23:スーパーパワーでテレビを見よう
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*支給品投入地点
「面白いね」
アオは――リリィに近づきながら、言った。
「合理を追求した君より、面白さを追求した私の方が真実に近い」
アオは何も変わらず、楽しそうに笑った。
「本当に面白いよ」
「……っ」
リリィは訳のわからない状況に苛立った。
死んだはずのアオが、目の前にいる。
そして――皮肉を言われている。
「何が、言いたい……?」
「んー。説明、しようか」
アオは少し間を置いてから言った。
「私は観測者なんだ」
リリィが言葉を返す前に、アオはさらに続けた。
「まず、幽霊が一番近いってのがそうだね。死は『終わり』じゃなくて、区切りの一つ。スペクテイターなスペクターってね」
「何を……!」
「まぁまぁ、ただの掴みだよ。今から話すのが、観測者の本質」
コンパスをリリィに見せる。
「観測とは、面白いものを世界からピックアップすること」
アオはコンパスを揺らした。
「面白くなりそうな方に、少しだけ、誘導することもできる。ちょっと反則気味だけどね」
「誘導……?」
リリィは――眉をひそめた。
「そう」
アオは頷いた。
「逆に、面白くないものはどんどん世界から外れていく。物事は取るに足らない裏事情になり、人はどうでもいいモブになり……」
アオは静かに続けた。
「いずれ、消えてしまう」
「……消える?」
「うん」
アオは真剣な表情で言った。
「それが、観測者の力。私がよく"退屈は罪"って言ってるのは、そういうこと」
アオは少し笑った。
「……って、ここでは言ったことなかったね」
リリィは――呆然とした。
観測者。
面白いものを選び、面白くないものを消す。
荒唐無稽な話なのに、何故だかアオが嘘を言っているように思えなかった。
そもそも死んだはずのアオが目の前にいるせいでもあるが――
「それって……」
リリィは自分が長年管理してきた、神聖自販機を思い出した。
あれも、物事の選択。生死というもっと直接的な形で世界に残るか、消えるか。
ただし選ぶのは神聖自販機そのものではなく利用者の方。所詮はただの機械に過ぎない。
(アオの力は……それとは、比べ物にならない)
リリィは感じた。自販機とは違う――ホントウの超常。
「……本物の神様、みたい」
リリィは震えながら呟いた。
「神様みたい?」
しかしアオは、苦笑した。
「ところが、意外とままならなくてね」
「……どういうこと?」
「"Who Watches the Watchmen?"ってフレーズ、知ってる?」
リリィは首を振った。
「……知らない」
「だよね」
アオは顔を上げ、夜空を見た。
「つまり……観測者には、別の観測者がいるの」
「別の……観測者?」
「うん」
アオは頷いた。
「別の観測者が私を面白くないと思ったら、私は……消える」
アオは自分の体を見た。
「結構、綱渡りなんだ」
「……ああ、そう」
リリィは、ライフルを握りしめた。
「……どうでもいい。そんな力があるなら……お前か、その別の観測者が! 主催者を、いやこのゲーム自体を……消せ!」
「無理だね」
アオは即答した。
「なぜ!?」
「だって」
アオは楽しそうに言った。
「ここまで面白くなったゲームを、消すなんてできない」
「――っ!」
リリィは怒りに震えた。
「だから消えない。観測者としてこのゲームを、見る。それが、私の役割」
「……わかった」
リリィは――ライフルを構え直した。
「なら……私は、リリスを殺す。最後の生き残りになる。そうすれば……終わりだ」
「やっぱりね」
アオは微笑んだ。
「君は、そう選択すると思った」
「……」
リリィは、アオを睨んだ。
しかしアオは、動じない。ただ静かに、リリィを見つめている。
「それじゃ、このゲームをもっと面白くしようか」
「……何?」
リリィは困惑した。
「面白くする……?」
「うん」
アオは頷いた。
「そうすれば――」
アオは支給品投入地点の反対側を見た。そしてリリィの視線を誘導するように揺らぎながら消える。
「――っ!」
リリィはアオの残像を追い、リリスを見た。
その時――
リリスの体が、ゆらりと、立ち上がった。
約100メートル先、髪を光らせながら佇む姿は――虚ろだった。
まるで、亡霊のような。
『データ転送――完了』
ゼロツーの声がかすかに聞こえた。
リリスのAIデータは、既に軌道ステーションへ送られていた。
今、この場にいる「リリス」は――
AIデータが消えた、純粋な自己防衛機能のみで動く、アンドロイド素体。
意識はない。
記憶もない。
ただ反射だけが残っている。
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*管制室
「……何だ、これは?」
プロデューサー01はモニターを見て、困惑していた。
リリィの映像。
彼女は誰もいない空間に向かって、話している。
「本物の神様、みたい」
独り言――にしか、見えない。
「主催者を、いやこのゲーム自体を……消せ!」
アオの声も、姿も、首輪のカメラには映らない。
「錯乱したのか?」
ディレクター・マスターが呟いた。
「No.04は精神的に、限界なのかもしれない」
「……まずいな」
プロデューサー01は眉をひそめた。
「クライマックスで、錯乱した様子が延々流れるのは面白くない」
「ああ……視聴者が離れる」
二人は困惑していた。
しかし――
「なら……私は、リリスを殺す」
リリィがライフルを構え直した。
そして、リリスが立ち上がった。
「……おお!」
プロデューサー01は目を輝かせた。
「No.04とNo.09……対峙したぞ!」
ディレクター・マスターも頷いた。
「やはり一騎打ちこそ、クライマックスに相応しい」
「視聴者数――急上昇中!」
オペレーター03が報告した。
「現在10億人突破!」
「よし!」
プロデューサー01は拳を握った。
「これで、最高の結末を見せられる!」
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*支給品投入地点
リリィは地に伏せてライフルを構え、リリスに照準を合わせる。
(今度こそ……外さない)
リリィは呼吸を乱さないよう努めた。
目の霞みも手の震えもなんとかなる――なんとかする。
(撃つ。殺す。帰る……!)
リリィは――引き金に指をかけた。
リリスの素体はリリィを見た。
自己防衛機能が、敵を検知した。
プラズマライフルを構える人間。
脅威を排除せねばならない。
リリスの素体は――ゆっくりと、リリィに向かって動き出した。
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アオは上空から二人を見ていた。
リリィと、リリス素体。
「……さあ」
アオは誰にともなく呟いた。
「クライマックスの、始まりだ」
アオは――微笑んだ。
「面白さの、最高潮」
アオはコンパスを見た。
針が――大きく揺れている。
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【初日 19:20】
【生存者: 2名】
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【状態表】
【遮音リリィ(孤独な管理者)】
健康状態:脇腹と太腿に深い刺し傷(応急処置済み)、失血気味
所持品:マルチツール、グレネード×1、プラズマライフル(弾薬50%)
現在位置:支給品投入地点
第一行動方針:リリスの殺害
第二行動方針:最後まで戦う
最終行動方針:生き残って管理を続ける
備考:アオから観測者の力について説明を受けた。ゲームを面白がる姿勢に怒りを覚えた
【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】
健康状態:不明
所持品:コンパス
現在位置:支給品投入地点・上空
第一行動方針:クライマックスを観測
第二行動方針:ゲームを盛り上げる
最終行動方針:最後まで観測を続ける
備考:カメラに映らず、リリィが独り言を言っているように見えた
【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】
健康状態:軽傷(打撲)、バッテリー7%、AIデータ消失
所持品:無し(ゼロツーから離れている)
現在位置:支給品投入地点
第一行動方針:自己防衛
第二行動方針:脅威 (リリィ)を排除
最終行動方針:生存
備考:AIデータは軌道ステーションへ転送完了。転送のためバッテリーを大量消費。現在は純粋な自己防衛機能のみで動くアンドロイド素体。リリィを敵と認識。管制室は素体になったことに気づいていない
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