28(終):星屑
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*管制室
充電が、完了した。
ピピッ。
リリス素体の虹彩が一定のパターンで点滅し、再起動を示す。
「……っ」
リリス素体が上体を起こした。
いや――もう、素体ではない。
リリス・ゼロワン。
AIデータと体が再び、一つになった。
「……戻れた」
リリスは自分の手を見た。
動く。
感覚がある。
(私……帰ってきた)
リリスは立ち上がり、目の前にいるオペレーター03を見た。
「……あなた」
リリスは静かに言った。
「名前を、教えてくれる?」
「……サラ」
オペレーター03は微笑んだ。
「サラ・ケインよ」
「サラさん」
リリスは頭を下げた。
「本当にありがとう。あなたの協力がなければ、ここまで上手くできなかった」
「いいえ」
サラは首を振った。
「私こそ、ありがとう。技術者・ゼロの遺志を……達してくれて」
二人は静かに、微笑み合った。
「……サラさん」
リリスは――真剣な表情で言った。
「このままここにいたら危ない。主催者たちが戻ってきたら、あなたを許さないはず」
「……そうね」
サラは冷静に答えた。
「おそらく、私は処刑されるでしょう」
「なら――」
リリスはサラの手を取った。
「私の世界に、来て。今ならあなたとゼロツーを、転移させられる。そこなら安全」
「……っ」
「私は元の世界に戻ったら、次元連結システムを崩壊させる。もう、他の世界に干渉できなくなるの」
サラは少し迷う素振りを見せた。
しかし――
「ごめんなさい」
サラは首を振った。
「私はここに残るわ。ゼロツーも残して行って」
「どうして!?」
リリスは驚いた。
サラは静かに微笑んだ。
「私たちにはやるべきことがある」
「やるべきこと……?」
「ええ――」
サラは管制室の操作パネルを見た。
「最後まで、ここにいなきゃできないの。それに……あなたの世界に、不純物はいらないわ」
「……っ」
リリスは、何も言えなかった。
サラの目には――強い意志が宿っていた。
「……わかった」
リリスは小さく頷いた。
「でも――」
リリスは、サラの手を両手で握りしめた。
「あなたのことは、忘れない。サラ・ケイン。それに技術者・ゼロとゼロツー。……絶対に忘れない」
「……ありがとう」
サラの頬を涙が伝う。
「リリス……あなたも、幸せになるのよ」
「……うん」
リリスは――複雑な表情をした。人間で言うなら泣き顔と言うべきだろう。
そして――
リリスの体が、光に包まれた。
シュゥゥゥン――
「さよなら、サラさん」
光が――消えた。
リリスも、首輪を残し消えていた。
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サラは一人、管制室に残った。
「……さて」
しばらく静寂を噛み締めた後、サラは操作パネルに手を置いた。
「誰か来る前に、始めましょう」
サラは、軌道ステーションの制御システムを弄り始めた。
操作権限――承認。
推進システム――マニュアルモード。
自動姿勢制御システム――オフライン。
全ての安全装置を解除していく。
「……これで」
サラはいくつかのスイッチを押し、モニターを見た。
そこには、軌道ステーションの推進システムが放つ煌めきと――
徐々に画面の端に寄る青い星が映っていた。
――軌道ステーションが、惑星ネクサス-7の重力に引き寄せられていく証。
「……墜ちる」
サラは――静かに呟いた。
脱出する気はなかった。
ステーションに常備されている脱出ポッドに乗れば、助かるかもしれない。
しかし――
「私も……同じ」
サラは、自分の手を見た。
「人の命を、弄んだ者の一人」
自分も、間違いなく主催者の一員。
参加者たちの苦しみを、娯楽に変えていた。
「だから最後に……もう少しだけ、弄ぶわ」
サラは椅子に座り――
ゆっくりと、目を閉じた。
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*勝者の部屋
「……何だ、これは!」
プロデューサー01は壁を叩いた。
ドアは開かない。
システムは応答しない。
完全に閉じ込められている。
「くそっ……!」
ディレクター・マスターも苛立っていた。
「誰の仕業だ!?」
「まだゼロの仕掛けが残っていたのか!?」
「それとも――」
その時――
「やっほー」
軽い声が――聞こえた。
「――っ!?」
部屋の中央に、夜凪アオが、立っていた。
「お前は――」
プロデューサー01は驚き、目を見張った。
「No.03夜凪アオ……!? 死んだはずでは……」
「うん、死んだよ」
アオは――あっけらかんと答えた。
「でも、ここにいる」
「どういうことだ……?」
ディレクター・マスターが尋ねた。
「私は観測者なんだ」
アオは笑顔で言った。
「面白そうな所ならどこにでも。それが、私。退屈は罪ってね」
「観測者……?」
プロデューサー01は困惑した。事前調査では、そんなものただの”キャラ付け”でそれ以上の意味は――
「私、ちょっと似た立場だから、親近感あるんだよね」
アオは妙に嬉しそうに言った。
「君たちも、視聴者やスポンサーの要望に縛られて……意外とままならないでしょ?」
「……っ」
プロデューサー01とディレクター・マスターは――何も言えなかった。
確かに彼らも、自由ではなかった。
視聴者の要求。
スポンサーの圧力。
様々な方面との調整に四苦八苦していた。
「ご苦労様」
アオは労りを込めて微笑んだ。
「でも――」
アオの表情が――少し真剣になった。
「私たちみたいなのは、ちゃんと痛い目見なきゃダメらしい。だから――」
アオは部屋の隅に座り込んだ。
「最期の時を、一緒に過ごしに来たんだ」
「最期……?」
プロデューサー01が苛立ちながら尋ねた。
「どういう意味だ!?」
「説明するより――」
アオは床を指さした。
「感じた方が早いかな」
その瞬間――部屋全体が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……
「――っ!?」
プロデューサー01はバランスを崩した。
「何だ……!?」
「軌道ステーションが――」
ディレクター・マスターが気づいた。揺れるどころではなく、明らかに傾き始めている。
「安定を失っている……!?」
「正解」
アオは笑顔で答えた。
「オペレーター03が制御システムを使ってね。今この軌道ステーションは、惑星ネクサス-7に落下中」
「……嘘だろ」
プロデューサー01は愕然とした。
「我々を、殺す気か……!?」
「うん」
アオは笑顔を崩さず、楽しそうに言った。
「みんな一緒に――星屑に、なろうね」
ステーション中に警報が鳴り響く。
プロデューサー01とディレクター・マスターは、アオに掴みかかろうとした。しかし、その手はすり抜け触れられない。
「開けろ!」
「誰か、助けてくれ!」
他のスタッフたちがパニックに陥る中、いつまでも構っていられない。舌打ちしながらアオを無視する。
「くそっ……!」
「こんなはずでは……!」
彼らは脱出方法を探すため、騒ぐスタッフたちを必死に纏めようとした。
だが、命がかかったパニックはそう簡単に収まらない。やがて彼らも騒乱の一部となっていった。
アオは静かに、それを観測していた。
(私の"面白さ"は――)
アオはコンパスを見た。
針の揺れは――徐々に、小さくなっていく。
(頂点を、越えた)
リリスを導いた時――
リリィに観測者であると打ち明けた時――
あれらが、頂点。
あれ以上に面白くなる時は――おそらく、ない。
(なら――)
アオは、自分を観測する者に、祈った。
「帰りたいなぁ……」
アオは小さく呟いた。
「きっと、命懸けじゃない日常も、面白いよ」
「ダメかな?」
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*支給品投入地点
ゼロツーは何をするでもなく待機していた。
ジャミング機能はしばらく前に停止した。
もう必要ない。
リリスは、いない。リリィもいない。支援すべき参加者がいない。ゲームは終わった。
もう何の目的も無い。あとはバッテリーが切れるまで佇むだけ。
しばらく静寂を過ごした後――
――ゼロツーのカメラの一つが、夜空に光を捉えた。
流れ星。
いや――
燃え尽きていく、軌道ステーション。
大気圏に突入し、果てようとしている。
『……データリンク、途絶』
ゼロツーは自動的に報告した。
辛うじて繋がっていた管制室とのデータリンク。
それが今、消えた。
リリスとのデータリンク。
それももう、消えた。
全ては星屑となり――消える。
ゼロツーは静かに、その光景を見ていた。
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【初日 20:30】
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【状態表】
【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】
健康状態:再びAIと素体が一つに。素体の傷も完全修復。デスゲームの記憶を保持
備考:元の世界へ帰還。帰還後に次元連結システムを崩壊させ、完全に終止符を打つ
【全参加者最終結果】
- 遮音リリィ:記憶保持、元の世界へ
- リリス・ゼロワン:記憶保持、元の世界へ
- ユリア・フェルナ:記憶消去、元の世界へ
- 楔:記憶消去、元の世界へ
- スカーレット・レッドフィールド:記憶消去、元の世界へ
- 結城ヒナタ:記憶消去、元の世界へ
- アリサ・ストームハート:記憶消去、元の世界へ
- 水無瀬蒼:記憶消去、元の世界へ
- シオン・アルヴェリオ:記憶消去、元の世界へ
- 雪乃院冬姫:記憶消去、元の世界へ
- 夜凪アオ:軌道ステーションと共に星屑に
【死亡者】
- ゼロ:銃撃により死亡
- プロデューサー01:軌道ステーション墜落により死亡
- ディレクター・マスター:軌道ステーション墜落により死亡
- 他スタッフ:軌道ステーション墜落により死亡
- サラ・ケイン(オペレーター03):軌道ステーション墜落により死亡
【遺留物】
名称:ゼロツー
現在位置:アバドン・アイランド - 支給品投入地点
状態:待機中、全データリンク途絶
備考:星屑を録画
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