10 青炎の聖女、修道院行きを却下されます
⌘
ヴァルカン王城の薔薇園。
数日で何とか体力が回復し、レイヴァン殿下にお誘いを受けて、薔薇園で散歩をしてガゼボでお茶をいただいていた。
「少し回復されたようだが、浮かない顔をしている」
「ごめんなさい。処刑されると思っておりましたので」
「まだ納得がいかぬのか」
「いえ、殿下のご解釈は理解いたしました。ただこのような特別な待遇は」
「私が、そうしたいから、している、ではいけないか」
「え、なぜそんな」
「全く、貴方という人は。アンジェの言う通りだな」
「アンが何か」
アンはこちらではアンジェと呼ばれていたと最近知ったけど。
「聖女様は自己評価が低すぎると。ご自身のことはいつも後回しだと、言っていた」
「……アンったら。そうかもしれません。でも、聖女ってそんなものでは?」
「確かに、王族もそんなものだな。民の幸せを考えることが何よりも優先。だが、民は、我々の幸せな姿も見たいのではないだろうか」
「……そうなのでしょうか」
「与えるばかりでは、いつか心が枯れてしまうぞ」
殿下、もう枯れてしまいました。
「殿下、一つお願いがございます」
「何なりと」
「この国の、修道院に行かせていただけませんか」
「っ!」
そんなに驚くこと?
「スカーレット嬢、貴方は何を言っているのかわかっているのか」
「はい。だって、もう旅を終えていいと」
「それは、聖女の旅も、与えるだけの旅を終えていいと言ったのだが」
「ですから、この後は、祈りの人生を」
殿下が呆れた顔をして、少し居住まいを正して言った。
「スカーレット嬢、実はロベリア国王から貴方を返してほしいと」
「それは、それは嫌です!」
思わず口走った。もう、もう疲れたの。帰りたくない。
「ロベリアには、ブルーレ伯爵家もある。伯爵からは娘の好きなようにさせてやってほしいと、文が届いている」
お父様がそんな事を。
「それでも、嫌。あ、でも、そろそろ、結界が、でも」
「心の声が、ダダ漏れだぞ。それと貴方は感情が昂ると瞳が金になるのだな」
嘘!慌てて口を押さえたけれど、殿下が苦笑なさっている。
「そう、問題はロベリア王国の結界だけだと思うが。結界が機能していれば、そうそう浄化は必要ないのでは。あとは青炎会だろう」
「アンから聞いたのですね」
「少し聞いたが、今、国境に青い襷をかけた青炎会の女性達が押し寄せている」
「はい?」
何やってんの?青炎会?
「貴方を助けてほしいと嘆願書と貴方へ花束が、国境へ投げ込まれ、国境警備の騎士団は大変なことになっている」
「……」
手紙と花って、まるで弔いの献花じゃないの?
返す言葉が見つからない。
「貴方は民から愛されている。サウスマウント辺境伯とも会って、経緯を聞いて話をして来た。あの御仁とは何度も国境問題で対話をして来たが、人を褒めるのは見た事がない。だが貴方のことは女神のように褒めていたぞ」
辺境伯様ったら。
「……もし、結界を張れば」
「続けて」
「結界を張れば、ロベリアに帰らなくてもいいですか」
「スカーレット、正直に言おう。私は貴方をロベリアに帰す気はない。この件は全て、私に一任してくれないだろうか」
「全て、でしょうか」
「そうだ、あなたの身の振り方も。できる限り希望には沿いたい。だが、もし納得できない事があっても、天罰を落とした事に対する責任を取ると思ってくれてもいい」
「……あの、修道院は」
「却下だ」
「……」
「民を見殺しにできない性格くらいは、自覚しているのだろう」
「それは」
「私を信じられないか」
「いえ、殿下の采配はじゅうぶん伝わりました。サウスマウント辺境伯ともすでに会っておいでですし、青炎会も見守ってくださっています」
「はい、か、いいえ、しか選択肢はないぞ」
「あの、修道院がだめなら神殿は」
「却下だ」
そうね、裁きを受けて、生涯、結界に魔力を吸い取られるか、処刑か、を覚悟していた。
この方は、両国の民の全てを見据えた上で、おっしゃっているわ。
自ら姿を消すのは、旅の終わりのけじめではなく、逃げる事になる。
私はティーカップをそっとソーサーに戻して、立ち上がった。
「レイヴァン殿下、結界を張らせてください、この命が尽きようとも両国に浄化の結界を張ります。そのあとの事は全て一任いたします」
そして、心から敬意を込めてカーテシーをした。
この方になら任せられる。
ロベリアの未来を。
私の次の旅を。
ブクマ、リアクション、ありがとうございます。嬉しいです。




