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基礎から始める剣術研修(8)『力の代価』

エルフの賢者は賢者の弟子のすぐ近くに立ち、右手の魔法陣を確認する。

エルフの街で機械人形によって描かれた魔法陣。

この魔法陣は身体を変えたとしても引き継がれる。


魔法陣には、変わったところはないわね。

でも、この魔法陣から複数の魔法陣が作られ、剣が作られた。

この子に関する情報は方舟は一切に記録が残らない。

この子が作った剣も記録には残ってない。


この子の力は方舟からの干渉を嫌ってるの?


「ねぇ、オーガ。

 あなた、この子の剣で刺されたわよね。

 その傷はもういいの?」


エルフの賢者はオーガに聞くと、オーガは刺された場所に触れ、


「確かに剣が刺さった感じもしたし、

 その時には傷口もあったんですけど、

 剣が消えるのと一緒に傷口も消えちまいました」


エルフの賢者はオーガが刺された部分をじっとみる。


確かに剣が刺された形跡はない。

あの大剣が身体の刺さったんだから、

内臓にも傷はついているはずなのに。


・・・方舟の記録の強制力で傷も怪我もなかった事にされたのね。


方舟を作動させる力...


「どうやら、

 この子が受け取ってしまった力は相当厄介なものみたいね」


エルフの賢者は賢者の弟子をそっと抱き上げ、その場を後にする。

魔力を持たないこの子には、魔法を防ぐ手立てがない。

だから、物理的にも魔法に強い身体を用意した。


でも、この子は魔法を使った。

魔力を保管する事ができないから、

すべて吐き出しちゃったみたいだけど、

この子に魔力を供給した誰かがいる。


ーーカップ、ポット聞こえるかしら?


エルフの館にいる契約精霊のカップとポットに声をかける。


ーー賢者様、どうかされたのですか?


ーーこれから私が見た物を送るから、私の物が持っていた剣の事を調べてほしいの。


ーー剣ですか?


ーーええ、あなた達に方舟へのアクセスを認めるから調べてちょうだい。必ずどこかに同じ剣があるはずよ。


ーーわかりました。剣を探しておきますね。


エルフの賢者はカップとポットに剣の正体を探るように指示をだす。

方舟に記録されていない物などこの世には存在しない。

方舟に記録されるから、この世には存在できる。


この子はその方舟に記録されない状態で存在している。


方舟がこの子を消す可能性もこれからは考えないといけないわね。。。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






壁も空もない真っ白の世界。

小さな男の子と女の子が立っている。

床には大きさの違う沢山の額が並べられている。


「ついに力を使ってしまったね」


額にはまっているピースを1つ摘みあげ、男の子はつぶやく。


「この子の力の代償はいったいなんなの?

 これだけ大きな力なんだから、

 代償も大きいんでしょ?」


女の子は男の子のとなりに立って話す。

男の子は額に並べられたピースをみて、


「彼の記憶、

 方舟に保存された彼の記録...かな?」


女の子は、男の子の返事を聞いて眉をひそめて男の子を睨む。


「そんな怖い顔しないでくれよ」


「方舟の記録を代償って、

 もし方舟から世界を復元したら、

 この子の存在はどうなるのよ?」


「もちろん消えた部分はもう戻ってはこない。

 彼は世界から消える事になる」


・・・


「その代償のこと、

 この子は知ってるのかしら?」


「記憶っていうのはね。

 不思議なもので、

 消えた事は本人にはわからないんだよ」


「教えてないのね?」


女の子は男の子の方を掴んで聞くと、


「本人が気づくことのできない代価なのに、

 教える必要があるのかい?」


と、男の子は質問にクスクスと笑いながら答える。


「この子は力を使っても、

 その代価がなんなのか、

 代価を払っている事も気づけない。


 他の賢者たちに与えた力の代価より、

 よっぽど良心的な代価でしょ」


「良心的?」


あきらかに不機嫌だといわんばかりの表情を浮かべて女の子は男の子を睨む。


「彼は自分とつながりをもった人たちから

 強制的に魔力を吸い上げ、

 それを自分の力として利用できる。


 方舟にアクセスする事で、

 人間世界の記録はもちろん、

 この世界の記録も閲覧が可能だ。


 そして、その閲覧で得た知識を利用する事もできる。


 これだけの力を与えて、

 代価は記録だけなんだよ?


 サービス精神旺盛な僕を褒めてほしいね」


「褒める?

 なにふざけた事言ってるの。


 あなたはこの子の為に、

 その力を上げた訳じゃないんでしょ」


「・・・ああ、もちろんそうだよ。

 

 僕の狙いは方舟。


 彼はすばらしいことに、

 もう方舟に力を使わせてる」


男の子は何もない真っ白な空を見上げて笑みを浮かべる。


「彼が力を使えば、

 方舟の記録に矛盾が生じる。

 その度に方舟は記録を修正しようと力を使う。


 いずれ、記録は修正不可能な状態に陥るだろう。


 その時、方舟の管理者である、

 彼女はいったいどちらを選ぶんだろうね。


 世界を復元してしまえば、彼は消えてしまう。

 かと言って、世界を復元しなければ、

 方舟はその機能を失って、

 もう2度と復元ができなくなってしまう」


「あなたはそこまでして、

 人間世界をなくしたいのかしら?」


「当たり前じゃないか。

 この100年の間に人間世界だけで、

 5回も世界の復元をおこなっている。


 人間は5回も滅んでいるんだよ。


 もう助ける必要もないと思うのは、

 僕だけかな?」


「ノアはそんな事望まないかしら。

 人間世界は何度滅んでも、

 ノアは人間世界を復元するわよ」


「ノアは望まないだろうね。

 でも、それでは永遠に彼女を救えないし、

 僕らも彼女を取り戻す事ができない。


 彼女を救うには、

 彼女の重荷になってしまっている

 方舟から復元できないようにするのが一番なんだよ。


 人間世界は僕らが何もしなくても滅びるし、

 人間の手によって復元が不可能になる」


「ノアを取り戻す為に方舟を壊す気なのかしら?」


「ノアは僕らに必要な存在だろ?

 彼女がいれば世界はいくらでも再生できる。

 方舟は一度まっさらにして、

 作り直せばいい」


・・・


「そう簡単にあなたの思うように、

 うまくいくかしら?

 

 この子が力を利用しなければ方舟に問題はおきない。

 方舟に問題がおきなければ、世界はいつだって復元できるし、

 人間世界だって、もう復元が必要なほどのバカな事はやらないかもしれない」


「なぁに、力の利用頻度はこれからもっと増えていくさ。

 一度知ってしまった以上、人間は決して力を手ばなさい。


 それに人間世界はまたすぐに復元が必要になるさ。

 彼らは何度でも殺しあう。

 殺しあう事をやめられない、愚かな種族だからね。

 

 ・・・


 人間世界の復元が必要になった時、

 慈愛の賢者と呼ばれるノアが、

 人間世界でも魔力も才能もない最低辺の彼を見捨てる事ができるか、

 楽しみだよね」


男の子は額にはめられたピースを見て笑みを浮かべる。


賢者の弟子に与えられた力。

その力の代価は賢者の弟子の記憶と、世界の復元の喪失。


すべては人間世界を滅ぼし、慈愛の賢者ノアを救うため。


男の子に背を向けて、女の子は真っ白な世界から消え、エルフの賢者の元へむかた。

『ノアを救う』その事には同意できるが、そのための代価は認める事ができなかった。

次回「異世界旅行(1)『天龍族』」

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