イケメン、コロスベシ! その7
剣に拘らない、空いた左手での突っ張り。
酷く単純で原始的。
捻りも何もなく、ただ力任せに突き出した腕。そんな単純な行動だが、決して粗末ではなかった。
ミッツに優れた体術が備わっていたのか?
そうではない。
モンスターになったことによって、手に入れていた素晴らしいもののお陰だった。
2mを超える、巨大と言っても良い体躯。
全身を覆う硬い鎧。
技術などなくても、腕を振り回せば、それは立派な凶器。
そこから始まる怒涛の攻撃。
拳や蹴り。大きな体をふんだんに使った体当たり。
考えて攻撃しているのではない。
それは、まるで子供の癇癪。本能だけで目の前の敵に襲いかかっていた。
ミッツはストレスが限界に達し、切れていた。
真っ白になった頭で、我武者羅に襲いかかる。
その猛攻は、LV差があるイケメン冒険者にも通用していた。
大振りの拳は、盾で受け止めたとしてもハンマーで打ちつけられたような衝撃で態勢を崩される。
的確に急所を狙ってくれば経験にて捌くことも出来ようが、ミッツの攻撃には狙いなどない。
どこかに当たれば儲けものといったくらいに大雑把。
受けに回れば不利として回避を選択しようにも、長い手足とそこから繰り出される手数の多さに、完全回避は不可能。
守りがダメなら、攻撃で倒す。
イケメン冒険者の導き出した選択。
しかしそれもまた、ミッツの無意識の行動が難しくしていた。
死ぬことに慣れてしまっているミッツ。それでも、平時であれば、攻撃を食らう、特に刃物に向かうのは抵抗がある。
だが、今のミッツは考えるようりも先に体が動いている状態。
やられる前に殺る。
その一心で動くミッツは、被弾覚悟で前に前に進む。
結果、イケメン冒険者の攻撃が当たる前にミッツの打撃が入り不発に終わる。
「なんだ!? こいつは、引籠もる剣士ではないのか?!」
「なんやねんこれ。いつものはこんなに強くないで!」
追い込まれたイケメン冒険者。
そして、騒然とする一般人パーティー。
「まずは正体を……。未熟な問い――」
イケメン冒険者を追い込んだが故に、ミッツが恐れていた自体が起こる。
イケメン冒険者の知る【引籠もる剣士】との懸け離れた戦い方から、未知のモンスターだという疑いになり、鑑定スキル《未熟な問い掛け》の使用に踏み切らせた。
――だが、傍若無人に暴れるミッツは、それも潰す。
むんずとイケメン冒険者の盾を掴み、振り回した。
ミッツの膂力は、イケメン冒険者の足をぶっこぬき、逆ジャイアントスイングのように振り回す。
そんな勢いと力で振り回された場合、盾から手が離れておしまい。
普通ならそうなるものなのだが、ダンジョンの中に於いて、そんな常識以外の力が働く。
加護職業の装備適性。
それは、装備適性があるものだと存分に性能を発揮するという特殊な能力。
例えば、戦士であれば子供でも簡単に振り回せる剣。しかし、筋肉がムキムキだとしても魔術師がその剣を装備すると、重くて振り回すどころか構えることも出来ない。
他にもメリットがある。
適性のある装備品は、ダンジョンで死んでもドロップしない。
そんなメリットが、今回はイケメン冒険者にデメリットとして襲いかかった。
装備品は、装備を解除しないと持ち物に出来ない。
だから、イケメン冒険者は咄嗟に装備解除に頭が回らず、手は盾を放せなかったのだ。
漸くそのことに思い至ったイケメン冒険者が盾を手放すと、遠心力で飛ばされる。
だが、流石は冒険者。そんな態勢からも、足で着地。たたらを踏んで数歩下がるだけで堪えた。
「な!」
しかしそこに、ミッツの追撃が決まる。
イケメン冒険者の腹に足の裏を押し付け――
「うるりゃあ」
巻き舌気味に力が籠もった怒声と共に、押し出す。
所謂、ヤクザキック。
2m程、勢い良くイケメン冒険者はすっ飛ぶ。
盛大に金属が打つかる音が響き渡った。




