新人研修(5)『遭難』
なぜ?なぜこんなことに・・・
賢者の弟子は、小人の賢者を抱きかかえ、森の中をさまよっていた。
飛行船に乗り、女性陣から小人の賢者を奪還。
小人の賢者を抱きかかえ、飛行船の中を走り回り・・・
飛行船から落下した。
正直、落下した時に間違いなく自分は死を自覚した。
その落下途中で大きな鳥に加えられ、巣に連れていかれ・・・
食べられる前に、小人の賢者と協力して森の中に逃げ込んだ。
そして・・・森の中で迷子になっている。
いや、迷子という言い方は間違っているか、
新人研修に来て、小人の賢者と一緒に遭難している。
「なぁ、おまえの力で今のこの状況なんとかならないのかよ?」
小人の賢者に尋ねると、小人の賢者は首を横にふる。
このやりとりをもう何度繰り返しただろうか。
うちのエルフの賢者はいったい何をやっている?
今こそ助けにきて株を上げる所だろ。
そういうフラグじゃないのか?
・・・困った時にきてくれない。
それがうちのエルフの賢者だ。
はぁぁぁぁぁっ
ため息も長くなる。
いったいどれだけの距離を歩いたんだろう。
森の中は木の根や石などがあり、足場が悪い。
下ばかり木にしていると、木の枝に頭をぶつける。
この森の中の環境を考えると、
小人の賢者のような小さなドワーフ族が羨ましくて仕方がない。
「ああ、水がほしい」
こういう時は、思ったことをついつい素直に口にしてしまう。
「水ならほら、水の精霊にお願いすればすぐに」
小人の賢者は手の平から水を噴水のように吹き出す。
「水の精霊様ありがとうございます」
賢者の弟子は、小人の賢者の腕を掴んで水を飲む。
「なんでそこで、僕への感謝がないんだろうねぇ」
「おまえには迷惑かけられた事の方が圧倒的に多いんだからな」
小人の賢者の腕を離して、立ち上がりながら話す。
「それにしても、精霊って便利だよなぁ。
俺も早く使えるようになりたいなぁ」
「人間には難しいかもしれないねぇ」
「・・・なんでだよ?」
「この前、エルフの賢者が説明してくれたでしょ。
人間になる精神体は、罪を犯した物だって」
「ああ、その話は聞いた。
でもそれがなんで精霊を使えないことにつながるんだ?」
「精霊は同族殺しを最も嫌うからだよ。
だから人間世界では精霊は一切姿を見せないし、
精霊の力を利用できる人もいないでしょ」
「・・・」
「人間が魔法も精霊も使えないのは、
それなりにちゃんとした理由があるんだぁ。
人間に生まれたって事は、
過去にそういった事をしてしまった反省期間なんだって事、
君たちは知っておかないとね」
「いや、知っておかないとって言われても、
俺たち人間には過去の記憶とかないんだぜ。
何をやって人間になったのかわからないんだから、
反省のしようがないぜ」
「君たちの人間が記憶がないのは、
やり直せるようにしてる為なんだよ。
同族を殺す、同族に殺される。
そんな記憶を引きずったまま次の人生を迎える。
君たちは、自分を殺した人の事を恨まずにいられるかい?」
「・・・そりゃ・・・」
「君たちは同族を殺すなどの犯罪を犯している。
だから、同族を殺した経験を持つ精神体の集まり、
そんな精神体が、自分を殺した人を見つけたら・・・
もう結果もわかるよね」
・・・
「君たちは多くの同族を殺しすぎた。
だから精霊は君たちに力を貸そうとしない」
「はぁぁっ、きっついよなぁ。
自分の知らない所で、いや自分の記憶のない過去の事で、
人は罪をつぐない続けないといけないって」
小人の賢者と2人きりで話す事なんて、ほとんどない。
いつもと違って真面目な小人の賢者。
なんだかんだ言って、ドワーフ族の長だけのことはある。
森の中、小人の賢者が前を歩き、賢者の弟子はその後についていく。
器用に木の根と枝の間をすり抜けていく小人の賢者。
木の枝を折り、その後ろを必死についていく賢者の弟子。
賢者の弟子が通った後には、枝の折れた後、踏み潰された根や草。
小人の賢者と違い、はっきりと痕跡を残していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ずいぶん、森が荒れているみたいね」
森を様子をみて、エルフの賢者が部屋に入ってきたドワーフ族の男に告げる。
「そうですなぁ。
誰かが森を荒らしてしまったようで、
精霊さま方もお怒りのようで・・・」
ドワーフ族の男は森の様子を見て、険しい表情になりエルフの賢者に話す。
「今夜は雨が降るのかしら?」
「そうですなぁ。
賢者さまのお弟子さんが、
森の中におりますゆえ、雨は降って欲しくはないのですが」
ドワーフ族の男は森から目をそらし話を続けた。
「あの森の中は、人間を嫌う精霊が多くおりまする。
なので、向かいに行かれるのであれば、
お早めに向かいに行かれる事をおすすめいたします」
「ありがとう」
エルフの賢者はドワーフ族の男に感謝を述べ、森をじっと見る。
「精霊は同族殺しを絶対に許さない。
あの子にとっては、辛い冒険になりそうね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぬわぁぁぁぁっ、どうなってんだぁ!!!」
賢者の弟子は小人の弟子を抱きかかえて走る。
「おまえここ仮想世界とかじゃないよな?」
「もちろんここは現実だよ!」
森の中を必死に駆け抜けようとする賢者の弟子に、小人の賢者は現実だと告げる。
賢者の弟子の背後には、迫り来る木。
仮想世界では水に追われた記憶を賢者の弟子は蘇らせていた。
「だいたい、なんで木が動くんだよ!
木ってのは、地面に根をはって動かないもんだろ?」
「あの木は水を求めて移動するように進化した木なんだよ。
だから根も土の中には貼らずに他の木に巻きついたり・・・わっ」
地面に足を取られ転びそうになる賢者の弟子。
とっさの判断で片手で小人の賢者を持ち、片手で地面を殴りつけ態勢を整える。
「すまん。こう暗いと足元がようわかんなくてな」
「気をつけてねぇ
あれに捕まると、体液を吸われてミイラみたいにされちゃうから」
「・・・なぁ、もしそうなったら、
俺もおまえも死ぬのか?」
「僕は大丈夫だけど、
君は一度その身体と精神体が離れちゃうかな?」
「了解、それ死ぬって事だな」
木の枝をはねのけ、賢者の弟子は駆け抜ける。
空はどんよりと曇り始め、唯一の明かりだった木漏れ日も徐々に暗くなっていく。
「なぁ、暗闇でも目がよく見えるとか、
便利な魔法ってないのか?」
「僕がそんな魔法使えてたら、
もう使ってるよぉ」
「おまえって、魔法はあんま使えないのかよ」
「うわっ!」
地面を揺らし、空を引き裂くような雷鳴が響き渡る。
雷鳴による地響きで態勢を崩した賢者の弟子は、
すぐ横の木に激突した。
パッと後ろを振り返ると、赤い火の玉のような物がゆらゆらと浮いている。
「おい、あれなんだよ?」
「・・・あれはちょっとやばいかもね。
この森の中ではあってはならない存在。
火の精霊だよ」
・・・
森の中、あってはならない存在。
火の精霊。
小人の賢者が心配していた事は、あっという間に現実となる。
火の精霊によって、火がつけられた森。
賢者の弟子たちを追いかけていた木にも火は燃え移り、
火がついた状態でも、賢者の弟子たちを追いかけてくる。
「おい、あれやべぇ。
本気でやばいやつだ!」
賢者の弟子は叫び声をあげると、小人の賢者を持ち上げ、全速力で火から逃げる。
火がついた事で、明るい部分と影になってまったく見えない所がはっきりしている。
「ちょっ、おまえ水の精霊の力とかで、
あの火をなんとかしてくれよ」
「そんなの無理だよぉ。
あれは普通の火ではないんだよ。
火の精霊がつけた火なんだから」
「おまえそんな事いって、森を全部焼いちゃう気かよ」
「そんな事言われても、僕には無理だよ」
後ろを振り返ると、自分たちを囲むように火は燃え広がっている。
ーー賢者さま!賢者さま!賢者さま!ちょっ、早く助けてください!
早くしないと俺もチビも真っ黒の炭になっちまうよ!
賢者の弟子は、心の中でエルフの賢者に助けを求める。
この場にいる小人の賢者以外に連絡がつく相手といえば、
エルフの賢者しかいない。
ーーだぁぁぁ、なんでこういう時に賢者さまは助けに来てくれないの!賢者さまのいけずぅぅぅ!
必死に走りながら、賢者に助けを求めるが返事がない。
火のせいで、明るい場所と暗い場所がはっきりしてしまい、できる限り暗い場所には足を踏み入れないように走る。
はぁ、はぁ、はぁ、
いくら走れるようになったからって、子供を抱えて長時間走るなんてことは賢者の弟子には体力的につらく、肩で息をする。
かと言って足が短く走るのが遅い小人の賢者を走らせるても逃げ切れる気がしない。
「ああ、くそっ!」
上を見上げて、もうダメだと弱音のように叫ぶ。
もう無理、足があがらない。
これ以上は・・・
『ドォーーーン』という地響きが森に響き渡り、雷鳴の時より数段でかい揺れが賢者の弟子たちを襲う。
その揺れに耐えきれずに賢者の弟子は木にもたれかかる。
「今度はいったいなんだよ。
もしかして、これ以上最悪の展開になんのか?
もうマジで勘弁だぜ」
「降ろして!」
小人の賢者は、賢者の弟子の手を振りほどきすぐに立ち上がって、賢者の弟子を持ち上げる。
「いくよ!」
小人の賢者は賢者の弟子を持ち上げた状態で、大きく飛び跳ねる。
一気に上空に上がり周りを見渡すと、自分たちを中心に燃えていた木々を押し殺すように、大量の水が流れている。
「ぬぉぉぉぉっ、
なんだよ、これ!」
「火の精霊がつけた火を消すために、
水の精霊たちが暴れ始めたんだよ」
「水の精霊が?!」
頂点まで達すると、徐々に落下していくのを賢者の弟子でもわかった。
「おい、このままだとやばいんじゃない?」
「うん、このままだとあの水の流れに僕らも巻き込まれるねぇ」
小人の賢者は苦笑いを浮かべて話している。
「っておい、おまえなんでそんな・・・」
小人の賢者と賢者の弟子を大量の水が飲み込む。
賢者の弟子は必死に手を伸ばして、小人の賢者を掴み、なんとか木々に捕まろうとするが、水の流れはそれを許してくれない。
「・・・んぼっ、ちょっ、おまっ、」




