基礎から始める剣術研修(7)『成剣』
オーガの一撃を両腕で受け止め吹っ飛ぶ賢者の弟子。
エルフの賢者がすぐに賢者の弟子の背後に回って受け止める。
「賢者様・・・この身体超辛い...」
賢者の弟子は、エルフの賢者のみが聞こえるように小声でつぶやき、オーガに向かってかける。
オーガとの殴り合いに付き合ってやるつもりはないけど、
なんとかオーガに一撃いれてやんぞ!
「いいねぇ。その面」
賢者の弟子が向かってくる姿を見てオーガは士気を高揚させ、両手の拳を打ち鳴らす。
「おらぁ、こいやぁ!」
オーガが叫ぶ。
その叫び声があまりにも大きくて、研修生たちはあわてて両手で耳をふさぐが、賢者の弟子はそんな物はおかまいなしに、オーガにまっすぐ突っ込んでいく。
オーガが右腕を大きく振りかぶって、賢者の弟子に向かって右拳を振り抜くと、賢者の弟子めがけて衝撃波が飛ぶ。
「おりゃぁぁぁぁ!」
賢者の弟子は両腕で頭を隠し、その衝撃波を正面で受けまた吹き飛ばされる。
「はぁ、はぁ、はぁ、ったくどうやったらあの武道バカに近づけんだ。
まっすぐ突っ込んでも、拳一撃で吹き飛ばされる。
オーガのあの速度から回り込むのはほぼ不可能。
かと言って、魔法も使えない。
「おいおいどうした。もう終わりかぁ?」
「何言ってんだバ〜カ。
今おまえにどうやって一撃入れるか考えてんだから、
黙ってろ!」
賢者の弟子は中指を立てて、オーガを挑発する。
ーー賢者様、どうやらネジが一本とれちまってるようですけど大丈夫ですかぁ?
オーガは、エルフの賢者に精神世界を通して確認をする。
ーー切れてるっていうより、何か吹っ切れたって感じだから気にしなくて大丈夫よ。ただ、今のままだとあなたに近づけに終わっちゃうから、少しだけフォローするわね。
エルフの賢者はオーガにすぐに返事を返し、賢者の弟子の身体に風魔法をかけた。
おっ、賢者様、フォローしてくれんの?
ーー今のままだと、オーガに近づけずに終わっちゃうでしょ?
ありがてぇ、サンキュー、賢者様!
賢者の弟子は身体の風を感じて笑みを浮かべる。
オーガのすぐ近くに、俺が落とした剣がある。
あそこまで移動するのはさすがに無理だ。
他の武器は...リックの近くに2つ、ハルの近くに1つか...遠いな...
オーガの攻撃は、一直線に飛んでくる拳の衝撃波と、蹴りや横殴りをした時に飛んでくる横なぐりの衝撃波の2つ。
一直線に飛んでくる衝撃波は、左右に動けばなんとか避けられるかもしれないが、あの横なぐり衝撃波、上下に動けないと避けられねぇ。
こればっかりは、賢者様のつけてくれた風魔法で...
賢者の弟子は、再度オーガに向かって駆け出す。
風の魔法のおかげで、身体が軽く草原の草に足を取られることもない。
下手に横に避けると横殴りに撃ってくる。
ならば、正面から一気に...
「まだまだ甘いねぇ」
オーガは賢者の弟子の行動を見て、舌なめずりをして両手を手首を合わして体をひねって、手を隠す。
「なぁ、人間世界のアニメでこういう技があるんだろ?」
「・・・まじっ?!」
「はぁぁぁぁぁ!!!、はっ」
オーガが両腕を前にばっと出すと、その手から炎の玉が賢者の弟子めがけて飛ぶ。
「ちっ...うちらの世界のアニメの技とかマジ勘弁だぜ!」
賢者の弟子はその炎の玉をギリギリの所で避け、オーガのすぐ近くに落ちている剣にスライディングで飛び込んだ。
「だからあめぇって」
オーガが左腕を振り上げ、賢者の弟子めがけて拳を振る。
賢者の弟子はすぐに剣を真横に構え、その拳を剣で受けたが剣が折れそのまま顔面にオーガの拳が突き刺さった。
「んぐぅぅぅぅっ」
「ほう、耐えるかね」
賢者の弟子は足の風魔法を利用して、その場で踏ん張る。
「もうこれ以上吹っ飛ばされてたまるかよ!」
「それで、剣が折れたお前に何ができるっていうんだい」
賢者の弟子の柄をしっかりと握っているが、剣の3分の1も残されていない。
剣が欲しい。
オーガに一撃入れるための剣がほしい。
オーガの一撃を弾き返せるだけの威力。
オーガの拳に負けない強度。
漫画やアニメなんかで出てくるロングソードとかレプリカなんかはいらない。
メイスも盾も鎧も一撃で破壊する暴力的なまでの強さの剣を。
オーガに勝ちたい!
賢者の弟子の右手の甲に描かれた魔法陣が突如緑の光を放って浮かび上がった。
魔法陣は手の甲の数センチ上に浮かび上がり、さらにその上に魔法陣をうかびあがらせる。
「おい、おまえいったい何を?」
いくつもの魔法陣を作り出し光を放って、賢者の弟子の右手の甲の中に消えていく。
なんだ今の?
右手が熱い。何が起きてるんだ?
賢者の弟子の右手から多くの光の粒が放出される。
「なんであの子が魔力を?」
エルフの賢者はその賢者の弟子の右手から放出される魔力を見て、驚きの表情を浮かべた。
オーガも賢者の弟子の右手から放出される光が魔力だとわかり、すぐに後ろにさがって距離をとった。
放出された右手にもたれた剣に集まり、賢者の弟子の身の丈を超える大剣を作り出す。
「・・・おいっ、そりゃ」
その剣は根元で30センチを超え、デザインとしてはローマ時代に利用されていたスパタによく似ていたが、大きさと長さがまるで違う。
オーガたちや研修生たちが使うブロードソードは6世紀頃、西洋でいうとアーサー王の伝説の終焉頃に生み出された剣である。アニメや漫画、ゲームで出てくるロングソードは、10世紀頃、日本の歴史でいうと平安時代から鎌倉時代に西洋で誕生した。
勘違いしている人が多いが、よくエクスカリバーとしてアニメやゲームで出てくるようなデザインの剣はもちろんレプリカとして博物館にあるような剣は、実際にはアーサー王の時代には存在しない。よくも悪くも創作物の一種であり、後から作られた作り出されたものにすぎない。
ーーオーガ、気をつけなさい。その剣は方舟にも記録されてないわ。
エルフの賢者は、賢者の弟子が剣を作り出してすぐにその剣がなんなのか調べるために、方舟の記憶を確認した。
しかし、方舟には剣に関する情報も、賢者の弟子に関する情報も一切記載されていない。
ーーってことは、見えてはいるけど存在してないって事っすか?
オーガは賢者の弟子からさらに一歩距離をとって、エルフの賢者に聞く。
この世界の物質で作られた剣であれば、土魔法として処理してしまえば問題はない。だが、あれはあきらかに土魔法でもなく、それを構成する物質もわからない。
土魔法とは異なる方法で作られた大剣。
素材はもちろんその剣がいったいどれほどの物かも未知数だ。
オーガはゆっくりと移動して、右手で剣を拾う。
魔力を持たないはずの賢者の弟子から放出された魔力。
そしてその魔力が集まってできあがった剣。
エルフの賢者は眉間にしわをよせ、その剣をじっとにらむ。
賢者の弟子はその大剣を持ち上げ背中に背負う。
エルフの賢者の作ったこの身体であれば、たとえ刃が背中に当たっとしても傷がつかない。片刃か両刃なのかなど気にしなくていい。
「オーガ、いくぞぉ!」
賢者の弟子は、オーガめがけて突進し、背中に背負った大剣を振り下ろす。
「オラァァァッ!」
オーガは手に持った剣でその大剣をはねあげようと、下段から剣を振った。
激しい剣のぶつかりあい。
オーガの剣は折れ、すぐに後ろに投げ捨て、引いた腕でそのまま賢者の弟子めがけて殴りにいく。
「ちっ、なんつう重さだよ」
賢者の弟子の大剣は、オーガの剣とぶつかり跳ね上がった。
この剣はその自重のみで岩にも突き刺す事が可能なぐらいの強度と重さを持ってるはずだ。岩を砕くんじゃない。岩にまっすぐ突き刺さる刃。
賢者の弟子は身体をひねり、跳ね上がった大剣を自分の身体に引き寄せ、オーガめがけて突きを放つように、腕をまっすぐ伸ばした。
「なにっ?俺の拳が?!」
オーガの右腕は剣をすり抜け賢者の弟子の顔面のすぐ近くを通りすぎていく、
そして、賢者の弟子の大剣はそのままオーガの身体に深く突き刺ささった。
賢者の弟子は、自分の右手に持つ剣がオーガの身体に突き刺さったのを見て、そのまま地面に倒れる。
「どうだ、オーガ!
おまえに勝ったぞ!」
賢者の弟子は仰向けになって右手を空への振り上げる。
オーガに突き刺さった大剣は、賢者の弟子が手を離すとすぐに光の粒となって消えていく。
そして、オーガの腹部にできた傷口もきえていく。
オーガは剣が刺さっていた場所を手でふれて確認する。
これは方舟の記録の行使か...
存在しない剣、その剣で作られた傷も消えるってか。
オーガは地面に倒れこんだ賢者の弟子の顔をのぞきこみ、
「・・・なぁ、
おまえ、この剣術訓練の勝敗がなんだったか、
忘れてねぇか?」
しかし、その時には賢者の弟子は深い眠りについていた。
次回『基礎から始める剣術研修(8)『力の代価』』




