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基礎から始める剣術研修(3)『付与』

賢者の弟子は、エルフの賢者をじっと見つける。

オーガを抜けたとしても、その次の相手はあの魔女だ。

オーガだけでも手に余るのに、その後に出てくるのがあれだ。

しかもこちらの考えは読まれている。

そう、心が読まれて・・・


「この訓練って無理ゲーじゃね?」


小人の弟子に向かい小声でつぶやく。


「むりげー?」


「クリアが絶対無理なゲームって事。

 あの2人を相手に、どうやって勝つんだよ。

 いくら考えても勝ち筋ってのが見えてこない。

 ってか、契約で俺の考えてる方法って、

 賢者様には筒抜けだし」


「勝つ方法・・・」


オーガとエルフの賢者を見ると、

2人は余裕の笑みを浮かべながら話をしている。


負ける方法なら、いくらでも思いつく。

ただ、負け方も一歩間違えれば大けがだ。

オーガのあの一撃。

オーガの利用している剣は、刀のように切る為の武器ではなく。

本当に西洋の剣のようにたたき切る武器だ。

せめて防具があれば、もう少しまともに...


ハルは「打たれた瞬間はじき飛ばされそう」と話していた。

はじき飛ぶ?たたき切るタイプの武器で振り抜かれたら、吹っ飛ばされるって言う方が正解なんじゃないか。

なんで、ハルは...


もともと剣には2種類ある。

日本刀のように、実際に相手を切るすてるタイプと西洋の鎧の上からでも相手の骨を砕くようなタイプだ。

アニメやゲームでエクスカリバーなどがよく出てくるが、エクスカリバーは西洋剣なので、切れ味は日本刀よりはるかに劣る。

さらにいうなら、5世紀から6世紀の時代の物という歴史的にみればサクソン人が盛んに活動していた時代で、サクスやスクラマ・サクスという剣が有名だ。ただ、スクラマ・サクスは7世紀になってからという事でエクスカリバーより新しい時代となってしまう。なのでエクスカリバーはグラディウスを長くして片手でも扱えるように軽くしたスパタ系かサクス系のどちらかだと考えられている。アニメやゲームなどのエクスカリバーは中世ヨーロッパで利用されていた両刃剣のレプリカを参考にしている贋作の贋作だ。


オーガの剣技が、西洋ヨーロッパの剣の鎧の上から相手を骨を砕く剣だとしても、はじき飛ばされるのはおかしい。


さっき、ハルのすぐ近くを歩いた時にハルの打たれた場所をちょっと見たけど、出血しているような様子も骨を折っている様子もなかった。


いくらたたき切るタイプの剣であっても、そんな事あるだろうか。

オーガの剣は両刃だ・・・


ーー賢者様〜。マイプリティーな賢者様〜。


・・・


応答なしか。さすがに今は敵だもんなぁ。

エルフの賢者様に質問しても教えてくれないよな。


海の賢者様や空の賢者様だったら、

ちゃんと教えてくれるんだろうけど、

うちの賢者様じゃダメだろうな。


あ〜、俺この訓練が終わったら、

海の賢者様んとこ遊びに行こうかな...

見た目は一緒なんだし。

海の世界行ってみたいなぁ。


・・・


ゆっくりとエルフの賢者のいる方角を見る。

賢者と視線があうが、目が赤く輝いて見える。

ゆっくりと視線を外し、ため息をつく。


「どうしたの?」


「いや、揺さぶりをかけたら、虎の尾踏んだ。

 完全に勝ち筋消えたっぽい。

 というか、俺多分死んだ」


「はあ?何訳のわからない事言ってるの?」


「あの賢者様の目を見て、

 おまえはなんとも思わないのかよ」


「こっちをにらみつけてるだけじゃない」


小人の弟子の表情は何も変わっていない。

本当に何も感じていないようだ。

図太い精神なのか、女というのはそういう物なのか...


「どっちにしても、勝ち目がない。

 どうやって負けるかだな...いてっ」


小人の弟子の蹴りが、足のすねに入る。

小人の弟子に嫌われている理由ははっきりしている。

自分でもよくわかっているから、

これぐらいの攻撃で済むなら安いものだ。


「小人のお弟子さんは、

 なにかいい手でも思いついたん?」


「思いついてたら、すぐに実践してるわよ」


「そですか...って結局打つ手なしじゃん。

 もう負けるしかないよな。


 ここは素直に負け方考えるべきじゃね?」


「負け方って何言ってるの?」


「何、頭良くて、魔法も使えるくせに

 なんでわからないの?

 負け方にも色々あるだろ。


 ハルみたいに、痛い目にあって負ける方法もあれば、

 リックみたいに...あれもまあまあ痛いけど、

 ハルほど痛くはない負け方だってある」


「もしかして、

 わざと負けようとしてるの?」


「あたり前だろ。

 打つ手もなくて、勝ち目なし。

 負けるのが決定してるなら、

 いかに、次につながる負け方をするか。


 普通、それ考えるだろ」


小人の弟子の眉間にしわがよっていく。

視線もどんどん厳しくなり、今にも光線を出しそうな勢いだ。


「あなたって、ほんっっとおに最低ね」


・・・そんなに怒る事なのか?


「現状、勝てる要素は一つもない。

 なら次の事を考えて負け方考えるって、

 そんなにおかしい事か?」


「それでも必死に頑張るのが普通でしょ」


「おまえ、もしかして結構頭弱い方?

 負けるのわかって、精神論なんて具の骨頂だぞ。

 そういう事をいう奴ってのは、

 だいたい負けた理由もわからず終わるんだよ。


 負けるのわかってるからこそ、

 冷静に物事を考えるべきじゃね?


 今のおまえの考え方だと、このまま全員負け続けるぞ」


「・・・」


「これは訓練なんだよ。

 俺も最初は勝ち負けにこだわったけど、

 これは完全な無理ゲーだ。

 俺たちに勝ち目はない。


 なら、この訓練がなんの為におこなわれているのか。

 それを俺たちは理解するべきだろ。


 こんな剣術なんて訓練はこの世界じゃなくてもできるんだ。

 この世界でしかできない。何かが、この剣術訓練にはあんだよ」


「それなら、、、あんたが最初にさっき言ってた、

 魔法士の訓練でいいんじゃないの?」

 

「それは俺の勘違いだ。すまん。


 一番最初にオーガが言ってた事を思い出せ。

 この剣術訓練は、火と水の魔法の訓練を終えてから、

 やる予定だったんだ。


 俺は魔法が使えないから、ちょい違うけど、

 本当なら、剣士も魔法士も風、水、火の3系統の魔法が

 使える状態でこの訓練をやってるはずなんだよ。

 剣士が魔法を使ってはいけないというルールはないしな」


「剣士も魔法士も風、水、火の魔法を使ってやるって事でしょ」


「まあ、そうなんだけど、

 4人が4人とも魔法が使える状態で剣の訓練...

 おまえ魔法が使えるんだったら、

 もっとよく観察しとけよ」


「私はね。

 今日初めてこの世界に来たの!

 あなたの方が何日も前からこの世界に来てるんでしょ?

 魔法が使えないからって私のせいにしないでよね!」


小人の弟子の怒鳴り声が響く。


小人の弟子に背をむけて考える。


ったく、俺たちに何をさせようとしてんだ。


エルフの賢者をじっと見る。

エルフの賢者は笑みを浮かべたまま、こちらを見ている。


ーーむかつく!この研修終わるまで、口聞かないですからね!


・・・


「声で会話はできなくても、心の声で話せるからね」


・・・


なら、この訓練の意味教えてよ...


・・・


・・・


・・・


・・・


・・・


そういう事だけ返事なしか!


オーガの剣の秘密。

とりあえず、それだけでもなんとか分かれば、

俺の役目は終了か...


賢者の弟子は、剣が置かれている場所に歩き、

さっきまでリックが使っていた2本の剣を手にとる。


あいつ、こんな重たい剣を片手でずっと持ってたのか...


リックはまだ芝生で横になって休んでいる。


そりゃ、そうなるわな。

水の精霊で体力が回復されるから、なおの事悪い。

身体の一部にかかる疲労の蓄積は結構辛いからな。

体力が回復される分、そういった身体のパーツの疲労にはみんな鈍感になってるんだろうな。

こんなの片手でずっと持ってたなんて、

あいつ、元の世界だったら確実に腱鞘炎になってるな。


賢者の弟子は、自分が次に戦う時に利用する武器を確認する。


今まで持っていた剣と、リックが使っていた剣を2本。

お尻のポケットに入っている短剣が...なんか光っとる・・・


賢者の弟子はすぐに、小人の弟子の元へ向かおうと足を数歩踏み出したが、立ち止まった。


これってやっぱりあいつの風の魔法を受けたから光ってるんだろうな。

それでどうする?

この気づいてしまった短剣をどうする?

素直に話すべきか、否、話さずに謎のまま負けるか。


この事を話したら、あいつは絶対に余計な事を考える。

そして、余計な事をやろうとする。

それに巻き込まれて痛い目をみるのは、間違いなく俺だ。


ここは素直に黙っておくべきだ。

後は・・・


エルフの賢者にゆっくりと視線をむける。


いや、賢者様なんて言い笑顔してんの。

もうそんな顔で見ないでくださいよ。

マジ勘弁です。マジこれなかった事にしてください。

自分の寿命のこと、もう少し考えてはくれませんか?

もう少し自分に優しくしてください。


「ダ〜メェ。

 気づいちゃったみたいだし、

 オーガの武器もちょっとだけサポートするわね」


エルフの賢者は賢者の弟子を見て、にっこりと微笑むと指先をオーガに向け、指を弾く。


えっ?・・・えぇぇぇぇ!?そんなんあり?


オーガが持っていた剣を炎が包み込む。

それを見ていた研修たちは驚きの声を上げるが、賢者の弟子はあの剣で切られた時の事を考えてしまい、ため息をつく。


あんなん触れられたら終わりじゃん。

しかもなんで炎なんだよ。

炎を大してなら、水とか氷なんだろうけど、

今回の研修はまだ火と水はやってないじゃん。


鬼か!


「がんばってぇねぇ」


賢者が面白がっている声が頭の中で聞こえる。


なんでこのタイミングで、こういうの発見しちゃうかな・・・

こういうのは終わってからにしようよ。

俺の馬鹿。俺の大馬鹿者。


賢者の弟子は、深く深く人生の終わりを迎えたようなため息をつく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そんな賢者の弟子の様子を、何もわからず小人の弟子はみていた。


オーガの剣に火がついたのといい、あの賢者の弟子の態度、怪しすぎる。

何かわかったのね。


「ちょっと、何か見つけたの?」


「あ、いや、なんだ」


賢者の弟子の受け答えがはっきりしない。

もうこれは絶対に何か隠し事をしてる。


「何か見つけたんでしょ?

 早くそれを教えてよ。

 見つけた内容によっては、

 作戦も変わってくるかもしれないじゃない」


賢者の弟子を顔をじっと見つめていう。

賢者の弟子は、目を合わせようとせず、空ばかりをみている。

賢者の弟子の方を掴み強引に顔を正面に向かせる。


「ああ、もうわかったよ。

 はなします。話すから手をどけてくれるか」


賢者の弟子は、顔をもの凄く嫌そうな顔をして私の手をどけようとする。


こいつ、本当に私の妹の病気を治した奴なの?


賢者の弟子は、後ろに手を回し、短剣を差し出す。


短剣は、柄の部分が緑の光を放ち、の部分も緑の光を放っている。


「これ、どうして?さっきは光ってなかったよね?」


「多分、おまえの風の魔法がお尻に当たった時に、

 その魔法を吸収したとかなんじゃないの?」


「どういう意味?」


「ここに置いてある武器。

 いや、この世界の武器は魔法を受けてその属性の攻撃とか、

 その魔法の攻撃を持つんじゃないかと、俺は推測する。

 オーガの剣が炎に包まれているのだって、

 きっとうちの賢者様がオーガの剣に火の魔法をつかったのが原因だ。


 だからこそ、火と水の魔法を覚えた後で剣術訓練なんだよ」


「ふぅ〜ん。

 あなたもしかして、

 その事に気づいてあんなため息ついてたの?」


「あれみろよ!

 気づいた瞬間、炎がバーンだぜ!

 あんなん勝ち目なしじゃん」


「・・・あなたって、本当に最低ね!」


賢者の弟子は軽くため息をつき、


「なんとでも言ってくれ」


「元の世界に帰ったら、絶対に妹には近づかないでね」


「・・・それ今関係ある?

 それに、俺が近づかなくても、

 俺の留守番要員が近づいちゃってるからなぁ・・・

 そこまでは俺には責任とれねぇぞ」


小人の弟子は、賢者の弟子に背を向けて歩いていく。


賢者の弟子は、小人の弟子の後ろ姿をみて1度ため息をつき。


「これがわかったからって、

 どうやって使うかまではわかってないんだけどね」


と独り言をつぶやいた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



オーガは炎に包まれた剣をブンブンと音が鳴るように振る。


「賢者様、やっと気づいたみたいですね」


オーガが笑みをこぼしてエルフの賢者に話しかける。


「運が良いのか、悪いのか、

 本当にあの子はわからないわ」


エルフの賢者は、オーガに笑みを浮かべて言葉を返す。


「さてさて、

 それじゃ、本来の剣術訓練を始めますか」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




オーガがエルフの賢者のとなりから1歩ずつ前進している。

訓練再開か。

こちらは情報が少なすぎんだけど。


本来なら、相手の魔法に合わせてこちらも剣に魔法を付与して戦うんだろうけど、こっちは風しか使えない。


『 風 対 火 』


しかも、相手の火の魔法を付与したのは賢者様だ。

こっちは・・・今日初めて異世界にきた小人の弟子。


俺が丸焼きになるイメージが思い浮かばねぇ。


小人の弟子に視線を送るが、小人の弟子は視線を合わせようとはしてくれない。


ーーこちら絶賛仲間割れ中っす。この魔法の剣の使い方教えてください。


・・・無視か...


教えてもらえないなら、もう色々試すしかない。


剣は1本、短剣も1本。

うち短剣は既に風の魔法を受けて緑の光を放っている。

ああ、くそっ!

もう少したくさん剣用意しとくんだった。


オーガの前に進み、剣を小人の弟子が魔法を当てやすいように上段でかまえる。


お願いだから、後頭部に風魔法を当てるなよ。

さすがに後頭部に風の魔法は意識が飛ぶぞ。


「それじゃ、賢者の弟子くんいくぞ」


オーガは話すとともに一気に間合いを詰めてくる。

小人の弟子は、すぐさま自分の持っている剣に風の魔法を撃つ。

剣に風の魔法が当たったのか、剣が前に持ってかれる。

風の魔法を剣が受けた事で、賢者の弟子は体勢が崩れ、地面に膝をつく。


「おまえ、もうちょい加減しろよ!」


「加減って言われてもわからないわよ」


賢者の弟子が体勢を立て直そうとした時、

オーガの間合いに入った事に気づき、

立て直さずに身を横に回転させ地面を回る。


オーガの一撃は空を打ち、地面に突き刺さり燃え広がる。


「ちょっ、あちっ、あちっ」


賢者の弟子は慌てて起き上がって火から逃げる。


一撃目クリアしたけど、あの炎厄介すぎだろ...


今、オーガとの距離は7メートル弱。

この距離ならオーガの攻撃は届かない。

それにラッキーな事に、ここなら賢者さまのところまっすぐ突っ走れる。


このままつっぱしってエルフの賢者の元へ。


賢者の弟子は下半身に力を入れて一気に掛ける。

最初に予定していた通り、オーガを無視してエルフの賢者の元へ。


身体の力が抜けていく。

あれ?目の前がくらくらする。

顔が地面についたのがわかる。

オーガの攻撃は届かないはず。

なのに、なぜ?


オーガはゆっくりと歩き、小人の弟子を剣でつつく。


オーガチームの完勝。


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