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爆槍!アルス・マグナ  作者: 七緒木導
第六章 マグナ、森に行く
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第136話

 遅ればせながらワイルドキャット団単体によるマグナ・グライプ救出作戦が開始された。

 作戦遂行の為、ミャールとロウディは赤沼の両岸に別れて走る。

 たかが一分……。されど一分……。

 相手は地縛竜だ、作戦成功の確率は極めて低い。

 しかも救い出さねばならないマグナは今も赤く濁った水の中だ。

「俺達が助けるまで溺れ死ぬなよ……」

 ロウディが走りながらつぶやいた。

 同時に岸辺でエリッサが魔道具の力を引き出す為に呪文を唱えた。

 二人の霊力を受けた途端、水の魔法具が青白い光を放ちながら輝き出す。

 それは起動と同時に発動する霊力を放出だった。

 その水の霊力に気付いた赤沼の地縛竜が首を傾げる。

 すぐに向こう岸に立つ二人の少女の姿を発見した。

 二人はまるで系統の違う魔法使いだった。

 精霊師で魔法具に込められた力を発動させる為に高度な水系の精霊魔法を唱え、尼僧が光属性の神聖魔法を水系に類似した術式に変換し精霊師に霊力を注ぎ込んでいく。

 それは恐ろしく複雑で難解な作業だった。だが作業を行う二人の息は計った様にぴたりと融合し、宝玉は順調に力の解放に向かっていく。

 だが放出される二人の霊力量の異常は地縛竜も既に気付いていた。

 火焔竜は本能的に脅威を感じると、水面から体を起こし、二人に向かって火炎を浴びせ掛けようとした。

「そうはさせないニャ!」

 ミャールが岸から地縛竜に向かって鋳物で出来た手りゅう弾を投げた。

 導火線から火花を散らしながら丸い球が地縛竜の眼前に届く。

 手りゅう弾は地縛竜の眼前で爆発し白い光を放出した。

 その光の激しさに地縛竜の瞳が眩む。

「グギャアアアアアゥ!」

 眉間を歪めながら地縛竜が呻いた。

「いいぞ、ミャール!」

 一方、対岸からロウディが飛んだ。

 人狼のバネから生み出された跳躍力は凄まじく、赤沼の対岸から地縛竜の眼前まで軽々と到達した。

 更にロウディは一族によって受け継がれた秘伝の風の精霊魔法を発動させた。

「我にシリウスの加護を!」

 その直後、ロウディの周囲に凄まじい気流が発生する。

「狼牙旋風!」

 空中でロウディが愛用の短刀を振るった。

「喰らえぇ!」

 魔法の風は短刀と融合し、長大で強靭な一個の空気の刃となる。

 刃の一閃が光で目の眩んだ地縛竜の横っ面に叩きつけられた。

 直撃と同時に地縛竜の右頬が大きく切り裂かれると、重い頭蓋は揺らぎ、吐き出された火炎の射線は詠唱中の少女達から外れる。

「ざまぁ!」

 地縛竜に一撃を浴びせられた事でロウディが歓喜した。

 だがロウディの奥義も所詮、強大な地縛竜の力の前では面の皮を一枚斬ったに過ぎない。

 しかも相手は痛点からロウディが攻撃して来た位置を正確に割り出していた。

 視界を遮られたまま地縛竜が大きく首を振った。

 今度は先ほど傷付けたはずの地縛竜の横っ面が空中のロウディに襲い掛かる。

「うぎゃ!」

 横っ面が巨大な鈍器となってロウディの全身を弾き飛ばした。

 形勢は呆気なく逆転。哀れ、ロウディの体が地縛竜の頭蓋の前から遠く飛ばされると、赤沼の対岸を越え、森の中へと消えていった。

「ロウディ!」

 地縛竜からの反撃を真面に喰らったロウディに向かってミャールが思わず叫ぶ。

 そんな人猫族の声の聞こえる方角に向かって地縛竜が炎を吐く。

「ふみゃあああああああああああ!」

 大顎からあふれ出る炎から逃れようとミャールが慌てて森の中へと撤退した。

「作戦失敗ニャァ! エリッサ、スフィーリア、そこから逃げるニャァァァァ!」

 エリッサが逃げながら叫ぶ。

 もはや時間稼ぎは不可能だった。

 エリッサとスフィーリアを守る者はどこにも居ない。

 彼女が求めた一分間の時間稼ぎは半分にも達していない。

 だがそんな火急の事態の中でも二人は呪文詠唱に集中していた。

 お陰で宝玉の力は半ばまで完成していた。

 宝玉は赤沼の水を抽出すると清らかな水に浄化し渦を捲く様に纏った。

 すると宝珠を中心に全長3mを超える細長い筒状の物体に形を変えていく。

 それはさながら水で出来た巨大な魔法の大砲だった。

 エリッサとスフィーリアは水の大砲を腰だめに構える。

 砲口の先には真っ直ぐに地縛竜の頭蓋を捕らえていた。

 しかし時間が不足し錬成は不完全なままでこのまま撃っても何の効果も無い。

 邪魔者を排除した地縛竜が今一度、大きく息を吸った。

 この火炎で二人を水魔法の大砲ごと消し炭に返るつもりだった。

 二人の命が危ない。

 このままではマグナを助ける前に二人が焼き殺されてしまう。

 無慈悲にも地縛竜が大顎を開いた。

 喉の奥から膨大な熱量が溢れ出す。

 だがその時だった。

 水の中の地縛竜の右後肢が突然爆発した。

 足裏は砕け散り赤池の中の巨体がバランスを崩しそのまま沼の中に転倒した。

 同時に飛び散った骨と肉片が赤沼の中へと落ちていく。

 突然の痛みに地縛竜も炎を吐くどころでは無くなった。

 そして今一度、頭を捻る。

 足の裏にはあの光の槍を操る虫ケラが居たはずだ。

 あの忌々しい自分が作り上げた迷宮を破壊した虫ケラが。

 だが奴はどうした?

 確か体の骨を粉々に砕きながら水中に踏みつけ溺死させようとしたはずだ。

 あれからどうなった?

 そう言えば他の虫ケラ二匹の爆弾と風魔法の斬撃を受けた時に大きく首がよろけだ。

 その時、無意識に水中で右脚を動かし、泥の中で緩めた。

 だが足の裏の奴はまだ溺死していなかった。

 そこで拘束が解け、その余波をもって我の右脚を破壊したのだ。

 不覚!

 地縛竜が慌てて周囲に首を振った。

 どこだ! 奴はどこだ! あの虫ケラは何処にいる!

 潰れた右脚を再生させながら残った左脚と尻尾を使って立ち上がると、火焔竜は逃げた虫ケラを懸命に探す。

 奴の姿はすぐに見つかった。

 自分の頭部の直上、爆発の衝撃を使って高く高く跳躍していた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアァァ!!」

 地縛竜が宿敵に向かって吠えた。

 許さない! 虫ケラの分際でここまでコケにされて生かしてなるものか!

 右脚が吹き飛ばされ地縛竜の怒りが頂点に達っす。

 だがマグナの思わぬ逆襲がエリッサとスフィーリアに貴重な時間をもたらした。

 水魔法の大砲の錬成が完成したのだ。

「主の加護があらん事を!」

「水の精霊サワビーよ! 我に邪悪な竜を討ち倒す力を与え給え!」

 二人の術者が同時に詠唱を完了させた。

 標的は地縛竜の頭蓋、そこに地縛竜の弱点である芯がある。

 芯の位置は術者の力によって既に解析済みだ。

「発射!」

 エリッサの叫び声の直後、魔法の大砲から強力な水魔法が放出された。

 中央で渦巻く巨大な水球が尾を引きながら真っ直ぐに地縛竜目掛けて直進する。

 水球は寸分の狂いもなく、頭上を見上げた地縛竜の大顎に命中した。

「グオオオオオオォ!」

 絶叫を上げながら地縛竜の顔面が砕かれる

 大顎はもぎ取られ、頭蓋は頭骨まどもが剥き出しになり大きな亀裂まで入っていた。

「やったわ!」

「やりましたわ!」

 地縛竜に渾身の一撃を浴びせられた事にエリッサとスフィーリアはお互いの手を合わせて歓喜の声を上げた。

 右脚を失い、頭部が損傷した地縛竜の巨体が赤沼の上で再び大きくよろめいた。

 火焔竜の属性は炎、水魔法とは相克関係にあり、魔法具の性能が充分であれば地縛竜相手でも効果は出る。

 しかしその光景を森の中から一部始終を見ていたミャールが大声で叫ぶ。

「ウミャア! まだ終わってないニャ!」

 ミャールの声が二人の元に届いた途端、地縛竜が両脚を拡げて踏ん張るとよろめく体を立て直した。

 そして地縛竜が持つ驚異的な治癒能力で頭蓋の傷を修復し始めた。

 頭骨の亀裂は塞がり、頭の皮が傷口を塞ぎ、砕かれた大顎までが元通りに再生し始める。

 地縛竜の弱点は芯と呼ばれる魂の器。

 それを破壊すれば魂は霧散し地縛竜を殺す事は出来る。

 しかしその弱点を破壊しない限り体をどれほど傷付けようと地縛竜は蘇る。

 ここまでしても奴はまだ死んではいない。

 一転、エリッサとスフィーリアはその事実を前に愕然とした。

 自分達の力では水球の魔法を発射させるのは一回が限界だ。

 もう奴を倒す手立てはどこにも残っていない。

 残っているのは敗北の結果待ちだけだ。

 しかし神は彼女達を見捨てなかった。

 二人の耳に天空から凄まじい雄叫びが轟く。

「エヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 それは地縛竜の頭上から垂直降下するマグナの叫び声だった。

 マグナは髪を赤と金色に輝かせ、その手には光の槍を握っていた。

 そして空中で痩身の体を大きくしならせると、そのバネを使って光の槍を撃ち放った。

 槍が剥き出しの頭蓋骨目掛けて叩き込まれる。

 穂先は頭蓋の一番厚い箇所すら貫通し脳髄にある芯にまで達した。

 芯は穂先が触れた途端、蒸発した。

 直後に光の槍「ガッツ・ランサー」は輝きを放ちながら爆発した。

 その破壊力は凄まじく、地縛竜の頭蓋を一瞬で丸ごと吹き飛ばす。

 それは火焔竜の命の炎を敢え無く消し去る瞬間でもあった。

 やがて力が抜けた赤銅色の巨体が再び赤沼の中で横倒しになる。

 火焔竜の全身は完全に機能を停止させ、既に動かぬ骸となっていた。

 後は幾度となく波紋を拡げながら赤沼の泥の中にゆっくりと沈んでいく。

「ばんにゃーい、やったニャア!」

 地縛竜の骸を眺めながら畔でミャールが歓喜の声を上げる。

「やった、やったニャア! エリッサ、スフィーリア、これで私達も称号持ちニャ~」

 二人の下に駆け寄ったミャールが子供の様にはしゃぎ回る。

「……」

 しかしエリッサもスフィーリアも絶望から解放された事に腰が抜けたのか、その場でへたり込んでいた。

 自分達がまだこうして生きている事が不思議でならない。

 今の二人は揃ってそんな気持ちでいた。

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