力の覚醒(4)『結界を超える力』
エルフの賢者と賢者の弟子は、給湯室に向かっていた。
賢者の弟子の左半身はがっちりとエルフの賢者に捕まっている。
「なんでそんなにくっついてるんですか?
もの凄く歩きにくいんですけど」
「海の賢者が来てるでしょ?
あの子、とても厄介なのよ。
私の物をすぐ自分の物だって言って、
勝手にも持って帰ったりするのよ」
過去の事を思い出したのか、掴む手に力が入る。
イタイッ、イタイッ、俺の腕が...
「わかった。わかったから俺の腕がもげる。
もう少し力を抜いてくれ」
賢者の顔をみると、もう完全に不機嫌モードをに突入ずみだ。
・・・やべっ、虎の尾ふんだ。
給湯室に入り、ポットに水をくみ、お茶の準備をする。
この給湯室は、魔法が使えない異世界人が沢山いるという事で、
自分がくる少し前に作られたらしい。
それまでは、水の精霊が全てやっていたというのだから、この世界の精霊の無駄遣いは半端ない。
少しばかり、自分に分けてくれ。
「賢者様、ここまではさすがにこないと思いますから、
少しは離れてくださいよ」
作業がしずらい。ただでさえ狭い給湯室で片腕を使わずにお茶を入れるのは、かなりつらい。
賢者の顔をじっと見つめる。
・・・やっぱ可愛いよな...
3秒と持たずに自分が照れて、視線をそらす。
視線攻撃はダメだ。自分がダメだ。
口で言ってもダメ、視線で訴えてもダメ。
・・・結局こうやっていつもあきらめて、
賢者様のいいようになるんだよな...
そういえば、海の賢者が双子って言ってたよな。
エルフの賢者と海の賢者が双子ってどういう意味なんだろ。
可愛い可愛いお師匠は教えてくれないかな。
・・・
エルフの賢者の顔を除いてみたが、不機嫌な表情のままだ。
だいたい、今更何を心配してんだか。
俺が他の賢者について行く訳ないじゃん。
エルフの賢者様以外の弟子になるつもりなんてないですよ。
・・・まだダメか?そんなに俺って信用されてないのかよ。
他に何がある。
今、賢者様を安心させられるような方法は他に何がある。
「契約・・・」
エルフの賢者が小声でつぶやく。
「契約ってもう弟子として契約してますよね?
他にも何か契約とかあるんだったら、
賢者様が安心してくれるんだったら、契約しますよ?」
エルフの賢者は無言でうなずく。
なんだろう。普段は絶対に見せない態度だ。
賢者様がこんな態度を見せるなんて...
そんな態度されると、もの凄く調子狂うんですけど。
「賢者様がそんな風だと、調子狂うからさ。
いつもの賢者様に戻ってくれません?」
お盆の上に、人数分(主任除く)のマグカップとお茶パックを乗せ、給湯室から2人で出る。
「け、い、や、く。契約するんでしょ?
早くやってくれませんか」
足を止め、エルフの賢者に言う。
エルフの賢者は、うつむいたまま、顔を見せようとしない。
マジで賢者様の様子がおかしいんだけど、
どうしたんだろう?
これは、怯えているのか?
こんな態度見た事がないのでわからない。
「本当にどうしたんですか?
賢者様があいつらに会いたくないんなら、
バックレるってのもありだと思うんですけど」
会いたくないなら、会わなければいい。
会わないといけない理由があるのか。
「君はまだ何もわかっていないんだよ。
今日、他の賢者が集まっている理ゆっ、」
「えんちゃぁぁぁぁぁぁん」
声と同時に人影が賢者の弟子の前を通り、エルフの賢者に襲いかかる。
エルフの賢者にひっぱられる形で、自分も前に倒れ込む。
「あちっーーーー、あっつ」
手にお湯がかかり、もの凄く熱い。
すぐにやけどをしていないか、右手を確認する。
・・・
・・・
・・・
右腕がない。
右腕が肘から下がなくなっている。
無くなった切り口に水の精霊が集まって止血をしてくれているが赤い血が、脈に合わせて飛んでいる。
何が起きた?俺の右手は?
目で右手を探す。
腕がなくなったというのに、腕があるような気がする。
痛みが全然ない。
通路をぐるっと見たが、右手はない。
となりで悲痛そうな顔を見せるエルフの賢者と、
笑みを浮かべるエルフの賢者とまったく同じ顔の海の賢者。
エルフの賢者は何か叫んでいるように見えるが、声が聞こえない。
そっか、俺、こいつにやられたんだ...
右腕の切り口をみると、きれいにばっさりと切られている。
出血は水の精霊のおかげで少しずつ止まっていっているが、
血を流しすぎてしまっていて身体に力が入らない。
腰から下、膝や足首、感覚が遠い。
空気を深く吸って、お腹にぐっと力を入れる。
目をつむり、今の自分の身体の状態を確認する。
下半身はほぼ動かない。右腕は損傷してない。
あるのは左腕だけ、しかも貧血の影響で指先の感覚はほとんどない。
今まで、もしかして一番悪い状況なのかな?
目を開けて背後を見る。
そこには赤いドレスをきたブロンドの女性。
空の賢者が笑みを浮かべて立っている。
やっぱりな。
この右腕の切り口は、水じゃなくて風だよな。
肩でため息をつき、思い切り空気を吸い込む。
「ふっざけんじゃねーぞ。馬鹿が。
てめぇ、腕をぶち切るんだったら、火傷する前にぶち切れよ。
一瞬もの凄く熱かったんだからな!」
賢者の弟子の怒りの怒声が通路に響きわたる。
「だいたい、俺の右腕どこだ?
おまえちゃんと俺の右腕返せよ!
綺麗な顔して、いきなり何してくれてんの。
おまえの方が超強いんだから他にやりかたあっただろうが。
強いくせに背後からって、それでも賢者か!」
賢者の弟子は、もう自分でも何を言っているかはわからない。
とにかく、なんでも良いから思った事を大声で怒鳴りちらす。
怒鳴り散らす事で、血圧は上昇し、恐怖と混乱でノルアドレナリンも脳から大量に放出され、少しずつ冷静さを取り戻すし、意識が切れるのを阻止する。
「言いたいことはそれだけか?小僧」
空の賢者は賢者の弟子をにらみつける。
賢者の弟子はその眼力に恐怖を感じるも、普段見ているエルフの賢者の笑顔と比べれば、怖くないし、恥ずかしくもない。
だが、意識が続かない。
視界が徐々に狭くなり、目が開けていられない。
身体が重い、意識が遠くなっていく。
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天井も壁もない、ただただ真っ白な世界。
男は起き上がって周りを見渡す。
何もない真っ白な世界。
自分の影すらできない、真っ白な世界。
男は自分の右手に小さな木箱を持っている事に気づき。
おもむろに木箱の蓋を開けた。
木箱の中を見ると、中には何も入っていない。
男は首を傾げて右腕を見る。
「俺、こんなところで何やってんだ・・・
確かこの右腕なくなったはずだし・・・」
白い球体の中にいる賢者の弟子を見て、命の大精霊は笑みを浮かべる。
「まさか、彼の固有魔法がこんな物だったとはね」
命の大精霊は右手を上げ、賢者の弟子のオリジナルの身体を結界から取り出す。
「なんの因果か知らないけど、
君の魂はこの身体の中にあり、
君が生きるか死ぬかを決める事ができるのは、
僕だけという訳か」
命の大精霊は不敵な笑みを浮かべる。
賢者の弟子の精神体は、確かにオリジナルの身体の中にある。
だが、白い球体の中にも確かに賢者の弟子の精神体が存在している。
彼が箱を開けた瞬間、結界の中に入っていた彼の精神体は結界を通り抜けオリジナル身体に戻った。
そして結界の中に精神体の複製を作りあげた。
僕の結界を超える力。
結界を超えたオリジナルの精神体と、複製の精神体。
命の大精霊にも、この固有魔法の原理はわからない。
だが、確かに複数の精神体を持ち、
この精神世界でも彼は記憶を保持できている。
それはおそらく、このオリジナルの身体と結界を超えて繋がりを持っている為だろう。
彼のこの力を賢者達に気づかれる事なく確認がとれてよかったよ。
僕の結界が通じない力。
僕にとって脅威となる存在。
そのオリジナルの精神体は命の大精霊である自分の手の中にある。




