新人研修(7)『自己紹介』
賢者の弟子は前にむき直し、今見た女の子を顔を頭の中で思い浮かべる。
知ってる。自分はこの子の事を知ってる。
この子も俺の事を知っているはずだ。
でも、なんで?なぜこんな所に?
なぜこんな異世界に?・・・
頭の中でものすごいスピードで記憶を辿り、色々な事を考える。
こんな異世界に知っている人間世界で自分が知る数少ない女の子がいる。
しかも、向こうも姿は変えてない。
自分は姿を変えていないから、向こうも気づいたはずだ。
・・・
・・・
どうする?
この場合はどうしたらいい?
どう接したらいい?
他人のふりをすればいいのか?
それとも素直に知人だと打ち明けた方がいいのか?
何も話さない方がいいのか?
知っている事を話してもいいのか?
どっちだ?
どうすればいい?
自分の呼吸が荒くなるのがわかる。
急に回転速度上げた脳が酸素を欲している。
自分の後ろに、自分の事を知っている女の子が座っている。
異世界で...
「あわてないでいいよ」
賢者の声が頭の中で聞こえる。
ーーどうしたらいいんですか?
「何もしなくていい。
一番最初に自己紹介があるから、
その時に君の考える女の子と、
後ろにいる女の子が同じなのかわかるよ」
ーーいや、確実に同じですよ。マジ同じ。これで違うなんてありえないっしょ。
「自己紹介が始まればわかるよ。
それまでは、おとなしくしておきなさい」
目をつむり、冷静を保つ為に深呼吸をする。
1回、2回、3回と。
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エルフの賢者と話をしていた男が部屋の前にある教壇のような所に立つ。
「それじゃ、みんな集まったようだし、
異世界に来た同胞諸君の為の異世界研修をこれから始めます。
水の精霊が頑張ってくれるから、休みなしの168時間。
自分たちの世界でちょうど1週間かな?
普通に考えたら、完全にブラックだけど、
この世界は精霊に回復してもらえば、
眠らなくても、休みなしでも大丈夫だから、
休みなしでがんばってみよう」
この男、笑顔でとんでもない事言いやがった。
いや、この世界では水の精霊の癒やしなんかのおかげで永遠に仕事もできるからって鬼か?鬼畜か?完全にこの研修ブラックじゃねぇか。
自分たちの世界では絶対にありえないブラック研修だ。
しかし、回りのみんなは嫌な顔1つしていない。
休みなしだよ?いいの?
「最初はみんなに自己紹介をしてもらおうか。
机をずらして、椅子だけ持って円になってくれ。
自分の略名と、実際の年齢、
元の世界で何をしていたか話してくれ」
「え〜、元の世界の事を話さないといけないんすか?」
左に座っていた健康そうな男が不満そうに話す。
元の世界の事を、話して意味あるのか。
「おまえら、
この世界と自分たちのいる世界を
全く別物として区別してるだろ。
それじゃあダメなんだよ。
この世界は、あくまでも自分たちのいる世界の
延長線上にあるって考えないとな」
なんか、この人堅い感じの人だなぁ。
まぁ、その方が俺にフラグが立たないだろうからいいんだけど・・・
賢者の弟子は心の中でそう思って、チラッとエルフの賢者を見ると、にっこりと笑みを浮かべている。
ああ・・・もう完全にフラグ立てる気まんまんだなぁ
「向こうに戻ったら、ここの世界の記憶なくなるじゃん」
今度は、右に座っている女の子が話をする。
「記憶は残らなくても、
ここで経験した事ってのはちゃんと身になってんだよ。
全てがなくなる訳じゃないんだな。
ほら、みんな言われた通り、行動開始」
みな、机を移動しはじめる。
「あと、嘘も禁止だからな。
俺はおまえらの情報知っているから
嘘ついた奴には結構痛い罰があると思え」
・・・体罰宣言かよっ
「へぇ〜い」
健康そうな男だけが返事をする。
机をどかし、椅子だけ持って円を作る。
賢者の弟子の前には、後ろに座っていた女の子。
賢者の弟子は一瞬目があったが、目をすぐにそらして適当に違う場所を見る。
「おーし、
まずは、お手本として、俺が自分の事を話すな。
俺は、移民者管理組合で働いている
『オーガ』ってもんだ。
年齢は34歳、
元の世界では会社員でバツイチ、
彼女募集中だ」
オーガは、みんなの顔をぐるっと見て、微笑む。
「自己紹介で話す内容はこの程度でいい。
趣味とか細かい事は、
これから仲良くなって話せばいい。
それじゃ、
元気の良さそうな君から時計回りに行ってみようか」
「うぃ〜す」
健康そうな男が立ち上がり話始める。
「この世界に人助けにやってきた
『ハル』です。
年齢は23歳で、
元の世界ではついこないだまで会社員やってました。
今は無職で、彼女募集中です」
みんな軽く拍手する。
・・・彼女募集中ってのは、言わないとダメなのか?
「はい、次賢者の弟子くん行ってみよう」
「はい」
「エルフの賢者に強制的連行された
『賢者の弟子』です。
年齢は16歳。
今年から高校生になりました。
あ〜っと、彼女は、いないです。募集は、、、」
エルフの賢者をチラッと横目で確認する。
賢者は笑みを浮かべている。
「してないです」
みんなパチパチと拍手をしてくれる。
「なに?賢者の弟子くん、
彼女いないのに、募集もしてないの?」
えっ?そこ突っ込んでくるとこ?
「はぁ、まだ彼女とか作るのはちょっと」
「ふぅ〜ん。
まだまだ若いもんねぇ。
その若さがおじさんには羨ましいよぉ。
それじゃ派手な髪の女の子、次いってみよう」
・・・なんか、堅い性格かと思ってたけど、軽い、軽すぎる。30過ぎでバツイチって、いったいどんな仕事してるんだろう。
・・・
自己紹介が続いていく。
そして、次は自分が知っている女の子の番だ...
拍手がやむのを待ってオーガが話す。
自分の自己紹介の時より、緊張している。
この女の子は、自分の知るあの子なのか。
どうしてもそれが、気になって仕方がない。
「それじゃ、今度は小人の賢者様のお弟子さん」
賢者の弟子はガタッと椅子を鳴らし、一瞬視線がオーガに向く。
・・・えっ?!小人の賢者の弟子?
「はい」
女の子はゆっくりと立ち上がる。
小人の賢者の弟子なの?
あのちっちゃい賢者が弟子?そんな話聞いた記憶はないぞ。
ただでさえ、知ってるかもしれない子なのに、あいつの弟子?
・・・
部屋の後ろ、小人の賢者が立っていないか探してみるが、見つからない。自分の弟子が参加してんのに、あいつなんでいないの?
一応、この世界の保護者じゃないのかよ!
「私は、先日小人の賢者の弟子になった
『小人の弟子』です。
年齢は16歳、
元の世界では高校に通ってました。
彼氏はいないですが、募集はしていません」
一瞬女の子と目があったが、女の子はすぐに視線をそらした。
今のそらしかた、賢者の後ろめたい時のそらし方にそっくりだ。
軽く拍手をして、考える。
小人の弟子で、知ってるかもしれない女の子。
・・・
エルフの賢者に視線を送る。
エルフの賢者は視線に気づいて薄笑いを浮かべる。
ーーあっ、この反応やりやがったな...てめえ、知ってやがったな!!!
「チビから、弟子を取るという話は聞いていたよ。
君は、なぜ焦っているのかな?
もしかしたら、チビが君の家に行ったときに写真をみつけて、
それを元に女の子の身体を作ったのかもしれないわよ」
エルフの賢者の声が頭の中で聞こえる。
ーー家に、写真なんかねーよ!!!
「さっきからエルフの賢者様の弟子さんは
落ち着きがないようだけどどうした?」
「いや、どこぞのお偉い賢者様と
ちょっと水面下で話をしてました」
エルフの賢者をにらみつける。
エルフの賢者は背中を見せて、目を合わせようとはしない。
「エルフの賢者の弟子さんが知ってるのは、
私じゃなくて、私の妹。
私、双子なの」
・・・
・・・
・・・
小人の弟子さんのいきなりの発言に凍り付く。
双子?お姉さん?・・・
「病院で何回も見かけた事があるから、間違いないわ」
・・・えっ・・・
自分の予想は半分あたっていた。
やっぱり女の子は自分の知っている女の子だった。
だけど、その女の子が双子だったという事を今初めて知った。
今まで全然気にしたことがなかった。
小さな頃から病院でよく見かけていた女の子。
完全にその女の子だと思っていた。
でも、実際は双子で、目の前にいる子は、
その女の子のお姉さん...
「お〜い。賢者の弟子くん。大丈夫か〜?」
オーガのかけてくれた声で、はっと我に返る。
「君の妹って、身体が悪くて小さな頃から病院に通ってる よねぇ?」
小人の弟子は、うなづく。
「2人とも、話は研修が終わった後でやりなさい」
部屋の後方、エルフの賢者の声が2人の間に割って入る。
・・・
「どうやら、2人は元の世界でも顔見知りみたいだな。
弟子同士仲良くやれよ。
それじゃ、次は眼鏡の女の子いってみよう」
オーガ!いらんこと言うな。
小人の弟子と目があう。
思わずドキッとしてしまう。
眼鏡の女の子は立ち上がり話を始める。
「私は、騎士様と契約してこの世界にやってきた「ミエ」です。
年齢は・・・37歳です」
『え〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!』
皆、口をそろえて同じ言葉を発した。
見た目はどう考えても、高校生か大学生。
でも、実はオーガより年上というか、この中で一番の年長だ。
身体の変更が可能とはいえ、実年齢と現在の見た目との差が。
「騎士様から今回のグループは、
年齢がかなり若い子達が多いと聞いて、
その子たち見た目同じぐらいになるように、
騎士様に身体を作ってもらいました。
彼氏は募集中です」
みんな、驚きが止まらない。
いや・・・マジでこの世界は女性にとっては天国だ。
言われなきゃ、気づけない。
女性の夢である、永遠の若さ。それをこの世界はかなえている。
この世界の事を知ったら、多くの女性がこの世界に身体を求めてやってくるだろう。
ちょい待て、この自己紹介は、びっくり博覧会かなにかか..
心臓に悪すぎるぞ。
「よし、これで自己紹介はすんだな。
今回は、全員岐府出身者ばかりだから、
もしかしたら、元の世界で出会うかもな」
オーガはそう言うと、親指を立てて笑顔になる。
なんで、この人親指立ててるんだ...




