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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード046 仕組まれた歓迎ーsideレクスー

「お、おい! アンタ! あの裸身(ネイキッド)大丈夫なのかよ!?」


 後ろを振り返りながらカムイが声を荒げるが、俺はチラリと視線を向けただけで、すぐに前に戻した。


「従順な番犬がいるからな。心配いらねぇよ」


 猟犬の戦闘能力の高さは、戦った俺が一番よく理解している。ウルフやジャッカルみたいな場所なら、大抵のことはアイツ一匹で片がつく。


「番犬って……あの、ネジがぶっ飛んでそうなのが? つぅか、オーバースペックしてないのかよ。あれで」

「さぁな。壊れる前に終わるだろ……おっと」


 危ねぇな。上からギアが大量に降ってきやがった……ヴィクの仕業だな。


 降り注ぐスクラップを縫うようにハンドルを切り、地下ネットワーク施設の入り口を左目のギアで捉える。


「舌、噛むなよ」

「は?」


 右腕のギアを前方に向け、数発叩き込む。金属が歪み、扉にヒビが走った。そのままスロットルを開け切り、入り口へ突っ込む。


「うわっ!」


 扉が弾けた。直後、背後で爆炎が上がる。


 ……アイツ、派手にやってんなぁ。


 小さく息を吐きつつ、そのままバイクで坂を滑り降りていった。






 しばらく走ったところで、バイクを止める。


「降りてくれ。こっからは徒歩だ」


 カムイが降りたのを確認して、俺はハンドルに手をかけた。


 盗難防止……って言っても、俺は詳しくねぇんだよな。


 ヴィクがどこを弄ってたか思い出しながら、適当に触ってみるが──


「何やってんだ」


 呆れた声が飛んできた。


 顔を上げると、カムイが片手を軽く払う。すると、空中に淡く光るキーボードが展開された。


 指先を滑らせるようにカムイが何かを素早く打ち込むと、目の前のバイクがすっと輪郭を失い、空気に溶けた。


「偽装ホログラムだ。これでバレないだろ」

「ヒュー。さすがコブラ。いい腕してるね」

「そんな旧世代的な処置してる方が驚きだ」


 即座に毒が返ってきて、肩をすくめる。


「それで、依頼主様。足に自信は?」

「あると思うか?」

「正直でいいね」


 さて、どう突破するか……と考えたところで、カムイが少し先で足を止め、その場にしゃがみ込んだ。


 再びキーボードが展開され、今度は電子画面も空中に浮かぶ。


「……何してんだ?」

「余計な揉め事はごめんだからな」


 イラついたまま指を走らせること数秒。


「……チッ」


 短く舌打ちして、立ち上がった。


「どうした?」

「中央に直で入ろうとしたら、親父のシステムに弾かれた」

「突破は?」

「無理。だから最短ルートの警備だけ落とした。何もなけりゃ、そのまま行ける」

「頼もしいね」


 軽口を返しながら、一歩踏み出す。そのままカムイの案内の元、目的地に向かって歩き出した。




 そうして歩くこと数分。俺たちの足音しか響かない空間に違和感を覚える。


 ……妙だな。外はあれだけ騒がしいってのに、こっちは静かすぎる。


 外の騒動が起きてから結構な時間が経っている。


 奴らも馬鹿じゃない。独自のネットワークがおかしいなら、絶対にこの地下施設に人を送るはずだ。それなのに、ウルフの連中が一人もいないのはおかしい。


 俺は歩幅をわずかに落とした。


「どうした?」


 前を行くカムイが振り返る。


「……いや」


 視線を横に流す。通路の壁。配線。監視用のレンズ。


 ……全部、生きてるな。落ちてるはずの警備も、まだ息してやがる。


「全部、落としたんじゃなかったのか?」

「最短ルートだけって言っただろ。弄りすぎてバレたら意味ないだろ」


 カムイは苛立ったように吐き捨てながら、数歩進む。けれど、曲がり角を抜けた先で足を止めた。


「……ちょっと待て」

「なんだ?」

「おかしい」


 短い言葉だった。


 だが、さっきまでの苛立ちとは違い、明らかに焦りの色が滲んでいた。


 カムイは再びキーボードを展開させる。指先を滑らせ、先ほどよりも速度が一段と上がっていた。


「……ルートが違う」

「は?」

「ありえない……ここは分岐なんて──」


 空中の画面に赤いラインが現れると同時に、言葉を止めた。


「書き換えられてる」


 ……そういうことね。


「なるほどな」

「なにがだよ」

「歓迎されてるってわけだ」


 通路の奥でかすかな駆動音が鳴った。


 ……嫌な気配だ。


 空気がわずかに重くなる。


「二度目はないって言ったはずだぜぇ?」


 聞き覚えのある耳にまとわりつくような響き。俺は反射でカムイの服を掴み、後方へ引き寄せた。


「……下がってろ」


 低く言い捨て、視線を前に固定する。


 足音が近づいてくる。ゆっくりと、わざと聞かせるような歩き方だった。


「……おいおい。よりにもよってお前かよ」


 一筋だけ伝う汗。暗がりの奥から、その正体が人工的な光に照らされた。


「そうだろ? 便利屋ぁ」


 ジャグナス・ローク。


 この区画の首領が、俺たちを待ち構えていた。


「……っ!」


 考えるより早く、左手がホルスターに伸びていた。同時に、ジャグナスの拳が目の前に迫る。


「チッ!」


 半歩だけ体をずらし、拳をいなす。頬を掠めたが、そのまま踏み込み、銃口を頭へ突きつけた。


 乾いた音が響く。


「ハッ!」


 ジャグナスは笑いながらのけぞり、弾丸が空を裂いた。


 外したか。


 次の瞬間、視界が跳ねた。振り上げられた足が迫る。


 咄嗟に腕を上げると、重い衝撃が骨の奥まで響いた。


 そのまま後ろへ滑るように距離を取る。靴底が床を擦り、そこで止まった。


 視線を上げ、いつでも攻撃できる態勢に構える。


「……相変わらず、無茶苦茶な野郎だな」

「テメェもなぁ、便利屋ぁ」


 ジャグナスは肩を回しながら笑う。まるで準備運動でもしてるみたいに。


「それで、何しに来た? ウルフの上級戦闘員(ファング)になりにきたってのなら歓迎してやるが……」


 ビリビリと肌に伝わる圧迫感。


「そうじゃねぇんだろ?」


 ここで答えをミスれば終わりだ。俺はともかく、カムイが死ぬ。


「敵対するつもりはない」

「判断するのは俺だ」


 短く切り返され、俺はカムイに視線を送った。


「……依頼主は俺だ」


 カムイが口を開く。掠れた声だった。


「親父を止めに来た。放っておけば、アンタらの方が被害を被る」

「……ほう」


 ジャグナスの目が細くなる。


「テメェの身内が荒らしてるってわけか。で、責任はどう取る」

「知らないね」


 カムイは、ジャグナスから視線を逸らさずに答える。


「親父の責任は親父に取らせる。俺はただ、区画間で余計な摩擦を生ませないためにきた。それだけだ」


 ほんの一瞬、空気が止まった。


「……面白ぇ」


 ジャグナスが低く笑う。けれど、すぐに表情が変わった。


「が、ダメだ。腹の虫が収まらねぇ」


 だろうな。コイツがそう易々と引くわけがねぇ。何かしらの条件をつけてくるのは想定内だ。


「テメェの事情なんざ関係ねぇ。荒らされ損で帰すわけにはいかねぇな」


 ゆっくりと視線がこちらに向いた。


 ……俺か。


 面倒じゃなきゃいいがな。適当な依頼なら難なく終わらせ── 


「代わりを置いていけ」

「……あ?」

「テメェんとこの……ヴィクっつったか?」


 ブチリ、と何かが切れる音がした。銃を握る手に力が籠る。


「いい女だよなぁ……知識、技術、技能。テメェんとこで使いつぶすにゃ惜しいブツだと思わねぇか?」

「……面白くねぇ冗談だ」


 気づけば銃口は上がっていた。


「アイツは『モノ』じゃねぇ」


 依頼も、立場も……全部どうでもいい。


「お、おい!」

「へぇ?」


 ……あぁ、ヴィクがここにいなくてよかった。


「随分と腑抜けた野郎になっちまったと思ってたが……」


 アイツにはこんな面──


「まだ、そういう目ができたんだな」


 見せられねぇからな。


「交渉は決裂か」


 心底嬉しそうに嗤う奴に向かって、躊躇なく引き金を引いた。


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