新人研修(6)『ボロ屋は迷路』
真っ青な空が見える。
その真っ青な空に向かって手をあげ、身体が動く事。
自分が生きている事を確認する。
顔を横に向け周りをみると、泥だらけの地平線が見える。
「ここはまた、いったいどこに流されたんだっと、
小人の賢者はどこだ?」
上半身を起こして、周りをぐるっと見渡すと、
どこかで見た事があるボロボロの建物と森が見える。
・・・ああ、ここまで俺は流されてきた訳ですね。。。
芝生だった場所は、森からの水の濁流で流されて来た土に埋もれて泥だらけになっている。自分が助かったのであれば、姿が見えなくても小人の賢者もきっと大丈夫なんだろう。
もしかしたら、あの建物に先に行っているかもしれない。
しかし、流されたとはいえ、俺はどうして何度も泥まみれになってんだろうな。
どっかでこの泥を落としてからみんなのところにいこ。
はぁ、とりあえず今はこのまま・・・
って、
上空からものすごい量の水が落ちてくるのが賢者の弟子にもはっきりと見える。
賢者の弟子を見つけたエルフの賢者が、笑みを浮かべて水魔法を使い、賢者の弟子の泥を洗い落としていく。
「ったく、どれだけ人を水びたしにするつもりなんだよ」
賢者は笑みを浮かべて、びしょ濡れになった頬にふれる。
森の中、小人の賢者とずっと二人で過ごし、久しぶりに見たエルフの賢者に内心ほっとした。
「君は、これぐらいやらないと、
おどおどしちゃって自己紹介どころではなくなっちゃうでしょ」
賢者の優しい笑みに、身体が勝手に反応してしまう。
顔がどんどん熱くなる。
押さえこもうとしても、顔に血が上っていくのがわかる。
「水の精霊使ってあげてもいいわよ。
そんな顔じゃ、みんなに挨拶にいけないでしょ」
頬に触れている手から、頭が冷やされていくのがわかる。
「ふぅ〜。ありがと...」
お礼を言うのがなんだか恥ずかしい。
建物にいるみんなに一部始終見られている。
振り返るのが恥ずかしい。
もう恥ずかしい事だらけだ。
「し、ん、こ、きゅ、う」
笑みを浮かべてゆっくりとうながされ、ゆっくりと深呼吸をする。
目をつむり、ゆっくりと息を吸い、ゆっくり息をはく。
神経は心臓に、自分の心拍数をゆっくりと心で数えて。
「よし。それじゃ、いきますか」
目を開き、1度賢者と目を合わす。
賢者はそれを待っていたかのように笑みを浮かべ、頬に当てていた手をそっとひく。
振り返れば、自分と同じ世界から来た同じ人間がいる。
飛行船では小人の賢者のせいで、挨拶どころではなかったが、これから挨拶をして一緒に研修を受けなくてはならない。
自分が今まで接点を持とうとしなかった健康でリア充の人たちだ。
「大丈夫だよ」
賢者の優しいつぶやきに、うんと軽く頷く。
勇気を持って。
・・・
・・・
木でできたボロボロの建物。
自分たちの先輩がこの世界で作った建物だ。
建物の窓にはたくさんの人影がみえる。
みんなきっとエルフの賢者さまを見ていた。
・・・こういう時ってどうしたらいいんだ?
こんな状況初めてで、何をどうしたらいいか全くわかんないんだけど。
「とりあえず、手でも振ってみたら」
「ふぅ〜、心の声、聞きすぎ」
1度頭を下げ、頭を上げると同時に腕を上げ、手を振る。
手を振り替えしてくれる人もいれば、なぜか拍手してくれる人もいる。
今、もの凄く恥ずかしい。
恥ずかしいけど、嫌な気分じゃない。
「いこっか?」
「ああ」
賢者の声に笑みを浮かべて答える。
そして、これから同じ世界の人間と会う為に、
足を一歩踏み出した。
建物の中は、外観以上にボロボロだ。
廃校になってしばらく使われていない小学校みたいだ。
先人たちは、なぜこんな物を自分たちで作ったんだろう?
エルフ族やドワーフ族に頼んで作ってもらえばよかったのに。
「君も、いつかわかる時がくるよ。
私はそう信じてるから」
「ふぅ〜ん。わかる日がね・・・」
大きな紙に赤い矢印、そして『研修会場』。
高校の入試の時を思い出す。
初めて入った学校で受験生が道に迷わないように、沢山貼ってあった。
どう考えても階段などない廊下の行き止まりで、上の矢印とか...
これって魔法で飛べないと研修会場にも辿り着けないんじゃ...
エルフの賢者に腕を持たれて2階にあがる。
なんというか、教室まで自分だけでは辿りつけないってのも、悲しすぎる。
空とか飛べるのが当たり前なのか、空を飛べるようになって初めて研修に参加できるとか・・・
自分は研修参加の最低レベルをクリアできていないんじゃ。
前の張り紙をみると、自分たちの世界の言葉が書かれている。
エルフの賢者を見ると首をかしげている。
これは、自分たちの世界の文字。賢者様にも読めないか。
「迷子になるなよ。俺の後についてきてくれ」
右へ左へ、外観も中もボロボロなのに、この建物は意外と広い。
こうやって進んで行って気づいたが、迷路のような作りだ。
いくつもの矢印を進み、自分たちの言葉で書かれている文章を読み、
これ迷わないで外に出る自信ないぞ。
賢者の弟子は、途中で引き返す事ができないと気づいた。
矢印の方向に曲がり、10メートルぐらい先に看板が立ててある。
看板には『研修会場(仮)』と書かれている。
「やっと到着だよ。
なんだよこの建物は、外観と比べると広すぎだろ」
賢者の弟子は愚痴をいいながらも前に進む。
賢者はゆっくりと自分の後をついてくる。
「立場的に、逆だと思うのは私だけかな?」
・・・ああ、会場に入るときは、賢者さまを前に出した方がいいのか?
賢者の弟子は足を止めて、エルフの賢者を前にだす。
エルフの賢者の後ろ姿を見るのって、久しぶりな気もする。
いつも横にいてくれて、いつも近くにいてくれる。
こんな風に...
「ちょいちょい。行き過ぎ行き過ぎ、部屋ここ」
あぶね、考え事して部屋通りすぎる所だった。
エルフの賢者が扉の前に立つが、扉は開かない。
「いや、こんだけ古い建物なんだから、手動だろ?」
賢者の弟子は、そんなエルフの賢者に後ろからツッコミをいれる。
「ここは、私達の技術は一切使われてないって忘れてたわ」
エルフの賢者は笑みを浮かべる。
えっ・・・
目の前の扉が急に開いた。
扉の向こうを見ると、ノヴァが立っている。
エルフの賢者様専用の自動扉かよ・・・
「賢者様、どうぞ」
もう、さすが騎士様。紳士です。
あなたのように俺も。。。なりたくは...ないかな。
エルフの賢者の後を追うように賢者の弟子は研修会場に入った。
教壇みたいな所に男が1人、後ろの方にエルフ族みたいな感じの人が4人、なんだか懐かしい学校の机と椅子の所に5人の人間らしき人が立っている。
賢者は、ノヴァにエスコートしてもらい、部屋の後ろに移動してしまった。
教壇にみたいな所に立っていた男も賢者に話があったのか、急いで賢者の後を追って移動する。
「俺は?」
自分の顔を指さして、部屋の中にいる人の顔を見渡す。
眼鏡をかけた女の子が、空いている机を指さしている。
あの子は確か、名前聞いたよな。名前聞いたんだけど、誰だっけ。
名前が思い出せないまま、教えてもらった机に移動。
懐かしい学校の勉強机。
これは、絶対に先輩達が作ったんじゃなくて、自分たちの世界から持ち込んだ物だろう。
・・・これもしかして...
「違うわよ」
後ろから鋭い声が聞こえてきた。
うん。もうこれ以上は考えない方がいいね。
みんなの前で恥じはかきたくはない。
席に腰かけ、回りの人間を横目で確認する。
どうも、同年代の人間ばかりだ。
なんか、自分とは違って健康そうな奴もいるし。
・・・って、この世界にきた時に、みんな身体変えてるんだから、見た目で判断しちゃだめか...
目で見た情報はあてにはならない。
それがこの世界の常識。
思わず頭がガクッとさがる。
左斜め後ろには眼鏡の女の子、左には健康そうないかにも野球少年といった日に焼けた男、右にはおまえ絶対それ身体変えてもらっただろっとツッコミたくなるような、オレンジ色の髪をした目がぱっちりした女の子、右斜め後ろには、黒髪で眠たそうな目をした男。
後ろは、、、
・・・
・・・
振り返った瞬間、心臓が音を立て、呼吸が止まる。
こ の 子、 お れ は しっ て る。。。




