イケメン、コロスベシ! その6
「勝てないねー」
「やはり直立する狗程度では、冒険者の相手は勤まりませんね」
ミッツは地下2階に降りると、姫に手応えのある侵入者が現れたと伝えた。
そして、今は2人でその手応えある侵入者――イケメン冒険者を亡き者にするために行動を開始したのだ。
まずは正攻法。
イケメン冒険者を連れて調子に乗った“大阪さん”が地下に降りてきたので、モンスターの行動方針を特定対象の優先撃破に変更する。
しかし、【直立する狗】ではイケメン冒険者に歯が立たなかった。
剣の一振り毎に屍を晒し、経験値を供給するだけの結果に終わる。
「トラップを使ったら良いんじゃない!」
現在使えるモンスターでは止められないと分かると、姫がそう目を輝かせる。
「しかしですね、余裕が出てきたとはいえトラップを設置すると毎日の維持費は厳しいですし……」
「今日だけ使って、またどけちゃえばいいじゃん!」
「設置費が維持費10日分でなければそうしたいんですが……それに、メインターゲットの一般人に対してはトラップはオーバースペック過ぎるのでリピーターが減ると困るのですよ」
もっともらしい言い訳をするが、11倍のコストをスポットで使用するような贅沢が貧乏性のミッツには出来なかったというだけのこと。
ミッツが判断に踏み切らないままあれこれしている最中も、イケメン冒険者は【直立する狗】を斬り伏せながら進んで来る。
そして、正攻法のモンスターをぶつける以外の手を講じないうちに、遂に地下2階への階段前までイケメン冒険者達が到着した。
「まずい。取り敢えず、姫は部屋に隠れていてください」
「わらわだったら大丈夫だよ。ミッツは心配性だなー」
「大丈夫とかそういうことじゃないんですよ。後で説明しますから隠れていてください!」
ミッツが声を荒げての懇願に、姫は渋々部屋へと続く隠し通路に消えていく。
それを確認する間も惜しみ、ミッツは兜で顔を隠す。
ほぼそれと同時。部屋に入ってきた足音が聞こえた。
「あ、冒険者様。あれですよ。言っとった強いモンスターってのは」
そして続く、独特のイントネーション。
「あれは引籠もる剣士ですね。かけだし冒険者でも、1対1では厳しいモンスターです。あなた方では手に余るでしょう」
「そうなんか! それやったら、わいら結構強いんやな」
「? どういうことでしょう」
「もう何回か倒してるもんな。倒したら金貨入った袋落とすから、人気やねん」
一般人のリーダー格“大阪さん”が言う通り、ミッツは何度も一般人に敗北している。
しかしそれは、絶対に勝てないと思わせないための仕込み。
悲しいことにミッツは、僅か数日間で殺すことにも殺されることにも慣れてしまっていた。
「そうですか。それは心強い。しかし、今日は自分にお任せ下さい。自分は引籠もる剣士程度に遅れを取るつもりはありません」
イケメン冒険者の絶対の自信。
それもそのはず。【引籠もる剣士】のソロ討伐適正LVは8。
LV14のイケメン冒険者には、難しい相手ではない。
ゆっくりと振り向いたミッツに、イケメン冒険者が飛びかかる。
振り下ろされる剣をミッツはなんとか受け止める。
「(くっ……)」
いつもの一般人の攻撃とは違う、本当の冒険者の攻撃。
その威力は、剣で受け止めたというのに、HPが大きく減った感覚があるほど。
その衝撃に、ミッツは心の中で焦りを露わにする。
それでも、声を漏らさないと言う理性は保っていた。
兜で顔を隠せば正体はバレないが、声を出すと流石にバレる。
一般には、ダンジョンのモンスターは喋れないと言う常識がある。
それなのに声を出せば、正体を探られることになるだろう。具体的には《未熟な問い掛け》というスキルで。
ミッツはその自体を避けなければならない。
だが、使用された時点で終わり。
唯一の回避方法は、使用される前に殺してしまう以外にない。
受け止めていた剣を力尽くで弾き返し、切り返す。
ミッツは渾身の攻撃を繰り出した。しかし、イケメン冒険者は悠々と盾で防ぐ。
勝負を逸るミッツは、立て続けに斬りかかる。
だがその攻撃は、ことごとく盾に阻まれて終わった。
剣術のどころか格闘技の心得が全くないミッツは、利き腕である右手を振り回す単調な攻撃しか行えない。
《未熟な問い掛け》がちらつき、焦っているミッツの攻撃は、益々単調となり同じ攻撃を繰り返していた。
決め手となる攻撃力を持った、“真上から振り下ろす”“袈裟懸けに斬りかかる”。このふたつを延々と。
それは、左側に大きな盾を構えたイケメン冒険者に通用するはずがないこともわからずに。
「はっ!」
そんなミッツの攻撃の合間に、イケメン冒険者は突きや手首のスナップを効かせた小さな動きでも効果のある攻撃をミッツに浴びせる。
「流石、冒険者様やで! なんかこの部屋はお宝とかありそうやから、はよ探検したいわ」
「(それは困る。隠し通路が見つかったら姫が!)」
正直、正体がバレないならやられても良いと考え始めていたミッツ。だが、この発言に更なる焦りを覚える。
イケメン冒険者の攻撃と、“大阪さん”の口撃に追い込まれるミッツ。
「(くそが!)」
「おっと……」
追い込みが、ミッツの活路を開いた。
負けられないと、形振り構わず行った攻撃がイケメン冒険者を後退させたのだ。
それは――




