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22:第三肢/終焉の地へ

---

*支給品投入地点


 リリスはアオの首輪の解除作業を行っていた。


 髪が青白く光り――集中している。


「……あと、10%」


 リリスは硬い声で呟いた。


 首輪解除プログラムの進捗を大雑把に数値化するなら90%。


 もう少しで完遂できる。でもまだ、どこかで爆弾を刺激してしまうかもしれない。


 全く油断できない。背中の内を冷たい物が走る。バッテリーの消費と電子機器の発熱により、体内の水冷式クーラーがフル稼働している。


「……リリス」


 アオが静かに言った。


「もしも私が爆死しても」


「――っ!」


 リリスの手が、一瞬震えた。


「何言ってるの……爆死なんて……」


「もしも、だよ」


 アオは微笑んだ。


「それは、主催者の妨害。リリスのせいじゃない。そもそもこんな状況が主催者のせい。だから――」


 アオは――リリスの手を握った。


「恨んだりしないから」


「アオ……」


 リリスは配慮への嬉しさと、絶対出来ると言い切れない悲しさを同時に感じた。


 人間だったら多分、泣くのかもしれない、と思った。


「大丈夫」


 アオは――優しく言った。


「私、リリスのこと信じてるから」


「……っ」


『94%……95%……』


 ゼロツーの声が響く。


「もう少し……!」


 リリスは首輪解除を続けた。


---

*管制室


「18:45……時間だ」


 プロデューサー01が――叫んだ。


「No.03の首輪を爆破しろ!」


「了解」


 オペレーター03は――震える手で、ボタンを押した。


---

*支給品投入地点


 ピーーーッ!


 アオの首輪が警告音を発した。


「――っ!」


 リリスは即座に処理を止めようとした。


「やめっ――」


 ドカァァァン!


 爆発音が、森に響いた。


 ピーーーッ!


『No.03夜凪アオ、死亡確認』


 リリスの目の前には――首から上が吹き飛んだ、アオの遺体。


 一瞬の間のあと、あらゆる関節から力が抜け、落下するように地に倒れた。


「……あ」


 リリスは膝をつき、アオの遺体を見つめた。


「……ぅ……そ……」


 声が震える。視線が何度も胴体をなぞり、先の無い首元で止まる。


「アオ……アオ……!」


 リリスはアオの遺体に、手を伸ばした。


「あー、やっぱりこうなっちゃったか」


 声が聞こえた。


「――っ!?」


 リリスは――振り返った。


 そこには無傷のアオが、立っていた。


「……え?」


 リリスは――理解できなかった。


 首から先の無いアオ。無傷のアオ。


 二人のアオがいる。


「どういう……こと……?」


 リリスはただただ混乱した。


---

*管制室


「成功だ!」


 プロデューサー01は満足げに笑った。


「No.03、死亡! 計画通りだ!」


 ディレクター・マスターも頷いた。


「しかしNo.09の反応が見えないのは、残念だな」


 モニターにはジャミングによるノイズだけが映っている。


 リリスの姿も、声も捉えられない。


「まあ、いい」


 プロデューサー01は言った。


「No.04の視点があれば十分だ。これでNo.09との対決になる」


 オペレーター03は――黙って、泣いていた。


 声を出さず。顔を俯けて。


 ただ静かに、涙を流していた。


(アオさん……ごめんなさい……)


 彼女の警告メッセージは解読が間に合わなかったのか、それとも届かなかったのか。


(私が……あなたを……)


 オペレーター03は、膝の上で拳を握りしめた。


---

*支給品投入地点


「ごめんね」


 無傷のアオが――リリスに近づいた。


「説明してる時間、ないんだ」


「待って……あなた、本当にアオ?」


 リリスは後ずさった。


「うん、私だよ」


 アオはやはり軽い笑顔で答えた。


「首輪が爆発して、死んだ。でも幽霊とか、そういうのじゃない」


「じゃあ、何なの……?」


「それは――」


 アオは少し困った表情をした。


「後で説明する。今すぐやって欲しいことがあるんだ」


 アオはリリスの肩を掴んだ。


「とりあえず……その身体、一旦捨ててくれないかな?」


「――っ!?」


 リリスは目を見開いた。


「身体を……捨てる?」


「うん」


 アオは真剣な表情で頷いた。


「リリスのAIデータを、軌道ステーションに移す。主催者のいる場所に」


「……どういうこと?」


「ゼロツーの回線を使って、データを転送するの」


 アオはゼロツーを指さした。


「リリスのAI……意識も、記憶も、全部。それを管制室のシステムに、送り込む」


「……なぜ?」


「殺し合い以外でゲームを終わらせるため」


 アオは真っ直ぐに、リリスを見た。


「これが……最後の手段」


「そんなこと言われても……」


 リリスは迷った。


「意味がわからない。それに身体を捨てるって……私が消えちゃうみたい」


「消えない」


 アオは首を振った。


「データは残る。意識も残る。ただ、場所が変わるだけ」


「それは、そうだけど……」


 リリスは自分の体を見た。


 この体で今の所有者に、会った。雨の中、見つけてもらった。


「所有者さんは……」


 リリスの声が、震えた。


「この体の私を見つけてくれた。この体で、帰りたい」


「……リリス」


 アオは優しく言った。


「気持ちは、わかる。でも今は、これしか方法がない。これでゲームを終わらせられる。いや、それ以上――みんなを、救える」


「救えるって……っ」


 目の前で何が起きたかも分からないのに、さらに無理難題を持ちかけられる。


 リリスはもう、何に反応すればいいのかも分からなかった。


「無茶……無茶言わないで! 私にそんなこと……! それ以上ってなに? そんなの――」


「大丈夫」


 アオはゼロツーを指した。


「協力者がいるから。私と、ゼロツーと……もう1人」


「え……?」


「行けば分かるよ。私は……命を懸けても、協力するしかできないんだ」


 リリスは首から先が無い方のアオを見た。


 自分のために――死んだアオ。


「頼むよ……」


 アオはひたすら真剣にリリスを見詰めた。


 リリスはその目の持つ懇願染みた気配に、少し覚えがあった。


 絶対に辿り着きたい目標があるのに、自分一人では辿り着けない。力を持つ人に協力するしかできない。


 それは――バグがあると発覚した後の、開発スタッフたちを見る自分。


「……正直言って、何がなんだかわからないけど。や……やってみる」


---

*管制室


 オペレーター03は涙を拭い、システムの監視を再開した。


 プロデューサーとディレクターは満足げに会話している。


(……通信リクエスト?)


 オペレーター03は、ある信号を検知した。


 アクセス元不明の通信リクエスト。


(これは……!)


 オペレーター03は即座に理解した。


 リリスたちが、何かをしようとしている。


(……開く)


 オペレーター03は内密に、回線を開いた。


 プロデューサーとディレクターに気づかれないように。


『接続――確立』


 画面に小さなウィンドウが開いた。


 ゼロツーからの通信。


 そして――


『データ転送――開始』


(頑張って……)


 オペレーター03は静かに、見守った。


---

*支給品投入地点


 リリスはゼロツーに両手を置いた。


「……始める」


『了解。データ転送――開始』


 ゼロツーの声が響いた。


 リリスの髪が青白く光る。


 前回管制室にアクセスした時に、そのシステムは非常に巨大なことは分かっていた。


 巨大な分、余白や余剰も多い。リリスのAI程度なら余裕で収まるくらいに。


 そこにリリスの全て――各種記録データ、処理プログラム、確率的連鎖パターンを書き出していく。


 意識が複製されていく感覚。


 もう一つの自分という存在が遠くで――確立されていく。


「……っ」


 リリスの体が――震えた。


(怖い……)


 最後には――この身体に残ったAIは消える。


 転送先にコピーした後、元データの消去。


 通常通り。体内の電子機器で行われるデータの移動と何ら変わらない処理。


 それでも、怖い。「向こう側」の自分が「この身体」の自分と何一つ変わらない、連続した存在だと分かっていても。


 自己同一性と揺らぎと死が結び付いた感情と呼べる反応かもしれない。


---


 ピーーーッ!


『No.06ユリア・フェルナ、死亡確認』


「――っ!」


 リリスは目を見開いた。


 アオは静かに言った。


「ユリア、リリィの説得に失敗したんだね」


 アオは遠くを見た。


「リリィが来る。ここに」


「デ、データ転送がまだ……」


「大丈夫」


 アオは微笑んだ。


「きっと最初の一発は外すよ。怖がらないで、続けて。二発目は、私が止める」


「アオ……」


「リリス、頑張ってね」


 アオはそう言って姿を消した。まるで――蝋燭の火がふっと消えるように。


「……っ」


 リリスの体が震えた。銀白色の髪が余計に点滅し始める。


(ユリアが……死んだ。アオも……本当に死んだんだ。私のせいで……!)


 感情が――暴走しかける。


「ダメ……!」


 リリスは必死に、自分を制御した。


(今、暴走したら……全てが、終わる。アオの死が無駄になる!)


「……っ」


 髪の点滅が――徐々に収まる。


「アオが……信じた……私をっ」


---


 ビュゥゥゥン!


 ――プラズマ弾がリリスの隣の木に命中した。


 リリスは顔を上げた。


『警告。攻撃を検知。データ転送――中断』


 ゼロツーの声。


「分かってる……!」


 リリスは弾道を追った。


 約100メートル先の木の側に、リリィの姿が見えた。


 プラズマライフルを構えている。


「……リリィ」


 リリスは拳を握りしめた。


(やっぱり怖い……だけど……)


 リリスはゼロツーを見た。


「……再開する」


『了解。データ転送――再開』


 向こう側の意識が再び構築されていく。


『転送進捗――40%……50%……』


 リリスは必死に耐えた。


 恐怖と不安を押し殺して。


(アオが……リリィを、足止めしてくれる。それを信じる)


 リリスは目を閉じ、データの転送に全力を尽くした。


---


【初日 19:10】

【生存者: 2名】


---


【状態表】


【遮音リリィ(孤独な管理者)】

 健康状態:脇腹と太腿に深い刺し傷(応急処置済み)、失血気味

 所持品:マルチツール、グレネード×1、プラズマライフル(弾薬50%)

 現在位置:支給品投入地点

 第一行動方針:混乱

 第二行動方針:リリスの殺害

 最終行動方針:生き残って管理を続ける

 備考:死んだはずのアオが横から現れ、混乱している


【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】

 健康状態:不明

 所持品:コンパス

 現在位置:支給品投入地点

 第一行動方針:リリィの選択を観測

 第二行動方針:リリスの選択を観測

 最終行動方針:ゲームを盛り上げる

 備考:


【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】

 健康状態:軽傷(打撲)、バッテリー22%

 所持品:小型工具セット、ゼロツー(修復50%)

 現在位置:支給品投入地点

 第一行動方針:データ転送作業を続ける

 第二行動方針:アオを信じる

 最終行動方針:ゲームを終わらせる

 備考:リリィの存在に気づいた。管制室にAIデータを転送中


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