9 元夫と運命の恋人、仲良く国外追放です
⌘
王都フォゼット公爵邸。離縁から十日目。
公爵邸の頭上にだけ黒雲が垂れ込め、雷鳴が鳴り続いていた。
太陽は一切差さず、草木は枯れ、怯えた馬は王宮の厩舎へ移していた。
そして……
「アルバートさまぁ、何とかしてください」
「そうは言っても、これはマリーヌの仕事ではないか」
「えーなぜですかぁ」
「公爵家の結界は、妻である聖女の役目だ」
「そんなこと、聞いてないです」
「だから、今言ってるだろう。私も兄上の執務の補佐があるのだ。屋敷のことはマリーヌの役目だ」
マリーヌが膨れっ面をする。
「できません」
「できないのではなく、するのだ」
「できないから、できません。それに古いドレスばっかり。宝石だってないじゃないですか」
「スカーレットに置いて行けと言ったぞ」
「小さい宝石ばっかり、ドレスは聖女のローブばっかり」
「いい加減にしなさい。君は馬鹿なのか。スカーレットは結界を張って、屋敷の采配もしていた。それに元から地味で、ドレスや宝石がないなど、文句を聞いたことは一度もない!」
「言わせておけば、スカーレット、スカーレット、スカーレットって!あの性悪女のことばっかり!私は結婚してあげたんですよ」
「スカーレットと別れてほしいと言ったのは、そっちではないか!」
「もーーーーう」
ガッシャーーッン!
マリーヌがガラス製のランプを床に叩きつける。
「お前、これは王家に伝わる由緒あるランプだ、不敬も大概にしろ!」
「ベーだ、こんなランプ、お腹の足しにならないもん」
「旦那様、王城から書状でございますが」
家令が間に入った。
「……わかった。それより、この役立たずの女を、騎士に命じて追い出せ!いいな」
「旦那様、それが、騎士が今朝、全員退職いたしました」
「なんだと」
王都公爵邸から、使用人の姿が、この数日でどんどん消えていた。
スカーレットがしてきた給金の支払いも、マリーヌはわからないと言い張って何もせず。
先行きに不安を感じた使用人達も、さすがにマリーヌには仕えられないと職を辞し、スカーレットの実家ブルーレ伯爵家や、カラバリ女伯爵家を頼って出て行ったのだ。
⌘
王城の国王の執務室。
「アルバート、いくら弟でも庇いきれん」
「兄上、面目ございません」
「お前は隣国に婚約者がいてヒールしか出来ぬような聖女と不義をはたらき、その上、妻とは白い結婚。国一番の聖女を追い出し、公爵領を魔獣だらけにし、領民を危険に晒した」
「兄上、領地の魔獣は一箇所にまとまって棲みついているだけで」
「ほう、棲みついているだけ、だと?」
「いえ、討伐すれば」
「もう言い訳は聞かぬ!公爵領は王家直轄とする。爵位を剥奪し、王族籍からも除く」
「兄上、それはあんまりです。全てはあの女が、子が授かったと嘘を」
「それももう良い。運命の恋の相手なのだろう。妻を連れて、この国から出て行け。二人で手に手を取って、どうにかするのだな。そして二度と、この国の土を踏むな」
「しかし、スカーレットは」
「王都の結界が切れる前に、スカーレットは私が頭を下げてでも探し出す。お前はもう関わるな」
アルバートは深く頭を下げたまま、考えていた。
スカーレットを連れ戻せば、兄上もきっと許してくださる。
ロベリア国王が、弟のアルバートの姿を見たのは、それが最後だった。
⌘
そして、巷にはたくさんの噂が流れていた。
「公爵領の厄災は天罰だったらしい」
「隣国のカート領は青い炎で恵まれた地になった」
「青炎の聖女様は、隣国で恵みを授けている」
そして『運命の恋で結ばれた二人』は、ヴァルカンのカート男爵家を目指したのだった。
ブックマークや評価をいただけると、今後の創作の励みになります。
*・゜゜・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゜・*




