新人研修(2)『おしおきね』
研修場に向かう為、森の中をエルフの賢者と小人の賢者、賢者の弟子が歩く。
エルフの賢者は賢者の弟子の手をしっかりと握り、小人の賢者も賢者の弟子と手を繋ぐ。
空の賢者は海の賢者の治療の為、エルフの賢者たちと別行動をする。
森の中、3人で手を繋いで歩くなど無謀もいいとこである。
2人に挟まれ引っ張られ、賢者の弟子は、木の根に何回も足を取られ脛にあざをいくつも作る。
3人の中で一番身長の高い賢者の弟子は凸凹の地面にだけに注意していれば良いだけではない。木の枝に何度もひっかかり、頭を打ち、顔にもいくつか傷を作っていた。
「研修場に着く前に俺くたばりそうなんだけど」
エルフの賢者に手をひっぱられ、仕方なく進んでいたいた賢者の弟子はため息をついて話す。
「怪我なら水の精霊で治せばいいよ」
小人の賢者は愛くるしい笑顔でとんでもない事を言う。
「いや、怪我は治るかもしれないけど、
結構痛いからね。
痛みもすぐになくなるけど、
怪我した瞬間は猛烈に痛いんだよ」
賢者の弟子は説明するが小人の賢者は表情を変えない。
「もしよかったら抱っこしてあげるけど」
2人の会話を聞いていたエルフの賢者が参戦する。
「いや、いいです。
それだけは遠慮しておきます」
「抱っこしてもらった方が良いと思うけど」
抱っこを拒否した賢者の弟子に小人の賢者はニヤリと微笑み話をする。
小人の賢者の頭をガツンと一発叩きたがったが、両手がふさがっている。
あとで絶対にこいつにも仕返ししてやろう。
うん、絶対にだ。
「ねぇ、仮想世界で経験した痛みなんかも、
記憶から消えてないのよねぇ」
「ああ、まったく消えてない。
むっちゃ痛い思いしたのも、
死んだ時のあの苦しい思いも、
すべて覚えてる」
「そう、なら今してる痛い思いも、
ちゃんとつながってるって事ね」
「・・・賢者様、なんかよからぬ事考えてないっすか?」
「そうね。私に心配をかけた子には、
ちゃんとお仕置きしないとっ」
「いや、それちょっと待って、
それって俺も痛いって事だから!
俺を巻き込まないで!」
エルフの賢者が、トンッと軽く飛び上がると、手を繋がれている賢者の弟子も小人の賢者もそれに引っ張られるように飛び上がる。
「うわっ」
3人は一気に森を超え、綺麗な芝生の広場に出る。
少し先に、木で作られたようなぼろっちい建物。
その近くには動物小屋らしき建物もある。
夏の夜には肝だしめしがされていそうな建物だ。
「もしかして、あそこのぼろっちい建物が研修場所だったりする?」
賢者の弟子は、木で作られたようなぼろっちい建物を指さして聞く。
「そうよ。あそこよ」
賢者の弟子は、苦笑いを浮かべる。
「あれは、君の先輩達が頑張って作った建物なのよ」
エルフの賢者は、賢者の手をギュッと強く握る。
「イタイッ、イタイッ、もう少し手加減して、骨が折れるから」
「多分、君遅刻だろうから急いだ方がいいと思うんだけど...」
小人の賢者はすました顔で注意する。
「なあ、研修の先生って黄色でプニプニしたタコみたい奴か?」
「君は何を言ってるの?
急ぐわよ」
エルフの賢者は宙に浮き、建物めがけて空を飛ぶ。
手をつながれている賢者の弟子のもう片方には小人の賢者。
「いてぇ、まじ骨抜ける。飛ぶな!飛ぶなっ!」
エルフの賢者は、低空飛行に切り替え、賢者の弟子は地面を走る。
小人の賢者は、手を離して1人ゆっくり歩く。
「なっ、おまっ、裏切り者!」
賢者の弟子はそんな小人の賢者に叫ぶと小人の賢者は舌をだして、ごめんねぇといった表情を浮かべる。
「うわっ、もう少し速度下げて、足がもつれる。
こける。こけちゃうから」
エルフの賢者にしてみれば、もの凄く遅い速度で飛んでいるのだが、賢者の弟子の足はついてこれない。
「あがぁ、肩がぁ、肩が外れた!」
草原に響きわたる賢者の弟子の悲鳴。
「ぐぎゃぁぁぁ、痛いぃぃぃ、とっ、止まってくれぇ!」
エルフの賢者は横目でチラッと賢者の弟子の顔を見て笑みをこぼし、少しずつ速度を上げて、蛇行を加えた。
「その痛みもちゃんとあの子に伝わってるかしら?」
「つながってます。
ちゃんとつながってます。
だから降ろして!」
エルフの賢者はさらに速度をあげる。
賢者の弟子の一歩は世界記録の幅跳びの距離を余裕で超える。
「ぬぉぉぉ、おまっ、なにしてくれちゃってんの!
腕もげる!腕もげちゃうからぁ!
おまっ、ここで身体壊して、
ラボから再スタートとか絶対に嫌だから!」
エルフの賢者はほんの高さを変更して、賢者の弟子が足が地面につかない高さまであがる。
「ふぎゃぁぁぁ、外れてる!
俺の肩、もう外れてるから!」
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「騎士様、賢者様たち来られませんね」
ミエがとなりに立っているノヴァに質問をする。
「王様から連絡が入っているはずなのですが、
賢者様はお忙しい身ですので、
来るのが遅れているのでしょう」
2人は肩を並べて、窓から外をみていた。
外は綺麗に整理された芝生。
敷地内には小川も流れており、水の精霊の休息地となっている。
「騎士様っ」
ミエの声と同時にノヴァは外の異変に気づいた。
何かが、土煙を上げてこの建物めがけてやってきたのだ。
ノヴァはすぐさま建物の外に土の精霊の力を借りて建物を守る為の土の壁を作ろうとする。
壁は徐々に作り上げられるが小人の賢者が作る壁より若干薄く、高さも建物を隠すのがやっとの高さだ。
「みんな、下がって!」
ノヴァが室内にいる人たちに呼びかけると、外では激突音が響きわたり、土の壁は泥となって崩れさった。
「まさか、こんなところで敵襲?」
ノヴァはすぐに剣に手をかけ構えをとる。
「どこに・・・」
ノヴァの視界に飛び込んできたのは、空に浮かぶエルフの賢者。
「賢者・・・様っ?!」
ノヴァはすぐに剣から手を離し、頭をさげる。
まさか、エルフの賢者様とは。
ミエもすぐに頭をさげ、挨拶をする。
エルフの賢者は、2人に軽く会釈をし、地面すれすれの所で地面を見つめている。
「賢者様、何か落とし物でも?」
そんな賢者の様子をみて、ノヴァがすぐに窓を開けて質問をする。
「なに、私の物を落としちゃってね」
・・・てめぇ。
賢者の弟子は立ち上がる。
身体中泥まみれで、衣服も何もわからない。
目の白い部分とかろうじて、口がわかるぐらいだ。
手で、顔についた泥をぬぐい。
賢者をにらみつける。
「異世界にまで来て、
こんなバラエティ番組のお笑い芸人やるとは
思ってなかったわ!」
賢者の弟子は、エルフの賢者に向かって拳を振り上げて怒鳴る。
建物の中にいた人は、賢者の弟子の声に気づいて皆窓にかけより、エルフの賢者と泥人間に目にする。
笑う者もいれば、驚いた表情で固まった人間もいる。
皆の視線は、エルフの賢者ではなく泥まみれの賢者の弟子にむけられている。
研修初日、賢者の弟子は自分と同じ世界からやってきただろう人間に芸人のように華々しいデビューを・・・ってこんなデビューありかよっ!




