みんなでテーマパークへ行く(2)『三文芝居』
金髪の少女が黒服の男をポケットに詰め込み終えた頃、銀髪の少女もチケット売り場から戻ってきて、合流をした。
あとは、小人の賢者だけか・・・
「あいつを探すのは簡単だからほかっておいても大丈夫よ」
「えっ、そんな簡単なの?」
「女性が悲鳴をあげてる場所があったら、
あいつはそこにいるわ」
・・・おいおい、なんだよ女性が悲鳴って。
「賢者様、
今のうちにチケットの購入をしてきましょうか?」
金髪の少女は、まぁ、ご主人であるエルフの賢者がいれば安心できるのか、小人の賢者のことは一切心配しない。あくまでもエルフの賢者にのみ使える従者だ。
「そうね。
そうしましょ」
女の子がそう言うと、すぐに金髪の少女はチケット売り場へ駆け出す。
銀髪の少女はその姿を見ると後を追うように追いかけていく。
周りからみればなんとも仲の良い双子の姉妹に見えただろう。
「んで、女性の悲鳴って、
あいつは何か悪さでもしてんのか?」
「あいつは存在そのものが悪だから
仕方がないことよ」
「・・・存在そのものが悪って」
ついさっき、ゴミ扱いされた自分と、悪扱いされる小人の賢者。
どうやら金髪の少女のあの物言いは、エルフの賢者の影響を受けてるとしか思えない。
金髪の少女と銀髪の少女を待っていると、テーマパークの中から「ドォーン」と爆発音が聞こえた。
テーマパークのアトラクションで何かやっているのだろうか?
爆発音のした方向を見えると、黒い煙が上がっている。
「どうやら、チビはもう中に入ってるみたいね」
「えっ?なんでそんな事わかるんだよ?」
「そんなの決まってるじゃない。
あいつが力を使ったから、精霊たちがざわついているもの」
「・・・いや、それ俺には見えないから・・・」
賢者には見える精霊の動きは、自分にはまったくみえない。
だからそんな事当たり前とか言われても。
「賢者様!」
金髪の少女が銀髪の少女の手を引いて慌ててこちらに戻ってくる。
「チケットは買えたかしら?」
エルフの賢者である女の子は黒い煙があがっているというのにマイペースだ。
金髪の少女はすぐにチケットが見えるように、チケットを持った手を上にあげた。
「それじゃあ、行くわよ。
どうやら、
私たちがこのテーマパークのアトラクションになっちゃうみたいだけど」
「・・・」
暴れる気まんまんなのね。賢者様は・・・
金髪の少女は最初に賢者にチケットを渡し、
その後自分にもチケット渡してくれた。
チケットをよく見ると、全員大人・・・俺学生なんだけどなぁ
3人の一番最後を歩いて、ゲートをくぐる。
初めてくるテーマパーク、なのにワクワク感より、
これから起こるかもしれない事への不安しかない。
ゲートをくぐると、案の定テーマパークのキャストの人たちが誘導をおこなっていて、みんな誘導により退避をしている。
そんな中、エルフの賢者と金髪の少女と銀髪の少女3人は堂々と中央を歩いて行く。まるで自分たちの姿はみんなに見えていない。
または、柱か何かだと勘違いして避けていくのだろう。
人だけはなく煙やスプリンクラーから出てくる泡すらも賢者を避ける。
・・・これ絶対賢者様なにかやってるだろ・・・
「確実にチビがなにかやってるわね」
先頭を歩くエルフの賢者がそう言って眉間にしわを寄せる。
「おいおい、なんで小人の賢者だってわかるんだよ」
「逃げて行く人たちをよくみなさい」
自分たちの逆方向に進む人たちをみると、
不自然なぐらい男性が多く、子供が少し混ざっているぐらいだ。
「・・・なるほどね」
「あいつ、絶対に遊んでるわよ」
・・・それで怒ってらっしゃるのねぇ・・・
黒い煙に近づいていくと、女性の壁が出来上がっている。
女性は興奮しているようで、「キャー」という叫び声と、
「コビィー」という黄色い声援が混ざっている。
「この向こうにいるみたいね」
エルフの賢者は男の襟元を掴んで、飛び上がって壁を越える。
空を舞って見えたものは、小さな男の子がトラかライオンの着ぐるみをきて、黒服の男たちと戦っている。
黒服の男たちはマシンガンのような物を持っていて、それを撃っているようだが、悲しいぐらい迫力のない音であり、小さな男がそこから発射された球を手を振り回して叩き落としていた。
・・・ああ、なんか完全にアトラクションになってるわっ・・・
エルフの賢者が黒服と小人の賢者の間に割って入るように着地すると、当たり前のように黒服の連中は賢者に攻撃を仕掛けてきた。
賢者が手をあげて、手のひらを黒服たちの方にむけると、発射された球は手のひらの少し手前で全て制止し、地面に落ちて行く。
おお、まるで映画のワンシーンみたいだ。
それを見ていた女性陣たちは拍手する。
「ちょっと、なんでこんなに目立ってるのよ」
攻撃してくる黒服たちを無視して、エルフの賢者は小人の賢者をにらみつける。
エルフの賢者のすぐ近くでその哀れな光景を目にすると、
ああっ・・・この人たち本当にかわいそう・・・
としか、思えない。
地面に落ちた黒い粒をエルフの賢者はもう一方の手で宙に浮かせて腕を降る。
「なっ、なんでこっちに攻撃してくるんだよぉ」
慌てて避ける小人の賢者。エルフの賢者が降った腕の先は黒服ではなく、小人の賢者だった。
その避ける姿を見て、「キャー」という女性の悲鳴が上がっている。
「賢者様...あんたいったい何してんだよ!」
「だってぇ、あいつらはほら、あの子たちがやってくれるし」
「んっ・・・ああ、そういう事ね」
黒服の男の背後には、怒りの表情で目から金の光を放つ金髪の少女、そして銀髪の少女はいつになく無表情で冷たい視線で黒服たちを見ている。この後黒服たちがどうなるのかは、もう想像がつく。
「ったく、やりすぎんなよ」
その2人を見て、やりすぎ注意の警告だけした。
「あの子たちから目をそらす為に、
私たちで芝居を一つうたないとね」
賢者は振り返り、小人の賢者を指差し、
「ねぇ、おチビちゃん。
よくも私の部下を痛めつけてくれたわね。
後悔させてあげるわ」
えっ・・・
小人の賢者は理解できてないようで、目を丸くしてこちらをみている。
目があい首を横に振る。
「そもそもおまえがこれだけ人を集めて、
目立つ行為をしたんだし、
おまえが責任とれ」
エルフの賢者が軽く一歩踏み出し、小人の賢者に接近。
右腕わざとらしく振りかぶって、小人の賢者を殴りつける。
小人の賢者は、驚きながら両腕で折りたたみ、エルフの賢者の拳を受ける。
「ちゃんと人間たちが視認可能な速度で動きなさい」
エルフの賢者は小人の賢者と接触した際、つぶやく。
小人の賢者はそのつぶやきを聞いて、理解したのか、
「うわぁ」という声をあげて後ろにのけぞった
その姿をみて、「キャー」「コビィー」という女性の声が・・・
すぐさま体制を整え「やったなぁ」と声をだして、小人の賢者はエルフの賢者に向かって、回転蹴りをするが、エルフの賢者に届かない。
エルフの賢者が避けたとかではない。
小人の賢者の足が短くて、届かず空を切っただけ。
「いや〜、可愛い!」と女性たちの声。
「コビィー、がんばってぇ」「負けないでぇ」と小人の賢者に女性たちから声援が飛ぶ。
・・・なに、この空気。それにコビィーって誰だよ!
エルフの賢者は、小人の賢者の頭を掴んで持ち上げる。
小人の賢者は
「このぉ、はなせぇ」
と声をあげながら手と足をバタバタして逃げようとする。
女性の悲鳴と何かが倒れる音が、いくつか聞こえる。
エルフの賢者は持ち上げた小人の賢者をポイっと、
地面に放り投げると、「イタッ」と声をあげて小人の賢者は尻餅をついた。
・・・ああ、わざとらしい。なんだこの三文芝居は・・・
でも、ここからどうやって小人の賢者に勝たせるんだよ?
ーーえっ、勝たせないといけないの?
・・・いや、ここで小人の賢者を勝たせないと、集まってる人たちが暴動を起こすぞ。
ーーこいつに負けるのは癪にさわるわね。
小人の賢者は立ち上がって、右腕を後ろに引いていかにも右腕でこれから攻撃しますよというポーズをとる。
その格好をするだけで、女性陣から声援が飛ぶ。
エルフの賢者は一歩下がって、その攻撃を受け止めるよう大きくポーズをとる。
小人の賢者が、エルフの賢者に向かって突進し、右腕を振りかぶって賢者めがけて打つ。
「賢者様、片付けが終わりました」
エルフの賢者と小人の賢者の間に割って入る金髪の少女。
金髪の少女は左手で小人の賢者の右腕をしっかりと受け止め、エルフの賢者に頭を下げる。
・・・おいおいおいおい!なんでこのタイミングでおまえが出てくんだよ!場の空気読めよ!
さっきまで黒服の男たちがいた場所には、黒服たちの姿は消えている。
あいつ、またポケットの中に黒服たちを詰め込んだんだな・・・
「そう、それじゃあ、
チビが壊した物の修復をやってきてちょうだい」
この状況でもエルフの賢者は冷静に次の命令を下す。
命令を受けた金髪の少女は、パッとその場から姿を消した。
あいつ、どんだけ空気読めないんだよ!
小人の賢者を見ると、顔をひくひくさせている。
ああ、わかるぜ。その気持ち。
小人の賢者は後ろに下がって仕切り直す。
「まだ仲間がいたなんて卑怯だぞ」
小人の賢者がそう叫ぶと、「そうよ!そうよ!」と女性たちも叫ぶ。
なんなんだろうなぁ。この展開。女性たちは完全に小人の賢者の味方。
小人の賢者の魅力に完全にいかれてしまっている。
小人の賢者とエルフの賢者のどちらも人間が視認できるレベルまで速度を落としての戦い。
小人の賢者がなにかやるたびに女性たちの声援が、そしてエルフの賢者がって男性の声援が。
・・・んっ。。。って観客増えてるじゃん!
金髪の少女と銀髪の少女のおかげで黒い煙も落ち着き、壊れた物も修復され今度は野次馬のようにお客が少しずつ戻ってきていた。
さっきまで賢者の弟子の周りには誰もいなかったのに、
今では賢者の弟子も観客の紛れ込むかのように人が増えている。
・・・おいおい、これ完全にテーマパークのアトラクションにされてんぞ。
エルフの賢者と小人の賢者の2人はなんとも楽しそうに戦っているフリをしている。
賢者の弟子はその光景を見て、大きくため息をついた。
「おい、そこの男動くなよ」
・・・えっ
背中に何か突きつけられる感触がする。尖った物ではないが、指のような柔らかな物ではなく、硬い棒のような物だ。
・・・拳銃かなにかか?
賢者の弟子は、ここまでの黒服の戦い方をみて、とっさに拳銃を思い浮かべた。
「最初から見ていたからわかってる。
おまえはあいつらの仲間だろ?
別に命まで取ろうという訳ではないんだ。
俺たちについてきてもらおうか」
「・・・よりにもよって、俺を襲ってくるとは、
誰だかわかんねぇけど、やめておいた方がいいぜ」
「おまえ、背中に突きつけられてるのが
なんなのかわかってないのか?」
「わかってるけど、
俺を襲うと、あの人絶対切れるから」
「いいからついて来いって言ってるんだ」
男は自分の手を掴み強引に観客の後ろに連れていこうとする。
・・・大丈夫だから、なるべく目立たないように助けてくれよ。
賢者の弟子は、自分の背中に銃口が当てられた瞬間から、エルフの賢者の視線に気づいていた。
あのエルフの賢者の視線は完全に怒ってる。
三文芝居のために、笑顔を浮かべていたが、完全に怒ってる。
その怒りの矛先は、間違いなく今自分に銃口を向けてる後ろの男だ。
今、ここでエルフの賢者の怒りが爆発すれば、悲惨な光景しか想像できない。
賢者の弟子が銃口を背中に当てられても冷静に対処できたのは、銃よりも怖い存在が、目の前で自分に銃口を向けている相手に強い殺気を放っていた事。
そのエルフの賢者を心の中でなだめる事に必死だったからだった。
男に腕を引かれて、エルフの賢者たちから離れていく。
徐々に人が少ない場所に...
・・・ああ、この人確実に死んだわ。。。




