力の覚醒(4)『嘘』
賢者の弟子がパッと目を開けると目の前には空の賢者が不敵な笑みを浮かべてたっている。
一瞬意識を失ってたのか?
真っ白な世界にいたような気がしたが...
空の賢者は片手でこちらを挑発するかようなポーズをとる。
チラッと右腕を確認すると、
真っ白な世界では確かにあった、右腕は無くなっている。
このクソ馬鹿賢者、マジうぜぇ。
俺の右腕を返せっつぅの!
賢者の弟子は空の賢者を睨みつける。
空の賢者はすごい美人ではあるが、賢者の弟子のタイプではない。
むしろ、嫌いなタイプだ。
だから、睨み合いになっても、賢者の弟子は緊張する事はない。
「君はどうやら、私に殺されたいようだね?」
空の賢者は賢者の弟子をにらみつけて笑みをこぼす。
「殺されるのはまっぴらゴメンだ。
俺にだってまだこの世界でやりたい事が沢山あるんだ。
殺されたって死んでやるか!」
横目でチラッとエルフの賢者を確認すると、海の賢者に捕まって身動きがとれなくなっている。
ちょい、こんな時に何やってんの君らは...
「いいか、俺はもの凄く弱いぞ!
そんな俺を殺すんだから、
おまえはこれからただの弱い物いじめをするクソガキと
同じ所まで、自分を落とすんだからな!」
なんで誰も助けにこないんだよ!
おかしいだろ。
小人の賢者でも、エルフの王子でも王女でもいいから早く助けに来いよ。
つか、誰でもいいから、早く来て。
賢者の弟子は水の精霊の助けもあって、
意識はもうはっきりしている。
自分がどれだけ馬鹿な事を空の賢者に言ったのかもわかっている。
もうどう考えても後には引けない。
誰かこの場を納めてくれる人が来ないだろうか。
不気味な笑みを浮かべる空の賢者を睨みつけ、
どうやったらこの場から脱出できるかを考える。
エルフの賢者は海の賢者に、頬をすりすりされて完全に動けなくなっている。
空の賢者はゆっくりと賢者の弟子に歩み寄る。
一歩近づく度に頬を汗が1粒流れる。
ものすごいプレッシャーの中で、賢者の弟子は、自分にできる事を考える。
扉を開けるようにも右手がない。
賢者の弟子は利き腕の右手を失っている為、扉を開く魔方陣がない。
通路からは自力では出られない。
どうすんだよ、この状況。
どうやって、この場を切り抜けるんだんだよ。
マジで、これ逃げ場なしでやばいんですけど。
賢者様、もうそろそろなんとかしろよ。
賢者の弟子は、立ち上がって地面を見渡す。
今あるのは真っ二つになり半分残ったお盆や、
ポットが転がっているぐらいで、
武器になりそうな物は何もない。
・・・右手もない。マグカップやお茶パックもお盆も半分ない?
「どうした小僧。
威勢がいいのは口だけか?」
すぐ近くにまで空の賢者がきている。
賢者の弟子はため息をついて地面に座り込む。
「もういいよ。あんた。
もう全部わかったから...
賢者様もそんな演技しなくていいですよ。
今日の賢者様は態度がおかしすぎます。
これ以上続けるなら、
マジでしばらくは口きかないですからね」
エルフの賢者の顔をみて、賢者の弟子はつぶやく。
「ああ、もう完全にやられた。
無茶苦茶焦って、マジ損した気分だわ。
なあ、あんた空の賢者じゃないでしょ。
俺の腕が地面に転がってない事といい、
マグカップやお茶パックどこにやったの?」
賢者の弟子は、空の賢者を見上げ続けていう。
「これ完全に転送魔法だよね?
前にエルフの賢者様に言われたんだよ。
転送魔法で腕とか出すと真っ二つになるって」
空の賢者は目をつむり、薄気味悪い笑みをこぼす。
「それだけで、私が空の賢者じゃないと?」
「以前、どっかの馬鹿賢者と王様がやり合ったのを見たんだけど、
2人とも精霊の光の粒を背中から放出して、
光の翼みたいなの作ってたんだよね...
このラボは結界の中、魔法や精霊を使えば、
光の粒が可視化できるはずなんだよ。
現に俺の右腕見てみろよ。
水の精霊たちがわんさかいんだろ。
でも、あんたが使った転送魔法には、
光の粒は一切なかった」
空の賢者は視線をそらさず、ずっと賢者の弟子を睨めつけている。
「水の大精霊様と、
土の大精霊様が力を使った時と同じなんだよ。
精霊の光の粒なしですんごい事やっちゃうって」
「それで私はいったい誰だと?」
「こんなにあっさり転送魔法が使える大精霊様って言ったら、
命の大精霊様しかいないでしょ...」
「・・・」
空の賢者は視線を海の賢者とエルフの賢者に向けた。
賢者の弟子もその視線を追って、エルフの賢者に視線を向ける。
エルフの賢者は賢者の弟子とは視線を合わせようとしない。
「やっぱりな...賢者様。
今日は絶対に自分の部屋にはこないでくださいね。
人に心配させた罰です」
エルフの賢者の表情が曇る。
「この世界で、
君にあうのは初めてのはずなんだけどよく気づいたね」
空の賢者が笑みをこぼして話しかけてくる。
「いや、転送魔法って言ったら、命の大精霊様しかいないでしょ。
使った魔法があまりにも特徴ありすぎで」
「そうだよね。
僕はこの魔法しか利用できないから」
空の賢者の姿をした命の大精霊は苦笑いを浮かべている。
「ただ、1つ訂正させてもらうと、
これは転送魔法というより、結界なんだけどね。
君の言う転送魔法というのは、
実際には結界により、一時的に狭間の空間に移動させ、
出口を別の場所にしているだけの事だから」
「そなの?」
「うん」
エルフの賢者に顔を横目でチラッとみると、
こちらをじっと見ている。
これは見てはいけない顔だ。
この顔を見て、何度も自分は言い負かされてる。
「彼の固有魔法はちゃんと覚醒したみたいだけど、
まだ続けるかい?」
命の大精霊が、エルフの賢者に確認をする。
エルフの賢者は首を横に振って、海の賢者に抱きつかれたまま起き上がろうとする。
命の大精霊が結界を解除すると、賢者の弟子の右腕と、それに巻き込まれたお盆の半分などが空中にあらわれ地面に落ちる。
「ああ!俺の腕!」
「結界を解除すれば、出てくるよ」
命の大精霊は笑みを浮かべるが、賢者の弟子にとっては笑い話にしてよいような話ではない。
「ちょっ、なんでいきなりこんな事したんだよ」
自分の右腕を左手で掴み、命の大精霊に詰め寄る。
「それはもちろん、
君が固有魔法の入った箱を開けようとしなかったからさ。
今の君なら僕の結界の中で、箱を開けた事を覚えているだろう」
・・・箱?あの真っ白な世界で開けた箱の事か?
命の大精霊に言われて、さっき見た真っ白な世界の事を思い出す。
意識を失って見た夢だと思っていたけど、命の大精霊の結界の中だったとは・・・
「それで、その箱を開けて、
俺はどんな魔法が使えるようになったんだよ」
賢者の弟子の質問に対して、命の大精霊は困ったような表情を浮かべる。
「ちょっと魔法とは言いづらいかもしれないね。
今君がここにいる。ここにいられる事が、
君が手にした固有魔法なんだよ」
・・・
「えっ?それって・・・
ただ、ここで生きてる事がもう俺の固有魔法とか、
そんな感じ?」
命の大精霊は首を縦にふる。
・・・いやいや、そんな固有魔法おかしいだろ。
エルフの賢者なんか、みんなの記憶を改竄するんだぞ。
それに比べて、俺は生きてる事がもう固有魔法的なぁ...
いくらなんでも、そんなしょぼすぎる魔法はないだろ?
「詳しい事は、
これからいろいろな経験をしていくとわかると思うよ」
命の大精霊は困ったような顔で笑みを浮かべる。
なんだかなぁ。結構期待してたんだけど・・・
「って、俺はそれで魔法とかも使えちゃったりするように」
質問を最後まで言い終える前に、命の大精霊は首を横にふる。
「ちょっ、なんなんだよそれ!
そんなの今まで一切変わってないじゃん」
「そうかもしれないね」
・・・うっ、命の大精霊に認められると・・・きつい・・・
「しいていうなら、
ほんの少し、長生きができるようになった。
かな?」
「そっかぁ、長生きかぁ。
俺の固有魔法は、、、長生き・・・」
賢者の弟子は、自分の固有魔法による効果が長生きだと知って、肩でため息をつく。
無限の寿命を持つ、エルフの賢者が身近におり、ぶっちゃけありがたみが薄い。
以前の自分だったら・・・いや、長生きは辛い。
病気が治った今でも、長生きって言われると・・・




