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夫が隣国の聖女と「運命の恋」に落ちました~離縁され激怒した青炎の聖女は何をするかわからない!厄災を振りまき自首しました~  作者: カンテラ澪


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5 青炎の聖女、悪女になります

⌘

カート男爵領、七日目深夜。


祭りで知りたい事は全部わかった。

溢れた涙は、何だったのだろう。


悔しさ?

そうじゃない。

三歳で聖女の力が覚醒してから、民のため、国のため、そして王族の一員である夫のために生きてきた。


所変われば人も変わる。

ロベリアの聖女は悪女だった。

わたくしは、悪女なのね。


なら、もっと悪女になってやるわ!


隣にはアンがいる。

アンは疲れたのだろう。安宿でもぐっすり眠っている。

少し癒しをかけたので、目は覚まさないでしょう。


明け方までもう少し間がある。

荷馬車から外した馬に乗って、男爵領の山沿いを目指す。

そこに大きな湖があって、そこから水が領地全体に行き渡っていく。


馬を近くの木に繋いで湖に入る。

冷たい。


でも身を清めるにはちょうどいい。

頭まで全部水に浸かった。



〜この穢れた心を持つ者に、全ての浄化を。

嘘、裏切り、嫉妬、恨み、全てをこの炎で焼き払え。

何も残さず、ただ愛しきものだけがその姿をとどめよ〜


人も獣も傷つけない。奪うのは、この地の実りだけ。



湖の水が揺らめいて炎のように広がっていく。

そしてそれは湖から地を這うように、どこまでも広がっていく。

青白く透明な炎はカート男爵領を覆い尽くす。



⌘

カート領の宿。


とてつもなく心地よい魔力に揺られて、一人の男が目を覚ました。

窓の外が青白い。夜明けにはまだ早い。

辺り一面が、青白く透明な炎に覆われていた。


厩舎へ降りると、馬の足下でも炎が揺れている。

熱くも痛くもない。馬はその炎を飲むように舐めていた。


東の空が白み始めると、炎は日の昇る方へ集まり、太陽の光に溶けて消えた。

あとには、草木ひとつ残っていなかった。


「……これが、青炎の聖女の浄化か」

男が呟く。


山の向こう、ロベリア王国の国境のさらに先の空が、真っ黒に塗りつぶされていた。



⌘

湖から出ると身体がぐったり。

久しぶりの広域浄化。


全部、草木は枯れたかしら。

ごめんなさい。片がついたら、ちゃんと元に戻すから。


そう言って、どこにも繋がれていない馬を手招きした。

「あら、あなたを繋いだ木も消えちゃったわね」


そして馬に乗って、ヴァルカンの王都を目指す。



⌘

カート男爵の寝室。


男爵はすこぶる気分良く目覚めた。

娘はうまくやった。まさか筆頭聖女の座を手に入れるとは。

娘婿になったアルバート・フォゼット公爵は現ロベリア国王の弟。しかも公爵領の穀物は品質もよく、この五年ほどは豊作続き。


そして窓から眺める景色。これからは山脈を越えたロベリア領も我が地となる。

今日はその輝かしい第一日目。


「なんだ、これは!」

窓からの景色には、草木一本、雑草一掴みも見当たらない。

緑の山々は土の色。そして街にも、ノボリが風にはためくだけ。

街路樹が、ない。

そして、山脈の向こう側、ある場所だけ真っ黒に塗りつぶされた空が。


部屋の扉が叩かれる。

「旦那様、お嬢様からお手紙でございます」


そこには、フォゼット公爵領の直轄地の穀物畑が魔獣被害で全滅したと書かれていた。

そして、公爵の子を身籠もっていなかった事が露見した、とも。

最後に一行。


『お父様、帰りたいー』


「マリーヌ、お前は馬鹿か」

カート男爵は膝から崩れ落ちた。



⌘

アンが目を覚ました時、スカーレットはもう消えていた。

置き手紙と旅費が入った革袋。


「アン、今までありがとう。でもあなたはもう自由になっていいのよ。ここからは私自身が、自分の人生に決着をつける旅。だからお行きなさい。契約魔法は解除したわ。追手もこない。心からの感謝を。S」


「スカーレット様」

アンは急ぎ旅支度をして宿を飛び出し、街の共同厩舎へ向かう。

しかしそこには荷車しかなかった。


「嘘、なんで、なんで置いて行くんですか」

地面に座り込んで涙するアンに、声をかけた男がいた。


「……アンジェ」

「え?」

「アンジェ、生きて、無事だったのか」

「……レイ様」

「何があったのだ、この五年、探したのだぞ」


「レイヴァン殿下、どうか助けてください、どうか、スカーレット様を」


「スカーレット?もしかして、青炎の聖女か」


アンは泣きながら頷いた。


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