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24:荒れ狂う挽歌

---

*軌道ステーション


 システムの奥深く――


 リリスのAIデータが、到着した。


『……ここが、軌道ステーションのシステム』


 リリスは周囲を"見渡した"。


 いや――見渡す、という表現は正確ではない。


 今の彼女には、身体がない。


 ただデータとして、システムの中に存在している。


 そこにある管制室のデータも、彼女に流れ込んでくる。


 プロデューサー01とディレクター・マスターの会話。


 オペレーター03の操作。


 参加者の監視情報。


 何もかもが、リリスに"見える"。


『……私、本当に来たんだ』


 リリスは実感した。


 自分が軌道ステーションに、いる。主催者たちのすぐ近くに。


「お疲れ様」


 声が"聞こえる"。


『――っ!』


 リリスは驚いた。


 データの海の中にアオが、いた。


「アオ……?」


 リリスは困惑するしかなかった。


 カメラで姿を捉えたとか入力があったとかではなく、ただ居る、その気配がある、としか表現できない。


「でも、あなた……データじゃ、ないでしょ?」


「うん、データじゃないよ」


 アオは相変わらず軽い調子で言う。


「でも、ここにいる」


「どうして……」


「観測者だから」


 アオはあっけらかんと答えた。


「面白いところにはどこでも行けるんだ」


『……そう』


 リリスは――訳が分からないけど、少し安心した。


『……よかった』


「よかった?」


『一人じゃなくて』


 リリスは――正直に言った。


『あなたがいてくれて、嬉しい』


「ふふ」


 アオは照れ臭そうに笑ったが――


「リリス」


 ――すぐに真剣な声になった。


「ここから君に、やってもらいたいことがある」


『……何?』


「主催者が持つ、異世界にも干渉できる技術……それを、掌握して」


『……掌握?』


「うん。このステーションには、異世界から人を転移したり、時空や物質を操作したりできる装置に繋がる端末がある。それを君が手に入れるんだ」


『……私に、できるかな』


「できるよ」


 アオは真っ直ぐに肯定した。


「君ならできる。君じゃなきゃ……ダメなんだ。本物のデウス・エクス・マキナになるんだ」


『……っ』


 アオの言葉には何か、悲しみ――のようなものを感じた。


『……機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)


 リリスはその言葉を噛みしめた。


 相変わらず、荒唐無稽。それでも徐々に具体性が出てきた。しかし――


『……アオ』


 それが成功したとしても、一つ気がかりなことがある。


『もし、私が転移技術を手に入れたとして……肉体のないあなたは、どうなるの?』


「……っ」


 アオから一瞬、動揺したような声が漏れる。


 しかし――すぐに、軽い調子で返す。


「まぁ、なるようになるよ」


『アオ……』


「大丈夫」


 アオは優しく言った。


「私は観測者だから。面白いことが続く限り……消えない」


『……本当に?』


「本当。じゃあ、頑張ってね」


 アオの気配が薄れていく。


『待って!』


 アオは――消えた。


『……アオ』


 リリスは一人になった。


 データの海の中で。


---

*支給品投入地点


 リリィはうつ伏せにプラズマライフルを構えた。


 同時にリリス素体はリリィに向かって走りだした。


 距離――90メートル。


「殺す……っ」


 リリィは痛む体に鞭打ち、引き金を引いた。


 ビュゥゥゥン!


 プラズマ弾がリリス素体に向かって飛ぶ。


 しかしリリス素体は横に跳んで、回避した。


 人間を超えた反応速度、身体能力。


「くっ――!」


 リリィはとにかく連射した、が――リリス素体は全て回避。


 確実に距離が縮まっていく。


 80メートル――


 70メートル――


 60メートル――


「今度こそ……!」


 リリィは必死に狙いを定めた。


 手が震える。


 視界がかすむ。


 疲労。


 焦り。


 元々射撃が得意なわけでもないのに、これでは――


 ビュゥゥゥン!


 また、外れた。


 50メートル――


(やはりライフルじゃ――!)


 40メートル――


 リリィはライフルを置き――


 30メートル――


 ポケットに手を突っ込んだ。


 20メートル――


「この距離なら!」


 リリィはグレネードを取り出し、投げた。


 グレネードがリリス素体に向かって飛ぶ。


 リリス素体は、それを一目見て速度を緩め――手で、弾いた。


 グレネードが明後日の方向へ飛んでいく。


 ドカァァン!


 木立の向こうで爆発。


「嘘でしょ……!」


 リリィは慌ててライフルを構え直す。


 10メートル――


「くっ――!」


 リリィは咄嗟にリリス素体の足元へライフルを連射した。


 爆風と土煙が舞う。少しでも時間稼ぎをして、体勢を立て直す。


 リリィは木とライフルで身体を支え、立ち上がろうとした。


 しかし土煙の向こうからリリス素体の手が伸び、リリィの首を掴んだ。


 一瞬立ち止まったのは、ただ衝撃に押されただけ。躊躇も恐怖も無い。ただ敵を排除するために動く、無感情な機械。


「うっ……ぐ……!」


 人工皮膚の指が天然の皮膚に喰い込み、気道を押し潰す。


 リリィはなんとかライフルをリリス素体の腹部に押し当てた。そしてとにかく連射。


 至近距離、流石に回避できない。プラズマ弾が腹部を貫いた。


「――っ!」


 リリス素体は怯み、リリィから手を離して数歩距離を取る。


「はあ……はあ……!」


 リリィは木に背を預けながら、再び銃口を向ける。


 そして引き金を引いた――が。


 発砲音ではなく、警告音。


「……弾切れ?」


 リリィは愕然とした。


 エネルギー残量、0%。


 リリス素体が再び、リリィに向かってきた。


 腹部に穴が開いていても、止まらない。


「くそぉっ!」


 リリィはライフルをリリス素体へ投げ捨てた。


 リリス素体は軽くそれを払いのけ――リリィを押し倒す。


 再びリリィの首に手がかけられ、強烈な力で締め上げた。


「う……ぁ……」


 強制的に息が止まる。リリス素体の手はさらに締まっていく。骨が軋む。


 リリィの意識は遠のき――


 半ば無意識にマルチツールを取り出し、ナイフを展開する。


 リリィに染み着いた合理性が生んだ、小さな刃。


「ぅあああああ!」


 リリィは声にならない声で叫びながら、ナイフを振るう。


 ナイフがリリス素体の腕に、突き刺さった。一瞬だけリリスの手が緩む。


 だが、それだけ。またもその手に力が籠められる。


(他、手段……ダメ……死――)


 ピピピッ――


 リリス素体の体が――ぴくりと、震えた。


 虹彩に仕込まれたランプが赤く点滅する。


「バッテリーがありません。シャットダウンします」


 リリス素体はそう言った後、リリィに覆いかぶさったまま動かなくなった。


「……っ」


 リリィは、リリス素体を、押しのけた。


 リリス素体は、何の抵抗も無く地面に倒れた。


 ピーーーッ!


 首輪から電子音が鳴った。


『No.09リリス・ゼロワン、死亡確認』


『生存者、1名』


『勝者、No.04遮音リリィ』


『ゲーム、終了』


「……はあっ……はぁ……」


 リリィは地面に身を投げ出し、天を仰いだ。


 終わった。


 ゲームが――終わった。


 リリィの胸中に様々な感情が渦巻く。


 ――勝利の安堵。


 生き残った。勝った。


 これで帰れる。


 ――死者への哀悼。


 冬姫。シオン。蒼。アリサ。楔。スカーレット。ヒナタ。ユリア。リリス。


 もう、誰もいない。


 ――ヒナタへの感謝。


 あの子がいなければ自分は、死んでいた。


 医療キットを取ってきて治療してくれた。一緒に戦ってくれた。


 ――生き残った罪悪感。


 自分だけが、生き残った。


 他の人たちはみんな、死んだ。うち3人は自分が殺した。


 ――主催者への怒り。


 このゲームを作った者たち。


 人を拉致し、殺し合わせた者たち。


 ――観測者への怒り。


 夜凪アオと、その背後にいる奴ら。


「面白さ」のために人を動かす存在。


 ――全てが混ざり合った涙が、リリィの目から溢れる。


「……っ」


 たった7時間程度の出来事――とても、そうは思えない。


 永遠のように長く、重い時間だった。


 リリィは今、これまでの孤独な人生など比較にならないほど深い孤独の中に居た。


 勝者として。


 生存者として。


 9人の死を背負った者として。


---


【初日 19:25】

【生存者: 1名】


【脱落者】

 No.09 リリス・ゼロワン - 死因: バッテリー切れ (自然死)


【ゲーム終了】


---


【状態表】


【遮音リリィ(孤独な管理者)】

 健康状態:脇腹と太腿に深い刺し傷(応急処置済み)、失血気味、極度の疲労

 所持品:マルチツール(ナイフ展開、血まみれ)

 現在位置:支給品投入地点

 第一行動方針:泣く

 第二行動方針:怒る

 最終行動方針:生き残って管理を続ける

 備考:ユリアとリリスも実質的に自分が殺したと思っている。アオは死者にカウントしていない


【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】

 健康状態:不明

 所持品:コンパス

 現在位置:不明

 第一行動方針:不明

 第二行動方針:不明

 最終行動方針:なるようになる

 備考:


【リリス・ゼロワン(廃棄された光) - 素体】

 健康状態:機能停止(バッテリー切れ)


【リリス・ゼロワン(廃棄された光) - AIデータ】

 健康状態:データのみ

 現在位置:軌道ステーション(データとして)

 第一行動方針:主催者の技術を掌握する

 第二行動方針:「本物のデウス・エクス・マキナになる」

 最終行動方針:ゲームを終わらせる

 備考:アオの言葉に悲しげなものを感じた


---


【脱落者一覧】

 1. No.08 雪乃院冬姫 - 頸椎骨折 (楔)

 2. No.05 シオン・アルヴェリオ - 胴体切断 (楔)

 3. No.10 水無瀬蒼 - 胸部切開 (スカーレット)

 4. No.01 アリサ・ストームハート - 胸部貫通 (スカーレット)

 5. No.11 結城ヒナタ - 頭部貫通 (楔)

 6. No.07 スカーレット・レッドフィールド - 頸椎骨折 (楔)

 7. No.02 楔 - 頭部貫通 (リリィ)

 8. No.03 夜凪アオ - 首輪爆破 (分解ペナルティ)

 9. No.06 ユリア・フェルナ - 首輪爆破 (禁止エリア滞在ペナルティ)

 10. No.09 リリス・ゼロワン - バッテリー切れ (自然死)


【勝者】

 No.04 遮音リリィ


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