賢者は無敵?(2)『無敵の天敵は最弱』
朝食を終えたエルフの賢者は、シャワーを浴びる為にお風呂場にむかい、自分はゴミだしのために、ゴミをまとめる。
後をついてくる男の子もゴミをまとめるのを手伝ってくれる。
「なぁ、おまえも賢者なんだろ?
賢者がこんな場所でゴミだしの手伝いなんかしてていいのかよ?」
男の子は苦笑いを浮かべて頭をポリポリかきながら、
「ほら、エルフの賢者ってなんでも実力行使しちゃうでしょ。
だから、僕は君の見張りって訳じゃなくて、
彼女の見張りでこっちに来てるんだよぉ」
「はぁ、あいつの見張り?」
「うん」
「でもさぁ、
あいつの固有魔法で記憶の改竄されちゃったら、
そんなの意味なくね?」
話をしながらも、手はしっかりと動かし、ゴミ袋の縛る。
「僕は命の大精霊の加護を受けてるから、
彼女の固有魔法を防ぐ事ができるんだよぉ」
「えっ、おまえってそんな事ができんの?」
「そうだよぉ。
こう見えて、彼女の天敵的な存在なんだよぉ
だから、僕をもう少し敬い・・・」
金髪の少女の視線に気づき、男の子は話すのを止めた。
「賢者様、
何をお話しされているのですか?」
「いやぁ、
今日はどこにでかけるのかなぁって」
どうやらこの小さな男の子は嘘をつくのが苦手らしい。
金髪の少女にじっと見られて、顔からどんどん汗が出ているのがみえる。
「いや、こいつがエルフの賢者様の天敵だって言うからさ」
小さな男の子には悪いが、ここは金髪の少女のご機嫌をとろう。
「確かに、
小人の賢者様は命の大精霊様の力を利用可能ですので、
エルフの賢者様の固有魔法を防ぐ事が可能ですが、
戦闘になった場合は、
エルフの賢者様に勝つ方法があるとは思えませんが」
ぬぉぉ、こいつなんて事はっきり言うんだ。
小人の賢者がかわいそうだろ。
「戦闘になれば勝ち目はないかもしれないけど、
エルフの賢者と僕とじゃ、
戦闘になる前に終わっちゃうからねぇ」
・・・戦闘になる前に終わる?
それって、記憶の改竄とかで終わるって意味か?
「それは小人の賢者様のお力ではなく、
命の大精霊様のお力では?」
「まぁ、そうなんだけどねぇ」
「なぁ、その命の大精霊ってのは、
うちのエルフの賢者様より、
そんなに強いのか?」
記憶の改竄ができる物より凄いチート持ちなんか、
ぶっちゃけ想像できない。
そんなのを倒す事ができる奴ってのは、
いったいどんな力を持ってるんだ?
「命の大精霊は強くなんかないわ。
ただあいつの力は厄介なだけよ」
背後から声がして、振り返るとバスタオルを身体に巻いた姿のエルフの賢者がたっている。
「うほっ!
ちょっ、なんつぅかっこうで家の中歩いてんだよ!
服着ろ、今すぐ服着ろ!」
「賢者様、申し訳ありません。
すぐに服の用意をいたします」
金髪の少女が慌てた様子で廊下をかけていく。
「そんなに急がなくていいわよ」
そんな金髪の少女を気遣ってエルフの賢者が声をかけるが、金髪の少女はその声を無視して行ってしまった。
「私の裸なんて、
もう見慣れてるでしょ?」
「いや、見た事ねぇよ!
って、異世界ではもしかして・・・」
異世界での記憶がない自分には、この手の話は苦手だ。
もしかしたら異世界ではっとついつい考えてしまう。
それを想像すると耳まで真っ赤になるのが自分でもわかる。
「安心しなさい。ただの冗談よ。
君は私の下着姿を見ただけで倒れちゃうんだもん」
「下着姿を見たのかよ、俺は!」
賢者のフォローがフォローになってない。
恥ずかしくて全身が熱くなるのがわかる。
「もうあんまりいじめるとかわいそうだよぉ」
そんなエルフの賢者に男の子が横目でチラッとみながら話す。
「あんまり彼をいじめるなら、
命の大精霊様に話して、
君を結界に封印してもらうからねぇ」
「命の大精霊、
本当に忌々しい大精霊よね。
最弱のくせに、
閉じ込めるしか芸のない最低な奴よ」
・・・最弱?エルフの賢者様を閉じ込める力を持ってるくせに?・・・
廊下の壁側を向いて、目を瞑り聞き耳をたてる。
「あいつの力はすべてを遮断する結界。
自分すらもその結界の中に閉じこもってるから、
どの精霊の力も使えないのよ。
あいつは結界以外のすべての魔法が使えない。
どの大精霊より、賢者より弱い最弱のくせに、
誰も逆らう事ができないのは、その結界のせいよ」
・・・魔法は使えないのに、すべてを遮断する結界か・・・
「僕もだけど、
エルフの賢者も命の大精霊様に閉じ込められたら、
絶対に出る事できないもんねぇ」
「弱いくせに、
その力のせいで自分が強いとか
勘違いしてる厄介な奴よ」
「物質世界におけるすべての生命は、
命の大精霊様の力で生きてられるんだし、
あんまりひどい事を言っちゃだめだよぉ」
すべての生き物が命の大精霊様の力ってか・・・
ってことは、すべてはそいつの手の上って事なのか?
弱いくせに?
少しすると、誰かがかけてくる音が聞こえる。
「賢者様、お待たせいたしました。
本日は御用邸を考慮して、こちらのお召し物を」
「ありがとう。
後ろから抱きついてあげようかと思ったけど、
また意識をなくしちゃうと
遊びにいけなくなっちゃうからやめておくわ」
・・・ああ、頼む。服を着てくれ。
・・・
「もう行ったから大丈夫だよぉ」
男の子の声がして、ほっとして目を開く。
「あいつは、本当に羞恥心って物がないのかね?」
「うぅん。僕らには性別っていう感覚がないからねぇ」
・・・
「ゴミは早くゴミを出してきたら」
金髪の少女がじっとこちらを睨みつけてくる。
「ああ、忘れるところだった。
ゴミだし行ってくる」
「一番大きな生ゴミも一緒に回収されてきなさい」
「おまえ、それ完全に俺の事言ってるよな?」
「さぁ、私はあなたの事なんて一言も言ってないし、
それはあなたの勝手な被害妄想なんじゃない」
「・・・こいつ・・・」
ゴミ袋を持って、玄関で靴を履く。
「って、おまえはここでお留守番だっつぅの!」
一緒に外に出ようとした男の子を止める。
こいつが外にでると、近所のおばちゃんたちに捕まって、
しばらくは家の中に帰ってこれない。
こいつと外に出かけると、時間がかかって仕方がない。
玄関の扉を開け、
町内のゴミ置場に目をむけると案の定、
近所のおばさんたちが世間話をしている。
「おはようございまぁす」
挨拶をすると、
「あら、今日は一人なの?
弟さんや妹さんたちは?」
・・・やっぱ、うちの弟と妹目当てかよ。
「いや、今日は自分が当番で」
自分が当番だと話すと、一気におばさんたちの顔が曇る。
そんながっかりしないでくれよ。
なんか超つらいんだけど・・・
ゴミを置き、すぐにその場をさろうと家の中に帰る。
俺の立場っていったいなんなんだろ・・・
「おかえりぃ」
玄関で自分の帰りを待っていた男の子の頭を掴んで、とりあえず外で味わった屈辱の仕返しといわんばかりに、頭をグリグリする。
「ちょっと、何をするんだい。
君の力だとぜんぜん痛くはないんだけど、
せめて理由ぐらい話してほしいよ」
「・・・痛くないのかよ」
「うん、ぜんぜん痛くないよ」
思いっきり力を入れてやってみるが、男の子の表情はかわらない。
「ああ、くそっ
なんか、力を強くする魔法とかないのかよ」
「あっても、君は利用できないよぉ」
・・・その一言がいつも余分だっての!




