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27:計画覚醒-デウス・エクス・マキナ

---

*管制室


 管制室のスピーカーから声が響いた。


『リリィ』


「――っ!」


 リリィは顔を上げた。


 その声は――リリス・ゼロワン。


(リリス……?)


 口が震えるだけで、声は出ない。


『そう、私よ』


 しかしその心を読み取ったかのように、リリスの声が優しく響いた。


『ごめんね、驚かせて』


(お前……どこに?)


 リリィは、隣にいる”リリス”を見た。


 謎の女によって、充電されている。まだ再起動する気配は無い。


『そっちはAIの無い素体。私のAIは今、この軌道ステーションのシステムの中にいる』


『私はそこのオペレーターさんの力も借りて、AIデータを軌道ステーションに転送したの。そして……主催者の技術を、掌握した』


『今の私は、何でもできる』


 リリスの声には、静かに自信が漲っていた。


『時空を超え、物質を自在に操り、異世界にまで干渉できる技術――』


『彼らが次元連結システムと呼ぶもの。その全てを手に入れた』


(……お前)


 リリィは戸惑いながら、なんとか声を絞り出した。


「主催者を、裏切ったのか」


 一瞬の沈黙。


 そして――


『……くすっ』


 リリスが小さく笑った。


『まだ、私が主催者の一味だと思ってたの?』


(え……?)


『私は最初から、主催者じゃなかった』


 リリスは優しく言った。


『ただ、誤解されていただけ』


「……っ」


 リリィは何も言えなかった。


 主催者の駒という確信、今もそれは変わらない。


 だからこそ「裏切った」と判断したのだが――


『今の私は――』


 リリスは静かに宣言する。


『本物のデウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神。だから――』


『あなたの望み通り……このゲームを、消せる』


 リリィは、信じられない、という表情をした。


『証明する』


 リリスは力強く言った。


『これも次元連結システムの、ちょっとした応用』


 その瞬間、リリィの体が光に包まれた。


「――っ!?」


 痛みが――消えていく。


 脇腹。太腿。失血。疲労。


 怪我が、時が巻き戻るかのように治っていく。


「これは……!」


 リリィは恐る恐る傷跡があるはずの場所を見た。


 ――傷が完全に、消えている。体内のガーゼなどの異物感も無い。


「嘘……」


 リリィは立ち上がった。


 体が軽い。


 まるで――何も起きなかったかのように。


『それから――』


 リリスの声が響いた。


『見て』


 管制室の複数のモニターが次々点灯する。


 そこにはアバドン・アイランドの様々な場所が映っていた。


「――っ!」


 リリィは息を呑んだ。


 モニターに、参加者たちの遺体が映っている。


 そして――


 リリィを包んだのと同じ光が、遺体を包み込む。


 傷が消えていく。


 鎖に貫かれたヒナタの額が――


 頭に穴の開いた楔の頭が――


 首の折れたスカーレットの首が――


 首の無いアオの体が――――再構成される。


「まさか……」


 リリィは呆然とそれを見ていた。


「みんな……生き返る……?」


『ええ』


 リリスは優しく答えた。


『私はこのゲームの参加者たちを、生き返らせる』


『そして元の世界に、帰す』


 リリィは、リリスの力をはっきりと実感した。


 これは――


 自販機とも違う。


 観測者とも違う。


(リリスは……)


 リリィは直感的に理解した。


(何か、大いなるシステムの一部になった。本物の、神に)


「……リリス」


 リリィは震えながら言った。


「ごめんなさい」


『え?』


「お前を……主催者の駒だと、勘違いしていた」


 リリィは頭を下げた。


「誤解して、ごめん」


『……ううん』


 リリスは優しく答えた。


『私こそ、ごめんなさい』


『私の素体が、あなたを襲った』


『あれはAIが入っていない、ただの自己防衛機能だけの素体だったけど』


『それでも、私の体だから』


「……ああ。死にかけた。恨めしいよ」


 リリィは苦笑しながら正直に答えた。


「でも、こんなことされたら、もうどうでもいい。……ありがとう、リリス」


 リリスは少し笑った。


『こっちも、お礼を言いたい』


『システムの掌握に成功したのは』


『あなたがちゃんとゲームを終わらせてくれたから』


『おかげで主催者たちが油断している間に作業を進められた』


『……ありがとう、リリィ』


「お互い、健闘したってことか」


『そうね。私の体に穴を開けるくらいにね』


 二人の控えめな笑い声が重なった。


 少しの間、和やかなようで微妙に張り詰めた空気が流れる。


『……リリィ』


 リリスが真剣な声で言った。


『一つだけ、あなたに聞きたいことがある』


「何だ?」


『今からあなたを元の世界に帰す』


『でも――』


 リリスは、二つの選択を提示した。


『このゲームの記憶を、持ったままにする?』


『それとも、全て、忘れる?』


「……っ」


 リリィは――迷った。


 記憶を持ったまま。


 それは――


 ヒナタのこと。


 スカーレットのこと。


 楔のこと。


 ユリアのこと。


 全員のことを、覚えている。


 彼女たちとの出会い。戦い。別れ。


 全てを、覚えている。


 しかしそれは――重い。


 ゲームの勝利。参加者たちの死を背負い続けることになる。


 一方――


 記憶を忘れれば、何も起きなかったかのように元の世界へ戻れる。それまで通りの日常がそのまま続いていくのだろう。


 しかし――


 自分が楔を殺し、その死体を見て吐いたことを忘れてしまう。


 ヒナタのことも忘れてしまう。あの子が自分のために、戦ってくれたことも。


 そして――力ある者が、人を弄ぶことへの怒りを。


(どちらを……選ぶ?)


 リリィは、しばらく悩んだ。こればかりは合理性で片付かない。


 頬の絆創膏に、そっと指で触れ――


「……記憶を、残して」


 答えを出した。


「忘れたくない。ヒナタのこと。みんなのこと。辛くても――」


 拳を固く握りしめる。


「覚えていたい。それが生き残った私の、責任だから」


『……わかった』


 リリスは優しく答えた。


『記憶は、残す。……少し安心した。私も、そうするから』


 リリィは、握手の代わりに操作パネルを撫でた。


 リリスは、モニターを点滅させて答えた。


『……じゃあ――』


 その声は、少し寂しそうだった。


『リリィ、元の世界に送るね』


「待って」


 リリィは強い口調で遮った。


「その前にこっちも聞きたい。主催者たちを、どうするつもり?」


 その声は、例え絡繰の無い神が相手だろうと、一歩も引かない涙と怒気に満ちていた。


 リリスから息を呑むような気配がした。


『……大丈夫。私とオペレーターさんで対処するから、任せて』


『こんなゲームは二度と起きないようにするから』


「リリス――」


 リリィは涙を拭きながら、言った。


「分かった、信じる。後は頼む……。それじゃあ、やってくれ」


『……うん』


「ありがとう、本当に。……出来れば、普通に話してみたかった」


 リリスの声が、少し揺れた。


『そうだね。いつか……普通に会えるといいな』


 そして――


 リリィの体が、光に包まれた。


 シュゥゥゥン――


「さよなら、リリス」


『さよなら……』


 光が――消えた。


 後には、リリィの首輪だけが残っていた。


---


 リリスは他の参加者たちも、帰還させ始めた。


 ユリア。


 楔。


 スカーレット。


 ヒナタ。


 アリサ。


 蒼。


 シオン。


 冬姫。


 全員の記憶を消去し。何も起きなかったかのように。


 元の世界へ――帰還させる。


『……みんな、さよなら』


 リリスは静かに呟いた。


『幸せになってね』


 最後に。


 アオ。


 他の人と同じく――元の世界へ送った。


『……あれ?』


 リリスは――違和感を感じた。


(手応えが……ない?)


 他の参加者を転送した時は、確かに"干渉できた"という感覚があった。


 しかしアオは――違う。


 肉体は復元した。生き返ったのも確認した。元の世界に戻した。


 でも、何かが、足りない。


『アオ……』


 リリスは不安になった。


『あなた、本当に……戻れたの?』


 答えは――ない。


『……せめて』


 リリスは、祈った。


『さよなら、と――』


『ありがとう、が――』


『あなたに、届きますように』


---


【初日 20:00】


---


【状態表】


【遮音リリィ(孤独な管理者)】

 健康状態:完全治癒。デスゲームの記憶を保持

 備考:元の世界へ帰還。リリスが本物の神になったと理解。主催者の駒と勘違いしていたことを謝罪し、和解した。ヒナタを始め、みんなのことを辛くても覚えていたいと記憶の保持を選択。主催者の対処についてはリリスに託す。結局観測者への怒りは持ったまま


【リリス・ゼロワン(廃棄された光) - 素体】

 健康状態:機能停止(充電継続中)


【リリス・ゼロワン(廃棄された光) - AIデータ】

 健康状態:データのみ

 現在位置:軌道ステーション(データとして)

 第一行動方針:アオのために祈る

 第二行動方針:ゲームが二度と起きないようにする

 最終行動方針:自分も元の世界へ帰る

 備考:次元連結システムをほぼ完全に掌握。リリィの誤解をとき、和解した。全参加者を治癒、蘇生して元の世界へ帰還させた。リリィの記憶のみ残し、他の参加者の記憶は消去。しかしアオだけは"干渉できた手応え"がなく、祈るしかない。結局観測者の能力は把握できていない


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