ロマネスク建築【非宗教建築】
ロマネスク建築が発展していた時代は、宗教の他に、政治的な力を取り戻しつつあった一方、全体的に不安定だったのは既に書かれています。故に、ロマネスク建築の時代は、防衛や戦に適した建築物の発展も大きかったのです。結果、お城やタワーハウス(またの名をResidential Keep、居住キープ)が建てられる様になったのは、ある意味自然の流れです。その一方、残念ながら宗教建築程残ってはいないものの、その他にも、商人が建てたタウンハウス、倉庫や店だったり、王侯貴族や大司祭の宮殿やグレート・ホール、もしくは役所等もありました。
そして「『中世の町』の主な特徴」で書いた町の主な特徴である、城壁の建設や、その結果作られるやや高層で出っ張っている家の発展の背景も、非宗教建築の一部と言えます。
【ミリタリー建築】
城やタワーハウスはまた後日詳しく書く予定ですが、ロマネスク建築時代の城や塔の多くはノルマン人によって建てられました。
イングランドを例にあげるなら征服王(もしくは庶子王)ウィリアムの建てた建築物一覧です。今日まで(名残が)残っているのには
1.ペヴェンシー城(ローマの砦を改築)
2.ヘイスティングス城
3.ロンドン塔(中心部)
4.ウィンザー城(ただし、何度も建て替えられ、今は面影が無い。最初はモット・アンド・ベーリー形式だったとされている)
5.ノリッジ城
6.チェプストー城
7.ダラム城
等が含まれますが、ただ一つ注意して欲しいのは、城というのは時代と共に建て替えられたり、増築や破損で形が大きく変化していく事です。当時ウィリアムが最も多く作ったタイプの城は、モット・アンド・ベーリー形式、約700以上建てたとも言われています。先人ローマの砦や建造物の改築や増築もありがちでした。故にこれらの城の現代の写真をみて、「これがロマネスク!」と早とちりしてはいけません。
↓モット・アンド・ベーリー形式。城は基本、これをベースに発展していきます。
ロマネスク時代から、この後の城の中心部となる「キープ(keep)」、もしくは「ダンジョン(Donjon)」が建てられる様になります。これは基本、最初は木造から、後で石造りに建て替えられる事が多いです(Donjonは意味的には石造りのkeepです)。ロンドン塔のホワイトタワーが、正にこれです。これをベースに、増築されます。また、増築されず、このキープやダンジョンだけを残した物は、「Tower House (タワーハウス)」や「Residential Keeps(居住キープ)」と呼ばれます。
城壁もまた、最初は図から見れる様に木ですが、徐々に石造りに変えられます。町の要塞化も発展していきます。実は、修道院等の宗教建築にも、城壁やキープ、時には出し狭間、落とし格子、矢を打つ為の狭間、殺人孔等がある事も…
それと同時に、前話で書かれた巡礼や聖戦等の結果、人の行き来が盛んになる、というのは、橋建築を発展させるのに一役買っています。例を挙げるなら、Pont Valentré、これは一応14世紀なので正確にはロマネスクでは無いのですが、イメージはしやすいと思います。
また、ベルギーのGravensteen等も参考になるかもしれません(ロマネスクかゴシックかは微妙な所ですが)。元々は確かにロマネスクの城…ではあったのですが、お察しの通り、時代と共に変化しただけでは無く、ロマンチスムの動きの一環で、19世紀から20世紀初期まで、「12世紀の再現」が試みられています。残念ながら、正確では無いのですが…本作はファンタジーの為のエッセイなので、丁度良いかもしれません!外見は確かにそそられます。
【居住建築】
ロマネスクの家は残念ながら殆ど残っていませんが、これは主に木骨か半分木、もしくは完全に木造建築だった為です。現在残っている物、もしくは名残が残っているのは、全て石造りです。地域にもまた、偏りがあります。イタリアはロマネスク建築が比較的残っているのに対し、イギリスはかなり少ないと言えます。一般人の家は更に少なく、それなりに規模の大きい、中には宮殿じゃないと、現代で見かける事はあまり無いです。
一般的に、「家」の例で有名なのは「ロングハウス」です。よくヴァイキングと連想されます(そしてそれは間違いではありません)が、ロマネスク建築の時代にも、使われていたともされます。基本的に、ー〜二階建て、石造りの場合、一階が倉庫、もしくはキッチンも兼任、二階が居住区です。二階へのアクセスは、外から階段を使って入るのが多いです。
ロングハウスが大規模な物なら、中にアーケードが必要な場合があります。ですが、例えば町の壁内、といった環境なら、段々スペースが少なくなりますので、後になれば成程、上へと長くなります。一つの階に一部屋、梯子の如く階段(外に設置)とかです。構造的に、タワーハウスやキープと通じる物がありますが、ディフェンス面では当然劣ります。
<(図は製作中)>
一階は店だったり、倉庫だったりですね。
またこんな風に(↓)、一階をアーチにし、これをベースに、木(や石)で、上へ上へ増築される場合ありです。
<(図は製作中)>
宮殿は一方で、パッと思い付くだけで幾つかあります。基本的な特徴は同じですが、良い例があるので、リストします。
Pazo de Xelmírez(サンチアーゴ大聖堂の一部でもあり。でも宮殿!巡礼ルートの重要地なので、かなり立派です。大司教の居住区でした)
Palace of the Kings of Navarre, Estella(注:ただし、二階までがロマネスクです。塔と一番上の階は増築です。素敵な例なので、是非検索して下さい)
Zisa, Palermo(同じロマネスクでも、イスラムの影響が強めな、面白い例。)
Cuba Palace(上記と同じく、イスラムの影響強め。こじんまりしていて、エレガントです)
【施設建築】
13世紀までに大きく発展した物の一つに、「商売と商人」があります。Merchant Palace (商人宮殿)やギルドホールとも言われる建物は、建築という面でもかなり豪華になります。同じ時期、地域によってはタウンホールも発展します。特に、イタリア等で盛んなやり方は、一階をアーケードにし、店が出店出来る様にする物です。全体的に、アーケードが並んだ外見が、やはり多いですね。
<(図は製作中)>
参考リスト:
Ca' Loredan, Ca' Farsetti, Venice(ただし、一階と二階部分)
Palazzo della Ragione, Padua
The Palazzo della Ragione, Mantua
最後に、ロマネスクの町レベルで名残が残っている物には、フランスのカルカソンヌ等があります。「『中世の町』の主な特徴」で書いた町の主な特徴は、城壁の建設やその結果作られるやや高層で出っ張っている家の発展の背景とリンクしています。イタリアの例がみたいなら、Perugia辺りが良いかもしれませんが、ちょっとロマネスクとは時代がズレています(ごちらかと言うと、ゴシック以降)。
さて、次回は既にチラホラ書いてはいますが、解り易くリスト化された、地方別のロマネスク建築の特徴を見ていきます。お楽しみに!
活動報告で、ちょっと中世風街づくりについての野望を載せてます!興味があれば、是非覗いて行って下さい~
*写真は全てジャガイモ本人が撮ったものです。素人クオリティなので、心配は無いかもしれませんが、使用したい場合は必ず一言声をかけて下さい。