力を覚醒(1)『強制』
エルフ族直轄領 エルフの街のラボ
無機質な金属板の壁で囲まれた廊下をエルフの賢者が早足で歩く。
その後ろに金髪の少女が続いて歩いている。
「また過去の記憶を持ったまま
人間世界に送られる精神体が多くなってるみたいね」
「はい。賢者様。
先日の黒服の連中も同じでした」
エルフの賢者は険しい表情を浮かべている。
本来、人間は記憶を脳という物質に保存する。
その為、精神体となった状態では、記憶を保持しない。
新しい身体に精神体が結び付けられた状態では、
以前の身体の記憶、体験などはまったく持っていない。
しかし、300年ほど前から変化が生じていた。
その変化をもたらしたのは、異世界からの転生者。
エルフ族やドワーフ族など、物質に記憶を保存するのではなく、精神体に記憶を保持する機能を持った精神体が、この人間世界に転生した際に、過去の記憶を持ってしまっていた事だった。
その知識を利用した者たちによる技術革命により、人間世界は急速に技術を発展させていった。
本来ではあってはならない事。
それが起きてしまっており、人間世界に転生してしまった精神体が元の世界に戻りたがっている。
エルフの賢者たちは、この転生についての秘密も知っていた。
そして、人間世界に転生した精神体が過去に何をした者なのかもわかっている。
エルフの賢者が、人間世界に度々足を運ぶ理由は、こういった過去の記憶を持つ転生者の記憶の削除も目的としており、その為に与えらた力だ。
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エルフの賢者は扉の開けて自らの研究室の中に入る。
「おはようございます。賢者様」
エルフの賢者が入ってきた事に気付いた主任が立ち上がって、エルフの賢者にあいさつをする。
エルフの賢者は仕事を続けてっと、手で合図を送り、透明の板の向こう側のベッドの上に寝かされた一人の男を見る。
「どう、うまくいってるかしら?」
主任のとなりに座るタイラに研究の成果の確認をすると、タイラは首を横に振り、
「ダメっすね。
賢者様の弟子が、いったい何を受け取ったのか。
どんな力を手に入れたのかは、まだ全然わからない状態です」
「そう。もう少し負荷を大きくして、力の発動を促してちょうだい」
「賢者様。いいんですか?
これ以上負荷をあげると、あの子壊れちゃうかもしれないっすよ」
賢者は眉間にしわを寄せ、唇を噛む。
「いいわ。やってちょうだい。
この子がどんな力を手にしてしまったのか。
それを知る事が、今の最優先事項よ」
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男は森を駆け抜ける。
男の背後から、もの凄い勢いで水がせまってくる。
森の中は足場悪く、倒れた木やコケ。
男にとって、ここを駆け抜けるのは難しく、せまりくる水に飲み込まれるのも時間の問題であった。
男の視線は、5メートルから10メートル前を捉える。
地面に状況、障害物などを見て、即座に自分が通る事が可能な最適なルートを考える。右へ、左へ、飛べ越え、くぐり、せまりくる水から逃げる為に、駆け抜ける。足を前に、少しでも遠くに足を前に、そして速く。
「ああ、くそっ、やばい。ミスった」
男は前を見て、自分の選択したルートが失敗だった事に気づく。
もう逃げ場がない。
振り返れば、もうすぐ後ろまで水がきている。
「ちっ・・・アウトだ」
男は、水に飲み込まれる。
とっさに木に捕まったが、水の勢いが強く流される。
「ごぽっ...水がっ...うがっ...」
水の中に飲み込まれた男は、木に打ち付けられ、意識が遠のいていくのを感じる。
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「君はあと何回、あの子を殺すんだい?」
透明な板の向こう側で眠る男を見て、
小人の賢者はエルフの賢者に問いかける。
「あの子に与えられた力が目覚めるまでよ。
それにあの子には生き残る事を考える事が必要なのよ。
魔力もない。体力もないあの子は、精神を鍛えるしかないわ」
モニターを悲しい目で見つけるエルフの賢者。
モニターの隅に表示されたテスト回数は4000を超えている。
「もうかなり長い時間続けてますが、もうそろそろ覚醒させますか?
それともまだ続けますか?」
エルフの賢者に視線を向けて、主任が問いかける。
「与えれた力の発動はまだ観測できてないし、
後2秒、いえ後4秒早く今の場所まで
たどり着けるようになるまで続けてちょうだい。
それができたら、一度覚醒させてくれていいわ」
「それはかなりハードルが高いですが・・・
わかりました」
主任は険しい顔になりエルフの賢者に返答を返す。
エルフの賢者は、主任に返答を聞いて隣の部屋に向かう。
ヘッドギアを付け、仮想現実環境で、何度も死を経験する弟子。
弟子のとなりに立ち優しい笑みで微笑む。
「早く私にあなたの力を見せてちょうだい。
いやな記憶はすべて消してあげるから」
エルフの賢者は弟子のひたいの上に手を置き、
賢者の弟子の今までの死の記憶を削除する。
仮想環境化で賢者の弟子は、力の発動をうながす為に何度も死の体験をする。
そして、魂の中にある精神を鍛える。
より早く、より精密に処理ができるように。
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男は森を駆け抜ける。
振り返ると、ものすごい勢いで水が迫ってくる。
・・・やべぇ、これ飲み込まれたら確実に死ぬ!
男は必死の形相で迫り来る水から逃げる。
逃げる事しか男にはできないからだ。
足場は悪く、倒れた木やコケなど、悪条件がかなり揃っている。
その中を必死に走る。
生き残る為に...




