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基礎から始める魔法研修(9)『命の消費』

「だいたいなんで、

 俺が小人の弟子の妹を助けてんだよ。


 まずそこがおかしいだろ?

 全然接点なんてないはずなのに」


賢者の弟子は腕を振って小人の弟子に訴えかけた。

賢者の弟子は小人の弟子とあっても、なかなか女の子の事を思い出せずにいた。そんな女の子を助ける?


「あらぁ、君と女の子は毎日ように病院の屋上であってるわよ」


「なにぃ」「なんですってぇ」


賢者の弟子も小人の弟子も両方が声をあげて驚く。


「いっ、妹がこんな奴と毎日?」


「ちょっ、まてよ。毎日って、

 俺の留守番は俺の知らないところで毎日何やってんだよ!」


小人の弟子は、賢者の弟子の顔を手で押しのけてエルフの賢者に詰め寄る。


「私を一度元の世界に返してください。

 こんな最低男と毎日一緒になんて信じられない」


エルフの賢者は首を横に振る。


「なっ、なんでなんですか?」


「あなたの契約者は私ではなくて、

 小人の賢者でしょ?

 私にあなたを元の世界に戻る権利はないわ」


小人の弟子は、エルフの賢者の話を聞いて後ろに下がり地面に膝をついた。


「なぁ、元の世界の俺と

 その子が付き合ってるとかないよなぁ?」


「さぁ、それは私にはわからないわぁ。

 元の世界に戻った時に聞いてみれば?」


「そんな訳ないでしょ!

 こんな男と私の妹が付き合う訳ないわ」


小人の弟子は賢者の弟子を物凄い形相で睨みつける。


「なっ、なんつう顔で睨んできてんだよ。


 いいか、おまえならわかってると思うけど、

 元の世界にいるのは、俺だけど俺じゃねぇ。

 

 俺の身体の中に入ってるのは、

 お留守番用の精霊だからな。

 

 だから、俺とは一切関係ねぇ」


「あなたと関係ないって、

 あなたの身体に入って行動してるって事は、

 あなたの記憶を継承してるって事でしょ?


 なら、あなたの今までの生活を模範に

 精霊たちは行動してるはずよ。


 だからあなたに責任がないなんて事はないわ」


「いや、たしかに俺の身体で俺の記憶だけど、

 俺がやってる訳じゃないし、

 むしろ迷惑してるの俺の方だから。


 賢者様、俺を一回元の身体に戻してくれよ」


「戻してあげたい所だけど、

 今はやめておいた方がいいわよ」


「なっ、なんでだよ!」


「女の子お姫様抱っこして逃げてる最中だから」


「おっ、お姫様抱っこ???」


草原に賢者の弟子と小人の弟子のお姫様抱っこが響き渡る。


「わたしがいない間に、この男は!」


小人の弟子の平手打ちが賢者の弟子の顔面を捉え、「パチーン」といういい音が再度響き渡った。


ってなんで、俺がまたビンタされてんだよ!

おかしいだろっ

俺がいったい何をしたっていうんだ。


「俺の身体に入ってるのって、

 賢者様の水の精霊だろ?

 あいつに言って、あんま、その、なんだ。

 変に経験値積み上げないように言ってくれ」


「経験値って変な言い方するわねぇ

 元の世界に戻ったら、

 あなたの経験になるんだからいいじゃない」


「いや、それよくないよ!

 せめて、自分自身で経験してぇ」


「私が経験させてあげてもいいんだけど」


「うぷっ」


って何言ってくれてんだ。この賢者様は。


「賢者様、お願いします。

 賢者様が元の世界に返せないというなら、

 小人の賢者様に確認して、

 私を元の世界に戻してください!」


小人の弟子は、再度エルフの賢者に駆け寄る。


「俺も一旦元の世界に返してくれよ。

 俺がいったい何をしたのか、

 この目で確認がしたいんだ」


小人の弟子に負けまいと賢者の弟子はエルフの賢者に詰め寄ると、エルフの賢者は軽くため息をつく。


「今のあなた達を元の世界に戻すってなると、

 別の身体に戻すことになるけど、

 それでもいい?」


「はい」


2人はすぐに返事を返すと、エルフの賢者は頭を掻きながら詠唱を始めた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






男は女の子を抱きかかえ、階段をゆっくりと降りる。


屋上から逃げている最中に女の子は突然顔色が悪くなり立っているのもやっとの状態になった。猫の姿である小人の賢者ではどうする事もできなかったため、男が女の子を抱きかかえて逃げる事になった。


「なぁ、大丈夫か?」


「心配かけちゃってすいません」


女の子は申し訳なさそうに、男にあやまる。


「いや、こんなの全然へっちゃらだから

 気にしなくても大丈夫だけど、


 病気、そんなに悪いのか?」


猫をチラッとみて、病気のことを確認する。


「病気はもう大丈夫なんですけど、

 今まで全然身体を動かしてこなかったから」


女の子は顔を下げて話す。


「きっと、急に運動して身体が

 びっくりしちゃったんですよ」


女の子の顔を覗き込むと、寂しそうな表情を浮かべている。


・・・


こういう時って、何を言ってあげればいいんだろう。


男は病院から出るのではなく、女の子の病室に向かう。

女の子の表情、そして身体、何か違和感を感じる。

今は早く寝かせてあげた方がいい。


男は女の子に衝撃を与えないように、最新の注意を払って階段を降りる。

足に風をまとい、地面に足がつく前に空気のクッションを作り。




非常用扉を開き、廊下に出ると普段はたくさんいるはずの看護師の姿がない。

屋上での出来事で、きっとみんな避難をしてしまったのだろう。

それならそれで、自分には都合がいい。


女の子を病室の扉を開けると、男は目を点にした。

病室にはエルフの賢者様と、猫が2匹・・・

黒い猫を白い猫が追い回している。


・・・エルフの賢者様はわかるけど、なんで猫が2匹?


男は軽く会釈して女の子をベッドに寝かす。


「エルフの賢者様、どうしたんすか?」


男には、賢者の契約精霊としての記憶がないため、自分が賢者の弟子だと思って話をする。


「あなた、精霊の力を使っちゃったんですってぇ?」


「えっ・・・はっ、はい」


男はエルフの賢者に頭を下げる。


「人間は精霊に嫌われているから、

 本当は精霊の力って使えないの。

 

 あなたの記憶を封印したのは、

 精霊の力を使えなくする為だったんだけどなぁ」


「いや、自分で何かしようとした訳じゃ・・・

 なんか、こう腕を振ったり、何かしようとすると勝手に・・・」


「まぁ、中身が精霊だから、

 きっとあなたを手伝ってくれたんでしょうね。


 精霊が力を貸すなんて、誤算だったわ」


エルフの賢者と男が真面目な話をしているさなか、

病室では3匹の猫がかけ回っている。

黒い猫を追い回す白い猫、その白い猫を止めようと小人の賢者(猫)が走る。


・・・ちょっ、なんだよこれ?なんで俺猫の姿なんだよ!


ーー元の身体には戻せないって言ったでしょ?


だからって猫ってなんだよ!

しかも、なんで俺追いかけられてんだよ。

うわっ、ちょっ、なめてくんなっ!


賢者の弟子は黒い猫に、小人の弟子は白い猫の身体にそれぞれ入っているのだが、小人の弟子は記憶がないためか、完全にただの猫になっている。


ーー人間は身体に記憶を保管するから、本当なら君も小人の弟子と同じ状態になるはずだったんだけどね。


・・・おまえそれがわかってて、猫の身体に、わっ、


ーー私は何度も言ったじゃない。元の世界に戻ったら異世界の記憶はなくなるし、記憶は身体に保管されてるって。


ちょっ、俺のファーストキスを・・・


黒い猫は白い猫に捕まり、顔をペロペロと舐められている。


まじかよ。俺のファーストキスが猫の姿なんて...

しかも相手は記憶のない小人の弟子なんて...


これ、異世界に戻ったら猫の時の記憶も、なんて事はないよな?


ーーもちろん今の記憶も異世界に持って帰るわよ。帰った時が楽しみね。


・・・


・・・


「本当にエルフの賢者は魔女だよねぇ」


小人の賢者が小人の弟子を必死に押さえて、賢者の弟子に話かける。


ああ・・・こいつの性格忘れてたよ。


「さっき、外の様子も見たけど、

 ここの屋上のエレベーターの機械が爆発したって事にして、

 山は噴火があったって事にしておけばいいかしら」


エルフの賢者は小人の賢者に話しかける。


「そうだねぇ。

 山の賢者にもお願いしたんだけど、

 すべて修復するのには時間がかかるし、

 壊れた物は治せるけど、

 その命までは治せないから後はエルにまかせるって」


「そう。それなら私が先に記憶を操作するから、

 それに合わせて山の賢者に街を修復させてちょうだい」


「・・・自分でいいなよぉ」


「私とあいつは相性が悪いのよ」


・・・


「はい、できたわ。

 後は山の賢者にお願いしといて」


・・・あいかわらず、うちの賢者様の力ってのは、いつ使ったのかも、本当に使ったのかもまったくわからん・・・チートすぎだろ・・・


「それで、この女の子はいつまで持つの?」


・・・んっ?


ベッドに横になっている女の子をみて、エルフの賢者が小人の賢者に尋ねる。


「えっ、賢者様なにいってんすか?」


男も賢者の言葉に驚きを隠せない。


「この子、もう命の精霊をほとんど使いきってるわよね。

 だから異世界に連れていけなかったんでしょ?」


男も猫の姿の賢者の弟子も息を飲んだ。

唯一の救いは姉である小人の弟子が猫の姿で、自分が女の子の姉である事を自覚してない事だ。


「やっぱりわかっちゃう?」


「わかるわよ。

 これだけ命の輝きが弱まってれば、

 他の賢者だけじゃなくて、

 精霊たちだって気づいてるはずよね」


エルフの賢者はチラッと男の顔を見る。


・・・俺の身体に入っているのは、水の精霊。身体を癒してくれる精霊。


「記憶を封印したのに、

 やっぱり精神の本質は変えられなかったみたいね。


 あなた、この子にはあまり時間がない事。

 本当は気づいてたんじゃない?」


エルフの賢者に顔を覗き込まれて、固まる男。


「自分は・・・」


男は返事に困り、顔を青白くして固まっている。


「命の精霊がこれだけ少なくなっていたら、

 身体を治しても意味がないわ。


 いいえ、身体を治した事で、

 今まで活動してなかった部分まで、

 活動を開始したせいで

 余計に命の精霊の消費を早めてしまってるわ」


・・・身体を治した事で、余計に負担が?


「チビもなんでそれをわかってて、

 放置したのかしら?」


エルフの賢者は今度は猫の姿の小人の賢者をにらみつける。


「確かに、この女の子の病気を治した事は、

 僕の早計だったねぇ。

 治さなければ、もっと長生きができたかもしれない」


・・・


治した事で、寿命が縮む。

治さなかったら、もう少し長く生きられた。


長く生きる事、健康になる事。

長い間病院で暮らしてきた賢者の弟子は知っている。

長く生きる事だけが幸せではない事を。


病院や介護に勤めている人なら、多くの人が知っているだろう。

歳をとり、ボケてしまい、自分が誰だかわからなくなり、

ただ漠然と生きている老人を。

食べてはいけない物が多くなり、毎日を病人のように暮らす老人を。

足腰が弱くなり、動けなくなって寝たきりで過ごす老人を。


いろいろな人たちを見てきた。

ただ日々を漠然と過ごすだけの人をたくさん見てきた。


だから、小人の賢者がした事を賢者の弟子は責められない。


女の子にとっての幸せは、きっと病院のベッドの上で寝続ける事ではなく、みんなと仲良くおしゃべりしたり、散歩に行ったりする事だと思うから。


猫の姿の賢者の弟子は、ベッドで横になる女の子の横に飛び乗り女の子の顔をみる。

小人の弟子にそっくりな顔。

違うのは髪型ぐらいだ。


命の精霊が少なくて、異世界に連れて行く事も、これ以上身体を治す事もできない。

この女の子に待ち受けているのは死のみ。


猫の姿の賢者の弟子は、女の子の頬をペロっと舐めて顔を寄せて自分にできる事を考えた。


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