音とともに光の粒子が現れ、キーボードとパネルが立体的に浮かび上がった。


「……投影型インターフェースか」


 指でつつくように触れると、反応が返ってくる。


「ロックはされてないみたいだな……」


 上手いことやれば突破できそうだ。……そう、突破できるんだけど。


「……私、こういうの苦手なんだよなぁ」


 試しにDOS画面を表示させてみるが、並んだのは意味不明な文字列と記号の羅列だった。


「うげ」


 思わずしかめっ面になる。


 ギアの組み立てや神経インターフェースを弄るのは得意だが、こういうプログラムだの認証だの、画面の向こうで完結する話は本当に無理だ。拒絶反応でサブイボが出そうになる。


 ぶっちゃけ、トップスの時に通っていたバイオギア専門学校で私の成績が妙に偏っていたのもこのせいである。


 プログラミングなんてのがなければ、私の成績ももっと上位に!! ……今はその話はいいか。


「適当に弄ってみるか? ……でも、下手に触ってロックかかったら終わりだしなぁ」


 私は浮かんだキーボードを睨みつけながら、小さく舌打ちした。


 ……仕方があるまい。あまり乱用はしたくなかったんだけどな。


 軽く息を吸い、ゆっくりと吐く。そして、意識を内側へ沈め、そのまま神経を開いた。


 直後、脳を直接掻き回されるような痛みが走る。


「っ、あ……!」


 視界が歪み、耳鳴りがノイズに変わる。


 浮かんでいた電子画面が崩れ、代わりに大量のコードが無理やり頭の中に流れ込んできた。


「……くそっ!」


 内容は全く理解できない。けれど、神経で直接触れているからか、どこを触ればいいかだけは分かった。


 私は何もない空間に向かって手を伸ばす。


 ──ここだ。ここを、乱せばいい。


『……壊れろ』


 言葉と同時に、ぐっと拳を握る。すると、画面が弾けた。投影型インターフェースが一斉に消え、目の前の壁が鈍い音をたてながら左右に開く。


「……は、っ!」


 道が完全にできたタイミングで、全身から力が抜ける。膝が折れ、その場に崩れ落ちた。


「ぐっ!」


 あまりの激痛に耐えられず、頭を押さえる。脳が焼けるように熱い。額から嫌な汗が一気に噴き出し、呼吸がうまく整わない。


「ヴィク……」


 そのまま動けずに蹲っていると、ゼヴィが近づいてきた。


 アクシオンギアを使ったからなのか、執拗に、くっつくように私の頭の匂いを嗅いでくる。


「やめ、ろ。ゼヴィ……」

「……」

「嗅ぐな!」


 少し強めに押すと、ゼヴィはゆっくりと離れた。


「ヴィク……」

「お前に構ってる余裕はない」

「……ヴィク」


 何かを言いたげに見つめてくるゼヴィを無視しつつ、流れた汗を拭いながら立ち上がった。


 ……早く、進まなきゃ……レクスが待ってる。



   ◇ ◇ ◇



「あぁ! もう! しつこい!!」


 私は次から次へと襲い来るドローンに向かってEMP手榴弾を投げる。


 無理矢理こじ開けたせいか、中に入って数分もしないうちに警戒アラームが鳴った。そして、あらゆる場所から警戒ドローンが現れ、私たちの行く手を阻む。


 ウルフの奴らが出てくるよりマシとはいえ、EMP手榴弾ももう残ってない。このまま戦闘が長引けば不味い。


 レクス達はライドくんに乗っていたし、既にネットワークの中枢に辿り着いていてもおかしくはない。


 早く合流しなきゃと、焦りが募る。


「ったく、中枢どこだよ」


 私は周囲で暴れているゼヴィの位置を確認しながら、改造スタンガン銃をツールポーチから引き抜き、出力を最大にする。そして、接近してきたドローンに狙いを定め、叩き込む。


 電撃が直撃し、スパークしながら落ちていく機体。


「よし」


 スタンガン銃は、普通の銃と違って大雑把な狙いでも当たるから助かる。


 そのまま私に向かってきているドローンはないかと警戒していると、背後でガチャリと金属が擦れるような音がした。


「……っ」


 慌てて振り向いた時にはすでに遅かった。


 複数のドローンが至近距離で銃口を向けている。回避は間に合わない。


 いつもの癖でEMP手榴弾を投げようとするが、底をついていたことを思い出した。


 しまった! 撃たれる!


 そう覚悟して、せめて急所は守ろうとしゃがみ込んだ瞬間──目の前に、大きな影が現れた。


「……は?」


 影の正体はゼヴィだった。


 ゼヴィは両腕を広げ、銃弾を一斉にその身に受ける。


 な、んで……命令してないのにコイツが? 他のドローンに夢中だったのに……。


 私の混乱を他所に、ゼヴィは目の前のドローンに食らいつく。


 ゼヴィが強力な電気を纏いながら腕を振り下ろすと、複数のドローンの外殻が一斉に砕け、墜落した。そして、さらに追い討ちをかけるように踏みつけている。


 何度も。


 何度も、何度も。


 笑いもせず、無心で踏み続けている。


 ──もう、原型も残ってないのに……。


「……おい、ゼヴィ」


 呼びかけても反応はなかった。


 無表情のまま、ただ目の前の残骸を踏み潰している。


「止めろ! ゼヴィ!」


 私が命令すると、ゼヴィは直ぐに動きを止めた。そして、じっと私を見つめてくる。


 なんなんだよ、いったい……。


 いつもなら、こんな風に壊し続けたりしない。壊れた瞬間に興味を失って、嬉々として別のを壊しに行くのに。


 ……まぁいい。どうせコイツのことだ。なんとなくあのドローンが気になったとか、そんなとこだろう。気にするだけ時間の無駄だ。


「何、遊んでんだ。……行くぞ」


 私は銃を構え直しながら、前方へと体の向きを変えた。

 



 粗方倒したからか、ドローンの数も少なくなり、進むのが楽になった。さっきまでうるさかった機械音も嘘みたいに消えている。


『──い、じゃ……!』

「……ん?」


 無言で歩き続けていると、人の声みたいなものが聞こえ、足を止める。


 気のせいかと思ったが、耳を澄ますと、もう一度かすかに聞こえた。


 掠れた、短い悲鳴みたいな声。


 ……この先か。


 私はゼヴィの位置を確認しながら、音のする方へ歩み寄る。


 物陰に隠れるようにして、配線の束の向こう、薄暗い通路の奥を覗いた。すると、今までドローンしか出てこなかったのに、複数人の人影が見えた。


 ゴーグルの表示を調整して様子を伺う。


「……子供?」


 腕を拘束され、壁に押しつけられているミナと同じくらいの小さな女の子がいた。


 その周囲にいる男達のギアには、鋭い牙を剥いた狼の頭を模したシンボルが刻まれている。


 あのマークは……間違いない。


「ウルフか」


 あんな小さい子を捕まえて、何するつもりだよ。


 無意識に、改造スタンガン銃を握る手に力が入る。


「……ヴィク?」


 ウルフの奴らを睨んでいると、ゼヴィが小首を傾げながら隣に来た。そして、ウルフの連中と私を交互に見て、指を差す。


「ぶっ壊すのか?」


 目を輝かせて、確認するように聞いてくる。


「……あぁ」


 私は一度だけ目を伏せたあと、天井の影を指で示した。


「バレないようにな」

「ヒャハッ!」



   ◇ ◇ ◇



「いやぁ! 助かったのじゃあ~」

「……」


 周囲には、気絶したウルフの男たちが転がっている。何人かはまだ体を痙攣させていて、床には散った装備が無造作に転がっていた。


 その中で、女の子だけが妙に明るい声でお礼を口にする。


「おぬし等は命の恩人じゃあ!」


 さっきまで拘束されてたとは思えないくらい、女の子はまるで何もなかったかのような顔をしていた。


「お前、なんでこんなとこにいる?」

「ちょーっと遊んでたら、迷子になってのぉ!」

「……は?」


 迷子、だって?


 ここをどこだと思ってんだ。遊びで来る場所じゃないだろ。


 私は不信感を抱きつつも、女の子をじっと見つめた。そして、近づいてようやく気づいた。


 ……あぁ、そういうこと(・・・・・・)か。


 アンダーズに見合わない、傷一つないきめ細やかな肌。その下で脈打つ血管に、不自然に走るライン。


「……アークギアか」


 しかも、全身。


 トップス製、それもかなりの上位モデルだ。こんな子供が容易に入れられる代物じゃない。


 さらに目を引いたのは、頭の上に大きな狐みたいな獣耳のパーツだ。女の子は私の視線に気づいたのか、その大きな獣耳をピクリと動かした。


「かわいいじゃろ?」


 当たり前みたいに言ってくる姿に、反吐が出る。


 ミナの時と同じだ。子供にこんなものを仕込んで、好き勝手弄んでる連中がいる。


「……悪趣味にも程がある」


 思わず出てしまう悪態。


 女の子はそんな私の様子も気にせず、明るい笑顔のまま話し掛けてくる。


「本当にすごいのじゃ! ウルフの奴らが一瞬で倒れたのじゃ!」


 その無邪気さに、精神がすり減っていく。


「……お前、名前は?」

「わしか? わしはヤクモじゃ!」

「……そうか、ヤクモか」


 私はヤクモの頭をくしゃりと撫でる。


「のじゃ?」

「ヤクモ、親は?」

「いないのじゃ」

「いない、ね……」


 殺されたのか、捨てられたのか。どちらにせよ、このままここにいればどうなるかなんて分かりきっている。


 ……こんなの、柄じゃないのに。こんなことしてる暇はないのに。


「……ゼヴィ」


 ミナの姿がちらついて、放っておけない。


「この子、このまま一人にするのは危険だし、一緒に連れていく。道中はお前が──」


 守れ。そう言おうとして振り返ったのだが……言いかけた言葉が、そのまま消えた。


「……お前」


 そんな顔、するんだな。


 ゼヴィは露骨に嫌そうな顔でヤクモを見ていた。むしろ、軽く威嚇している。


 ……ダメだな、これは。


 諦めて息を吐き、私はヤクモに向き直った。


「私はヴィクだ。修理屋をしてる。ここには用事があって来てる。だから、すぐには外に出せない」


 そして、ゴーグルをずらし、目線を合わせながら安心させるように笑う。


「でも安心しろ。ちゃんと安全な──」

「のじゃあああああ!?」

「は!? なんっ!?」


 いきなり飛びつかれて、尻餅をつく。


「お、おぬし! 裸身(ネイキッド)か!? 裸身(ネイキッド)でソレか!?」

「え、なに!? なに!?」


 ヤクモは鼻息荒く、私の頬を掴んだ。


「もっと近くで見てもいいかの!? 今後の参考に──」

「がぁっ!!」

「のじゃあああああ!?」

「こ、こら! ゼヴィ! 止めろ!」


 な、なんなんだこいつ!?




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