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12/16

ユニットバスは浴槽とトイレが一緒になったお風呂のことではありません

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピピピンポーン――


「あ゛ーっ!!うるせぇなっ!!誰だよっ!」


「みっきぃすぁーんっ!!」


 男の自宅の玄関に備えられたスピーカーからの声に呼応して、リュートは情けない声を上げた。



「はぁ……生き返りました〜」


 わらしゃんどえぞは、湯気立つマグカップを口から離して言った。ここはみっきぃ邸宅内の簡素な作りの玄関――地上階である。テーブルの前のソファに腰掛けたその美少女は、両手に伝わる温もりを噛みしめるように息を吐いた。


「……来るの早すぎじゃね?」


「仕方ないじゃないですか!?女の子が倒れてたんですから!」


「いや、普通救急車呼ぶとかだろ……」


 玄関とはいうものの、そこには冷蔵庫や炊事場が完備されたキッチンがある。リュートの呼びかけで急いで駆けつけた男は、手早く鍋を火にかけて蜂蜜入りの生姜湯を作ったのだった。


「それで、一体どうしたのよ?女の子が一人で……」


「……うっ……うう」


 わらしゃんどえぞはその大きな瞳から大粒の涙をこぼした。


「実はあのあと、急に〝魔の手〟に対する締め付けが強くなりまして……脱税疑惑で国税局、贈収賄容疑で検察、テロ活動の名目で公安警察に目をつけられて、活動が困難になりました」


「えっ!?……ちょっとマジ……?」


 ティンクは慌ててリュートに耳打ちする。


(ま……まさか、がりべんの唱えた呪文のせい?)


(そ、そんな馬鹿な……あんなのただのお遊びでしょ?)


 手持ち無沙汰の男は壁掛けテレビのリモコンを操作した。そこには淡々とニュースを読み上げるアナウンサーが映し出された。


〈警視庁公安部は宗教法人魔族保護教団〝魔の手〟の事務所を家宅捜索しました。これにより警視庁公安部は二日前に別の容疑で逮捕されていた同団体幹部ハラショー氏を明日付で再逮捕する見込みです。同氏には詐欺や窃盗の疑いもあり、警察は他の容疑についても詳しく捜査するとしています〉


「ハラショー様ぁっ!!」


(どうやら本当(ガチ)みたいね……)


(これ、がりべんがやったの!?すごくない!?)


(すごいっていうか、怖ぇよっ!私もう、あいつの悪口言えないもん!!)


「ぐすっ……そして教団で借りてる寮も、オーナーが強制退去の裁判を起こすそうです……ただでさえ報道陣だらけで近づけないのに!!引っ越しの準備すらままならいんです!!ぅぐっ……うわ~んっ!!私どうなっちゃうのぉ~っ!!うわ~~ん!!」


「なんだか、すごく気の毒に思えてきたわ……」


「でもわらしゃんどえぞさんってチャンネル登録者数多いじゃん!?お金の心配はないんでしょ?」


「――あ、すみません。今はプライベートなので、ショーコって呼んでもらえますか?」


「そこ譲らないのなっ!?一瞬で泣き止むしっ!!……ってか、リュート。この子の活動知ってるでしょ?魔族保護団体よ?なろうチューバーは魔族を倒して報酬を得てるんだから、察しなさいよ……」


「ああそうか。いくら強いって言っても、魔族をあまり倒してないから当然収入も少ないのか……」


 ぐぅ~ぎゅるるる……。ショーコはお腹を大きく鳴らした。


「ぅぐぅ……!寮に帰れないから、安宿を利用していたんですが……ぐすっ……ついに有り金が底を付いてしまいまして……」


「それで噴水のところで倒れていた、と……」


「しくしくしく……めそめそめそ……」


 リュートとティンクは知っていた。黙ってテレビを見つつも、その男はチラチラとこちらの様子を伺っている。二人は男に視線を送り続けた。


 じぃーーーっ……


「っ……」


「みっきぃさん……!」


「えっ?お……俺ぇっ!?いや、俺に何しろっての?」


「あ~んな広い家に住んでるんだから、一部屋ぐらいこの子に貸してあげてもいいんじゃないかと思います!!」


「いや、無理だぞ?ほら、わかるだろ??配信者としてのイメージがさぁ!?……女の子じゃなかったらいいんだが……」


「どーゆー意味ですか!?女の子だからって変に気にしてると、今流行りの()()()()()に引っかかりますよ!?」


「んーそれもそうなんだが……スポンサーが……。俺一応、独身女っ気ゼロのキャラでやってきたから……わかってくれ!!ブランドイメージはとても大事なんだ!!」


「だからって、こんなに困ってる人を見捨てるんですか??それこそ、どうかと思いますよ!?」


「ぐ……俺だって助けたいのは山々だよ!!けど世間の目は厳しいんだ!!ただの友達を家に泊めただけで、あることないこと大騒ぎされる世の中なんだよ!?チクショー!!」


「うわーんっ!私のことで喧嘩しないでくださ〜い!私の心を射止める殿方は私が決めます〜っ!」


「あんたを取り合って喧嘩してんじゃないわよ!!黙ってなさい!!」


「――そもそも、そっちの〝料理上手な態度のデカい長身イケメン独身モテない〟さんは誰なんですかっ〜!?うわーん!!」


「助かる気ないのなぁっ!!?率先してチャンスを棒に振るスタイルぅっ!?」


「〝この態度のデカい独身モテない〟さんは、みっきぃさんだよ!自称有名人気料理系胡散臭いなろうチューバーだよ!!」


「なんで悪いとこだけ切り取ったぁっ!?自称は余計だよっ!!料理系でもねぇ!!」


「うわ〜ん!そんな素性のわからない人の家に住むのは私も嫌です〜!!」


「素性をわからなくしてるのはお前らぁぁっ!!!胡散臭いとか勝手に言ってんじゃねぇぞ、こらぁぁっ!!!」


「……ぐずっ……もういいですっ!」


「うわっ!逆ギレ!?」


「もう何もかも嫌になりました!!私が何したって言うんですかっ……!?」


「ショーコ……」


「――人気なろうチューバーのコメ欄荒らしたり、道具屋の回復ゼリーをツンツンしただけじゃないですかぁー!!」


「迷惑だろぉぉぉぅっ!!よくそれで言い逃れする気でいるなぁ!?」


「――全て魔族の保護に必要だったんです!!それなのに私の動画に低評価つけたり!!凸返ししてきたり!!人の子とは思えません!魔族の子ですか!?犬畜生魔族の子なのですか!?ひどいです!!」


「いや、同属ぅぅぅっ!!自分がやってること、やり返されてるだけぇぇぇっ!!!」


「――私がこんなに可愛いからって、寄って集ってぇぇっ!」


「おまけに認知の歪みぃぃぃぃっっ!!!」


「ぶっ!……うはははははっ!……本当に……くくく……お前らは……っ!」


 男は一通り笑い終えると、なおも続けた。


「――ったく。しょうがねぇな……お前、テレポ使えるか?」


「ナマポ?いえ、まだ働ける身なので……そんな生き方も視野には入れてますが……」


「視野に入れてるのかよぉっ!?聞きたくなかったよ!!テレポなっ!テ・レ・ポっ!!瞬間移動する魔法だ!」


「い、いえ……そんな上級魔法、まだ使えません」


「よし!なら特別に部屋を貸そう……!」


「ホントですか!?みっきぃさん!」


「ああ。ただし上空の天空マンションじゃない……この玄関を貸してやる!」


 ショーコの耳先がピクリと動いた。リュートは喜びのガッツポーズを作る。ティンクの顔も明るくなった。


「っ――!やったね!ショーコ!」


「そうね!キッチンとトイレもあるし、一人で生活するなら不自由ないわよ!良かったわね!ショーコ!」


「……」


「ど、どうしたのよ?急に黙りこくっちゃって……」


「――み、みっきぃ様……」


 ショーコは驚くべき速さで男の前に移動した。そしてすかさず男の手を握って言い放った。


「一生おそばに付き従わせていただく所存です!!!」


「で、でたぁぁーーっ!えげつないほどの手のひら返しぃぃっ!!」


「お、おう……まあ、管理人を雇ったと思えば、なぁ?」


 ショーコの上目遣いに、男はたじろいだ。なおもショーコは止まらない。


「私決めました!今日から私はみっきぃ様の下僕として、余生をあなた様に捧げて参ります!!」


「ええっ!?げ、下僕っ!?」


「あ〜……あんたいいの?そんな大言壮語吐いちゃって……さっきまで『ハラショー様〜』って言ってたじゃない?」


「も、もちろんそちらの活動もしていきます!ですが大事なのは魔族を保護することであって、あのような犯罪者に尽くすことではありません」


「またもや手のひら返しぃぃっ!!流石にひどい!!」


「今度はハラショーが気の毒になってきたわっ!!」


 時計に目をやった男は、ショーコの手を丁寧に解いた。


「あっ!ヤベっ……悪い、俺そろそろ出かけるわ」


「はい!いってらっしゃいませ!どちらへお出かけですか?」


 ショーコは満面の笑みで答えた。眩しいぐらいの笑顔に向かって男も明快に返す。


「ああ!今日はゴブリンの集落を壊滅させてくる予定なんだ」


「集落を壊滅ですね!!ゴブリンの!……ゴブ……え……?」


 ショーコはみるみる間に顔を青くした。


「どうやら人目を避けて、森の奥深くに村を構えてるらしい。直接的な被害はないし、ひっそりと畑を作って生活してるらしいんだ。でもまぁ今後凶暴化するかもしれないし、最近ベビーラッシュみたいだから防犯のためにな」


「ゴブ……ゴブ……ベビー……人目を避けて……ひっそり……」


「パーティーのやつらを待たせても悪いから、もう行くわ。そういうことで、玄関(ここ)は好きに使ってくれていいから――」


「……あ……あ……」


 男は颯爽と出口の扉を開いた。ショーコの手には手渡された玄関の鍵が握られている。ゆっくり閉まる玄関の扉の向こう側から、男の胸躍る声が聞こえた。


「さぁっ!今日は何体倒せるかなぁー♪」


「リュート……帰りましょ……」


「そうだね……とにかく行き倒れだけは避けられたから、めでたしめでたしだね……」


 二人が出た後、部屋の中からは慟哭が轟いた。


「ぐすっ……うわ~んっ!!あ……あんまりですぅ~~っ!!!」

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