21:ブッチャー&デッドライン・ダンス
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*中央森林地帯・東南東側
ピピピピピッ――
首輪から電子音が鳴った。
『通告。これより5分後、以下のエリアを禁止エリアに指定します』
リリィは歩きながら耳を傾けた。
『支給品投入地点を除く全域』
「――っ!」
リリィの顔色が変わった。
(支給品投入地点以外――全部!?)
支給品投入地点まで、あと100メートルほど。
「間に合え……!」
リリィは精一杯力を振り絞り、ペースを上げた。
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「変な音……」
ユリアは今――
木工作業場。
祖母が営む料理旅館の一角で、ユリアは木材を削っていた。
――工房と旅館は別の場所だった気もするけど――
「ユリア、お茶よ」
祖母がお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
ユリアは微笑んだ。
「今日は、何を作ってるの?」
「椅子よ」
ユリアは作りかけの椅子を見せた。
「不器用さんのために」
「彼のために?」
「はい」
ユリアは嬉しそうに言った。
「彼ったら、すぐ地べたに座っちゃうのよ。装備を外すのが面倒だからって」
「なんとまあ。それで脱がなくても座れるようにしたんだね。随分低いと思ったよ」
二人はくすくすと笑った。
――祖母にあの人のことは話したっけ?――
ドンドンドン。扉を叩く音。
「あの人だわ!」
ユリアは跳ねるように扉へ向かった。
「もう少し静かに来れないもんかねぇ」
「仕方ないのよ。気が立ってるもの」
ユリアはノブに手をかける。何故か――涙が出そうになった。
「あれ……?」
扉を開ける手が止まった。
ピッ。ピッ。ピッ。
――変な音。聞いた事ないはずなのに、妙に聞き覚えのある冷たい音――
「……私、ずっと、ここにいたい」
ユリアは扉越しに話しかけた。
「あなたの帰りを待ちたい。あなたと一緒にいたい。あなたを何度でも送り出したい」
「ああ」
扉の向こう側の人が答えた。
「俺も、ずっと一緒にいたいよ」
「……本当に?」
「本当だよ」
扉が開き始める。
「ここが、俺の帰る場所だから」
ユリアは、微笑んだ。
ピーーーッ!
首輪の警告音。
禁止エリア滞在時間――超過。
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*支給品投入地点
リリィは禁止エリアを時間ギリギリで抜け、支給品投入地点に到着した。
「……はあ……はあ……」
『No.06ユリア・フェルナ、死亡確認』
「――っ!」
背後から聞こえた爆発音、そして死亡通知。
「ユリア……」
(脱出が……間に合わなかった。もしかしたら、あの射撃で行動不能になったのかも)
もう少し念入りに探せば、ユリアを殺せたかもしれない。首輪の即時解除権が発動していたはず。
(……惜しかった)
リリィは合理的に、そう思った。
罪悪感はない。いや――感じる余裕が、ない。
(今は……余計なことを考えるな。これで一対一だ)
息が切れる。傷も痛む。だが、まだ止まれない。
(リリスを……殺さなきゃ)
リリィは周囲を見渡した。
「……いた」
約100メートル先。
外周近くの木の側に、銀白色の髪の少女が座り込んでいる。
その髪はぼんやりと光っており、日が沈んだ今はかなり目立つ。
リリス・ゼロワン。その隣には、ゼロツー。
「……何をしてる?」
リリィは木陰に隠れながらライフルのスコープを利用し、リリスの動きを観察した。
リリスの髪は――ゼロツーに繋がっている。
(何かの操作……? 私の居場所を……探ってる?)
管制室にアクセスして、自分の位置情報を調べている可能性が高い。
(なら――)
リリィは地に伏せ、プラズマライフルを構えた。
(手を出される前に、殺す)
ライフルの照準を合わせる。
リリスが動く気配は無い。目を閉じて集中している様子。
無防備だ。
(今なら……!)
リリィは引き金に指をかけた。
しかし――
「……っ」
視界が、ぼやける。手が震える。
疲労、出血、痛み――限界が近い。
(くそっ……!)
リリィは必死に照準を固定しようとした。
(落ち着け……落ち着け……!)
リリィは深く長く呼吸するよう努めた。
そして――引き金を、引いた。
ビュゥゥゥン!
プラズマ弾は――リリスの隣の木に、命中した。
「外した……!」
リリスは一瞬だけ顔を上げ、リリィの方を見た。
しかしすぐにゼロツーに視線を戻す。
(見つかった、はず……何故逃げない? まぁいい、もう一発……!)
リリィは再び、照準を合わせる。
引き金にかけた指に力が籠り――
「やっぱり、ここに来た」
声が聞こえた。リリィの横から。
「――っ!?」
リリィは声の方を見た。
そこには――夜凪アオが、立っていた。
「やっほー」
「……お前、死んだはずじゃ……」
「死んだよ」
アオは――あっけらかんと答えた。
「でも、ここにいる」
リリィは混乱するしかなかった。
アオの死亡通知があったはず。
No.03夜凪アオ、死亡確認――
確かに、聞いた。
なのに――
「幽霊……?」
「いや、違うよ?」
アオは――笑った。
「うーん、でも君の世界にその概念があるなら、それが一番分かりやすいかな」
アオはリリィを見つめた。
「……っ」
リリィは得体の知れない存在に対し、ライフルを向けた。
「来るな……!」
「大丈夫」
アオは自分の首に手を当てた。首輪が無い。そして手は首をすり抜け――反対側に出た。
「私はもう、ゲームオーバー。敵じゃないよ」
「じゃあ、何……?」
「観測者」
アオは相変わらず楽しそうに言った。
「君の選択を観測してる」
「……観測?」
「うん」
アオはコンパスを取り出した。
針が――揺れている。
「君は今、岐路に立ってる。リリスを殺すか、殺さないか。それを観測したいんだ」
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【初日 19:10】
【生存者: 2名】
【脱落者】
No.06 ユリア・フェルナ - 死因: 首輪爆破 (禁止エリア滞在ペナルティ)
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【状態表】
【遮音リリィ(孤独な管理者)】
健康状態:脇腹と太腿に深い刺し傷(応急処置済み)、失血気味
所持品:マルチツール、グレネード×1、プラズマライフル(弾薬50%)
現在位置:支給品投入地点
第一行動方針:混乱
第二行動方針:リリスの殺害
最終行動方針:生き残って管理を続ける
備考:死んだはずのアオが横から現れ、混乱している
【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】
健康状態:不明
所持品:コンパス
現在位置:支給品投入地点
第一行動方針:リリィの選択を観測
第二行動方針:リリスの選択を観測
最終行動方針:ゲームを盛り上げる
備考:
【ユリア・フェルナ(帰る場所の番人)】
健康状態:死亡
【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】
健康状態:軽傷(打撲)、バッテリー22%
所持品:小型工具セット、ゼロツー(修復50%)
現在位置:支給品投入地点
第一行動方針:作業を続ける
第二行動方針:アオを信じる
最終行動方針:ゲームを終わらせる
備考:リリィの存在に気づいた
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