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16:二つの心、半人前の技術

---

*東部採掘場・森林地帯寄り


「……これで、どう」


 リリスは、ゼロツーの胴体に医療用ナノマシン注入器を接続していた。


 アオは楽しそうに見ていた。


「うん、いい感じだよ」


「でも……本当に、これで直るの?」


「わかんないけど」


 アオは笑った。


「でも、君――ハッキング能力で、ナノマシンのプログラム書き換えてるんでしょ?」


「……ええ」


 リリスの髪がナノマシン注入器とゼロツーの各部に繋がり、青白く発光していた。


 ゼロツーの図面と内部構造は映像で見た。


 医療用ナノマシンとは、隣り合う物質の模倣の連鎖による疑似的な細胞分裂である。


 分裂の確率上最も有りうる構造を形成するという意味では生体組織も電子回路も同じ。


 言わば工学的なDNAを仕込み、人体修復用から、機械修復用へと書き換える。


「ナノマシン……起動」


 リリスが呟くと――


 ゼロツーの内部で、何かが動き始めた。


『システム……修復……開始』


 ゼロツーの声が――かすれながら、響いた。


「やった!」


 アオが拍手した。


「すごいじゃん、リリス!」


「……まだ、わからない。完全に直るかどうか……」


 ピピピピピッ――


 首輪から、電子音が鳴った。


『通告。これより10分後、以下のエリアを禁止エリアに指定します』


『中央森林地帯・南側全域』


『中央森林地帯・東南側一部セクター』


『東部採掘場全域』


「ここは……採掘場の端だね」


 アオは地図を見た。自分たちのいる場所は、ギリギリ禁止エリア内。


「逃げなきゃ。ゼロツー、連れて行こ」


「そうね。接続が切れないよう慎重に……」


 リリスとアオは、修復中のゼロツーを二人掛かりで持ち西へ移動した。


---


「もう禁止エリアは抜けた。この辺りで――」


「いや……もうちょっと……進もう」


 アオは息を切らしながらも言った。ゼロツーは骨格剥き出しとは言え数十キロはある。


「どこに……?」


「支給品が送られてきた場所」


 リリスは不安げに俯いた。皆に誤解され、ゼロツーを破壊された場所。良い印象は無い。


「あそこに? なんで……」


「コンテナに、何か、残ってるかも、しれないよ。それに――」


 アオは笑った。


「イベントが終わった場所って、もう何も起きない、じゃん。多分安全だよ」


 リリスは呆れた。ゲームじゃないんだから、と言いかけた。


 でも、アオの言葉はいつもなぜか妙な説得力がある。


---

*支給品投入地点


「……ついた」


 ゼロツーを置き、アオは周囲を見てまわった。


 残念ながら空になったコンテナ。


 血痕。


 死体が、三つ。


 一つ目――水無瀬蒼。胸を裂かれて、倒れている。


 二つ目――アリサ・ストームハート。こちらは胸を貫かれている。


 三つ目――


「あ、生きてる」


 木の根元に倒れている、作業着を着た女性。


 ユリア・フェルナだった。


 その胸はわずかに上下している。――呼吸をしている。


 アオはユリアに近づいた。


「ねえ、大丈夫?」


「……ん」


 ユリアは――目を開けた。


 視界に――見慣れぬ少女が二人。


 遠くに居る一人は銀白色の髪、目の前のもう一人は黒髪。


「あなたたちは……あの……リリスと、アオ?」


 ユリアはぼやけた意識を奮い起こし、必死に名簿を思い出した。


「大丈夫? 辛そうだけど」


 アオが心配そうに聞く。


 ユリアは苦痛に顔を歪めた。


「肋骨が……折れてる……」


「誰にやられたの?」


「……ヒナタ」


 ユリアは小さく答えた。


「結城ヒナタ……あの子に、突き飛ばされて……」


「ヒナタ……」


 アオはその名前を聞いて、表情を変えた。


 リリィと一緒にいた少女。


 ゼロツーを破壊した少女。


「あの子は……どこに?」


 ユリアが尋ねた。


「知らな――」


 ピーーーッ!


 首輪から、電子音が鳴った。


『No.11結城ヒナタ、死亡確認』


「――っ!」


 三人は同時に、息を呑んだ。


 さらに続けて。


 ピーーーッ!


『No.07スカーレット・レッドフィールド、死亡確認』


 ピーーーッ!


『No.02楔、死亡確認』


「……三人、同時に?」


 リリスは信じられない、という表情をした。


「あー、なるほどね」


 アオは――楽しそうに言った。


「きっと超ビッグイベントがあったんだ」


「イベント……?」


 ユリアが尋ねた。


「うん」


 アオは笑みを浮かべながら説明した。


「ヒナタ、スカーレット、楔――この三人は、戦闘力最強クラス。その三人が、同じ場所で、戦った。結果、全員死亡」


 アオは楽しそうに笑った。


「すごいね! きっと、すっごい戦いだったんだろうな! 見たかったなぁ」


「……あなた」


 ユリアは――アオを見た。


 その無邪気さ。


(この子……ヒナタと、似ている……)


 ユリアは思い出した。


 死体を漁りながら、無邪気に笑っていたヒナタ。


 確かに褒められた態度では無いが、その裏には傷ついた他人のために動く心があったはず。


(でも今度は……)


 ただただ、人の死を――娯楽として語っている。


「あなた……わかってるの?」


 ユリアは――震える声で言った。


「人が、死んだのよ」


「うん、知ってるよ」


 アオはあっけらかんと答えた。


「これで七人死んだね。残りは、四人」


「それを……そんな風に……!」


 ユリアは――怒りに震えた。肋骨が痛み、何度か咳き込みながら声を張り上げる。


「人の死を、楽しんでるの!?」


「うーん、死そのものはそこまでかな?」


 アオは首を傾げた。


「面白そうなものを観測したかっただけ」


「観測……?」


「うん。私は観測者だから」


 アオは――真顔で言った。


「人が何を選択して、どうなるか――それを観測してる」


「それの、何が楽しいの?」


「楽しいよ。退屈より、よっぽどいい」


 アオは平然と答えた。


 ユリアは――言葉を失った。


 この少女はヒナタとは、違う。


 ヒナタはただ、無邪気だった。


 しかし、アオは明確な目的を持って、観測している。


「……あなたは」


 ユリアは――静かに言った。


「間違ってる」


「間違ってる?」


「ええ」


 ユリアは、アオを睨みつけた。


「人の死を、無遠慮に観測だなんて。それは死者への、冒涜よ」


---


 リリスは二人の口論を聞きながら、ゼロツーの修理を続けていた。


(ヒナタが……死んだ。スカーレットも……楔も……)


 死亡通知。


 三人の名前。


(私は……何もできなかった)


 リリスは――自分の無力さを感じた。


 主催者の手先だと誤解され――


 誰にも信じてもらえず――


 ただ、逃げるだけだった。


(私は……)


 リリスの手が震え始めた。


 感情が――暴走し始めている。


「……っ」


 ユリアとアオの口論。


 修理の重責。


 恐怖。


 死が――リリスを追い詰める。


(やめて……)


 リリスは――頭を抱えた。


「やめて……!」


 リリスの叫び声が――森に響いた。


 ピピピッ――


 リリスの髪が激しく点滅し始めた。


「――っ!」


 リリスは頭を振り乱し、地面に蹲った。髪が次々とゼロツーから外れ、接続が絶たれる。


 感情の暴走。


 AIシステムが――処理しきれない。


「リリス!?」


 アオが駆け寄った。


「大丈夫!?」


「だ、大丈夫じゃ……ない……!」


 リリスは――震える声で答えた。


「感情が……制御……できない……!」


「落ち着いて、リリス」


 アオはリリスの手を取り、ゼロツーの上に置いた。


「一人じゃない」


「……っ」


 リリスは必死にゼロツーにしがみついた。


 数分後――


 ようやく、髪の点滅が収まった。


「……ごめんなさい」


 リリスは――小さく謝った。


「私……ダメね」


「全然、そんなことないよ」


 アオは優しく言った。


 ユリアは、複雑な気分でそれを見ていた。


 楽しそうに人の死を想像するのも、こうして目の前の人(?)に寄り添うのも。


 同じ、アオという一人の少女。


「……私こそ、ごめんなさい。口論している場合では無かったみたい」


 ユリアはなんとか立ち上がり、アオとリリスに近づいた。


 アオはいつも通り、軽い調子で応えた。


「気にしないで。私が変わってるのは本当だから」


 その時――ゼロツーが、動いた。


 ピピッ。


『システム修復……50%完了』


「ゼロツー……!」


 リリスは嬉しそうにゼロツーを見た。


『ナノマシン、停止。修復作業、継続不可』


「……ごめんなさい。私が、感情を暴走させて……」


『問題ない。50%の修復で、最低限の機能は回復した』


 ゼロツーは淡々と報告した。


『報告事項――三点』


「聞く」


『一点目。ジャミング機能、継続中』


「……よかった」


 リリスは安堵した。


 これで管制室から、姿を隠し続けられる。今までの様子も見られていない。


『二点目。首輪解除プログラム、確認』


 リリスの目が見開いた。


「良かった……作動できるの!?」


『理論上は可能。ただし現在のシステム状態では、単独での実行は不可能』


「……ジャミング機能を切ってもダメってこと?」


『肯定。破損のため、処理能力が不足している。リリス・ゼロワンのハッキング能力による補助が必要』


「そう……。三点目は?」


『技術者・ゼロとのデータリンクに用いていた通信機能、復旧』


「通信機能……でもゼロは」


『技術者・ゼロは既に死亡。補助は受けられない』


「……そう」


 ゼロ。


 会ったこともない――自分を助けてくれた人。


 ゼロツーが続けた。


『この通信機能を利用し、管制室のシステムにアクセスすることが可能』


「……それも、理論上?」


『部分的に肯定。現在のシステム状態では、単独での実行は通信速度が極度に低下』


「そう。つまり……破損する前と同じね」


 リリスは安心してゼロツーを撫でた。


「どちらも元々、ジャミング機能を継続しながらやるために私が演算を肩代わりするつもりだったから、問題ない」


「ええと……何の話を?」


 ユリアの世界に電子機器は無い。首輪が声を出すことすら超常現象なくらいだ。


「……つまり」


 アオは横から整理した。


「リリスとゼロツーが協力すれば、首輪を外したり、主催者と話したりできる」


『肯定』


「どちらか一つしか、できない?」


『否定。両方可能。ただし、並列処理はできない』


 リリスは少し考えた後、口に出した。


「……首輪を解除すれば、自由になれる」


「管制室にアクセスすれば、システムをクラックしてこのゲーム自体を、止められるかもしれない」


「でも、首輪は処理に失敗すると爆発の危険がある」


「管制室へのアクセスは、逆探知されこちらの事情を知られる危険がある」


「どちらを先に……?」


 リリスは――迷った。


「……私は」


 リリスは、アオとユリアを見た。


「どうすればいいの……?」


「それは――」


 ピピピピピッ――


 アオの言葉に、首輪の電子音が割って入った。


『特別通告』


『特別ルール「No.02楔殺害による首輪解除」の条件達成者、審査完了』


「――っ!」


 再び、三人は同時に息を呑んだ。


 通告の続きを聞き――リリスが取るべき手段は、決まった。


---


【初日 17:50】

【生存者: 4名】


---


【状態表】


【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】

 健康状態:良好

 所持品:コンパス

 現在位置:支給品投入地点(リリス、ユリアと共に)

 第一行動方針:リリスの観測

 第二行動方針:リリスの選択を待つ

 最終行動方針:ゲームを盛り上げる

 備考:


【ユリア・フェルナ(帰る場所の番人)】

 健康状態:肋骨骨折、背中強打、中度の疲労

 所持品:無し

 現在位置:支給品投入地点(リリス、アオと共に)

 第一行動方針:通告を聞く

 第二行動方針:リリスたちに任せる

 最終行動方針:誰も殺さない

 備考:あまり話についていけていない


【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】

 健康状態:軽傷(打撲)、バッテリー52%

 所持品:小型工具セット、ゼロツー(修復50%)

 現在位置:支給品投入地点(アオ、ユリアと共に)

 第一行動方針:通告を聞く

 第二行動方針:解除かアクセスかどちらかを選択する

 最終行動方針:生存

 備考:ゼロツーの修復が50%完了。ジャミングはずっと継続中。首輪解除プログラムと管制室アクセス機能はどちらもリリスの協力が必要


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