11:交錯する真心
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*島・各地点への通知
【16:20】
ピピピピピッ――
『通告。16:30に追加の支給品を投入します』
『中央森林地帯・東側セクターに武器、食料、医療品の入ったコンテナが出現します。詳細な位置は地図をご覧ください』
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*中央森林地帯・北東側
ナイフを拾ったアリサは、今にも駆け出していきそうだった。
しかし、アオは止めた。
「シオンをこのままにしておくの?」
「……しない」
アリサはナイフを腰に差した。
アオと二人でシオンの遺体を安置できる場所を探し、運ぶ。
その途中――
『通告。16:30に追加の支給品を投入します』
『中央森林地帯・東側セクターに武器、食料、医療品の入ったコンテナが出現します。詳細な位置は地図をご覧ください』
「支給品……」
「行く?」
「シオンを弔ってからな」
「だよね」
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*北東部岩礁地帯・森林側
ピーーーッ!
『No.05シオン・アルヴェリオ、死亡確認』
スカーレットと蒼は、その通知を聞き呆然となった。
「……楔だ」
そう言ってスカーレットは奥歯を噛み締めた。
自分の軽率な行動が、結果的に二人の死者を出したことになる。
「これ以上……やらせない。俺が止める」
「スカーレットさん……」
「……殺すわけじゃ無い。それより、蒼はこの辺りに隠れていろ」
「えっ……」
「楔の力は見ただろう。やり合う時一緒にいるのは危険すぎる」
蒼は一瞬躊躇したが、それでも声を張り上げた。
「行きます! 私たちは――仲間じゃないですか。楔さんを放っておけない気持ちは、私も同じです」
スカーレットは少しの間、蒼を見つめ考えた。
明らかに荒事に縁の無かっただろうに、傷を負わされて、それでもこんなことが言えるなんて。
「――分かった。一緒に行こう」
「はい!」
二人はアリサたちが向かった方向――恐らくシオンの死亡現場――へ走り出した。
その途中で追加支給品の通知を聞き、目的地を支給品投入地点へ変えた。
武器と医療品。楔と戦うなら、万全の準備が必要だ。
幸か不幸か、森林の中で跪いて死者を弔うアリサたちには気づかなかった。
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*中央森林地帯・東側
リリスは先程までゼロツーのジャミング以外の機能を探っていた。
判明したのは――
ゼロの端末へのアクセス。
管制室へのアクセス、及び参加者の位置を始め各種情報の取得。
そして首輪の解除プログラム。
――どれも強力だが、全てゼロとのデータリンクを前提としている。
既に亡きゼロの端末へアクセスできない今、簡単には使えない。
ジャミング機能を切り、処理能力を確保するか――リリスが演算を肩代わりするか。
前者はゼロツーの存在が明るみになるので最後の手段。
後者の場合、プログラム言語の違いが問題になる。しかしゼロは対処法のヒントを残していた。
プログラム教本の電子書籍。
現在、リリスはゼロツーのハッキングを行っている。
内部データを覗き、言語を学習するためだ。
「……疲れる」
リリスは小声で言った。オーバークロック状態が続いている。
バッテリー残量72%。まだ余裕はあるが、消費が激しい。
しかし急がなければならない。作業中に、また一人脱落者が出てしまった。
その時――視界の端に、微かに光が溢れるのを捉えた。
『支給品投入完了』
首輪から、機械音声が流れる。
「支給品……」
リリスは少し悩んだ後、支給品の所に行くことにした。
他の参加者と接触してゼロツーを役立てたい。
リリスはハッキングの中断処理を始めた。
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*中央森林地帯・東側 - 支給品投入地点
支給品投入地点はちょっとした広場になっており、木々の代わりに草花が生えている。
光が収まった後には――大きな金属製のコンテナ。
「……あれが、支給品か」
まず一直線に走ってきたスカーレットが、コンテナの前に到着した。
コンテナのロックを外し蓋を開ける。
中には――
- 高出力プラズマライフル
- 軍用グレネード×3
- 医療用ナノマシン注入器
- 栄養剤(ドリンク状)×10
- 防弾ベスト
- 簡易テント
- 浄水器
「至れり尽くせりだな……」
スカーレットは複雑な気分で呟いた。
武器が強力すぎる。楔を殺せと言わんばかりだ。
しかし怪我を治せるナノマシン、防御を強化できる防弾ベストは純粋にありがたい。
栄養剤も体力回復に役立つ。浄水器と簡易テントも使えば72時間程度余裕で過ごせるだろう。
無論、制限時間までじっとしている気は無いが。
スカーレットは武器の扱いを確認しながら、蒼が追い付いてくるのを待つことにした。
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リリスは木の陰から、じっとその様子を見ていた。
中断処理を終え投入地点に来たものの、既にスカーレットが居た。
早く接触すべきなのだが、その疑り深い性格から二の足を踏んでいた。
しかし――ゼロツーが動いた。
「待って!」
リリスは小声で止めようとした。
ゼロツーは――スカーレットに向かって歩き出した。
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スカーレットがコンテナを物色しているところに――
ガサガサガサッ。
木々の間から、何かが現れた。
「――っ!」
スカーレットは即座にプラズマブレードを構えた。
そして――現れたのは。
首のない四足獣型ロボット。骨格むき出し。
「……何だ、これは?」
スカーレットは眉をひそめた。
ゼロツーは、彼女の前で止まり――胴体のスピーカーから、声が流れる。
『スカーレット・レッドフィールド。識別完了』
「喋った……!?」
『私はゼロツー。技術者・ゼロが手配したサポートロボット』
「ゼロ……?」
スカーレットはどことなく聞き覚えの有る名前に首を傾げた。
『肯定。彼は管制室の技術者だった。彼の指示により、私は参加者を支援する』
「待て」
スカーレットがブレードを突きつける。
「お前は、主催者側の人間――いや、ロボットなのか?」
『部分的に肯定。私は参加者を支援する』
「支援? 具体的には」
スカーレットは警戒を解かない。
『首輪の解除。私にはゼロが首輪解除装置に用いたのと同じプログラムが内臓されている。特定の条件を満たせば解除プログラムを実行可能』
「……つまり」
スカーレットの声が、低くなった。
「お前の言う『ゼロ』とやらが――楔を、あんな風にしたのか」
スカーレットは冷たく言い切る。
「首輪の解除を試した結果――楔は言葉を失い、力を暴走させ、二人を殺した」
『――』
ゼロツーは反論できなかった。
事実だからだ。
「お前は――」
スカーレットはプラズマブレードを振りかぶった。
「敵だ」
その時――リリスが茂みから飛び出した。
「やめて! 敵じゃない!」
「――っ!」
スカーレットは、リリスを見た。
銀白色の髪。青白い肌。アンドロイドの少女。
「確か……リリス・ゼロワン?」
「そう」リリスは頷いた。「私は、リリス・ゼロワン。ゼロツーは私を助けてくれたの」
「お前……」
スカーレットは、リリスとゼロツーを交互に見た。
「……まさか」
彼女の目が、鋭くなった。
「お前たち――『ゼロツー』と『ゼロワン』。どうも聞き覚えがあると……」
「――っ」
リリスの髪が一瞬光った。
「違う! 私は――」
「お前たちは、ゼロの――主催者の手先だな!」
スカーレットは断定した。
「ち、ちが――」
「黙れ!」
スカーレットが抱える強い正義感と自責の念をぶつける先が、ここで繋がった。
全ての黒幕が目の前に居る!
「――その手足叩っ切る! 全てを話せ!」
「ひっ……」
リリスの髪が発光する。感情が暴走しかけた、その時――
別の方向から、足音が聞こえた。
「……支給品は、ここか!」
アリサが走ってきた。アオも、その後ろに。
「アリサ……!」
「スカーレット……」
アリサは、スカーレットを睨んだ。
「楔は、シオンを殺したぞ」
「……そうか」
「楔を殺す。まだ邪魔するなら――お前も、敵だ」
アリサは戦術ナイフを構えた。
「待て! 今はそれどころじゃない!」
スカーレットは、リリスとゼロツーを指さした。
「こいつらは、主催者の手先だ!」
「何……!?」
「全部こいつらのせいなんだ! 楔がああなったのも!」
アリサの目が、リリスに向いた。
そして――
別の方向からも、人影が現れた。
「手先……?」
リリィとヒナタだった。
彼女たちは籠城先を探し森林地帯を抜け、火山観測所に根城を張った。
支給品の通知にもリリィは動く気は無かったが、ヒナタが『食料』に反応して駄々をこねた。
……実際、籠城するなら食料は必須。それに支給品を放置して敵が強くなりすぎるのも分が悪い。
最終的にリリィは山を降りる判断をした。
「リリィ……!」
リリスは、自分と似た名前の少女を見た。
リリィは、リリスとゼロツーを見て――困惑した。
「何、あのロボット……」
ヒナタは興味津々で近づいてきた。
「わー、すっごい! 首がない!」
支給品のコンテナを囲むように――6名と1体が集結した。
「……ほぼ全員、揃ったな」
アリサが呟いた。
「丁度いい、聞かせろ。手先ってのは――どういうことだ?」
「待って!」
リリスが叫んだ。
「私は、主催者じゃない! 本当に――」
「こいつら――リリスとゼロツーが!」
スカーレットがリリスを睨んだ。
「首輪解除装置で楔をおかしくしたんだ!」
「それは、それは偽物の解除装置で妨害が――私たちは本物の解除プログラムを持ってる! あなたたちの首輪も解除できる!」
「首輪の解除?」
リリィが反応した。
「特別に解除プログラムを……? なぜ、そんなものが?」
「運営にいた技術者のゼロって人が――」
「ゼロ?」
リリィの目が鋭くなった。
「お前の名前は、ゼロワン。そのロボットは、ゼロツーとか言ってたか」
「た、たまたま……偶然なの……」
「それに首輪の解除だと? 首輪の分解行為はルール違反で爆破されるはずだ。なぜ無事でいる」
リリィの声がひたすら冷たくなっていく。
「お前たちは――主催者の贔屓か、駒か……どちらにせよ息がかかっているな」
「違う!」
リリスは顔を歪めた。
「私は……私は、ただ……」
『誤解を解く必要がある』
ゼロツーが前に出た。
『技術者・ゼロの映像を――』
「うるさい!」
スカーレットがプラズマブレードを振るった。
ザシュッ!
ゼロツーの前脚が、切断された。
「ゼロツー!」
リリスが駆け寄った。
『脚部破損のみ。それ以外の損傷は――』
ヒナタが、無邪気に近づいてきた。
「わぁ、これ、壊していいんだ」
「ヒナタ!」
リリィが止めようとした。
しかしヒナタはゼロツーの胴体を――蹴った。
ドガン!
ゼロツーの胴体が、へこんだ。
『エラー……システム……損傷……』
ゼロツーの声が、途切れ途切れになった。
「やめて!」
リリスが叫んだ。
「えー、でも面白いよ」
ヒナタはゼロツーを蹴り続けた。
リリスは――
「やめて! お願い!」
ヒナタに飛びかかった。
しかし、ヒナタは彼女を軽々と投げ飛ばし、リリスは地面に叩きつけられた。
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「はぁ……はぁ……」
蒼は投入地点の近くの木に寄り掛かった。
久しぶりの全力疾走ですっかりへとへとである。それでもスカーレットには大分遅れてしまった。
コンテナの近くには――睨み合うスカーレットとアリサ、一人離れた所に居るアオ、謎のロボを破壊しようとするヒナタとリリィ、そして倒れたリリス。
「……一体何が?」
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「スカーレット……支給品は私が貰う」
「なんだと?」
「楔を殺すには武器が必要だ」
「……ダメだ。今は楔より、リリスの方を――」
「奴はあいつらに任せておけばいい。今最も危険なのは楔だ」
アリサとスカーレットは、同時に得物を構えた。
「力ずくで奪う!」
「お前には渡さない!」
スカーレットとアリサが切り結ぶ。
「くっ――!」
ブレードとナイフがぶつかり合う。二合、三合と止まらない。
剣の腕は互角。命のやり取りならまた別かもしれないが、二人共そこまでやる気はない。
この場から追い払うか、得物を破壊すれば十分。自然と全力を出さず互いの動きに合わせるような形になったが――
「――二人とも、殺し合いなんてダメです!」
蒼が息を切らしながら駆け寄る。格闘技の試合すら碌に見たことのない蒼が、必殺の間合いなど測れるはずがない。
「蒼! お前は支給品を――」
「邪魔だ! 引っ込んでろ!」
アリサは駆け寄る蒼に蹴りを入れた。
「きゃっ!」
蒼は悲鳴を上げ倒れた。
「もらった!」
スカーレットは、蒼に構ったアリサの隙をついた。
だがアリサは身軽にかわし、コンテナを背後にスカーレットに向き直る。
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「ヒナタ、もういい! 目的を忘れるな!」
リリィが叫ぶ。
「はーい」
ヒナタはゼロツーを踏み台に、コンテナへ跳んだ。
「わ」
いつの間にか、コンテナの近くにアオがいた。
「面白いのが来ちゃった。ご注文は?」
「食べ物!」
「はい。オマケもどうぞ」
アオは栄養剤数本とグレネードを投げ渡した。
「この丸いのなに? 飴?」
「武器だよ。リリィは喜ぶと思う」
「やったぁ! ありがとー」
「いいよ。代わりにこっち貰うからさ」
アオはヒナタの機嫌を損ねず済んだのに心の底から安堵しつつ、医療用ナノマシンに手を伸ばした。
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「何をやってる、アオ……!」
アリサは背後の会話に気を取られすぎた。
スカーレットの剣戟を捌ききれず、仕方なく距離を取る。
二人の誤算は、蒼の意志の強さを見誤っていたこと。
そして立ち上がるのに十分な時間が経ち、二人の間に割って入るのに丁度いい位置だったこと。
――スカーレットの狙いはあくまで、ナイフを叩き落とすことだった。
「やめてく――」
不意に目の前に現れた蒼。
スカーレットは驚き、ブレードの刃筋を違え――
プラズマが蒼の胸を、焼いた。
「……あ」
蒼の口から、血が流れた。同時に傷から大量の血が噴き出す。
「蒼!」
スカーレットが叫んだ。
返り血が降りかかる。
蒼は――崩れ落ちた。
「蒼! 蒼!!」
スカーレットは蒼を抱きしめた。
「しっかりしろ! 今、治療を――!」
しかし――
蒼の目は、もう焦点が合っていなかった。
「ごめ……なさ……」
かすれた声。
「何を謝る! お前は何も悪くない!」
ピーーーッ!
『No.10水無瀬蒼、死亡確認』
全員が――動きを止めた。
蒼の死の通知。
スカーレットは――震える手で、蒼の体を抱きしめていた。
「……嘘だろ」
彼女の声が、震えた。
「俺が……殺した……?」
アリサも――ナイフを落とした。
「……っ」
アオは――医療用ナノマシン注入器を持ったまま立ち尽くした。
「……これ、もう必要ないね」
それから――三人はしばらく黙っていた。
リリィは、ヒナタの手を引いた。
「……行こう、ヒナタ」
「え、もう?」
「収穫は十分だ」
二人は、その場を離れた。
リリスは――ゼロツーに駆け寄った。
『システム……損傷……80%……』
「ゼロツー……!」
『大丈夫……まだ、機能する……』
しかし、ゼロツーの声は弱々しかった。
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「……俺は」
スカーレットは、蒼の体を抱きしめたまま――呟いた。
「何のために、戦ってきたんだ……?」
誰も、答えなかった。
「正義のため? 仲間を守るため?」
スカーレットの涙が、蒼の顔に落ちる。
「結局俺は、仲間を殺した」
――それも、戦いを止めに入った者を殺すという、楔と同じ方法で。
「……スカーレット」
アリサが、小さく呼んだ。
「黙れ」
スカーレットは、アリサを睨んだ。
「お前も――敵だ」
「……」
アリサは何も言えなかった。
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【初日 16:40】
【生存者: 8名】
【脱落者】
No.10 水無瀬蒼 - 死因: 胸部切開 (スカーレット)
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【状態表】
【アリサ・ストームハート(辺境の双剣)】
健康状態:腹部に打撲、軽い疲労
所持品:戦術ナイフ
現在位置:中央森林地帯・東側 - 支給品投入地点(スカーレット、アオと共に)
第一行動方針:スカーレットと話す
第二行動方針:楔への復讐(保留)
最終行動方針:不明
備考:蒼の死を間接的に引き起こした。罪悪感
【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】
健康状態:良好
所持品:コンパス、医療用ナノマシン注入器
現在位置:中央森林地帯・東側 - 支給品投入地点(スカーレット、アリサと共に)
第一行動方針:状況の観測
第二行動方針:アリサと共に行動
最終行動方針:誰かさんならどうするかを考え続ける
備考:ナノマシンは蒼に使うつもりが、間に合わなかった
【遮音リリィ(孤独な管理者)】
健康状態:良好、軽い疲労
所持品:マルチツール、グレネード×1
現在位置:中央森林地帯・東側(ヒナタと共に支給品投入地点から離脱中)
第一行動方針:ヒナタと共に逃走
第二行動方針:中央火山観測所に帰還
最終行動方針:籠城戦術を続ける
備考:初めて命のやり取りを目撃し危機感が増した
【スカーレット・レッドフィールド(紅の炎)】
健康状態:額に切傷(止血済み)、頭部に軽い打撲、軽い疲労
所持品:プラズマブレード「紅蓮」(レプリカ版)
現在位置:中央森林地帯・東側 - 支給品投入地点(スカーレット、アオと共に)
第一行動方針:蒼の死を受け止める
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明
備考:蒼を誤殺。深い絶望
【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】
健康状態:軽傷(打撲)、バッテリー70%
所持品:小型工具セット、ゼロツー(前脚切断、胴体部破損。システム障害80%)
現在位置:中央森林地帯・東側(支給品投入地点から離脱中)
第一行動方針:ゼロツーと共に離脱
第二行動方針:誤解を解く方法を探す
最終行動方針:生存
備考:ユリアと楔以外ほぼ全員に主催者の手先と誤認された
【水無瀬蒼(深海の花)】
健康状態:死亡
【結城ヒナタ(恐れなき笑顔)】
健康状態:良好
所持品:缶詰(残り1日分)、栄養剤×4
現在位置:中央森林地帯・東側(リリィと共に支給品投入地点から離脱中)
第一行動方針:リリィと一緒
第二行動方針:楽しい事を探す
最終行動方針:最後の一人を目指す
備考:悪意なくゼロツーを破壊
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