基礎から始める剣術研修(4)『新しい身体』
ゆっくりと目を開けると、真っ青な空が見える。
なんで、俺こんなとこで寝てんだ。
頭が痛い。
右を見ても、左を見ても、草と青い空。
ふぅ〜。ここどこだ...俺なにしてたっけ?
「もう少ち寝ちぇた方がいいわよ」
どこかで聞いた女の子の声がする。
声がする方向に視線を向けると、小さな女の子が立っている。
逆光で顔とかよく見えないが、どこかであった事があるような気がする。
「悪い。そこに立たれると逆光で誰だかわからないんだわ。
せめて、見える場所に立ってくれる」
小さな女の子の影が動く。
ブロンドの髪。透き通るような白い肌。青く透き通るような瞳。
・・・おまえはっ...
「目を覚ましたかな?」
聞き慣れた声、小人の賢者だ。
「もうすこち寝かちぇておかないとあぶないと思うのよ」
小さな女の子が小人の賢者に話をする。
「この子用の新しい身体はもうできてるから大丈夫だよ」
新しい身体?俺用の?
「そんな事いっちぇ無理ちゃちぇるとまた命の大精霊に叱られるのよ」
「うぅ。それはちょっと嫌かなぁ」
「・・・っで俺は今、どうして芝生の上に寝っ転がっているんだ?」
小人の賢者の声がする方向に視線を向けて聞く。
「君は剣術訓練をしてたんだけどぉ、
僕の弟子が、君の後頭部に風の魔法をぶつけちゃってねぇ」
「・・・」
・・・あの野郎!!!!!
「彼女は悪気はなかったんだよぉ。
風の魔法って意外とまっすぐ飛ばすのが難しいんだ。
だから、許してあげてくれるかな?」
「あいつは反省してるのかよ?」
「もの凄く反省してたよ。
君の所の賢者様がもの凄い勢いで怒ってたから」
・・・なぜだろう。自分は決して悪くないんだけど、
自分のせいで、小人の弟子にもの凄い悪い事をしたような罪悪感を感じる。
「なんとなく想像ついた。
あいつにも物凄く悪い事した。
俺の方から、あいつにも謝っておいてくれ」
「だってさぁ」
「えっ?近くにいるの?」
回りを見ると、小人の賢者とちょうど反対側に小人の弟子がいた。
賢者の弟子は小人の弟子と視線があってしまい、気まずい状態になる。
「ごめんなさい。
風の魔法、本当に当てるつもりはなかったの」
小人の弟子は、そういうと頭を下げる。
「いいよ。
気にしなくて、今日が初めてだったんだから仕方がないって。
今日魔法初めてですって子に、
あんな無茶な訓練を押しつける教官が悪い」
なんだか、もの凄く悪い気がして必死フォロー。
だって、魔法覚えた初日にあんな訓練普通におかしいだろう。
ゲームやアニメの世界だと、味方に魔法が当たるとかほとんどないもんな。
ゲームなんかで魔法が味方に当たる仕様とかなら、間違いなく剣士とか直接攻撃系のメンバーは魔法職に殺されて、魔法職をやりたがる奴なんていなくなってしまうだろう。
「本当にごめんなさい」
「その、なんて言うか、
おまえがそんな風だと、俺がやりづらい。
いつも見たいに汚物を見るような目で見てくれた方が、
俺が楽だから」
・・・自分、何言ってんだ・・・
「それじゃあ、今日から汚物を見るような目で見てあげるよぉ」
小人の賢者が会話に加わる。
「おまえは、そんな目で見なくていい。
どちらかというと、
俺がおまえをそういう風に見てるし、
おまえ人間世界の俺の身体の見張りとか
どうしたんだよ?」
小人の賢者は頬を膨らませて怒るが、その顔も愛くるしい。
「君の見張りは水の大精霊がやってるよぉ。
エルフの賢者の契約精霊といっても、
水の大精霊の配下の1人だしね」
「ああ、なるほどな。
水の大精霊なら...
また変なキャラになって帰ってきそうだけど、
おまえよりはましか」
賢者の弟子は、小人の弟子に振り返り、
「つか、マジでうちの賢者様恐かったでしょ。
あの人、怒らせると目から赤いビームだして、
超鬼キャラに変貌しちゃうからさ。
大丈夫・・・だった?」
って、大丈夫だったらこんなには落ち込まないか...
小人の弟子は、頭を何回も縦に振っている。
「まぁ、君の今の身体を見たら、
叱られるより、ショックを受けると思うんだけどねぇ」
「んっ、俺の身体?」
賢者の弟子は、改めて自分の身体をみようと起き上がろうとすると、利き腕は肘から先がない。足を動かそうにも足がない。
・・・
・・・
・・・
「・・・俺の腕と足は?」
「ごめんなさい!」
小人の弟子が、地面に額をつけて必死に謝っている。
「君の腕と足は、風魔法で引きちぎれちゃったかぁ」
小人の賢者が苦笑いを浮かべ、自分の身体にかけられていた布をどかすと、自分の足は、太ももが4分の1程度残っているだけでその先がない。
「・・・いやぁ、これほどとは・・・」
自分の身体をみて、苦笑いを浮かべる賢者の弟子。
水の精霊のおかげで傷口は塞がっていて、痛みもない。
痛みがないから、賢者の弟子は自分の身体の状況を理解できていなかった。
これは、正直自分でも引くわ。
それに人をこんな状態にしたんだから、小人の弟子も相当精神的に辛いよなぁ。
なんで、あいつがさっきから謝ってばかりなのか、理解できた。。。
正直、魔法を甘く見ていた。
風魔法で追い回された時、賢者様の土の鎧を着ていたから怪我をしなくてすんだだけで、あの時も生身だったらこうなっていたのかもしれない。
「なぁ、はやいとこ新しい身体って奴に、
俺を移してくれないか?
早く研修に戻って
オーガをギャフンと言わせないといけないしな」
賢者の弟子は、小人の賢者にそう告げると、小人の賢者は笑みを浮かべてうなずく。
「今度の身体は、
君たちの魔法の練度では
まずこうはならないから安心してぶつけていいよぉ」
小人の賢者は笑みを浮かべた弟子に伝える。
「おいっ!
おまえわざと当てさせるような事いうなよ」
「もう2度と人には当てません!」
小人の弟子は顔を真っ赤にして大きな声で叫ぶ。
「ああ、失敗は誰にでもある。
反省だけなら、猿にだってできる世の中だ。
反省してる暇があったら、
前をむいて同じ事を繰り返さないようがんばろうや」
賢者の弟子はそう告げて、頭を草原につけた。
これはあくまでも持論だ。
反省。よく人は「反省しているのか」と口にするが、本当に大切なのは反省する事なんかじゃない。同じ失敗を繰り返さないようにどうしたら良いかを考える事の方が大切なんだ。反省して顔を下げる時間があるのなら、その時間で失敗を繰り返さない方法を考えた方がよっぽどいい。
うつむいて、自分がした事に後悔をしている暇があるのなら、それを防ぐ方法に時間を割いた方がいい。
「あたらちぃ身体に早く移動ちゃちぇるためにも、
あなたは寝ちぇた方がいいのよ」
「えっ!?」
頭の中が真っ白になり、ふわふわとなんだか浮いているような感覚におそわれる。
身体が軽く、どこまでも飛んでいけそうな感覚だ。
まるで自分に身体があるとは思えないほど全てが軽い。
痛みも気だるさも疲れもない。
目もぱっちりとあけられ、くっきりみえる。
『ちょれが肉体から解放された状態なのよ。
おぼえちぇおきなちゃい』
・・・肉体から解放された状態?
「精神世界って奴か?」
『ちょれとは違うわ。
今のあなたは、ただ肉体とのちゅながりがにゃいだけ。
肉体からあなたのちぇいちんたいに送られてくる情報がにゃいだけよ』
「・・・簡単に言えば幽体離脱かぁ」
身体から解放された感覚。
それは重力はもちろん、腕の感覚も足の感覚も身体からいつも流れてくる情報が一切ない状態。
だからなのだろうか?
ものすごくすっきりしている。
賢者の弟子はこの世界に来てから、
何度も身体を交換している。
その度に、精神体と身体の接続を外し、
新しい身体との接続をやってもらっているのだが、
こんな体験は初めてだった。
「うっ・・・右手が・・・」
右手が何か重たい物を持っているような感覚に襲われ、すぐにそれば全身に回っていく。
「なっ、なんだよこの感覚」
息を吸う為の腹筋を動かすのが重い。
腕や足もずっと走った後のように重い。
やべぇ、まったく動けねぇ。
いったい何が起きてるんだ?
腹部が痛い。さっきから脈に合わせて鈍痛がする。
・・・はぁ、はぁ、はぁ、意識が...
・・・
「ぐわぁっ!」
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賢者の弟子の新しい身体の上にまたがるように小人の賢者が心臓マッサージをしている。
「なかなか心臓が動き出さないんだけどぉ、
この身体は彼には完全にオーバースペックなんじゃない?」
小人の賢者は、すぐ近くで様子を眺めているエルフの賢者に確認をすると、エルフの賢者は鼻で笑い、
「そんな事はないはずよ。
命の精霊の消費量が多いから、
うまく接続ができてないんじゃない?」
「君はいったいどこまでこの身体を強化したの?
この身体、絶対に後から大精霊様たちから、
文句を言われるよぉ」
「ふんっ、あいつらは他っておけばいいわ。
この子は魔法が一切使えないんですもの。
ちょっと強化した身体ぐらい与えたって問題ないでしょ」
「これをちょっとって言うのかな?」
「問題ないわよ。
それより、早くおこしなさい」
エルフの賢者に言われて、小人の賢者はちょっと強めに賢者の弟子の胸を押す。
・・・僕の力で押しても、骨が折れないって、この身体強化しすぎだと思うなぁ
小人の賢者は、強く押しても壊れない賢者の弟子の身体に苦笑いを浮かべる。
全種族でもっとも力が強いドワーフ族の力でも壊れない身体。
エルフの賢者の用意した賢者の弟子の身体は完全にチートレベルに丈夫だ。
ただ、強化されていると言う事は、それを維持する事と動かす事に膨大なエネルギーが必要になる。
小人の賢者には、賢者の弟子にそこまで力があるとは考えていない。
だからこそ、起きれない理由は単純にエネルギー不足だと考えていた。
もう少し強くやっても大丈夫だよねぇ。
小人の賢者はマッサージをする更にあげていく。
「ぐわぁっ」
賢者の弟子が急に起き上がって、転がり落ちる小人の賢者。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
賢者の弟子は荒い息づかいで自分の両腕を確認する。
そして、両腕の手のひらを確認し安心したのか、また横になった。
「なんで横になってるの?」
・・・
「あっ、賢者さま・・・なんか身体が超重くて、
横になってないと辛いっていうか、苦しい」
賢者の弟子は身体をおこさず頭だけを動かしてエルフの賢者に答える。
「そう?
あなたに合わせて作ってあるから、
大丈夫なはずなんだけど」
「ぜんぜんダメです。
動きたくても動けません」
・・・
小人の賢者はその2人のやりとりを聞いて、やっぱりなぁと頭を手で描いて苦笑いを浮かべる。
「この身体、いったいなんなんだよ?
なんか病院のベッドの上で寝てた時みたいに、
身体がぜんぜん動かせないんだけど」
「あなたの為にいろいろと強化してあげたんだけど、
なれるまで時間がかかるのかもね。
目を瞑って、足のつま先から指先まで全身の神経に集中しなさい」
「いや、集中してるけど、
超重い。ってか遠くに感じる」
「ほらね。
僕が思った通り、彼にはまだ早いんだよ」
「そんな事はないはずよ」
小人の賢者の一言で、あきらかにエルフの賢者の声が不機嫌になった。
・・・これ起き上がらないと、俺にとばっちりがきそうだな。
賢者の弟子は、重い身体を引きずって上半身を起こす。
足はいくつも重りをつけられ、縛られているような感覚で動かせない。
「これちょっとなれるに時間かかると思うから、
ちょっと休ませてくれよ」
賢者の弟子は2人の賢者に笑みを見せ、下を向いて目をつむる。
この身体、マジでやばいぐらい動かねぇ。
息するのに疲れるんだけど...




