力の覚醒(3)『空と海の賢者』
海の種族代表と賢者か、どんな人なんだろう。
自分の知っている賢者と言えば、ろくでもない奴しかいない。
「主任、1つ質問なんですが、エルフ族の賢者はエルフの賢者じゃないですか、なんでドワーフ族の賢者は、ドワーフの賢者じゃなくて、小人の賢者なんですか?」
ずっと不思議に思っていた小人の賢者の名前の由来を主任に聞くと、主任は苦笑いを浮かべる。
「俺よりずっと前にこの世界にきた人がそう訳したからだ。
だから翻訳される時に、
ドワーフ族と小人の賢者に分けられる」
「それは違うわよ」
え?・・・
声のする方を見ると、エルフの賢者が壁によりかかるように立っている。
「賢者様、お疲れ様です」
主任がエルフの賢者に挨拶をして頭を下げる。
つづいて自分も頭を下げる。
「小人の賢者はもっと前は、森の賢者って呼ばれていたのよ。
森に住む種族、ドワーフ族の他にゴブリン族を束ねていたのよ。
ただ、どちらも森を出て暮らすようになったから、
森から小人に変わっていったの」
ゴブリン族?初めて聞く種族だ。
ゴブリンと聞くと、あの緑の化け物しか思い浮かばない。
愛くるしいドワーフ族と、あの緑の化け物のゴブリン族が一緒に暮らしてたとか、見た目的に想像できないんだけど。
「そういえば、ゴブリン族って、
もうほとんどいないんですよね?」
主任が、エルフの賢者にゴブリン族について尋ねると、
エルフの賢者は真剣なおもむきになり、口を開く。
「そうね。
ゴブリン族はもうほとんど生存してないかな。
私もゴブリン族については詳しくわからないんだけど、
もしかしてら、絶滅しちゃってるかもね」
「種族の生存競争って奴ですか?」
主任が、エルフの賢者に質問をする。
「交易とかが苦手だったって事が大きいかな。
最初の頃はうまくやってたんだけどね。
ドワーフ族とゴブリン族とでは、手先の器用差と、
知能に差があったから、
交易が徐々にうまくいかなくなって、
徐々にドワーフ族の集落を襲うようになったのよ」
・・・種族同士の戦争、そして絶滅。
エルフ族も少子化で苦しんでるって話していたし、
この世界では種族の存続ってはかなり重要なんだな。
しかし、あの愛くるしい笑顔を持つ小人の賢者が、
自分の束ねてた種族を1つ失うなんて、
どんな気持ちだったんだろう。
『君、今誰と話してるの?』
んっ?!頭の中でエルフの賢者の声がする。
目の前に賢者がいるのに。
ーー今、賢者様と話してるじゃないですか?何言ってるんですか?
・・・
『そこに私の姿をした誰かがいるのね。
君は本当に見た目だけで判断しちゃうんだね。
今すぐそこに行くわ』
ーーはぁ???
部屋の中にいるエルフの賢者をじっと見つめる。
忘れていたが、この世界は身体を自由に入れ替えられる。
声や口調は翻訳魔法を調整する事で変更可能。
「あの、あなたはどちら様でしょうか?」
おそるおそる、部屋の中に立っているエルフの賢者の姿をした人に問いかける。
「君がエンちゃんのお弟子さんかな?」
エルフの賢者の姿をした人は、笑みを浮かべてこちらをじっと見ている。
エンちゃん?・・・
「ええ、自分は賢者の弟子ですけど。
それで、あなたはどちら様でしょうか?」
「エンちゃんの弟子って事は、
私の弟子でもあるんだから、
そんな顔しないでよ」
???・・・エルフの賢者の師匠とかそんな感じの人?
「・・・もうそのあたりで勘弁してくださいよ。
海の賢者様は、相変わらず人が悪いですよ」
主任は片手で頭をポリポリ掻きながら話をしている。
海の賢者...驚きよりも、自分の中ではこいつもか...という気持ちが広がる。
エルフの賢者とまったく同じ姿をした人は笑みを浮かべている。
「タイラがちっとも部屋にこない訳だ。
海の賢者様、またエルフの賢者様と身体を同じにしたんですね」
「あら、そんなあたり前の事聞かないでよ。
エンちゃんと私は双子なのよ。
エンちゃんが身体を変えるなら、
私も同じ身体にするわよ」
双子?つか、エルフの賢者と海の賢者が双子?なにそれ?そんなのありえるの?
「私のとこの、
代表の話が長そうだったから、
先にエンちゃんの弟子を見に来たの。
エンちゃんの弟子の固有魔法がどんな物なのかも気になるしね」
海の賢者と視線があう。
見た目も声もエルフの賢者と全く同じだ。
双子だからって、全く同じにする必要あるのか。
それに、見た目も声も同じなんて、ありなの?
「黙ってないで、相手してくれないかな?」
海の賢者は、薄笑いを浮かべてこちらをみてくる。
「相手をしてくれと言われても、
お茶とか出せばいいですかね?」
「そうじゃなくて。
君の固有魔法の事とか・・・
君ってもしかしてエンちゃんにもそういう態度とってるの?」
海の賢者の表情が変わり、眉間にしわがよる。
「賢者様にですか...そうですね」
顎に手を置いて、考える。
エルフの賢者に対する自分の対応。
問題ばかりをおこしてくれる賢者様。
すぐに抱きつく。
すぐに人が嫌な事をする。
すぐに自分をからかう。
嫌だと言うと笑みを浮かべる。
そんなエルフの賢者様に自分が取る態度...あきらめ?
『ふぅん。そんな風に思ってたんだぁ』
頭の中でエルフの賢者の声が聞こえる。
ああ、もうやってしまった...
これは、後で絶対に地獄が待ってる。
しかも、目の前には、エルフの賢者の双子とかいう変な賢者がいるんだ。
これ漫画やアニメだと、両方から抱きつかれたりするパターンだ。
これから起こる事が想像できてしまった賢者の弟子は、深いため息をつく。
逃げるか...
「エルフの賢者様には、いつもちゃんとした態度で接してますよ。
お茶を入れるますので、椅子に腰掛けて待っててください」
エルフの賢者と同じ格好をした海の賢者に笑みを浮かべて嘘をつく。
海の賢者は唇をとがらせて椅子に腰掛け、背を向ける。
賢者の弟子は、「よろしくお願いします」と主任に小声でつぶやき、ポットを手にとり部屋をでようとした。
扉を開けようとして手がとまる。
漫画やアニメなんかだと、扉を開けたらそこにエルフの賢者が立っているパターンだ。
やばいな...俺すごいくだらない事考えた。。。
止めた手を動かして扉を開ける。
ほら、もう想像した通りだ。人が立ってるよ。
えっ...
目の前に立っているのは、ブロンドヘアーで白い肌、目がキリッとして目鼻立ちがはっきりとした綺麗な女性。身長は自分よりも少し低いが、肩が出た真っ赤なドレスを着ている。
「だれ?・・・」
目の前に立つ女性は、自分の顔を見て笑みを浮かべる。
マジですか?
女性の笑みを見て、深いため息がでる。
「賢者様、またお姿を変えられたんですか?」
「君は、少し勘違いしているようだな。
私は賢者だが、君の知る賢者ではないぞ」
「えっ?!」
思わず声を出して、驚いてしまった。
なら誰だよ...なんでこのタイミングで扉の前に立ってんだよ。
「あのー。どちら様でしょうか?」
「私は空の賢者だよ。
この部屋に海の賢者がいるのだろう?
私は海の賢者に用があってきたのでね。
そこをどいてもらえるかな?」
「あ、はい。すいません」
扉の前から少しずれ、空の賢者が部屋の中に入るのを見届ける。
主任は、自分を見て「置いていくなよ」と言うような視線をむけているが、自分は主任の視線を無視して通路に出る。
いや、マジびびった。
なにそれ?なになに、なんで賢者がここに2人もやってくんの。
今、空の賢者って言ったよな。空の賢者って、何者?来るにしても突然すぎじゃない。突然すぎて挨拶完全に忘れちまったぞ。
おかしくない?普通、ここはエルフの賢者が出てくるフラグじゃないの?
ちょい色々なもん整理する為にもエルフの王子の所に行って、時間つぶしてくるか。
すぐに来るって言った賢者はなかなか来ないし。
賢者の弟子はポットを片手に通路を歩く。
ラボのブロックの扉を開け、固まる。
このタイミングかよ...
「あれ?扉を開けたらってさっき考えてたでしょ?」
ここじゃねーよ。




