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26:高みは果て無く

---

*勝者の部屋


「……まだ不服なようだな」


 プロデューサー01は冷たく言い放った。


「やれやれ。感情的で、非合理的だ」


 ディレクター・マスターも頷いた。


「我々の慈悲を理解できないか」


「ならば、もう終わりだ。褒美はこちらで決めてやろう。そうだな――」


 プロデューサー01はわざとらしく優し気に言った。


「愛しいものと、永遠に暮らすがいい」


「え……?」


 リリィが戸惑った声を出した瞬間。


 シュゥゥゥン――


 リリィの周囲が白く光った。


「待て! まだ話は――」


 リリィの声が、途切れた。


 シュゥゥゥン――


 光が消えた。


 リリィも、消えた。


---

*管制室


「……配信、終了しました」


 オペレーター03が報告した。


「視聴者への映像配信……全て停止」


「よし」


 プロデューサー01は満足げに頷いた。


「お疲れ様だった、諸君」


 管制室のスタッフたち――


 十数名が、一斉に拍手した。


「無事にゲームを終えることができた」


 ディレクター・マスターが言った。


「これは我々全員の功績だ」


「では――」


 プロデューサー01は椅子に座り直した。


「少し、感想を語り合おうじゃないか。今回のゲーム、どうだった?」


 スタッフたちが次々と答えた。


「最高でした!」


「特に、楔との決戦に集束する流れは圧巻でしたね」


「スカーレット・レッドフィールドの心理の反転が素晴らしかった」


「正義感が崩壊していく過程がドラマチックでした」


 プロデューサー01は嬉しそうに頷いた。


「そうだな。No.07は都合良く動いてくれた。最初は正義の味方を目指したが――仲間を誤って殺してしまい、最終的には『全員殺して生き残る』と宣言した」


「そして――」


 ディレクター・マスターが続けた。


「No.02に、殺された。彼女なりに万全の準備を整えていたが、惜しかった」


「即座にリリィたちと共闘する方向に切り替えたのは見事でした」


「ええ。No.02楔も素晴らしかったです」


「言葉が通じなくなった鬼神。孤独と罪悪感に苛まれながら、それでも戦い続けた」


「視聴者には、実はスカーレットが死にたがっていて、その望みを叶えるため……と考察した者もいるようですね」


「ふっ、その手の深読みも盛り上がった証拠だ。だが――」


 プロデューサー01が笑った。


「No.04に、頭を撃ち抜かれた」


「あの決戦で、視聴者数が一気に上昇しました」


「9億人を超えましたね。間違いなくハイライトです」


 オペレーター03が淡々と加わる。


「そして最後の決戦で、12億人」


「史上最高だ」


 プロデューサー01は満足げに言った


「他の参加者たちも――」


 ディレクター・マスターが言った。


「それぞれ、良い味を出していた」


「No.08雪乃院冬姫。戦いを止めようとして、巻き込まれた。儚い最期だった」


「No.05シオン・アルヴェリオ。的確な洞察力は見るべきものがあったが、活かす間もなくNo.02に殺された」


「No.10水無瀬蒼。優しさが仇となり、No.07に殺された。あの場面も視聴者の心を掴んだ」


「No.01アリサ・ストームハート――」


 プロデューサー01が言った。


「傭兵らしい、勝気な性格。No.02への復讐に燃えNo.07と対立したが、そのNo.07に殺された。皮肉だな」


「ああ」


 ディレクター・マスターが頷いた。


「結城ヒナタ――」


 スタッフの一人が言った。


「あの子は、異質でしたね。結局最期まで恐怖心を見せなかった」


「最初はマーダーに回るかと思ったんですがね。でも、リリィと組んだ」


 プロデューサー01は頷いた。


「No.04とNo.11の関係。あれもウケが良かった」


「リリィはヒナタを警戒し、ヒナタはリリィに無邪気についていく。歪ながら良いコンビでした」


「結局、ヒナタはゲームのルールを理解してたんですかね?」


「そこまでの馬鹿を選んだつもりはない」


 ディレクター・マスターが続けた。


「が、理解していたとしたら大した役者だ。No.04の警戒心を解く程に」


「ヒナタの死後、弔う場面は感動的でしたね」


「夜凪アオ――」


 別のスタッフが言った。


「彼女は、謎が多かったですね。後半はリリスと一緒に居たせいであまり様子を見れませんでしたし」


「やたらと意味深なことばかり言ってたけど、結局、何者だったんでしょう?」


「さてな」


 プロデューサー01はどうでもよさげに首を振った。


「No.03はただの女子高生だ。平和で娯楽に溢れた世界のな。少し不思議なキャラで通っていたようだが、それだけだ。大方、何かのキャラの真似でもしていたのだろう」


「それだけにしては、妙に肝が据わって見えましたが……」


「なんにしろ、首輪の分解に手を出したのが運の尽きだ。能力が無い割には生き残っていたが、ラインを見誤ったな」


「No.09リリス・ゼロワンこそ――」


 ディレクター・マスターが言った。


「謎が多かった。ジャミング機能で、殆ど映像が見えなかった。No.11がゼロツーを破壊しなければ最後まであのままだったかと思うと、それこそ肝が冷える」


「半分放送事故ですからね……」


「だが、最後はドラマチックに敗北してくれた。それで良しとしよう」


「ユリア・フェルナは――」


 スタッフの一人が言った。


「地味でしたね。ほぼ戦わなかった」


「しかし――」


 プロデューサー01が言った。


「No.06の罠が、No.04に重傷を負わせた。あれで盤面が大きく動いた」


「リリィを説得しに行ったのは意外でしたね。彼女なりの贖罪だったのでしょうか? 失敗しましたけど」


「最期は禁止エリアに取り残され、爆死。悲劇と言えば悲劇です」


「うむ」


 ディレクター・マスターが頷いた。


「無為に過ごし、何も叶わない。それもドラマだ」


「総評として――」


 プロデューサー01が言った。


「今回のゲームは記録的な大成功と言える」


「参加者の選定……今回は僅か11名、積極的に戦闘を行う者も少ない」


「実験的な面が大きく、どう戦闘に発展するかが不安要素だった」


「実際に開始後しばらく盤面が動かなかった」


「だが、その間が彼女たちの関係性を育み、ドラマを生んだ」


「それも――」


 ディレクター・マスターが続けた。


「ルール設定によるフォローの賜物。禁止エリアの指定、支給品の投入、特別ルールの追加。的確な対応で参加者を動かした」


「技術者・ゼロの妨害は――」


 プロデューサー01が言った。


「結果的には、我々の利益となった。首輪の不完全な解除が、殺し合いの切っ掛けとなった」


「ゼロツーの存在も――」


 ディレクター・マスターが言った。


「丁度良くミステリアスな演出になってくれた。『主催者側にも、抵抗する者がいる』――それが視聴者に、緊張感を与えた」


「視聴者の反応は――」


 スタッフの一人が報告した。


「絶賛のコメントに溢れています。視聴数に見合った素晴らしい反応です」


「よし!」


 プロデューサー01は拳を握った。


「やはり今回は大成功だ! だが――」


「これで満足してはいかん。次回作の準備をすぐに始めるぞ!」


「次はもっと面白いゲームを作る!」


「今回の12億人を、超える!」


「視聴者をもっと楽しませるんだ! 我々なら出来る!」


 スタッフたちが一斉に拍手した。


 その時――


 シュゥゥゥン――


 管制室全体が白く光った。


「――っ!?」


「何だ!?」


「転移、だ……!」


 誰かが叫んだ。


「勝手に起動してる!」


「止めろ!」


 プロデューサー01が命じた。


 しかし光は全員を包み――


「くそっ――」


 プロデューサー01の声が途切れた。


---


「……成功ね」


 オペレーター03は一人、呟いた。


 管制室は――静かだった。


 彼女以外、誰もいない。


「リリスさん……」


 オペレーター03は、操作パネルにメッセージを入力しようとしたが――


『ありがとう』


 既にカメラや音声システムを掌握したリリスの声がスピーカーから返ってきた。


『あなたの協力がなければ、できなかった』


「いえ」


 オペレーター03は、カメラに向かって微笑んだ。


「あなたが頑張ったからよ。私は少し手を貸しただけ」


---


 シュゥゥゥン――


 光が収まり、リリィとリリス素体が現れる。


「――っ!?」


 ここは――


 無数のモニター。


 操作パネル。


 システムの配線。


「……管理室?」


 リリィは呟いた。


 自販機のシステム管理室と少し似ている、が――違う。


(ここは……もしかしてゲームの管制室?)


 先程、主催者たちの背後に映っていた光景に似ている。


(だとして、なぜ……?)


 リリィが困惑しているところに、一人の女性が近づいてくる。


「……っ!」


 その手には充電ケーブル。


(まさか……リリスを再起動させるために呼んだ?)


「やめろ!」


 リリィは叫んだ。リリスが再起動したら絶対にまた戦闘になる。


「リリスを……起こすな!」


 しかし、リリィの体は動かなかった。体力が限界を越えている。


 最早気絶していないのが奇跡。本当に声を出して叫べていたかも定かではない。


「くっ……!」


 オペレーター03は、静かに充電ケーブルをリリス素体に接続した。


---


【初日 19:50】


---


【状態表】


【遮音リリィ(孤独な管理者)】

 健康状態:脇腹と太腿に深い刺し傷(応急処置済み)、失血気味、極度の疲労

 所持品:マルチツール(ナイフ展開、血まみれ)

 現在位置:軌道ステーション管制室

 第一行動方針:充電ケーブルを持つ女性(オペレーター03)を止める

 第二行動方針:リリスの再起動を阻止

 最終行動方針:生き残って管理を続ける

 備考:知らない場所に転移させられ困惑するが、管制室とあたりをつける。リリスの再起動を阻止したいが、疲労で動けない


【リリス・ゼロワン(廃棄された光) - 素体】

 健康状態:機能停止(充電開始)


【リリス・ゼロワン(廃棄された光) - AIデータ】

 健康状態:データのみ

 現在位置:軌道ステーション(データとして)

 第一行動方針:技術を全て掌握する

 第二行動方針:「本物のデウス・エクス・マキナになる」

 最終行動方針:ゲームを終わらせる

 備考:オペレーター03以外を管制室から転移、リリィと自分の素体を管制室に転移させた


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