8 青炎の聖女、目覚めたら賓客室でした
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静かな水の中から、浮上していくように目が覚める。
なんだか、久しぶりにぐっすりと眠った気がした。
——でも、ここはどこ?旅をしていたはず。
それにしても、心地よい寝具だわ。
「スカーレット様、お目覚めでしょうか」
いつものアンの声が天蓋布の外から聞こえて、やっと日常に戻った気がした。アンとはカートで別れて以来ね。
いや、ちょっと待って、アン!私は飛び起きた。
「アン?」
「はい、スカーレット様、アンです」
天蓋の薄布をサッと開けると、アンがいた。
「アン、なんで?ここはどこ?まだカート領?いや王城まで来たはず」
「スカーレット様、ご説明いたします。ここはヴァルカン王城の賓客室です」
良かった、記憶は合っていたわ。でも、自首したのよ。
「スカーレット様、お身体のお具合はいかがでしょうか。五日も眠っていらしたので」
「五日も寝ていたの?」
「はい、聖魔法の枯渇と、お疲れが溜まっていらしたと侍医が言っておりました」
確かに、公爵領もカート領も、領民を巻き込まないために、ただの青炎の浄化魔法だけでなく、領民や動物を選別し結界を付与する結界魔法も使った。初めて一人で、乗合馬車に乗ってクタクタで王都に辿り着いたのよね。
「わかったわ。でもアンはどうやってここまで来たの?」
「まずは少し何か召し上がってください。魔力は回復しても体力は戻らないので。私のこともお話しします」
賓客室と言われるだけあって、疲れ切った身体に良いものが用意された。アンもいつも通りにあれこれしてくれる。
温かいスープと果汁、そしてミルク粥をゆっくり食べながら、アンの話を聞いた。
最初はヴァルカンの王家の影だったこと。同僚と恋に落ちて、ロベリアの影になった。そこから先は私も知っている。私と別れて、ヴァルカンでの元上官がレイヴァン殿下だったと聞いた時は、さすがに驚いたけれど。どうりでアンは仕事が早かった。
でも、騙した男がカート領出身の者と聞いた時に、おかしいと感じた。
「もしかして、そのブラックという影、カート男爵の回し者だった?」
「レイヴァン殿下も、そう見ておられます。元からカート男爵がロベリアの公爵領の豊かな穀物を狙っていたのではないかと」
「でもなぜ、フォゼット領だけ」
そう言いかけて腑に落ちる。そう、聖女直轄の恵みの土地は、実りも味もいい。高値で取引される。だからこそ高位貴族が、民の食糧である穀物の適正価格を守ってきたのだから。
「スカーレット様のお考え通りかと。マリーヌがロベリアの聖女研修に行く事が決まって、乗っ取り計画を立てた。青炎の聖女様を追い落とし、公爵夫人に収まったようです。カート男爵が捕まって、白状したそうです」
「そう、捕まったのはカート男爵だけなの?」
「はい、ブラックは、レイヴァン様の影全員が捜索に当たっております。時間の問題かと」
「アンは、二重の影だと、レイヴァン殿下に申し上げたのでしょう、きっと私を守るために。馬鹿ね、逃げて良かったのよ」
「……スカーレット様。ご自分の侍女を守って逃すような主を、置いて逃げられると?」
アンは泣いていた。処刑される寸前になっても、アンは毅然としていたのに。あの日を思い出す。
「絞首刑になる私の縄が青い炎で焼け消えた、あの日を私は生涯忘れません」
「アン、そんなに恩義を感じなくてもいいのよ。あなたは何も悪くない。本来、影の役目は密偵、情報収集でしょう。主に従ったまで」
「スカーレット様、甘すぎます。影など、身寄りもない捨て子の集まり」
「自分を卑下してはダメよ。でも、ありがとう、アン。お互い男には苦労するわね」
アンが泣き笑いをしている。
良かった。
でもアン、あなたはもう自由よ。
私は、もういい。残りの人生、修道院で祈りを捧げよう。
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ヴァルカン王城の国王執務室。
「おおよその経緯はわかった。カートの処理はそなたに任せる」
「裏切った影の行方もわかったので、配下の者に追わせています」
「うむ。それから、ロベリア国王自ら、青炎の聖女の返却を願い出る書状が届いておるが、どうする。これは国際問題になる」
「我らの与り知らぬ事とはいえ、仕掛けたのが、我が国の貴族」
「ロベリアも色々と腹に据えかねておるようだが」
「こちらも腹に据えかねておりますよ」
「まあ全てそなたに任せる。好きなようにやれ。小国のロベリア程度、我が弟なら、なんとでもできるであろう」
レイヴァンは、一礼し、ニヤリと笑って執務室を出た。
(スカーレットをロベリアに返す?ありえない)




