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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード045 地下ネットへ

 レクスが、眼隠れスクラップことカムイから依頼の詳しい話を聞いている傍ら、私はライドくん2号改の目視点検をしていた。


「それで、親父さんはウルフのどこに?」

「スクラップバザールの地下ネットだ」

「……地下ネット?」


 空気圧よし。タイヤにキズもなし。


「なんでまたそんなとこに?」

「……詳しいことは言えないけど、あるデータを消して欲しいって依頼があったんだよ」


 ブレーキブレードも、パッドの残量も問題なさそうだな。


「あそこのネットはクローズだろ。だから親父が直接行く羽目になったわけ。俺はコブラから遠隔で補佐」


 ボルトもナットも、危険箇所はなさそうだ。


「でも途中で親父がおかしくなって……あぁ、変な意味じゃない。親父の悪癖が出たんだ。それで止めようとしたら、あの糞親父、リンク閉じやがった」


 コブラからウルフの区画までの距離を考えると、ショートカットを使えば1時間ってところか。


「このまま放っておいたら、アンダーファイブ同士の争いに発展しかねない」


 ……そう言えば、気になったコースがあったな。あそこを使えば、もっと最短で行けるかもしれない。レクスもいるし良い機会だ。試しにちょっと使ってみるか。


「だから、親父を直接叩きに行くんだ。アンタ等は俺を無事にスクラップバザールの地下ネットワーク施設まで送り届けてくれればいい」


 私が軽い点検を終えたタイミングで、レクスが肩をすくめながらこちらを見た。


「……だ、そうだ。ヴィク、いけるか?」


 私はゴーグルの位置を頭から目元に下ろし、グローブを嵌めながら笑った。


「任せろ。爆速最短ルートで送り届けてやる」



   ◇ ◇ ◇



「う゛っ、……ぉえぇぇっ!!」


 ウルフの区画にて、四つん這いになりながら吐き戻しているカムイを、私は呆れた目で見下ろす。


「お前、そんな軟弱で大丈夫かよ。点検(みて)やろうか?」

「うるさい……あんな道とも思えない道を……あんな速さで……お゛ぇっ」


 カムイは涙目のまま口元を拭う。


 レクスは気の毒そうに「大丈夫かー?」と言いながら背中をさすっていたが、私は構わず周囲を見渡した。


 ……妙だな。


 前に来た時は、金属を叩く音や怒号。それに銃声も混じって、とんでもない大合唱を奏でていたのに……今回は変に静かで、聞こえてくる音は低く唸る電子音しかない。


「……レクス」

「あぁ」


 レクスも立ち上がって周囲を見回し、眉をひそめる。


「静かすぎるな。それに、人も少ない」


 レクスの言う通り、歩いている人が極端に少ない。しかも、通りを歩く連中はどこか落ち着きがなく、全員が同じ方向を気にしているようだった。


 あの方角は……スクラップバザールだな。


 私はレクスに目配せし、無言で頷き合う。


「ゼヴィ」

「うおえっ! 何す……」


 私の一言で、ゼヴィは気持ち悪そうにしていたカムイを肩に担いだ。レクスも右腕のギアの戦闘モジュールを展開させ、いつでも戦えるようにしている。


「手遅れじゃねぇことを祈ろうぜ」


 レクスのその言葉を合図に、私はライドくんのセルを回した。







「……派手にやってんねぇ」


 スクラップバザールに近づくほど騒がしさは増し、遠くから聞こえていた怒鳴り声もはっきりと耳に届くようになった。


「ふざけんな!! リンクが落ちたぞ!!」

「オッズが動かねぇ!!」

「勝っても払われねぇ!」

「俺のクレジットが消えた!!」


 そんな声が聞こえた瞬間、ゼヴィの肩に担がれているカムイの顔色が別の意味でも変わる。


「……さいっっあくだ」


 ゼヴィの肩の上で口元を押さえながら、カムイはスクラップバザールの方を睨む。


「あんの糞親父っ!」


 私はライドくんのハンドルを握ったままゴーグルを押し上げ、煙の上がる方角を見据えた。


 スクラップバザールの上空では、数機の監視ドローンが滞空していた。ウルフの連中がそれに銃撃を浴びせ、銃声があちこちで弾けている。


「どう収集つけんだよ! これ!!」


 カムイが青い顔のまま悪態をつく。その横で、レクスが後部座席から身を乗り出した。


「まぁまぁ、落ち着きなさいって」


 飛び込んできたドローンの一体を撃ち落としながら、軽い口調で言う。


「これが落ち着いてられるか! また(・・)親父のせいで追い出されたら完全に詰んじまうんだよ!!」

「その辺はどうとにでもなる。まずは目の前だ」


 レクスはもう一体ドローンを撃ち落とすと、煙を上げて落ちていく残骸を見送りながら肩をすくめた。


「……遠くで眺めてても仕方ねぇな」

「だったら、現場に行くしかないな。ゼヴィ!」

「ヒャハ!」

「うお゛えっ!」


 私はさらにアクセルを捻った。ライドくんのエンジンが唸る。ゼヴィが地面を蹴り、ライドくんの横に並んだ。


 そのまま崩れた工場跡の通路を抜けると、前方の視界が一気に開けた。


 ──スクラップバザール。


 前来た時よりも、物騒になっていた。


 巨大な空洞の中央で、金属片だらけのリングが半ば崩れている。


「ドローン落とせ!!」

「戦術AIが暴走してるぞ!!」

「リングが潰れる!!」


 観客席では武装した連中が銃を撃ちまくり、上空では監視ドローンが黒煙を引きながら旋回していた。床を這う警備ドローンまで暴走して、観客席の脚元を走り回っている。


 中には負けた連中同士が殴り合いの喧嘩を始め、どさくさに紛れて倒れた男のクレジット端末を奪おうとする奴までいた。


 現場は完全にカオスだ。


「道開けろ!!」


 私は力強くアクセルを回した。


 ライドくんが火花を散らしながらスロープを滑り降りる。スクラップバザールの混乱の中心へ、一直線に突っ込んだ。


 狂騒が一斉にこちらへ牙を剥く。


 銃弾の雨が私たちを襲った。


「ゼヴィ!」

「ヒャハハハハハッ!」

「おわっ!?!」

「オーライ」


 私の声を合図に、ゼヴィがカムイをライドくんの方へぶん投げる。レクスがそれを慣れた手つきで受け止めた。


 ゼヴィは銃弾の雨の中へ躍り込む。


 背中のスラスターが蒼い炎を吐いた。ゼヴィの身体が一瞬で加速する。弾丸が人工皮膚を裂き、下の装甲が覗くが気にも留めない。


「遅ぇ」


 ゼヴィは壁を蹴った。


 外壁を駆け上がり、空中で身体を反転する。そのまま上空のドローンへ飛び込んだ。


「きかっっねぇなぁあ!!」


 振り上げた腕が小型ドローンを叩き潰す。


 砕けた機体の向こうから飛び出してきた中型機の脚を掴み、背中のスラスターで強引に軌道を変えた。そのままリングへ叩き落とす。


「──聞かせろよ」


 爆ぜた火花と金属片が、スクラップの空へ散る。


「てめぇの……」


 ゼヴィは着地せず、落下の勢いのままスクラップを踏み潰す。その反動で次のドローンへ飛び込んだ。


「壊れる音おおおおお!!」


 ゼヴィの脚部ギアが装甲へ食い込み、ドローンの機体を引き裂いた。


 ……行くなら今だな。


 私はツールポーチがしっかり腰に固定されているのを確認してから、レクスに視線を送った。


「レクス、ハンドルお願い!」

「……お前ね。お転婆も大概にしなさいよ」

「は、はぁ!? ちょっ、裸身(ネイキッド)のくせに!? この高さからっ……おい!」


 私は思い切りライドくんを蹴り、空中に飛び出す。


「ゼヴィ! 回収!」


 ゼヴィがスラスターを吹かしながら、空中で私を掴む。


「ヒヒャッ!」


 そのまま肩に担ぎ上げ、スロープへ着地した。重い着地音が響く。同時に、私はゼヴィの肩から飛び降りた。


 レクスは私の代わりにハンドルを握り、そのままライドくんをリング中央へ滑り込ませた。


「足止めは任せて!」

「遅れたら飯抜きな」


 レクスの背中が遠ざかっていく。ゼヴィも、嬉々としてドローンが沢山ある場所に飛び込んでいった。私はスロープの上に立ったまま、状況把握に努める。


 ゼヴィよりも、レクスの方が守りながらの戦いに慣れている。だから、カムイはレクスに任せた方が安全だ。


 なら、私の役目はレクスとカムイが地下ネットに潜るまで、ゼヴィを暴れさせて周囲の目を引きつけることだ。


 ドローンとウルフの戦闘が広げられている中心地を見渡す。


 上空では相変わらずドローンが旋回し、地上でも走り回っている。対抗するようにウルフの連中も銃を撃ち続けていた。


 ゼヴィは中央で、まるで獲物を嗅ぎ分けるみたいに顔を上げた。


「……アハァッ」


 スラスターが唸る。ゼヴィの身体が残像を引いて走った。ドローンが一機、二機とスクラップに変わる。


 ……また、来るな。


 煙の中から、新しいドローンが数機現れた。


「チッ……」


 これじゃあ埒が開かなそうだ。


 何か良い物はないかと見上げる。すると、頭上には解体ラック。そこには回収されたギアの腕や脚が、乾燥ラックみたいにずらりと大量に吊るされていた。


 アレは使えるな。


 私はニヤリと笑い、スロープを駆け下りる。


 それに気づいたゼヴィが、ドローンを叩き落としながらこちらへ滑り込んできた。


「ゼヴィ!」

「ヒャハッ!」


 タイミングを合わせ、私はゼヴィの腕に足を掛けた。ゼヴィが理解したように腕を突き上げる。


 その反動で身体が持ち上がる。私はそのまま頭上のワイヤーを掴んだ。


 電磁カッターで一気に切断する。ギアとスクラップが盛大な音を立てながらリングへ降り注いだ。


 金属片が視界を埋め、ドローンの動きが乱れる。私は切れたワイヤーにぶら下がったまま、その様子を見下ろした。


 落下が収まるのを見計らい、振り子みたいに弧を描いてリングへ降りる。


 その隙を、ゼヴィが見逃すわけがない。


 ゼヴィが壁を蹴った。空中でドローンを掴み、そのまま振り回す。


「ぶっ壊ぁす!!」


 ゼヴィは掴んだドローンを振り回し、そのままもう一機へ叩きつけた。二機まとめてスクラップになる。


 私は自分が落としたスクラップの山へ駆け寄り、ギアを一つ掴んだ。流れるように内部バッテリーを引き抜く。


 ラッキー。思ってた以上に状態がいい。


「悪いね」


 ツールポーチからケーブルを取り出し、即席で結線する。もう一つ、もう一つとバッテリーを拾い、直列に繋いだ。


 リング中央ではゼヴィが楽しそうに暴れている。距離は十分。巻き込まれる心配はない。


「ヒャハハハハハッ!! 壊す壊す壊す壊すぅ!」


 ゼヴィの笑い声が響く。スクラップの山がさらに積み上がっていく。


「……」


 スクラップ。落ちたギア。バッテリー。ドローンの燃料タンク。そして──リング中央の鉄柱。


 ……いける。


 私は燃料タンクを転がし、さっき繋いだバッテリーを固定する。ケーブルを鉄柱へ巻き付け、溶接機のトーチで端子を焼いた。


「ゼヴィ! そこ!」

「ヒャハハハハハハッ!」


 ゼヴィが笑いながらドローンを引き寄せる。


 数機のドローンが固まったタイミングで、私はそれをリング中央へ放り投げた。


「伏せろ!!」


 爆炎がリングを揺らした。


 地響きとともにスクラップが吹き上がり、ドローンの編隊がまとめて弾け飛ぶ。黒煙が一気に広がり、リング全体を覆った。


「なんだ今の!?」

「リングが崩れるぞ!!」


 視界が潰れる。悲鳴と怒号が入り混じり、皆が右往左往している。


 私は額に押し上げていたゴーグルを引き下ろす。


 視界が切り替わる。煙の向こうに、熱源と動体の輪郭が浮かび上がった。


 私はスロープの奥、地下搬入口の暗がりを見る。レクスたちの姿は、もう見えない。


 よし、潜入成功だな。


「ゼヴィ、撤収!」


 煙の向こうで、ゼヴィがまだ壊れ残っているドローンを一機踏み潰しながら振り向く。


「……もう終わりか?」


 名残惜しそうな声だった。


「仕事は終わった」

「……そうか」


 ゼヴィはしょんぼりと肩を落とす。


 だが文句は言わず、スクラップを蹴りながらこちらへ戻ってくる。


 さて、良い感じに視界は不良だ。私たちもこの騒ぎに紛れてレクスたちと合流するか。



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