10:修羅の呼び水
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*北部洞窟群
ピピピピピッ――
洞窟内の全員の首輪から、同時に電子音が鳴った。
スカーレットは楔との"会話"を中断し、首輪を押さえた。
『特別ルール発動』
「……特別ルール?」
蒼も不安そうに首輪に手をやった。
『No.02楔を殺害した者には、特別報酬として首輪の即時解除権を付与する』
「殺害――っ!」
スカーレットの顔色が変わった。
『ただし、制限時間は00:00まで。時間内に楔を殺害しなければ、この特別ルールは無効となる』
「なんてことを……!」
蒼が悲鳴に近い声を上げた。
そして――
楔は。
「■■……■■■……?」
彼女は首輪を掴んだ。
言葉は理解できない。しかし何かが、伝わった。
島全体の空気が変わった。
数百年生きてきた鬼神。彼女は、人間の発する気を肌で感じ取ることができる。
そして今――島中から、自分に向けられた気を感じた。
(……何だ?)
楔は立ち上がった。
気の中で最も敏感に察知できる種類――殺気。
島中から自分に向けられた、無数の殺気。
一瞬でもそのことを考えた――それだけで十分だった。
「■■■……!」
楔の瞳が、赤く光り始めた。鬼神の力が、昂る。
「楔さん!」
蒼が駆け寄ろうとした。
しかし――
「■■■■■!」
楔が叫んだ。
その声には、怒気が滲んでいた。
体から、黒いオーラが立ち上る。
鎖が、意思を持ったかのように動き始める。
「くっ――!」
スカーレットは即座にプラズマブレードを構えた。
「楔! 落ち着け!」
その言葉も通じない。
そして、鬼神の本能が――殺気を討とうとしていた。
「■■■■■■!」
楔の鎖が、唸りを上げて襲いかかった。
狙いは――スカーレット。
「ちっ――!」
スカーレットはプラズマブレードで鎖を受け止めた。
しかし、鬼神の力で強化された鎖は、ブレードを弾き飛ばした。
「うっ!」
鎖が頭を打ち、スカーレットは壁に叩きつけられた。
血が飛び散り、鎖の軌跡を描く。
「スカーレットさん!」
蒼が叫んだ。
そして――鎖が、蒼に向かった。
「きゃあ!」
鎖の先端が、蒼の腕を引き裂いた。また、血が飛び散る。
「■■……■■■……!」
楔は何かを叫びながら、洞窟の外へ飛び出して行った。
「くそっ……!」
スカーレットは血が流れる額を押さえながら蒼の方を見た。
「蒼! 大丈夫か!」
「は、はい……。スカーレットさんこそ……」
「俺は大丈夫だ、こういうのは慣れてるしな……」
蒼は腕を押さえながら立ち上がった。
「楔さんは……!」
二人は洞窟の出口を見た。
楔の姿は、もう見えない。
「……あいつ、手加減しやがった」
スカーレットは苦々しく言った。
「本気で殺すつもりなら、今の一瞬で終ってたぜ」
「……楔さんは、私たちを死なせないために逃げたんですね」
「ああ……」
スカーレットはよろめきながら立ち上がった。
「追おう。今すぐ!」
しかし――
「いえ」
蒼が首を振った。
「傷の処置をしていきましょう。思いの外重傷ということもあります」
「でも……!」
「それに」
蒼は悲しそうに言った。
「今の楔さんは……不安定です。近づけば、下手に刺激してしまうかも」
スカーレットは――拳を握りしめた。
「……くそっ。主催者め……!」
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蒼が傷を診ている最中――
再び、首輪から電子音が鳴った。
『通告。これより15分後、以下のエリアを禁止エリアに指定します』
『西部滑走路、格納庫、資材倉庫群各セクター』
『北部洞窟群全域』
「そんな……!」
「チッ……ゆっくりしている暇は無さそうだ」
スカーレットと蒼は急いで止血だけ済ませ、洞窟の出口へ駆け出した。
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楔はひたすら走っていた。
本能が告げている。
(殺気……最も強い殺気が、あちらにある)
彼女は東へ向かっていた。
鬼神の本能は――最も強い殺気を、自動的に排除しようとする。
(戦わなければ……!)
楔の理性は、それを拒否した。
しかし――
体が、言うことを聞かない。
鬼神の本能が、理性を上回っている。
「■■■……!」
楔は走り続けた。
彼女の体は――蒼とスカーレットの血に濡れていた。
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*中央森林地帯・北東側
「……なんてことを」
アリサは特別ルールの通知を聞いて、唸った。
「楔を殺せば、首輪が解除される……?」
アリサは拳を握りしめた。
アオが軽い口調で言った。
「じゃあ、君――どうする?」
「……」
「解除権とやらが罠か本物かは、置いといて――」
シオンが横から口を挟む。
「この特別ルールは、主催者の焦りが見える。恐らく、楔を巡りもっと殺し合いが行われると期待していたのだろう。死者が冬姫一人では物足りんと見える」
「そんな言い方……!」
「つまり、そんな主催者の思惑にのるかどうか、という話だ」
「――っ!」
「管理しようとする者には、反抗する者が出てくるのが世の常だ。厄介なことにな」
「私は――」
その時、アオが立ち止まった。
「……誰か来る」
「何?」
アリサとシオンも立ち止まった。
森の奥から――足音。
速い。走ってくる。
「敵か!?」
アリサは戦術ナイフを構えた。
シオンは懐中電灯を森の奥に向けた。
アオは静かに、コンパスを見た。
そして、茂みから飛び出してきたのは――楔だった。
アリサの目が見開いた。
楔の鎖と服は――血に塗れていた。
「楔……!」
アリサは戦術ナイフを握りしめ、叫ぶ。
「……また、誰かを殺したのか! 許さない……!」
「待て、アリサ! 死亡通知は――」
シオンが止めようとした。
しかし楔が動く。
楔はアリサを――最も強い殺気の持ち主を見た。
瞳が赤く光る。黒いオーラが溢れる。
そして――鎖を構えた。
「■■■……!」
楔は何かを叫んだ。
鎖が、アリサに向かって飛んだ。
「くっ――!」
アリサは横に跳んで回避した。
鎖は木に激突し、幹を砕いた。
「なんて力……!」
シオンは、楔がやはり最大の脅威であると再認識した。
「こちらの戦力では勝ち目はない! 逃げるべきだ!」
「でも!」
アリサは反論した。
「このまま逃げたら……あいつは、他の誰かを襲う!」
「それは――」
「私が、ここで止める!」
アリサは走り出した。
楔に向かって――正面から。
「私は――!」
アリサは叫びながら、ナイフで切りかかった。
「帰りたいんだ! 相棒の元へ!」
楔は鎖を拳に巻き、アリサを迎え撃つ。
「お前を、倒す!」
アリサは拳を潜り抜け、楔の腹にナイフを突き立てた。
だが、黒いオーラと筋肉に阻まれ、傷は浅い。
アリサの腹に衝撃が走る。楔の膝蹴りでアリサは軽く吹き飛び、地に倒れた。
楔は鎖を叩きつけようと腕を振り上げる。
「アリサ! 無茶だ!」
シオンは駆け寄りながら懐中電灯を楔の顔に向けた。
強い光が、楔の目を射る。
「■――!」
楔は一瞬、動きを止めた。
「今だ!」
シオンはアリサに手を差し伸べた。
「起きろ!」
しかし――楔は、光源に向かって鎖を振るった。
「シオンっ!」
アリサが叫んだ。
鎖がシオンの脇腹を強く打ち付ける。
木の幹を砕く威力にシオンの体が耐えられるはずもなく――上と下に、別れた。
「がっ……!」
シオンは血と臓物を撒き散らしながら地面に落ちた。
「シオン! シオン!」
アリサが駆け寄った。
シオンは――まだ目を開けていた。
しかし、焦点が合っていない。
「……あ、りさ……」
かすれた声。
シオンは、アリサの手を握った。
「わたしは……もう……」
「シオン……!」
「でも……」
シオンの目に、涙が浮かんだ。
「おまえは……」
「……っ!」
シオンの声が――途切れた。手が力を失う。
ピーーーッ!
『No.05シオン・アルヴェリオ、死亡確認』
「……シオン……!」
アリサはシオンの上半身を抱きしめた。
温かさが、抜けていく。もう動かない。
「こんな……こんな殺され方……!」
楔は――ただ、その光景を見ていた。
「■■……■■■……」
彼女は何かを呟いた。
しかし、誰にも通じない。
そして――楔は、森の奥へ消えた。
アオは静かに、その全てを見ていた。
シオンの死。
アリサの慟哭。
楔の孤独。
「……これが、主催者の狙い」
アオは呟いた。
「楔を標的にすることで全員を動かす。そして殺し合わせる」
彼女はコンパスを見た。
針が――揺れている。
まるで、方向を見失ったかのように。
「……君なら、どうする?」
アオは自問した。
答えは――わからない。
「……私は」
アリサは静かにシオンを横たえた。
そして、ナイフを拾い強く握りしめる。
「許さない」
彼女の声は――冷たく、鋭かった。
「楔……お前を、必ず殺す」
アオは――何も言わなかった。
ただ、静かにアリサを見つめていた。
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*管制室
「よし!」
プロデューサー01は満足げに笑った。
「No.05、脱落! 計画通りだ!」
ディレクター・マスターも頷いた。
「次は支給品の投入だ。このまま、殺し合いを加速させろ!」
オペレーター03は――黙って、システムを操作した。
彼女の手は、震えていた。
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*中央森林地帯・北側
楔は森の奥で膝をついていた。
「■■……■■■……」
涙が、頬を伝う。
また、殺してしまった。
冬姫に続いて――シオン。
(これでは……過日の如き)
楔は自分の手が握る物を見た。
血に濡れた鎖――確かに、二人を殺した。
(災厄……)
彼女は、同居人の顔を思い浮かべた。
「お前が……望まない限りは」――力を使わないと約束した。
(でも……制御できない)
楔は首輪を掴んだ。
この装置が、力を封印していた。今は解除されたが――
無理に抑えつけられていた力が噴き出し、止められない。
(私は……どうすればいい)
楔は――孤独だった。
誰とも話せず、誰にも想いが届かず。
ただ――殺すだけの、化け物。
「■■■……」
楔は静かに泣いた。
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【初日 16:15】
【生存者: 9名】
【脱落者】
No.05 シオン・アルヴェリオ - 死因: 胴体切断 (楔)
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【状態表】
【アリサ・ストームハート(辺境の双剣)】
健康状態:腹部に打撲、精神的ショック
所持品:戦術ナイフ
現在位置:中央森林地帯・北東側(アオと共に)
第一行動方針:楔を殺す
第二行動方針:信頼できる参加者と組む
最終行動方針:ゲームそのものを破壊する方法を探す
備考:主催者の思惑通りだろうと楔を放置しておけない
【楔(封じられし刃)】
健康状態:良好、強い罪悪感、封印解除(制御不安定)
所持品:鎖(5m)
現在位置:中央森林地帯・北側
第一行動方針:他者から距離を取る
第二行動方針:力の制御を取り戻す
最終行動方針:不明
備考:
【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】
健康状態:良好
所持品:コンパス
現在位置:中央森林地帯・北東側(アリサと共に)
第一行動方針:アリサの観測継続
第二行動方針:シオンを弔う
最終行動方針:誰かさんならどうするかを考え続ける
備考:シオンの死を悼む。アリサの変化を冷静に観測
【シオン・アルヴェリオ(論理の完全者)】
健康状態:死亡
【スカーレット・レッドフィールド(紅の炎)】
健康状態:額に切傷(止血済み)、頭部に軽い打撲
所持品:プラズマブレード「紅蓮」(レプリカ版)
現在位置:北東部岩礁地帯・森林側(蒼と共に)
第一行動方針:傷の治療
第二行動方針:楔の捜索
最終行動方針:これ以上の犠牲者を出さずにゲームを破壊
備考:楔に負傷させられたが、それでも楔を守ろうとしている
【水無瀬蒼(深海の花)】
健康状態:腕に切傷(止血済み)、胸と肩に中度の打撲
所持品:応急医療キット(消毒液と包帯を半分消費)
現在位置:北東部岩礁地帯・森林側(スカーレットと共に)
第一行動方針:傷の治療
第二行動方針:楔の捜索
最終行動方針:戦いを止めたい
備考:楔に負傷させられたが、恨んでいない
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