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12:悟りの地

---

 無辜の民は殺さない。


 仲間は見捨てない。


 義を見てせざるは勇無きなり。


 それが彼女が率いる宇宙海賊の、鉄の掟。


 普遍的な正義に見捨てられた者にとっては、ホントウの正義こそが唯一の線引きだった。


---

*中央森林地帯・東側 - 支給品投入地点


 スカーレットは――蒼の体を、静かに地面に横たえた。


 一点を見つめたまま動かぬ瞳。今にも泣き出しそうな表情。


 まるで――何かを訴えかけるような。


 しかしもう、言葉を発することはない。


「……すまない」


 スカーレットは呟き、片手で蒼の目蓋を閉じる。


「俺は……お前を、守れなかった」


 彼女の手が――震えていた。


 プラズマブレードを握る手が。


 蒼を殺したその手が。


 そして――


 スカーレットは立ち上がった。


「……もう、いい」


 スカーレットの声は――冷たく、鋭かった。


 アオは、その変化を感じ取った。


(何かが……変わった)


 アオは静かに、スカーレットを観察した。


 スカーレットは――プラズマブレードを構えた。


 アリサを見据えて。


「アリサ」


「……何だ」


 アリサも警戒した。ナイフを拾い上げ、構える。


「もう――やめだ」


 スカーレットの声に――感情がない。


「仲間を守るとか、誰も殺さないとか――甘すぎたぜ」


「……何を言ってる」


「俺は――」


 スカーレットの目が、鋭く光った。


「全員殺して、生き残る」


「――っ!」


 アリサは息を呑んだ。


「冗談だろ……お前、さっきまで――」


「さっきまでの俺は、死んだ」


 スカーレットは冷たく言い切った。


「蒼と一緒に――な」


 プラズマブレードを振りかざし、アリサに斬りかかる。


「くっ――!」


 アリサはナイフで受け止めようとした。


 しかし――嫌な予感がし、咄嗟に身をかわす。


 ナイフの先端がプラズマブレードと接触する。


 ジュッ!


 ナイフの先端が――溶断される。


「何……!?」


 レプリカのブレードには、金属を一瞬で溶断するほどの出力が無かった。


 だからブレードの芯であるプラズマ発生機構までナイフが届き、打ち合いが可能だったのだが――


「出力リミッター、解除だ。本物と同じ機能、随分精巧だが――ふん、これでやっと本物と同じ威力か」


 スカーレットは冷たく言った。


「所詮偽物だったな」


「まずい……!」


 アリサは後ずさった。


 アオは――医療用ナノマシン注入器を握りしめたまま、状況を見ていた。


(スカーレット……完全に、壊れてる)


 スカーレットの目は、ただ――虚無。


(これは……誰かさんならどうする?)


 彼女の目にはもう、正義の炎はない。


 空っぽの目。


(ああ……そうか。そうだったんだ)


「アオ!」


 アリサが背後のアオに呼びかける。


「お前は逃げろ! こいつは私が何とかする!」


(やっと分かった。君がやりたいこと、君の気持ち。私も――そのためには……)


 アオは――


「ごめん、アリサ」


 言うと同時に走り出した。


 スカーレットとアリサの戦闘から――離れる方向へ。


 アオは森の中へ消え、アリサとスカーレット、二人だけが残った。


「……随分あっさり逃げたな」


 スカーレットは嘲笑った。


「お前の仲間」


「……うるさい。逃がしたんだ」


 アリサはナイフを構え直した。


「……見損なったぞ、スカーレット。それならこっちも――遠慮なく殺す」


「俺もだ」


 二人の殺し合いが、始まった。


 鋭い輝きが何度も弧を描く。


「くっ――!」


 アリサは防戦一方だった。


 あの光る剣――プラズマブレードの威力が、強すぎる。


 ただでさえリーチの差で不利なのに、ナイフで受けることすらできなくなった。


 必死に避けながら、隙を窺う。


「まずい……!」


 アリサは後退し続け、森に寄りつつある。このままでは逃げ場が無くなる。


 スカーレットの追撃は的確かつ容赦がない。アリサが脇を抜けようとすると確実に塞いでくる。


「死ね」


 感情のない声。


 ブレードが紙一重でアリサの服を切り裂く。


「かかったっ!」


 ブレードを振り切ったところを狙い、アリサはナイフを投げた。


「見え見えだ」


 スカーレットは顔面に飛んできたナイフを、ブレードの柄で弾く。切っ先の欠けたナイフを戦闘服を着たスカーレットに投擲するなら、露出した顔面しかない。


 だがそれによって視界が遮られた一瞬にアリサは踏み込み、スカーレットの小手に蹴りを入れた。


 スカーレットが怯んだ隙に弾かれたナイフを拾い、構え直す。アリサはあっという間に立ち位置を入れ替えて見せた。


「曲芸染みた真似を――」


 その時――


 森の奥から、何かが飛び出してきた。


 黒いオーラ、赤く光る瞳。


 鎖を握りしめた――楔だった。


「■■■■!」


 楔は何かを叫びながら、戦場に飛び込んできた。


「楔……!」


 アリサは驚いた。


 スカーレットも動きを止めた。


 楔は――スカーレットとアリサ、両方を見た。


 濃厚な殺気。


 戦いの気配。


 鬼神の本能が――反応する。


「■■……!」


 楔の鎖が――スカーレットに向かって飛んだ。


 ガシャン!


 スカーレットはプラズマブレードの背で鎖を弾いた。


「楔……お前もか!」


 スカーレットは――笑った。


 狂気を孕んだ、笑み。


「いいだろう! 全員、まとめて殺してやる!」


 アリサは――スカーレットから目を離し、楔を狙った。


「楔ィィィ!」


 気勢を上げながら切りかかる。


 しかし――スカーレットのブレードが首を刈りに来た。地面を転がり、辛うじてかわす。


「――っ!」


 アリサはようやく心から理解できた。


 スカーレットは言葉通り、戦場にいる全員を敵と見なしている。


「■■■!」


 楔が鎖を放つ。アリサは回避しようとしたが、動揺が動きを鈍らせた。


 ガシャン!


 鎖が、アリサの腕を捕らえた。


「しまっ――!」


 鎖が引かれ、アリサの体がバランスを崩す。


 その隙をスカーレットは見逃さず――


 プラズマブレードをアリサの胸に、突き立てた。


「あ――がっ!」


 アリサの目が、見開いた。


「安心しろ。俺が楔も殺す」


 スカーレットは――ブレードを引き抜き、楔に向かって構える。


「……相棒……」


 アリサは――相棒の顔を思い浮かべた。


「お前となら……どこまでも……」


(行けると、思ってた……のに……)


 アリサの体が――力を失い、倒れた。


 ピーーーッ!


『No.01アリサ・ストームハート、死亡確認』


「……一人」


 スカーレットは呟いた。


「次は――」


 彼女はブレードを構えながら、じりじりとコンテナに近づいて行く。


 楔は――鎖を構えたまま、スカーレットを睨んでいた。


「お前だ」


 スカーレットは支給品のコンテナに手を伸ばし、グレネードを掴んで楔に投げた。


「■■!?」


 楔は咄嗟に鎖でグレネードを叩き落とした。


 グレネードは楔から少し離れた場所に落ち――爆発。


 衝撃波が、森を揺らした。


「■……!」


 楔は熱風と破片によろめく。


 スカーレットは次にプラズマライフルを手に取り、構えた。


「トドメだ……!」


 スカーレットは引き金を引いた。


 ビュゥゥゥン!


 青白いプラズマ弾が、楔に向かって飛んだ。


 楔は――咆哮した。


「■■■■■■■■ーーー!!」


 バシュゥゥン!


 黒いオーラが膨れ上がり――プラズマ弾を弾く。


 しかし衝撃は凄まじい。


 楔の体が、さらに後退する。


「■■……!」


 楔は直感した。


(勝てない)


 鬼神の力は戻った。


 だがこの兵器には、勝てない。


 楔は――森の奥へ逃げ込んだ。


「……逃げたか」


 スカーレットはライフルを下ろした。


 追いかけることもできる。


「……いや」


 スカーレットは首を振った。


「疲れた……」


 蒼の死。


 アリサの殺害。


 楔との戦闘。


 どんな形であれ命のやり取りは、体力と精神の両方が削られる。


「……休まなきゃ」


 スカーレットは支給品を担いだ。


 - プラズマライフル

 - 軍用グレネード×1

 - 栄養剤×6

 - 防弾ベスト

 - 簡易テント

 - 浄水器


「これだけあれば……しばらくは、持つ」


 スカーレットは――森の別の場所へ移動し始めた。


 休息できる場所を探すために。


---

*中央森林地帯・北東側


 楔は――森の奥で、木に寄りかかっていた。


(また……戦ってしまった)


 後悔の波が押し寄せる。だが――何故か心はあまり痛まない。


 楔は自分の手を見た。


 冬姫を殺した手。


 シオンを殺した手。


 そして――今、アリサとスカーレットと戦った手。


「■■……」


 楔は何かを呟いた。


 ――悟った。


 スカーレットの"気"。


 あの戦いの中で感じた、殺気の奥にある彼女の本当の気。


 鬼神の本能、そして何百年も生きた経験があるからこそ、悟れた。


 スカーレットは――戦いの中で、死を求めている。


 もう、生きる意味を見失っている。戦に散るしか意味を見出せない者の気配。


(ならば……)


 楔は――決意した。


「■■■……」


 全力で殺しに行くと。


 自分が彼女の願いに応える。


(お前もきっとそう望むだろう)


 それは元の世界において露呈する機会の無かった、絶対的な価値観の違い。


 鬼神にとっての"優しさ"だった。


---

*中央森林地帯・東側


 戦場の片隅で――


 リリスは、ゼロツーを引きずっていた。


「……お前のせいで」


 リリスは呟いた。


「お前のせいで、誤解された……!」


 ゼロツーは既に、ほとんど機能していない。


 システム損傷80%。


 前脚が切断され、移動もできない。


『すまない』


 ノイズ混じりの声で、ゼロツーが答えた。


「謝って済むと思ってるの!?」


 リリスは怒りと悲しみを込めて叫んだ。


「私は……私は、主催者の手先だと思われた……!」


『すまない』


「やっぱり私なんて、誰も、信じてくれない……!」


『すまない』


 ゼロツーは――それしか言えなかった。


「……っ」


 リリスは――それでも、ゼロツーを置いていけなかった。


 間に合わせの急造品。


 自分を助けようとした、愚かなロボット。


「……来なさいよ」


 リリスはゼロツーを引きずり続けた。


 戦場から離れるために。


---


 リリスが森の中を移動していると――


 前方に、人影が見えた。


「……っ!」


 リリスは警戒した。


「やっほー」


 軽い声。


 夜凪アオだった。


「……来ないで」


 アオは、そう言われてもなお微笑んでいた。


「待ってたんだ、君を」


「……なぜ?」


「だって」


 アオはコンパスを見せた。


「私の観測対象、変えたから」


「観測……対象?」


「うん」


 アオは頷いた。


「今まではアリサを観測してた。でも、ちょっと方針を変えようと思ってね。だから――」


 アオはリリスを指さした。


「次は、君」


「――っ」


 リリスは後ずさった。


「来ないで……!」


「大丈夫」


 アオは両手を上げた。


「敵じゃないよ。ただ――観測したいだけ」


「観測って……何を?」


「君の選択」


 アオは楽しそうに言った。


「主催者の手先だと誤解されて――それでも、ゼロツーを見捨てない君。君が、これからどうするのか見てみたいんだ」


 リリスは――警戒を少しだけ解いた。


 アオは、誤解と言い切った。


「それに」


 アオは医療用ナノマシン注入器を見せた。


「これ、君に必要でしょ?」


「……それは」


 アオは、リリスに注入器を差し出した。


「あげる」


 アオは微笑んだ。


「君を観測したいから。死んでもらっちゃ困るし、ゼロツーにも壊れてもらっちゃ困る」


 リリスは――迷った。


 ゼロツーを見た。


 前脚切断。胴体部に複数のへこみ。修理したいのは確かだが――


「……でもそれ、人体用じゃ」


「いいから、ほら」


 リリスは、注入器を受け取った。


「お礼……言うべき?」


「どういたしまして」


 アオは満足そうに頷いた。


「じゃあ――これから、一緒に行動しよ?」


「……え?」


 アオは当然のように言った。


「君の近くにいないと、観測できないでしょ?」


 リリスは――諦めたように、目線を逸らした。


「……好きにして」


---


【初日 16:50】

【生存者: 7名】


【脱落者】

 No.01 アリサ・ストームハート - 死因: 胸部貫通 (スカーレット)


---


【状態表】


【アリサ・ストームハート】

 健康状態:死亡


【楔(封じられし刃)】

 健康状態:良好、封印解除(制御不安定)

 所持品:鎖(5m)

 現在位置:中央森林地帯・北東側

 第一行動方針:力の制御を取り戻す

 第二行動方針:次にスカーレットに会った時、全力で殺す

 最終行動方針:死地を求める強者に応える。それは己も……?

 備考:


【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】

 健康状態:良好

 所持品:コンパス

 現在位置:東部採掘場・森林地帯寄り(リリスと共に)

 第一行動方針:リリスの観測

 第二行動方針:リリスに異世界について把握しているか確認

 最終行動方針:ゲームを盛り上げる

 備考:観測対象をアリサからリリスに変更。リリスが主催者の手先とは思ってない


【スカーレット・レッドフィールド(紅の炎)】

 健康状態:額に切傷(止血済み)、頭部に軽い打撲、中度の疲労、精神的崩壊

 所持品:プラズマブレード「紅蓮」(出力リミッター解除)、プラズマライフル、軍用グレネード×1、栄養剤×6、防弾ベスト、簡易テント、浄水器

 現在位置:中央森林地帯・南東側

 第一行動方針:休息場所の確保

 第二行動方針:全員殺害

 最終行動方針:最後まで戦う

 備考:


【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】

 健康状態:軽傷(打撲)、バッテリー67%

 所持品:小型工具セット、ゼロツー(大破)、医療用ナノマシン注入器

 現在位置:東部採掘場・森林地帯寄り(アオと共に)

 第一行動方針:ゼロツーの修理

 第二行動方針:アオの話を聞く

 最終行動方針:生存

 備考:アオから医療用ナノマシン注入器を受け取ったが、人体用なので戸惑っている


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