12 最終話 聖女じゃないけど幸せになります
⌘
王都から、騎乗で三日間、駆け続けた。
途中で荒れ地で野宿もした。
人も馬も私がエリアヒールで回復させる。
レイヴァン殿下が率いる騎士団は、文句一つ言わない。
隣国のロベリアがどうなったって関係ないのに。
みなさんが精一杯、協力してくれる事に感謝しつつ、国境にたどり着いた。
そして、また驚いた。
ロベリア側には、青い襷をかけたたくさんの人々が、祈りを捧げている。
小さなテントや簡易の炊き出し場所もある。
「殿下、これは」
「あなたがヴァルカンにいるという噂が広まって、ロベリアの領民が集まってきている」
「あのテントや炊き出し場所は」
「あれは、サウスマウント辺境伯と、カラバリ女伯爵が出資し、青炎会が助け合っている。ヴァルカンからも必要な品は出しているが」
もう、みんな何をしているのよ、自分自身の幸せを一番にしなさいって言ったのに。
また涙が出てきた。
「殿下、わたくしは」
「貴方が助けてきた人たちだ、どれだけ頑張ってきたか、民から愛されてきたか、よく見なさい」
「……はい」
涙で青い襷が、青い炎に見える。
国境の大きな門の上に、高い見張り櫓がある。
殿下に支えられ、そこに登り、両国を見渡す。
カート領は草木がない。ロベリアの遠くには真っ黒な空が見える。
殿下が大きな声を出す。
「皆、聞いてくれ。私はヴァルカン王国、レイヴァン・ヴァルカンである。ロベリア王国とヴァルカン王国に結界を張るために、青炎の聖女スカーレット・ブルーレ嬢に付き添ってきた。これより聖女殿が祈りを捧げる。皆は静かに見守ってほしい」
「スカーレット様、ありがとう」
あちこちから歓声があがり、私を呼ぶ声がする。
みんな、ありがとう。
私は何度も手を振り、櫓を降りた。
そして国境の端にある結界を張るための小さな神殿へ移動する。
ここも結界が強い。魔力が多い殿下と私しか入れない。
騎士団は少し遠巻きに護衛任務についているそうだ。
神殿には殿下と二人。
殿下が祭壇前で跪かれる。
「スカーレット、この役目が終わったら、私の妻になってほしい」
「えっ」
今、このタイミングで?
「共に過ごした時間はとても短い。だが私はスカーレット・ブルーレという一人の女性に惹かれてしまった」
「……聖女を手に入れたい、からですか」
「貴方が聖女かどうかは関係ない。この歳まで妻を娶らなかったのも、共に生きたいと思う女性がいなかったからだ。兄上に随分とお叱りを受けたが、婚姻相手だけは自身で決めたいと勝手を言ってきた。だが、貴方となら、共に生きていけると思った」
「……でも、この結界を張ったあと、わたくしの命があるかどうか」
純粋に嬉しいと思ったけれど、ロベリアとヴァルカンの結界を半永久的に張るには、全身全霊で臨まなくてはならない。
それが私が決めた私の役目。
「私が妻にしたいのは、生涯であなただけだ。だから何としてもあなたを死なせたりしない。もしあなたがいなくなったら誰も娶らない」
「殿下、わたくしは」
「私に一任してくれると言ったな。この願いもその一環だ」
「……わたくしでよろしいのですか」
「貴方がいい、貴方でないと駄目なんだ。愛している。兄上にも許可をいただいている」
国王陛下もご存知なのね。
「枯れ木ですよ」
でも自信がないの。
「私と共に、枝を伸ばし、葉を繁らせ、花を咲かせ、実を結ぼう」
そんなことを言われたら、いやなんて言えるはずがない。
「……はい」
殿下は私の手を取って、指輪をはめ、抱きしめられた。
殿下の顔を見上げる、じっと見ていたら、さらに顔が近くなる。
あ、初めての口付け。
殿下が目をみはった。
「もしかして、口付けは、初めてだったのか」
そんな嬉しそうな顔をしないで。
こっちは、顔が真っ赤になっているのがわかる。
「何があっても妻を守る」
私は頷いて、祈り始める。
側には殿下が居てくれる。
国境の周りにはたくさんの人が祈ってくれている。
もう一人じゃない。
全ての民を、全ての命を守って。
神殿の中に青い炎が満ちていく。
次の祈りで、神殿近くの国境から大歓声が届く。
そして、祈って祈って祈り続け、炎と一体になったように、両国の全てに青い炎が到達したのを感じて意識を失った。
⌘
温かい。ふわふわする。
ずいぶん温かい毛布だわ。ふふ。
手を伸ばして毛布を引き寄せる。
腰に手がまわって抱きしめられる。
ふふっ、枯れ木も夢を見るのね。
「スカーレット、何を笑っている」
ふふ、夢の中で、呼ぶのはだあれ?
「スカーレット、そろそろ目覚めてくれ」
額にちゅっ、えっ、口付け?
パチリと目が開いた。至近距離に。
「やっと目覚めたな、愛しの妻よ」
「で、でで、ででんか」
「デデンカ?レイと呼んでほしいが」
「……レイ様」
「そうだ、スカーレット」
そしてもう一度、ぎゅうっと抱きしめられる。
「なかなか目覚めず、本気で焦った」
「……あ、結界、ここはどこ」
「結界は無事に張り終えた。ここは私達の新居、旧カート領」
「……レイ様はなぜここに」
「忘れた?神殿で約束したが」
神殿、約束、そう求婚されて、承諾した。
「お、覚えていますが、なぜ同じ寝台に」
「婚姻したから」
「いつ」
「結界を張り終えて生きていたら、妻になる約束だったろう」
「……でも、目覚めてないのに」
「たとえ君が眠り姫になっても、添い寝くらいは許してほしい」
私の夫らしいレイヴァン殿下は、寝台で私を抱きしめたまま、
結界を張った後のことを教えてくれた。
聖魔法の枯渇は死に至る場合が多い。聖女なら誰でも知っている。
一カ月近く眠っていたらしい。
ずっと添い寝されていたら、ちょっと怖いと思ったけれど、
さすがの殿下も、昼間は旧カート領の整備、ロベリア王国との協議など政務はされて、眠る時だけ添い寝をしていたらしい。
そんなに驚いていない私がいる。
この方と一緒にいると、自然でいられるのかしら。
そして少し落ち着いて、体の変化に気がついた。
魔力が無くなった。
「殿下」
「レイと」
「レイ様、魔力が消えています」
「知っていた、枯渇した後、魔力の流れが消えていた」
「……聖女じゃなくなりました」
「私は言ったはずだ。そのままのスカーレットを愛していると。忘れたか」
私から、手を伸ばす。その手を取られ、もっと強く抱きしめられた。
⌘
二年後。
私が荒れ地に変えたカート領は、ヴァルカンで最も豊かな実り多き地『ブルーファ公爵領』になった。
領主は私の夫、レイヴァン。
ブルーファは、ロベリアとヴァルカンの友好地であり、青炎会が修道院と孤児院を運営し、女性の駆け込み地にもなっている。
聖女ではなくなったが、ブルーファ公爵夫人になり、
一年前には母になった。
息子のブライアンが、ものすごい勢いで芝生を這い這いしていく。その先にレイヴァンがいるからだわ。
「アンジェ、ブライアンを捕まえてくるわ」
「奥様、私がまいります」
「いいのよ、あっちにレイがいるの」
「旦那様がいらっしゃるなら、奥様が行かれると、喜ばれますね」
「そうね、行ってくるわ」
私は苦笑しつつ、ブライアンを追う。
ブライアンが急に方向転換をして大木へ向かっていく。
無鉄砲な動き方は、レイにそっくりだわ。
向こうにいたレイも気がついて、ブライアンへ向かっている。
ゴツン!
あーあ、木に激突ね。
ブライアンがとんでもない声で泣き出した。
先に着いたレイがブライアンを抱き上げている。
そして私も追いついて、息子の額の腫れを見て、咄嗟にヒールをかける。
あ、もう治癒はできないのに。
「ヒール」
青い炎が、ブライアンの顔を包んだ。
レイと顔を見合わせる。
「っ、まさか」
「スカーレット、これは」
「ヒール」
今度はレイとブライアンを青い炎が包んでいく。
ブライアンが青い炎で遊んでいる。
「スカーレット、おいで」
レイがブライアンを抱いてない方の手を広げる。
そこに飛び込んだ。
レイが耳元で囁く。
「愛しのスカーレット。また聖女を始める気かな」
「もうしばらく、あなただけの妻でいさせて」
「結界が消えそうになるまで、僕たちの秘密にしておこう」
〜Fin〜
スカーレットの旅に、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
少しでも、面白かったと感じていただけたら、
下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、とても嬉しいです。
また次の作品でお会いできますように♡




