力の解読(2)『罪を罰』
ラボの通路の一角で、ゆっくりと賢者の弟子に歩みよる空の賢者。
エルフの賢者と海の賢者が対峙し、賢者の弟子は空の賢者と対峙している。
前回は海の賢者と対峙し、海の賢者の固有魔法であるドレインの前に完全に賢者の弟子はその生命を絶たれてしまった。
あの全身から力が奪われていく身の毛もよだつ感覚。
しかも海の賢者のドレインは、海の賢者の視界に入っている物を対象とする為、賢者の弟子には避けようがない。しかも対象とする人数は無制限。
大軍が押し寄せたとしても、海の賢者はそのドレインの力で一瞬で壊滅する事ができる。
海の賢者のドレインされても打ち勝つだけの精神力と、その中でもちゃんと戦える人物と言ったらエルフの賢者しかいなかった。
空の賢者の眼光がきらめくと、空間がねじれ切られていく。
この空間を切り裂く固有魔法にも何度も殺された。
腕を切られ、足を切られ、首を切られ、胴体を真っ二つにされ。
賢者の弟子には、そのすべての記憶がある。
なんとか、あの技を避ける方法を見つけ出さないと・・・
何度も同じようにバッサリやられて終わりだ。
ただの魔法なら、光の粒でわかるんだけど、
固有魔法は視認できるものもねぇ。
イチカバチカの感覚で避けるしかねぇのかよ。
空の賢者が賢者の弟子を憐れむような目で見ている。
くそっ、おまえら強すぎだっつぅの!
もう少し手加減しろよ!
賢者の弟子が、空の賢者に向かって一歩踏み出そうとすると、その足はすでに切断されている。
「ぬぉっ」
切断された足が、ボトっと音を立てて地面に倒れる。
賢者の弟子はなんとか片足で態勢を立て直そうとしたが、立て直せずに地面に両手をつく。
「なにくそっ!」
その状態でも、なんとか空の賢者に向かって突進しようと、両手で地面を掴んで前に出ようとしたが、今度は両手の肘から先が切断され、賢者の弟子は額から地面に突進した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・今回もこんなあっさりゲームオーバーかよ」
血が流れすぎている。
急速に冷えていく身体。
切られてないはずの両手が遠く、痛みを感じる。
視界が徐々に暗くなっていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ラボの中、賢者の弟子はエルフの賢者の手を握って走る。
この先には海の賢者が待ち構えている。
そして、その海の賢者に捕まってしまうと背後から空の賢者がやってくる。
海の賢者との遭遇を避け、空の賢者とも対峙を避けられるように必死に逃げる。
今回は防火扉を下げるようなことはしない。
空の賢者には、このラボの防火扉などなんの意味もない。
だから、逃げる事にのみ専念してエルフの賢者の手を握り逃げる。
「無駄よ」
声がした瞬間、賢者の弟子の目の前で通路が真っ二つになる。
「おいおいおい、しゃれになってねぇぞ。
なんでおまえがここにいんだよ」
目の前の空の賢者に向かって賢者の弟子は話すと、空の賢者は腰に手を当てて、
「あなた、ここの記憶もちゃんと残ってるんでしょ。
それなら、私たちだってそれに対応して行動しないと
訓練にならないじゃない」
・・・くそっ、こんなの完全にクリア不可の無理ゲーじゃないか。
自分の行動パターンを読んで、行動パターンを変えてくるとか、ループゲーでは禁則事項だろ。
「おまえ、そんな事したら絶対クリア無理じゃん!
学習するのはプレイヤーだけにしとけよ!」
「あなた・・・馬鹿なの?
これが何を持ってクリアとするのか、
その条件を本当に理解できてる?」
空の賢者が手を止めて苦笑いを浮かべて話す。
「・・・うっ・・・」
「あなたが自分が力を利用している事を自覚する事。
そして、あなたが自分の力についてちゃんと理解する事。
その為にやってる事だって事を忘れちゃダメよ」
空の賢者は賢者の弟子に対してウインクすると、
突進してくる。
エルフの賢者が前に立って、空の賢者との戦いが始まる。
空の賢者とエルフの賢者の戦いが始まってしまった以上、
海の賢者の相手は、自分がやるしかない。
ただ、あの海の賢者のドレインをどうやって防ぐ?
あいつの視界に一切入らないで、倒すなんて・・・
賢者の弟子は、破壊された壁の破片を手にとる。
これで身を隠せば、なんとか防げんじゃねぇか・・・でも重いっ。
自分の身を隠すほどの大きさの無機質な板、当たり前のことだが結構重い。
なんとか持ち上げ、自分の身体を隠すように立てたがこれだと全然身動きが取れない。
自分にも魔法とか遠距離攻撃ができる物があればなんとかなるかもしれないが、こんなの持って移動するとかは絶対無理だな。
これはもうこの壁に隠れて、あいつを待つしかねぇ。
あいつが通りすぎて俺に後ろを見せたら、背後から・・・
賢者の弟子は壁の破片を立てかけ身を隠し、海の賢者がやってくるのをじっと待つ。
エルフの賢者と空の賢者の固有魔法対決は、一進一退。
ラボを次々に破壊されていく。
・・・あの2人って本当に容赦ねぇな。
これが現実世界だったらって事を考えたマジやべぇよ。
んっ・・・なんだ...身体が...重い...
これは海の賢者...でも俺の姿は見えてない...はず...
「君、私の固有魔法で視認が必要ってのは、
あくまでも選定の為ってだけで、
視認しないとドレインができないって訳じゃないわよ」
「・・・くっ、そういうのは先に言えよ...」
・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ピーッ、ピーッ、ピーッ、
仮想世界との接続を解除完了、意識を覚醒します』
「・・・あ〜、くそっ、もうどうにもなんねぇ」
賢者の弟子は、自らヘッドギアを外して愚痴を叫ぶ。
「ねぇ、君はちゃんと理解できてるかなぁ
今やってるのか、勝ち負けとかじゃなくて、
君がちゃんと力を利用できるようにする為だって事」
海の賢者が賢者の弟子を指さしていう。
「ああ、わかってます。わかってます。
でも、何回も死ぬのは結構辛いよ。
痛いし、気持ち悪いし、
できれば、死ぬ前に止めてくれよ」
「それだと、物質世界から精神世界へ行く瞬間を
君は全然経験できないでしょ」
「いや、それ何回やってもまったくわからないから」
賢者の弟子は、顔の前で手を振って無理だとアピールするが、
海の賢者はそれを見て、鼻で笑う。
「君は、いろいろと経験が・・・って、
人間だった君には、今まで死の経験が一切ないのよね」
「エルフ族の連中とか、
ドワーフ族の連中は、
そんな自分が死んだ時の記憶とか持ってるのかよ?」
「みんな覚えてわよ。
生まれ変わる前の、最後のその瞬間を・・・」
エルフの賢者がベッドから起き上がって話す。
「皆、前の人生の最後を覚えているから、
よりよい最後を目指してみんながんばれるのよ」
「・・・よりよい最後って、いったいなんなんだよ?
んな、人生の最後を考えてみんな生きてるって言うのかよ」
「今の君にはわかるんじゃないかな?
事実、仮想世界でも前と同じにならないように、
君は考えて行動してるじゃないか」
小人の賢者が、賢者の弟子のとなりに腰掛けて話す。
「どんな死に方をしたか、わかっているから、
今度は同じような死に方をしないように努力する。
それはどんな生物でも同じ事なんだよ」
「・・・なぁ、ならなんで人間は記憶を脳に保存するだけで、
精神体には保存しないように作ったんだよ。
他の種族より後に作られたのに、
他の種族よりも劣ってるってなんかおかしくないか?」
ぱっとエルフの賢者の顔を見ると、表情が険しくなるのがわかる。
海の賢者はエルフの賢者の方を向き、小人の賢者は下をむいている。
「それは、人間世界に落とされる精神体ってのは、
他の世界で、同種族殺しや、犯罪を犯した物が選ばれるからよ」
「えっ・・・」
空の賢者がそのキリッとした目でまっすぐに賢者の弟子を見つめる。
「犯罪者?」
「そうよ。
人間世界の精神体は、
犯罪を犯したから、記憶を奪われたの。
記憶がない状態で、同じような罪を繰り返さなければ、
またこの世界に戻ってこられる。
あなたたちの世界では、同じ種族同士で殺し合いをしてるでしょ。
それは、この世界で同種属を殺した精神体が集まっているからなの。
記憶を奪っても、その精神体の本質は変えられない。
一度、同種族殺しをおこなった精神体は記憶を失っても、
殺しをおこなうのよ」
「それなら・・・」
賢者の弟子は言葉を飲み込んだ。
自分もまた、この世界で誰かを殺したというのだろうか。
それで自分は人間世界に行き・・・あれだけ苦しんだというのだろうか?
「罪を犯した者が落とされる世界。
それが人間世界なのよ。
そして、それこそが罪を犯した者への罰なの」




