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19/26

17:明日に向かって撃て

---

*中央森林地帯・東南東側


 リリィは上着の一部をマルチツールのハサミで切り、ヒナタの顔に被せた。


「……っ」


 傷が痛む。


 脇腹と太腿。応急処置はしてもらったが、動けば動くだけ悪化する。


(……これくらい……やらなきゃ)


 ヒナタの頭を鎖が貫いている。晒しておくわけにはいかない。


「……ヒナタ」


 彼女の底抜けに無邪気な笑顔が、浮かぶ。


 リリィは布の四隅に石を置いた。これで完成した。


 簡素な――墓標が。


「お前がいなければ、私は死んでいた」


「医療キットを、取ってきてくれて。一緒に、戦ってくれて」


「……本当に、ありがとう」


 リリィは――涙を流した。


「私はお前のこと、怖がっていた。暴力的だって、危険だって、そう思っていた」


 リリィはヒナタの遺体に手を添えた。


「でも……お前は、私を守ってくれた。最期まで……」


 そして、自分の頬に貼ってある絆創膏を撫でた。


 静寂。


 リリィはしばらく、そこに座り込んでいた。


 ピピピピピッ――


 突然、首輪から電子音が鳴った。


『特別通告』


「……何?」


 リリィは警戒した。


『特別ルール「No.02楔殺害による首輪解除」の条件達成者、審査完了』


「――っ!」


 リリィの目が見開いた。


 楔を殺したのは――自分だ。プラズマライフルで、頭を撃ち抜いた。


 スカーレットの斬撃も致命傷に見えたが、直接的なトドメは自分だろう。


『No.04遮音リリィに、首輪の即時解除権を付与します』


「……本当に?」


 首輪が――解除される?


 実質的に、勝ち?


『権利を行使する条件は、参加者一名の殺害です』


「――は?」


 リリィの表情が凍りついた。


『条件達成後、自動的に首輪が解除されます』


「……っ」


 リリィは――怒りに震えた。


「結局……!」


 リリィは地面に倒れ込み、天を仰いだ。


「結局、最後まで殺し合えってことじゃないか!」


 リリィは首輪を掴んだ。


「ふざけるな……! ふざけるなああああ!」


 リリィの叫び声が森に響いた。


 しかし首輪は何も答えない。


 ただ冷たく、リリィの首に巻きついているだけだった。


「……くそっ」


 リリィは――深呼吸して、冷静になろうとした。


(落ち着け……感情的になっても、何も解決しない)


 リリィは神聖自販機の管理者として、いつも冷静に、合理的に判断してきた。


(今も同じだ)


 リリィは周囲を見渡した。


 スカーレットの死体。


 楔の死体。


 そして――


 スカーレットが持っていた荷物が、落ちている。


「……装備を、整えないと」


 リリィは――スカーレットの荷物に近づいた。


 - 栄養剤×5

 - 簡易テント

 - 浄水器


「……これがあれば、少しは回復できる」


 リリィは栄養剤を一本手に取った。


 キャップを開けて口をつける。


 ――甘い。


 濃厚な甘味が、口の中に広がった。


「……っ」


 傷つき疲れた心身に染み渡る甘露。


(これ……)


 ふと、思い出す。


 神聖自販機を、神と崇める人たち。


 自販機から出てくる飲食物を――神の恵みだと信じる人たち。


(……少しだけ、わかった。神の恵み、か)


 体に力が宿るような感覚。生の実感。


 リリィは――栄養剤を飲み干した。


「……助かった、スカーレット」


 リリィはスカーレットの死体に、小さく礼を言った。


 次に――


 リリィは、楔の死体を確認しようとした。


 何か、使えるものがあるかもしれない。


 しかしリリィは、楔の頭を見た瞬間――


「――っ!」


 吐き気が、込み上げた。


 穴の開いた頭。


 プラズマライフルで撃ち抜いた痕。黒い何かが飛び散っている。


「うっ……」


 リリィは――口を押さえた。


「ぐッ――」


 先程飲んだ栄養剤が胃から逆流する。


 リリィは地面に向かって、全てを吐いた。


「げほ……っ」


 胃液が――喉を焼く。


(私が……)


 リリィは自分の手を見た。


 震えている。


(撃ち殺した……)


 プラズマライフルで殺した。


「……っ」


 痛み。罪悪感。戦闘の緊張と解放。全てのストレスが限界だった。


(ここに、いられない)


 リリィは栄養剤をもう1本だけ拾った。


「これだけでも……」


 リリィはライフルを地面に突き立てて身体を支え、必死に立ち上がった。


 ――その場を離れる前に一度だけ、振り返った。


 ヒナタの墓標。


「私は……生き残る」


 リリィはライフルを杖代わりに、北へ歩き出した。


---


 歩きながらリリィは考えた。


 生存者は自分を含めて、四名。


 つまりあと三名のうち、一名を殺せば首輪が解除される。


 誰を殺すか――冷静に、合理的に考えた。


「リリス・ゼロワン」


 銀白色の髪のアンドロイド。


(もし、本当に主催者の駒なら……)


 名前が技術者・ゼロ――主催者の一員と似ている。


 同じく似た名前の、支給品でも無さそうなロボットを連れている。


 それを使って首輪を分解できる。それを公言しても爆破されない。


 明らかな特別待遇。


 だが――実際、何をしているのだろうか。


 目的はゲーム進行の補助? 性能テスト? 全く分からない。


 あくまで状況証拠でしかない――それでも。


 リリィはライフルを握りしめた。


「殺すのは、リリスだ」


 それは合理的な判断。


(他の二人は……あまり情報が無い。居場所に見当がつかない)


 アオとリリスは、支給品投入地点で見た。


 アオは無傷だが、リリスとゼロツーはヒナタに破壊されていた。


 恐らくリリスは支給品投入地点から遠くには行けないはず。


(問題は、体力が持つかどうか……。探し当てる前に失血死するかも……)


「……っ」


 リリィは頭を振った。


(弱気になるな……今は、撃つことだけを考えろ)


 リリィは胸元に手を入れ、ある物を握った。


 神聖自販機管理室の鍵。常に肌身離さず持っている。


 リリィも自販機も神ではない。


 だが、大勢の人間の命を背負っている。それを今ほど強く実感したことはない。


---


【初日 18:00】

【生存者: 4名】


---


【状態表】


【遮音リリィ(孤独な管理者)】

 健康状態:脇腹と太腿に深い刺し傷(応急処置済み)、失血気味

 所持品:マルチツール、グレネード×1、プラズマライフル(弾薬60%)、栄養剤×1

 現在位置:中央森林地帯・東南東側(北へ移動中)

 第一行動方針:この場を離れる

 第二行動方針:リリスを殺す

 最終行動方針:生き残って管理を続ける

 備考:片足をうまく動かせずライフルを杖代わりに。移動速度はかなり遅い。


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