力の覚醒(2)『休む必要のない世界』
壁も空もない真っ白の世界。
白い床には沢山の額が並んでいる。
小さな子供がと少女が立っている。
「ひどいなぁ。
箱を開けるようにいわないなんてぇ」
少女は、小さな子供にむかっていう。
「そんな状況ではなかったんだよ。
それに、箱を開けられて困るのは、
君なんじゃないのかな?」
小さな子供は少女に向かって笑みをこぼす。
「私は別に困らないよ。
あの世界に固有魔法が1つ増えても、
私には関係ないわ」
少女の眉ひとつ動かさず、小さな子供に答える。
「困るのはあなたでしょ。
海と空、そして山、陸をめぐって争いがはじまるんじゃない?」
少女の言葉に小さな子供は苦笑いを浮かべる。
「みんな仲良くってのはなかなか難しいね」
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目の前が明るくなる。頭が痛い。
軽かったはずの身体がものすごい重く感じる。
ああ、そっか現実世界に戻ってきたのか...
「今日の訓練は終わりよ」
エルフの賢者の顔が目の前にあらわれる。
「うわっ」
すぐに両手で賢者の顔を押し遠ざける。
「もう毎回それやるのやめろよ。
マジでうざい。本当にうざいから」
賢者の弟子は顔を真っ赤にして賢者に訴えかける。
そんな弟子の顔を見て、エルフの賢者は上機嫌だ。
「訓練お疲れさまでした。
今回はかなり調子がよかったわよ」
エルフの賢者は、笑みを浮かべている。
「今、俺何時くらい入ってたの?」
「今回は150時間くらいかな」
「・・・6日ぐらいか...」
今自分がやっている事は、
精神の訓練とかいう奴で、自分には記憶が残らない。
なので、お疲れ様とか言われても何をしたか記憶がないし、
どれくらいの時間がたっているのかもわからない。
「精神の訓練ってそういう物よ。
もし、何をした記憶がほしいんだったら、
明日からは記憶に残る訓練にしましょうか?」
エルフの賢者は優しい笑みをこぼす。
ただ、この優しい笑みは嘘だ。
前回はもの凄い数の本を山積みされ、音読をさせられた。
これを1900時間、約80日間連続でやった。
水の精霊の光の粒が自分の身体を覆ってくれる。
ずっと寝かされた身体を、こうやって水の精霊が癒やし、整えてくれる。
「水の精霊、いつもありがとなっ」
多分、仮想化環境に入っている間も、
水の精霊は癒やしてくれているのだろう。
水の精霊が自分の身体の隅々まで洗浄してくれて、
風の精霊たちが自分の身体を乾かしてくれる。
ベッドで寝ている間に、自分の身体も服も下着も綺麗にされる。
この世界には、夜がない。
なので、終わりがいつになるのか、
それは誰かが決めないと終わらない。
ここでその決定権を持っているのエルフの賢者だ。
今回も、これから後何千時間連続で音読する事になるのだろう。
疲れたり、喉がつらくなったら、水の精霊が癒やしてくれる。
元の世界のように、身体が壊れる事はない。
何十時間、何百時間働こうが、水の精霊が一瞬で治してくれる。
絶対におかしいよな...
俺たちの世界って、
確か1日8時間労働で、
ブラック企業とかでも50日連続労働とかじゃない?
この世界、
水の精霊のおかげで働くのが好きな人とか、
永遠に休みなく働いちゃってるよ。
水の精霊や回復魔法がもし元の世界にあったら、
時間で拘束する労働ではなくて、
成果で拘束する労働になっていただろう。
身体がすぐに治る魔法の世界。
労働は、どう考えても自分たちが暮らしていた元の世界より厳しい。
「デッシーお疲れ様」
部屋を出て、自分が翻訳の仕事をする部屋に入ると主任がたくさんの水の精霊に囲まれて仕事をしていた。
「お疲れ様です。主任は...」
主任の机の上を見たら、DVDのケースの山が積み上げられている。
そして、床にも...
あの量からして、主任もこれからかなりの時間働く事になりそうだ。
「お互いがんばろうな」
主任から励ましを受け、自分の机、そして自分の机の後ろに置かれた本棚をみる。
「頑張りましょうね。これが済めば数時間は休憩できますから」
「この世界は、こういう所だけゲームに似てるからな」
「えっ?」
「ほら、ゲームの主人公って何日も寝ないで冒険できるだろ。
この世界もそれに似てる。
魔法でHP回復できるから永遠に働ける。
魔法で疲労の回復もできるから寝るって言う習慣がないんだ」
確かに言われてみれば、みんな水の精霊に癒してもらうから寝る必要性がない。
だから、このエルフの街にも宿屋みたいな物はない。
そんなところだけ、ゲームと似なくても。
夜がなくても大丈夫なわけだ...
異世界、魔法って聞くと、とても夢のある物語や夢のある世界だけど、実際には元の世界より生まれた時の才能差で将来が全て決まってしまったりとか、とても厳しい世界だった。
タイラさんは...席にいないという事は、もう音楽の翻訳部屋に行っているのだろう。あの人も可愛そうだ。
音楽をずっと聴きづけて、いや、歌い続けている。
音を外せば、最初からやり直し。
難しい曲など、何回もやり直している。
水の精霊が回復してくれるので、喉がつぶれる事もない。
何度も何度でも...
「よし、覚悟を決めて自分の仕事をがんばりますか」
両手でパチンと頬を叩き、目の前に置かれている現実とむきあう。
山積みにされた本、後ろにも本は沢山スタンバイされている。
水の精霊の光の粒をツンツンとつついて、自動翻訳筆者機に紙をセットする。
本を手に取り、ページを開き...
この漢字、なんて読むんだ?...
沢山の本の下敷きにされていた自分のパートナーの漢字辞典を自分は探した。
これは、自分だけがほしいのかもしれないが、漢字に自動でルビを打ってくれる機能がほしい。
元いた世界だったら、スマホで探せばよかったけど、この世界にはスマホがない。
「おじゃまします」
扉を開けて入ってきたのは、このラボの責任者のエルフの王子だ。
「あれ?」
エルフの王子は自分の顔をみるなり、首をかしげている。
「どうかしましたか?」
「いや、賢者の弟子さんは、
新人研修に行かなくてもいいのかな?
ってちょっと思っただけですよ。
エルフの賢者様の弟子ですから、
新人研修も免除になったのでしょうか?」
主任の方をみると、俺は知らんと言わんばかりに頭を横に振っている。
・・・なんていうか、あれだな・・・
うちの賢者様の十八番、忘れてるって奴だな。。。
「エルフの賢者様に確認とってみます」
賢者の弟子は、ため息をつき、机の上に置かれている館内用の通信機のスイッチに手をかける。この館内用の通信機は、ラボにいる全員の脳に直接通信をおこなうので、賢者の弟子は緊張してしまって密かに苦手である。
「あっ、エルフの賢者様なら、
海の種族代表と海の賢者様が来てるから、
多分そっちに行ってると思うよ」
エルフの王子が館内通信を使おうとした賢者の弟子を止めた。
「えっ、なら今日はどうしてこちらに?」
賢者の弟子は、通信機のスイッチから指を離してエルフの王子に視線をむける。
「今日は、君たちにこれについて教えてもらおうと思ってきたんだよ」
エルフの王子は賢者の弟子たちが、元の世界で購入してきたロボットの資料に載っている円柱の小さな赤い物体を指さしていう。
「ああ、これは新人類って呼ばれる人達が利用するファンポッドですね」
「ふぅん。それで、これはどうやって動かしているんだい?」
「なんていうか、
手とか足とかで動かすんじゃなくて、
脳派とかそういった類いの物で動かすんですよ」
「脳で命じれば動くように作ればいいのかな?」
「まあ、だいたいそんな感じですね。
って、作れちゃうんですか?」
「もちろん作れるよ。
動画も見たしね。
ただ、どうやって動かしてるのかわからなくてね」
「いや、もうさすがっすね」
主任の方を見ると、何か考え事をしているみたいだ。
ここは相談した方がいいのか?
「主任、何か意見ありますか?」
「いや、脳で命令っていっても、
それっていくつもあるだろ?
いくつも飛ばして、
それらを全てコントロールなんて
処理がおいつけるのか、
考えていただけだ」
・・・確かに言われてみればそうだよ。
遠く離れたところだったら、1つをコントロールするのも難しいと思うのが、6つもあるんだし。
実際に6つすべてをコントロールするなんて、1人では不可能だよなぁ。
しかも戦闘中にいくつも飛ばして、それをコントロールするなんて、人間技じゃないな。
「それじゃ、
最初の目標のみは脳からのコントロールで設定して、
後は精霊による自動追尾ってのはどうかな?」
主任と賢者の弟子が2人そろって頭を悩ませているのを見た、エルフの王子は、すぐに対応策を話す。
さすがはエルフ族の王子、頭の回転はピカイチだ。
「それでできるなら、
そうしてもらった方が扱いやすいか?
どう思うデッシー」
「そうですね。
全てを脳波でコントロールは、
さすがに難しいと思うので、
それでいいと思います」
主任と目を合わせると、目が笑っている。
絶対に何か違ういけない事を思いついた目だ。
「それじゃ、
最初の目標設定のみ脳波で
後は自動って事で作ってみるよ」
「よろしくお願いします」
なぜか賢者の弟子はエルフの王子に頭を下げる。
それを見た主任は、
『俺たちが乗れる訳ないんだけどな』
と心の中で考えていた。
エルフの王子は、お礼をのべて部屋から出て行った。




