3 新妻はヒールしか使えないそうです
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サウスマウント辺境伯は快く、公爵領から逃げた領民の受け入れを約束してくれた。
辺境伯領の土地に祈りを捧げ、別れを告げた。
私はロベリア王国とヴァルカン王国の国境へ向かっている。
そこにはマリーヌの実家、カート男爵領がある。
サウスマウント辺境伯は穏やかで機微を察し、最適な答えを出してくれた。もっと早くあんな心の広い男性に出会いたかった。
でもきっと、元夫と比べたら、どんな男性でも素敵に見えるんだわ。高齢の神殿長でさえ、包容力のある方だったし、まああの方はお父様代わりだけれど。
でも遅い。
私は、聖女の力を使ってフォゼット公爵領とカート男爵領を荒れ地にしようとしている大罪人。
青炎会の女性達にもこれ以上、頼ってはいけないわね。
せっかく不幸から引っ張り出した人達なのに、連座なんてさせられない。
アンもヴァルカンへ入ったら、自由にしてあげたい。
つまらない男に振り回されて辛い思いをするのは私だけでいい。
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その頃、ロベリア国王のもとに神殿長が参じていた。
王弟アルバート・フォゼット公爵の離婚の顛末、青炎の聖女スカーレットの行方知れず、そして公爵領の結界だけが消えてしまったこと。
宰相と神殿長が難しい顔をしている。
「アルバートは何をやっているのだ。スカーレットがいなくては国の結界はどうなるか、わかっておらんのか。神殿長、結界はいつまで持つのだ」
「陛下、スカーレットの結界は持って一カ月でございます。しかし公爵領の結界はすでに消えています。守りきれんでしょう」
神殿長の顔色は悪い。
「しかし、新しい公爵夫人がスカーレットの代わりに結界を張れば良いのではないか」
宰相の問いに神殿長は横に首を振って言った。
「宰相殿、スカーレットの力は、土地そのものに祈りをかけ、恵みの地とするもの。マリーヌではそんな芸当はできませぬ」
「マリーヌとやらの聖女の力はどのくらいなのだ」
「ヒールができる程度」
「エリアヒールなら」
「いいえ、一人の病を治す程度で、そもそも結界を張るなど無理なのです」
「それで聖女を名乗っているのですか」
「ヴァルカン王国ではヒールができれば聖女と呼ばれます」
「ヒールしか使えぬ女と、スカーレットをすげ替えたというのか。アルバートをすぐに登城させよ。いや、後回しだ。まずは青炎の聖女を探し出し、連れ戻すのだ」
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一方、フォゼット公爵家には相次いで急報が寄せられていた。
しかし、アルバートは新しい妻マリーヌとの蜜月で、何も耳に入っていなかった。
そしてどこからともなく噂が広がっていた。
『青炎の聖女様を追い出したフォゼット領には天変地異が起きる』
気の早い領民達は、家財道具を荷車に乗せて、逃げ出す者も出ていた。
『カラバリ伯爵領とサウスマウント領へ行けば住むところが貰えるらしい』
噂の出どころを辿れる者は、誰もいなかった。
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その噂は、国境を越えて、隣国ヴァルカンまで届く。
ヴァルカン国王はその噂を重く受け止めて、外政を担う王弟レイヴァンに隣国調査を命じていた。
そこへ、モンベル伯爵家から緊急書状が届く。
王命で結ばれた聖女マリーヌ・カート男爵令嬢との婚約が、カート男爵家から一方的に破棄。
しかも、マリーヌ嬢はすでに隣国ロベリアのフォゼット公爵の妻になっているらしい、としたためてあった。
(ロベリアのフォゼット公爵は現ロベリア王の王弟ではないか。何よりもあの青炎の聖女が奥方ではなかったか)
「この書状を兄上へ至急届けてくれ。すぐに調査へ向かう。この目で確かめねば」
一つずつ、精巧に組み合わさっていた組み木細工が、崩壊を始めていた。




