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基礎から始める剣術研修(2)『弟子 vs オーガ』

小人の弟子の近くで腰を下ろす。


「なかなか動かないんだけど、どうしてなの?」


珍しく小人の弟子が質問してきた。


「理由は俺にもわかんねぇけど、

 実力差はかなり離れてるし、

 オーガと賢者様が遊んでるんだと思うよ。


 両手に剣を持った状態で構え続けるのって

 結構疲れると思うんだよね」


話をしながら、自分の選んできた剣を小人の弟子に向かって差し出す。


「ねえ、こういうのを渡す時って、

 持つ側を相手の方に向けて渡す物だと思うんだけど」


「あっ。悪い」


あわてて剣を持ち直して、差し出す。


剣のしかも切れる方を向けて渡そうとするなんて、非常識だよな。

今まで、誰かに物を渡すとか全然なかったから、気にした事がなかった。


「結構重たいのね」


小人の弟子は、剣を片手で持って振り回している。


わっ・・・剣を振り回す時は、もう少し回りをみような...


「まあ、竹刀とかに比べたら、

 やっぱり本物剣は重たいな。


 材質がいまいちわからないんだけど、

 やっぱ鉄とかなのかな」


「もっと軽い剣とかあった?」


小人の弟子は、剣を自分に渡しこちらに向き座りなおす。


「あるにはあったけど、かなり短い剣になるな」


「そっか。もう少し軽いのがいいんだけど」


「オーガに頼んでレイピアとか

 用意してもらったら?」


「レイピア?」


「フェンシングなんかで利用する

 剣にそっくりな細い剣の事」


「今初めて知ったわ」


「レイピアは切るっていうより、

 刺すって感じになるから、

 アニメみたいに振りかぶって振り回したりしたら、

 一発で折れちまうけどな」



レイピアの事を話したはいいけど、レイピアではオーガの一撃は受けきれない。もしレイピアでオーガの一撃を受けたら間違いなく折れる。

レイピアは先がとがっているので、折れた破片が自分に刺さるという事も多いし、実際の戦いには利用される事はほとんどなくて、飾り物として利用される事の方が多いしなぁ。


「あなたって、こういうのに詳しいの?」


「まあな、祖父と父が警察で剣道教えてたから」


「あなたの目から見てオーガの実力は?」


小人の弟子と一緒にオーガに視線を合わせる。


「かなり強い。剣道の動きとは違う。

 さっきハルに話聞いたけど、

 剣を振り抜いてたらしいし、

 一撃で相手を仕留める、

 確実に相手の動きを止める剣かな」


「剣道とは違う?一撃で仕留める?どういう事」


自分は剣を振って、小人の弟子に見せる。


「剣道の竹刀の振り方って、

 基本的に振り抜かないんだよ。


 剣を面、小手、胴に当てれば勝ちだから。

 でも、オーガは違う。

 当てるんじゃなくて、打ち抜いてる。


 相手に深手を負わす剣...みたいな」


「・・・あなたもっと日本語の練習をした方がいいわ」


「仕方ないだろ。

 病気で学校にも行けず友達と話す事もなかったんだから」



「・・・」


言わなくていい事いった。

もの凄く気まずい雰囲気にしてしまったのが自分にもわかる。


「ごめん。くだらない事言った。

 俺の説明下手なのは、

 俺が日本語を知らないせいだ。


 病気とか理由にしてるだけだ」


小人の弟子は、自分の顔をじっと見つめ、

その後自分に背を向けるように座りなおした。


これから、こいつと組んでオーガと賢者様と戦うと言うのに、かなり気まずい状態にしてしまった。


「この勝負、いつ終わると思う?」


小人の弟子は背を向けたまま質問をしてきた。


「リックが動いた時かな?

 さっきもハルが動いた瞬間をオーガは狙った。

 最初の一撃っていうか、

 初動に関してはオーガが譲ってんじゃないかな?」


「相手が動き出してからでも、

 十分勝てる自信があるって事?」


「余裕だろうな。


 相手が動いてからでもオーガのあの速度なら、

 余裕で打ち抜けるだろ」


「あなたはどうするつもりなの?」


オーガからエルフの賢者に視線が向かう。


「オーガとは戦わない。戦ったら負け確定。

 だからオーガの足止めはよろしく頼む」


「・・・なにそれ?

 剣術訓練で剣士が剣士と戦わないって」


「この剣術訓練の勝利条件は、

 剣士が魔法士に攻撃を当てる事だ。


 剣士が剣士に打ち勝つ事が目的じゃない。


 剣術訓練とか言ってるけど、

 なんだかんだ言って、

 後衛の魔法士の訓練なんだよ。

 この訓練は。


 そうじゃなきゃ、

 剣士役がオーガなんてありえないだろ。


 力の差がありすぎる」 


「ふぅ〜ん。

 なら、私はあなたの事を気にせず

 後ろからどんどん魔法を打って行けばいいのね」


・・・


「俺をにむかって打つのはやめてくれよ...」


「私とオーガさんの間に

 割って入らなければ大丈夫よ」


・・・顔がそうは言ってないんですけど。


前方にはオーガ、後方には小人の弟子か...


「さて、もう終わるだろうから準備運動でもしとくか」


立ち上がり、腰を回し背伸びをする。

もうそろそろ、リックの腕も限界だろう。

水の精霊が体力を回復してくれると言っても、

絶えずマックスにしてくれる訳ではない。

疲れは少しずつ蓄積していく。

だから、必ず一息つく時間が必要になる。


「おまえも走る準備しとけよ。

 おまえがオーガから一撃食らったら負けなんだからな」


芝生の上でずっと座っている小人の弟子に声をかける。

小人の弟子は仕方がないという様子で立ち上がり、

身体を伸ばす。


エルフの賢者を見ると、自分たちを見て笑みを浮かべているようだ。


ーーこっちはいつでもオッケーですよ。賢者様。



・・・



・・・



オーガが剣を振る。

その剣の衝撃を2本の剣でリックは受け止めようとしたが、衝撃に耐えきれずにいとも簡単に剣が落ちる。

両手の手首を抑えてうずくまるリック。


だよなぁ。

二刀流なんかやったらそうなるよなぁ。


所詮はゲームの中でしか通用しない二刀流。

あたり前の結果だ。

この世界、異世界だからと言ってレベルアップで数値をピコピコあげて筋力アップできるとか優しい世界じゃない。身体を見れば筋力はある程度わかる。

いやゲームの世界と違って見た目に反映されるって言った方がいいのか。


リック、おまえ本当に馬鹿すぎ。

もし、二刀流がそんな優れているなら、

日本刀だって二刀流用にもっと改善されてなきゃおかしいだろ...

なぜ、二刀流用の武器が現実世界に存在しないのかもう少し考えろよ。


オーガチームの完勝。


オーガも、エルフの賢者もこちらに向いて笑みをこぼす。


さて、それじゃあ地獄の訓練に行きますか...


賢者の弟子と小人の弟子はゆっくりとオーガの前に向かう。

小人の弟子は魔法士が最初に立つ位置で足を止めゆっくりと深呼吸を、賢者の弟子はその小人の弟子と目を合わせ「絶対当てんなよ!」と心の中で注意して前に進む。

片刃、片手剣を利き腕とは逆の左手に持ちオーガの前に立ち、自分とオーガ、賢者との距離を測る。

オーガとの距離は10メートル前後、

エルフの賢者との距離は30メートル前後と言った所だ。


ここから短剣を投げたとしても、絶対に届かない。

それにこの距離だと、絶対に避けられる。

当たるはずがない。

もし当てるなら、距離は10メートル以内。

オーガを避けて、距離を詰めて短剣を当てる。


勝ち筋としては、これ以外は難しい。


オーガに剣で勝つのは無理。オーガと戦ったら絶対に負ける。


小人の弟子と視線を合わす。


「頼むぞ。ちっちゃいのの弟子」


オーガが剣を構える。


正面で見るとオーガの強さがはっきりとわかる。

どこに振っても当てられる気がしないし、背丈はそれほど高くないはずなのに、高く見える。

これが剣道であっても勝ち目はない。

面、胴、小手、どれを狙っても今の自分では無理だ。


左手に持った剣の先を芝生にあて、少しずつ間をつめる。

自分の剣は、オーガの剣より短い。

腕の長さを合わせると、かなりオーガの方が間合いが広い。

オーガの間合いに入らないように、そして小人の弟子の射線に自分が入らないように、少しずつ間合いをつめる。


攻撃は、オーガの間合いに入る直前。

自分の剣が芝生をはじくその時だ。


オーガの剣の先が揺れてみえる。

後少し、もう少し...


賢者の弟子は腰を落とし、

芝生をはじいてオーガの手前で剣が空を切る。

これが、攻撃開始の合図だ。

もし、オーガと賢者の弟子との力量が同じぐらいだったら、こんな誘いにオーガは乗ってこないだろう。

だが、今は違う。

圧倒的なまでにオーガが強く、力量もはるかに上。

少しぐらい賢者の弟子の誘いに乗っても、大丈夫だという余裕がある。


賢者の弟子の剣が空を切った瞬間にオーガが一気に賢者の弟子に踏みこんでくる。

そのオーガにカウンター気味に小人の弟子の風魔法が入る。


「ナイスタイミング!」


オーガの重心が後ろに下がる。

さすがに吹っ飛ばすほどの威力は難しかったようだ。

賢者の弟子は、体重が後ろに移ったオーガの剣を持つ腕めがけて、左腕をしならせて元に降り戻す。

これは剣で相手を切るのでなく当てるだけで十分なはず。


だが、オーガは当たる寸前で腕を上にあげ、剣をかわす。


「ちっ・・・」


だが、重心が後ろによった状態で腕を振り上げれば、自然と身体が持ち上がりそった状態になり、小人の弟子からはいい的となる。


小人の弟子は、小さな空間をいくつも作りだしオーガめがけて風を放つ。


1発、2発のオーガの腕に当たり、何発かがオーガの足を切り刻む。

そのうち1発は、賢者の弟子のお尻を切り裂く。


痛いっ!


賢者の弟子は、お尻に受けた風魔法で若干涙目になりながら、左腕を降り戻した勢いを利用して身体を回転させてオーガの左をすり抜けようとする。


オーガは小人の弟子の風魔法を受けながら、

賢者の弟子めがけて剣を振り下ろす。


賢者の弟子は剣を地面と水平にして、右手を添えてオーガの一撃を受ける。

もしこれが両刃の剣だったら、この一撃で右手は自分の剣の刃で無残にも引き裂かれていただろう。

アニメなどで、相手の剣を受ける際に、剣を持ってない方の腕で剣を支えてうけるシーンがあるが、あれは片刃の剣でしか実際にはできない。むろん剣での押し合いなんかも両刃でやったら自分の剣で自分の身体を切る事になるのでアウトだ。

日本刀のように片刃しかない剣だからこそできる事。

それをソードやレイピアといった両刃の西洋の剣でやるのは、危険極まりない。


上体がそれていると言ってもオーガが振り下ろした剣は重い。

剣を支えた右手の手の平の骨、中手骨か手根骨のいくつかにヒビが入ったか、折れたか砕けたか...複雑骨折確定だ。

もう右手では2発目は受けられない。

片手でオーガの一撃を受けるのも無理だ。

賢者の弟子は、急ぎオーガから離れ後ろに下がる。

オーガとは戦うべきではない。

戦えば負ける。

今の一瞬でオーガを抜けられなかった事。

これでもう勝敗はついている。


「ちょっとタイム良いですか?」


賢者の弟子はオーガに一言言って、頭を下げる。

オーガもエルフの賢者も小人の弟子も目を開いて驚いている。


「だって、これ訓練なんでしょ?

 試合じゃないんだから、ちょっと作戦タイムくださいよ。

 右手の骨も逝っちゃってるし...」


皆無言となる。


一瞬の出来事ではあれ、緊迫した空気が流れる中での、賢者の弟子の一言。

人とのコミュニケーションを一切していなかった空気の読めない男はここでもその空気をまったく読めない。


賢者の弟子は、オーガが剣を下げるのを見届け、小人の弟子のいる方向に足を進める。


・・・痛かった。オーガの一撃より、お尻に受けた風の一撃。

おまえが放った風の魔法。俺のお尻に直撃した風の魔法。

無茶苦茶痛かった。


驚きで固まっている小人の弟子に言うことは一つだ。


「おまえ馬鹿か?

 なんで味方の俺の尻に攻撃してんだよ!!!

 マジくそいてぇんだぞ」


賢者の弟子はお尻を小人の弟子に向けて痛かった事をアピールする。

賢者の弟子の行動に唖然とする小人の弟子。


「あんたってさ。本当に馬鹿じゃない?」


賢者の弟子と小人の弟子が双方の言い分を放ちののしりあう。

緊迫した空気はどこへやら。

2人の罵倒が研修会場に響きわたっていた。


賢者の弟子のお尻のポケットに刺さっている短剣が、

風の魔法を受けて輝いている事に2人は一切気づく様子もなく、

エルフの賢者とオーガは苦笑いを浮かべる。


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