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基礎から始める魔法研修(6)『メッセージ』

「ああ、よく寝た」

ベッドから起き上がり、時計を見ると10時を回っていた。


「やべぇ、完全に遅刻だ」


ベッドを出て洗面所に向かいお湯を出して、トイレに。トイレから出ると洗面所でさっき出したお湯がちょうど良い温度になっていて、すぐに顔を洗い髭を剃って、髪の毛を洗う。

短い髪は乾かす時間は必要ない。

濡れた髪にワックスをつけて髪型をセットし、制服を着替え、鞄の中身をチェックして玄関へ。

革靴を履いて玄関に手をかけた時、携帯電話の存在に気付いて自分の部屋に戻った。


自分の携帯に電話をかけてくるのは学校か病院か、そして小さい頃から病院でよく顔を合わしていた女の子だけだ。だからそれほど携帯に依存しているわけではないし、執着している訳でもない。


ただ何となく、その日に限って携帯を忘れた事が気になった。


携帯を手に取り画面を見ると女の子からのメッセージが1件入っていた。


階段を降りながら携帯のメッセージを確認する。

メッセージの受信は今からちょうど10分ぐらい前、洗面所にいた時ぐらいだ。


『たすけて』


階段で一旦足を止めすぐに女の子の携帯に電話をかけるが、呼び出し音は鳴っているが女の子は電話に出ない。

階段を降り急いで靴を履き玄関を出て自転車に乗ろうとすると、自転車のカゴの中に1匹の小太りな猫が入っていた。


「なっ、なんで急いでる時に限って」


急いで猫を下ろそうとしたが、カゴに猫の爪が引っかかって下ろせない。


「ああ、もうこんな時に限って、

 仕方ないか」


猫を下ろすのを諦め、自転車に乗る。


「おまえ、

 降りたくなっても走ってる最中は降りんなよ!」


言葉が通じない事はわかっているが、猫に一声かけべダルをこぐ。家から病院まで急げば10分。

今の自分は本気でペダルを漕いでも身体は壊れないし、死ぬ心配もない。

信号のない裏道を使い、女の子が入院している病院へ急いだ。


段差を越える度にカゴの中の猫の身体が大きく跳ねる。その度に猫が落ちないか心配になり、掌をカゴの上にかざす。


「おまえ、どこの猫かしらねぇけど、

 落ちないようにちゃんと捕まっとけよ」


普段ならあまり使わない車道。

急いでいる事と、カゴの中の猫を気遣ってか、自転車のペダルを漕ぐ。





病院につき、携帯の画面をパッと確認したが着信はない。急いで女の子に電話をかけるが呼び出し音はするけど、応答はない。

自転車置き場に自転車を置き、病院の中へと急ぐ。

猫も自転車置き場に着くとすぐにカゴから出て、病院の入り口がある方向にかけていく。


「ったく、あの猫いったいなんなんだよ」


病院の入り口の自動扉が開くと、猫も一緒に入っていく。


・・・あっ、今は急いでるから見なかった事にしよ


女の子の病室は7階。

病院の通路を急ぎ足で抜けて入院病棟へ、エレベーターに乗って女の子の病室へ向かう。


エレベーターの扉が開くとすぐに降りて、ナースステーションの前を通って女の子の病室へ。

普段からよく来ているのでナースステーションの前を通っても誰も止めるような事はしない。

女の子の入院している部屋の扉を開け病室に入り、女の子の姿を探す。


「ちょっと遅かったみたいだね」


・・・えっ?!


病室に備え付けのお手洗いやシャワー室を見ていた時に、ふいに声が聞こえた。


「だっ、誰かいるのか?」


声がした方向を見ても誰もいない。


「空耳か?」


病室をぐるっと見たが人影はない。


「君の目の前にいるじゃないかぁ」


・・・


病室のベッドの上には、さっき一緒に病院まで来た猫がちょこんと座っている。


「まさかおまえが話してるとかは言わないよなぁ」


顔を引きつらせ、猫に話しかける。

人の言葉を話す動物なんて物はアニメやおとぎ話の中だけの話で、現実である訳がない。


「記憶がないって本当に厄介だねぇ。

 君はまた見た目で全てを否定するんだぁ」


・・・今間違いなくこいつ喋った。ね、猫が喋って


「時間がないから説明は後で、

 急いで彼女を助けに行くよ」


「えっ」


いやいや、俺はどうかしちまったのか?

猫が喋って・・・

猫はベッドから飛び降り廊下へと走っていく。


猫が喋って、どうすればいい?

あの猫は女の子の事知ってたみたいだし、

もしかしたら異世界から来た猫?

とにかく今は追いかけるしかないのか。


猫の正体を考えるのをやめ、猫の後を追って廊下へ出る。廊下に出て猫の姿を探すと、ナースステーションを超え、反対側の病棟の非常階段前でちょこんと座ってこちらをじっと見ている。

病院の中、知ったナースさんもたくさんいる。

本当は走ってはいけないんだけど、今はそんな事を考えている場合じゃない。

病院の廊下、ナースステーションの前を走り抜け猫の待つ非常階段の扉まで急ぐ。

ナースステーションで何人かのナースが自分を見る視線に気づいたが、今は無視。後で謝ろる!


「急いでっ!

 じゃないと彼女が捕まっちゃうよ」


扉の前で4本足で立ち上がった猫が話す。


「くそっ、猫に急かされるなんて、

 どうなってんだよ!」


非常階段の扉を開くと猫が物凄い勢いで階段を登っていく。

ちょっ、速い!猫ってあんな早く階段登れんのかよぉ。

階段を1段飛ばしで上っていくが、猫の姿が見えない。

いや、早すぎだろ?ちょっと待てよ!


階段を上り続けるなんて事は今までした事がない。

太腿が重い、脹脛も重い、呼吸も苦しい。

階段を上がるのがこんなに苦しいなんて思ってなかった。

踊り場から自分を見下ろすように猫が待っている。


「ねぇ、君いったい何してるのぉ?」


「はぁ、必死におまえを追いかけて

 階段上ってるんだろうが」


腕を振り上げ猫に反論すると猫は前足で顔を洗い、


「僕が言いたいのはそんな事じゃないよぉ。

 いつまでそんな人間のふりを続けるのかって事」


・・・人間のふり?俺がか?


「人間のふりも何も、

 俺は人間だし、

 だいたい、おまえはいったいなんなんだよ?」


猫を指差し反論をすると、猫は笑ったような表情を浮かべ、


「僕は小人の賢者だよぉ。

 君とも異世界で何度かあった事が

 あるんだけどなぁ」


「はぁぁっ、猫が小人の賢者???」


女の子から聞いていた小人の賢者は小さくて可愛い男の子。今目の前にいるのは確かに可愛いけど人間じゃなくて、猫だ。それに自分が異世界で何度もある?

俺は異世界に行った記憶すらないんだけど。


「ふぅ、どうやら君は自分が誰だったかも、

 エルフの賢者に消されてるみたいだねぇ。


 今は急がないといけないから、

 話しながら進もう」


猫が大きな口を開けて、あくびのようなため息をつき階段をまた駆け上がっていく。


「ちょっ、話せよ。

 今の話超気になるんだけど!」


猫に離されないように、急いで階段を上る。


「君は元々エルフの賢者の契約精霊で、

 そ男の子が異世界に行ってる間の留守番役だよぉ


 だからその身体も、その記憶も君のじゃない」


「はっ、はっ、はっ、なぁに馬鹿な事言ってんだよ。

 俺は俺だぜ。異世界だって行った事ねぇし。

 ちゃんと小さい時の記憶も・・・」


『ーー人間は脳に記憶を補完する。だから精神体を入れ替えると、その身体の記憶を・・・』


あの綺麗な女性、エルフの賢者が言っていた言葉を思い出す。


「エルフの賢者も、

 君の記憶残しておいてくれれば、

 今回の事だって起きなかったのに」


くっ、今は自分が誰なのかより、あの子を助けなきゃ。


「なぁ、どうすれば良いか言ってくれ!

 俺は何をしたら良い?」


「君はあの子を救う為に、

 本当の自分がいったい誰なのか

 気づかないといけないかもねぇ」


「本当の自分?


 そんな事言われたってわからねぇよ。

 俺は俺だぜ?

 それ以外に何だって言うんだ」


「だからさっき言ったでしょ。

 君はエルフの賢者の契約精霊だってぇ」


屋上のドアの前で猫は足を止める。


「ここから先は、

 君がまだ本当の自分に気付けないと言うのなら

 ついてこない方が良い。


 ドアだけ開けてくれるかな?」


「いや、だから本当の自分とかマジわかんねぇから」


ドアをほんの少し開けると、猫がするっと屋上に飛び出していく。


「だから待てって!」


猫につられて男も屋上へ。


日差しで目が眩み、一瞬で猫を見失ったが何人もの黒い服を着た人影が見えた。


「なっ・・・」


黒服の連中の手にはあきらかに銃と言えるものが握られている。


男はすぐに浄水タンクの後ろに身を隠し黒服の連中の様子をうかがった。


おいおい、ここは目本だぜっ

なんであんなもんを持ってやがんだ。


「いたかぁ?」


「いえ、こっちにはいません!」


「屋上に上がる所はしっかり見たんだ。

 どこかに居るはずだからしっかり探せ!」


エレベーターにつながるドアの前に立つ男が周りの黒服に指示を出している。


あいつがこいつらのボスなのか、探してるのは間違いなくあの女の子だよなぁ。


階段を上っている時、一度も流れなかった汗が、男の頬を流れて落ちる。


あの猫はいったいどこに行ったんだ?

小人の賢者だとか言ってたあいつは、

あの子がどこにいるか知ってる風だったよなぁ。


でも、ここからどうする?

あんな連中相手では自分は何もできない。

すぐに警察呼ぶって言っても、あれだけの人数が銃持ってるなんて、普通に話したら嘘だと思われる。


「こっちだ!」


んっ!!!


黒服の連中がいっせいに声がした方向に走っていく。


今の声って?


黒服の連中が走って行く方向を見ると、反対側から猫と一緒に腰を低くして気づかれないように走る女の子が見えた。


おしっ、無事だったのか...


男は女の子の顔を見て安堵して腰を落とす。


「おいっ!いねぇぞ!」


「さっき声かけた奴って誰だ!」


ほっとしたのもつかの間、黒服たちが女の子がいない事と声の主が仲間にいない事に気づいて戻ってくる。


ああ、やべぇ。そこだとすぐ見つかる!


女の子はすぐに配管の下に身を隠すが、あそこではすぐに見つかってしまう。


ああ、くそっ。どうしたら良い。

今から警察に電話するか...


身を低くして隠れていると猫が走ってこちらにやってくる。


「悪いんだけど、

 ちょっとおとりになってくれるかなぁ?」


「はい?」


猫は男の手前で大きくジャンプして浄水タンクの上に乗ると、浄水タンクは「ガコン」と大きな音を立てた。


すぐに周りを見ると黒服の男たちがこちらを睨みつけている。


あっ、嘘だろ?


「おいっ、誰だ一般人を屋上にあげちまった奴は?」


黒服の男がしっかりと銃口を向け、周りの黒服に言い放つ。


「屋上につながる扉は全て鍵閉めときましたよ」


「なら、なんであいつが居るんだよ?」


男に向けられた銃口の数は1つだけではない。


1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、、、

少なくとも今の俺には5つも銃口向けられてんのか。

流石に終わったなぁ...

俺の人生もここで...


女の子の方に視線を向けるときっとバレてしまう。

だから男は銃の数を数える事で視線が女の子の方に向かないよう、今の自分にできる事をやった。


あの猫、人をおとりにしやがって。

死んだら化けて出てやるからな!


銃口を向けられても不思議と恐怖はそれほど感じない。持病で元々死ぬ運命だったのが、死ぬ理由が変わっただけの事。


「安心してぇ。

 あんな物では君の身体に傷一つつけられないから」


上を見上げると浄水タンクの上から顔だけ出した猫がいる。


「なぁ、猫。

 いや、小人の賢者様。


 それどういう事なのか、

 今すぐ簡潔に教えてくれると、

 俺物凄く助かるんだけどぉ」


・・・


「だって、君のその身体は機械人形なんだもん」


・・・機械人形、ついに俺も気が狂ったか?


んな訳ないじゃん!

俺どう見たってただの人間だぞ。

肌だってぷにぷに出し、お腹だって無茶やらかい。

銃で撃たれたら、普通に死ぬわ!


銃口を向けながら、黒服の男が1人近寄ってくる。


ああ、ちょいやべぇ。

もう少し近づかれると女の子の場所もバレちまう。


「なぁ、さっき言ってた事信じても大丈夫なのか?」


「君は随分疑い深いねぇ。

 猫の姿でお喋りする僕が

 嘘をつくと思うかい?」


・・・


「いや、そこは関係ないだろ?

 でもまぁ、目の前で超不思議現象が起きてて、

 そいつがそうだって言うんだったら、

 もう夢だと思って開き直るか、

 信じるしか道はないよなぁ」


男は立ち上がり、近づいてくる黒服の男を正面に構え


「ああ、夢ならとっととさめろや!」


と叫び声を上げ、両腕で頭を隠し突進する。

「プスン」「プスン」と言うちょっと間の抜けた音と共に、男は両腕に何かが当たった感覚がしたが痛くはない。

距離をつめ、大きく右腕を振りかぶると腕に何かが纏わりついてくる感覚がした。

その感覚を無視して、黒服の男目掛けて右腕を振る。

男の腕は「ブン」と言う音を立てて空を切る。


げっ、外した!


パッと目を開けて黒服の男の姿を探すがいなくなっている。


えっ...どゆこと?


「あいつ機械人間だ!撃て!早く破壊しろ!」


叫び声がした方向に振り向くと、黒服の男たちが必死に銃を撃っている。


・・・


確かに何か当たっている感触はする。

腕を確認すると服には穴が開いている。


だけど、全然痛くない...


やっぱり俺は夢を見てるんだな。

銃で撃たれてるのに痛くないとか、完全にサ○ヤ人かア○レちゃんじゃん。

俺ってそんなヒーロー願望強かったっけ?


「はぁぁ」


男はため息をつき、銃を撃ってくる黒服の男の元へかけ、右腕で殴る。

が、拳が黒服の男に当たる前に黒服の男は後ろに吹き飛んでいく。


・・・なんだこれ?


銃は今も撃たれ、男の顔に当たるが、男にしてみれば頬を誰かに突かれている程度の感覚だ。


・・・


「なぁ、やっぱこの身体おかしくないか?」


思わず浄水タンクの上にいる猫に聞く。


「エルフの技術で作った

 最高の戦闘用機械人形だからねぇ。


 今のこの世界で君に傷をつけられる兵器はないよ」


・・・


「ふぅぅん。戦闘用機械人形ねっ。


 とりあえずあいつら

 みんな吹っ飛ばしちゃっても良いのか?」


自分の身体が戦闘用の機械人形だと言われて男は苦笑いをした。


「どうやら風の精霊も

 君に力を貸してくれてるみたいだし、

 やりすぎないようにね」


どうせ夢の中なんだし、やりたいようにやってやるか。


「了解。


 それじゃ、おまえら覚悟しとけよ。

 ここまで階段上がってきた恨みと、

 俺の大切な人を怖がらせた罰。


 ここで償ってもらうからな!」

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