19:見えざる手
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*管制室
「No.09リリス・ゼロワンのこれまでの動向を改めて纏めろ」
プロデューサー01が、オペレーター03に命じた。
「はい」
オペレーター03は操作パネルに手を伸ばした。
「No.09は、恐らく高度なジャミング機能により直接の監視は不可能です。しかし、他の参加者の首輪から得られた映像により、間接的に行動を把握できています」
画面に過去の映像が表示される。
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【映像1 - 16:40頃 支給品投入地点】
スカーレットの映像が乱れる。音声がノイズ混じりに響く。
「お前たち――『ゼロツー』と『ゼロワン』。どうも聞き覚えがあると……」
「お前たちは、ゼロの――主催者の手先だな!」
その後、複数の参加者たちが集まってくるが、同様に映像が乱れ音声だけとなる。
「楔を殺す。まだ邪魔するなら――お前も、敵だ」
「待て! 今はそれどころじゃない! こいつらは、主催者の手先だ!」
「丁度いい、聞かせろ。手先ってのは――どういうことだ?」
「わぁ、これ、壊していいんだ」
しばらく会話が続いた後、突然映像が復旧する。
リリスから離れた位置の参加者の映像にリリスと『ゼロツー』らしき姿が何度か映る。
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「ゼロツーとは、ゼロが送り込んだロボットと思われます。ジャミング機能を持っていましたが、この時に破損し効果が弱まったと思われます。リリスの首輪もある程度制御を取り戻しました」
オペレーター03は補足してから次の映像を流す。
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【映像2 - 16:45頃】
リリスからの情報が僅かな時間復旧した。
首輪からの荒い映像。やはりノイズ混じりの音声。
リリスが、大破したロボットらしきものを引きずっている。
「……お前のせいで」
「お前のせいで、誤解された……!」
場所は森の中のようだ。
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【映像3 - 16:50頃】
アオの映像が乱れ、音声にノイズが混じる。
リリスとゼロツーを前に何かを話している。
「探してたんだ、君を」
「……なぜ?」
「だって、私の観測対象、変えたから」
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【映像4 - 17:45頃】
ユリアの映像。
遠目にリリスとアオとゼロツーを捉える。アオがユリアに近づいてくる。
「ねえ、大丈夫?」
「あなたたちは……あの……リリスと、アオ?」
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【映像5 - 17:50頃】
ユリアとアオがリリスに近づくうちに、段々と映像と音声が乱れる。
アオのユリアの口論、リリスの悲鳴らしき声。
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【映像6 - 18:10頃】
「……気をつけて。どうか、死なないで」
「ありがとう」
ユリアからの情報が完全に復旧。
ユリアが東南東へ向かって移動を始める。
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【映像7 - 18:15頃】
アオからの情報。
リリスがゼロツーに髪を接続している姿をなんとか識別できる。
「私の首輪で、試して」
「私も、そろそろ体張らないとね」
リリスの音声はノイズが酷く、殆ど聞き取れない。
だが――
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「やはり……首輪に、手を出しているな」
プロデューサー01は眉をひそめた。
「No.09は首輪の解除が可能だと思うか?」
「可能性はあります」
オペレーター03が答えた。
「ゼロツーにはゼロが何らかのプログラムを遺したと思われます。No.09とゼロツーが連携できればあるいは……」
「……くそっ!」
プロデューサー01は拳で机を叩いた。
「ゼロめ……死んでなお、我々を妨害するのか!」
一瞬の激昂の後、溜息をつき冷たく言い放つ。
「まあ、いい。対処は簡単だ。精々ゲームの良い刺激になってくれたが、泳がせておくのはここまでだ。――No.09の首輪を爆破しろ」
「っ、了解――」
オペレーター03が、システムに入力する――直前。
「待て」
ディレクター・マスターが、手を上げた。
「待つ? なぜだ!」
プロデューサー01が苛立たしげに言った。
「好き勝手に首輪を解除されたら、ゲームが台無しになるぞ!」
「その通りだ」
ディレクター・マスターは冷静に答えた。
「しかしNo.09を爆破するのは、ゲームとして面白くない」
「面白くない……?」
「考えてみろ」
ディレクター・マスターは、モニターを指さした。
「No.04リリィはNo.09を主催者の手先だと誤認し、標的にしている。この状況でNo.09が爆破されたら……見ている側としてはどう思う?」
「……がっかりだな」
「そうだ」
ディレクター・マスターは頷いた。
「視聴者はNo.04とNo.09の対決を、期待している。ここで手を下すのは興ざめだ」
「では、どうする?」
ディレクター・マスターは別のモニターを指さした。
アオの映像。
「No.03夜凪アオを、爆破しろ」
「No.03を……? そうか……」
プロデューサー01は少し考えた。
「No.09は、No.03の首輪を解除しようとしている。解除作業中にNo.03の首輪を爆破する。結果……No.09は失敗と思い込み、以降は首輪の解除を試みなくなる」
プロデューサー01は邪悪に笑った。
「No.03の死により、No.09は罪悪感に苛まれる。視聴者は悲劇を楽しむ。完璧だ」
ディレクター・マスターは頷いた。
「その通り。ただしタイミングが重要だ」
ディレクター・マスターは映像を見つめた。
「No.09が、解除作業を完了する……その直前に、爆破する。成功への希望を見せてから絶望に叩き落とす。それが最もドラマチックだ」
「……なるほど」
プロデューサー01は満足そうに頷いた。
「では、しかるべき時に爆破できるよう準備しておけ」
「了解しました」
オペレーター03が震える手で、アオのステータスウィンドウを開いた。
「待てよ――」
プロデューサー01に慎重な考えが浮かぶ。
「もし、No.09の解除作業が我々の予想より早く、本当に首輪を解除してしまったら?」
「その可能性はあるが――」
ディレクター・マスターは、別のモニターを指さした。
リリィの映像。
孤独に、森を彷徨っている。
「仮にNo.09が首輪を解除できた場合、No.04にとっては、No.09は主催者の手先で確定する」
「……そうか」
プロデューサー01は納得した。
「実際に分解しても爆破されないという事実が証拠となる。No.09が何を言っても聞き入れないだろう。仮にNo.03が説得を試みたとしても、優勝を狙うNo.04が首輪の無いNo.03を始末する機会を逃すはずが無い。どちらにせよNo.09との対決になる」
「その通り」
ディレクター・マスターは冷酷に言い切った。
「我々がすべきことは、最も面白い展開を作ること。No.03の爆破……それが最善だ」
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オペレーター03はアオの首輪のステータスやその他のシステムログを確認していた。
プロデューサーとディレクターの会話を聞きながら、黙々と作業を続けている。
(……これは?)
オペレーター03は、ある異常に気づいた。
管制室のシステムに不審なアクセス履歴がある。
時刻――18:00頃。
アクセス権限――正規職員。
しかし、その職員は存在しない。何か月か前に退職したはずの――ゼロの部下。
アクセス地点――不明。
(これは……ハッキング?)
オペレーター03は察した。
No.09リリス・ゼロワン。
ゼロツー。
(彼女たちが……管制室に、侵入した?)
オペレーター03は、迷った。
(報告すべきか……?)
プロデューサー01とディレクター・マスターに報告すれば即座に対策が取られる。
リリスとゼロツーは、排除される。
(技術者・ゼロは……参加者を、救おうとした)
オペレーター03はゼロの死を思い出した。
管制室の床に倒れた、白衣の男。
参加者のために命を賭けた男。
(私は……どうする?)
オペレーター03は拳を握りしめた。
(……報告しない)
プロデューサーとディレクターには、知らせない。
さらに――
(アクセス元に……メッセージを送る)
オペレーター03は、慎重に逆探知を行った。
リリスとゼロツーが使った侵入経路。
そこにメッセージを残す。他のスタッフに気づかれないように。
オペレーター03は震える手で、キーボードを叩いた。
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【暗号化メッセージ】
『警告: 管制室は、No.03夜凪アオの首輪爆破を計画中』
『管制室オペレーターより』
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送信。
オペレーター03は、深く息を吐いた。
(これだけで……いいのか?)
彼女は――自問した。
(私は……ゼロみたいには……)
オペレーター03はモニターを見た。
リリス、アオ、ユリア、リリィ。
四人の参加者たち。
彼女たちは、まだ生きている。
(せめて……これくらいは)
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「では――」
プロデューサー01は技術スタッフたちの意見を纏め、首輪解除にかかる時間に目安をつけた。
「18:45に爆破。残り15分程度がNo.03の寿命だ」
「了解しました」
オペレーター03は平静を装って答えた。
「ゲームも、いよいよ終盤だ。最高のクライマックスを見せてやろう」
プロデューサー01は満足げに笑った。
ディレクター・マスターも頷いた。
「視聴者数は既に、9億を超えている。このゲーム史上最高を狙えるぞ」
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【初日 18:30】
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