賢者は無敵?(1)『記憶の改竄』
「おはよう」
「おはようございます。エルフの賢者様。
じゃなくて、姉さん。
後、ベッドに隠れてる俺の弟」
すぐとなりに座っているエルフの賢者の顔を見て、自分は笑みを浮かべる。
しかし、異世界にいた時の記憶がないとはいえ、エルフの賢者もこの子供みたい賢者もかなり凄いのだろうというのは、生活をしていてわかった。
「やっと起きられましたか。
すぐに朝食の準備をいたします」
扉を隔てた廊下から金髪の少女の皮肉たっぷりの声が聞こえる。
「なんであいつは俺にいつも冷たいんだ?
異世界であいつに嫌われるような事なにかやったの?」
自分を指差して賢者に聞くと、
「君、あの子のこと全然利用してないもの」
と返事が返ってくる。
あの子のこと全然利用してないって言われてもなぁ・・・
利用するってだいたいなんなんだよ。
表現がおかしくないか?
「記憶がないって罪だよねぇ」
小さな子供がベッドから起き上がって言う。
・・・そんな罪づくりな事を俺はしてんのかよ...
異世界の俺ってどんなだ。
異世界の記憶がない自分には、異世界で自分が何をしているのかまったくわからない。
からかわれているだけならいいんだが、もし本当にあの子の事を傷つけてしまうような事をしているのなら、もう頭を下げるしかない。
「お兄様、お召し物をお持ちしました」
「あっ、ありがとう」
銀髪の少女が、服を持って部屋に入ってくる。
表向きには、双子の妹の一人なのだが、双子の姉の金髪の少女と違って、完全に服装通りのメイドとしていろいろ世話をしてくれる。
ベッドから立ち上げって、服を受け取る。
服からはものすごく良い匂いがして、自分の服とは思えないほどだ。
洗濯する人が変わると、服の匂いや服についた汚れの落ち方も全然違うんだなぁっと一緒に生活をし始めた当初は思ったが、実際には魔法を使ってえいやぁっとやっているので、綺麗になるのは当たり前で、匂いも魔法でつけている。
金髪の少女と銀髪の少女の2人が我が家の家事全般をやるようになってからは、我が家の白物家電たちは活躍場を失ってしまった。
パジャマを脱いで、渡された服に着替える。
一緒に暮らし始めてすぐの頃はエルフの賢者がいる前では恥ずかしかったのに、今はもう慣れてしまい、恥ずかしくもなんともない。
慣れとは本当に恐いものだ。
自分の着替える様子を見て、エルフの賢者はクスクスと笑う。
「恥ずかしくないとか言っておきながら、
ずいぶん顔が赤くなってると
お姉さんは思うんだけど」
「・・・うっさいわ。
勝手に人の心の中をみないでくれよ」
そう、このエルフの賢者と呼ばれる、表向きには自分の姉で契約だかなんだかで、自分の心を読む事ができる。
だから、自分が考えていることも、嘘も全てが見抜かれてしまう。
とてつもなく厄介で、めんどくさい姉だ。
「お姉さんに対して、
厄介だとか、めんどうとかは言っちゃだめだよぉ」
・・・ふんっ。
「胸を揉まれるぐらいなんとも思ってないから、
今夜こそ、一緒に寝ましょ」
「・・・」
優しい笑顔でとんでもない事を言う賢者。
「お願いだから俺の平穏な生活を返してくれ」
エルフの賢者と一緒に生活するようになってから、
心拍数があがりっぱなしだ。
このままだと、絶対に早死にする。
「だから、大丈夫だって。
水の精霊がすぐに治してくれるから」
「もうどんだけ非日常系なんだよ。。。」
「君、僕もこっちの世界に来てるの忘れないでくれよぉ」
小さな子供がベッドの上で腕組みをしている。
・・・ああ、おまえが一番の問題児だよなぁ。。。
賢者様2人はどこでもやりたい放題だ。
ここ数日暮らしてみて...どこに行っても問題が起きる事しか想像できん。
賢者の弟子は深くため息をつく。
「それじゃ、朝ごはんを食べにいきましょ」
エルフの賢者が言葉を発するのが先か、
転送魔法陣が発動するのが先か、
どちらが先だったかはわからないが、
自分の身体を緑色の光の粒が取り囲む。
「1階に降りるだけの事に、魔法使うなよ!」
と言葉を発した時には、1階のリビングについており、
金髪の少女がものすごい冷たい目で見つめてくる。
「いやぁ、おまえに行った訳じゃないからなぁ」
「ふんっ、ゴミに何か言われて傷つくほど私はヤワじゃないわ」
・・・
この金髪の少女と仲が悪いのって、
賢者様の魔法が原因で何かあったんじゃないのか?
リビングを緑の光の粒で充満され、エルフの賢者と小さな男が姿をあらわす。
「なんて顔してるの?」
「いやあのね。
階段降りるぐらいの事、
俺普通にできるからね。
そんなんで魔法使っちゃダメ!
いくら家の中だからって、
なんでもかんでも魔法使うのは禁止!
人の記憶を勝手に変えちゃダメ!」
エルフの賢者は、固有魔法とか言うので人の記憶の改竄を簡単にやってのける。
外で魔法を使った時、その目撃者は固有魔法でその記憶を消去してしまう。
もう本当にダメダメな賢者だ。
家でゲームをして負けても記憶の改竄で、エルフの賢者が勝った事になる。
完全無敵のチート機能だ。
ついこないだも、
商店街のくじ引きで、
くじを引く前に記憶の改竄をして、
くじが当たった事にしてしまった。
どこかの小説で、
記憶の改竄ができる者と、
ゲームの勝負という話があったけど、
実際には、記憶の改竄ができる者との勝負は、
勝負を開始する前に、
勝負をして負けたと記憶を改竄してしまえば、
勝負をする必要もなく、勝利できる。
勝負にならないというが現実だ。
無敵すぎる。。。
「誰に向かって話してるの?
早く席について朝ごはんを食べましょ」
「へいへい」
椅子に座ろうとすると、
椅子は勝手に動いてテーブルとの隙間を確保してくれる。
我が家の家具は、もう完全にエルフの賢者の手の中だ。
キッチンから宙を舞って飛んでくるポットとカップ。
一緒に暮らしてるみんなはあたりまえのように振る舞ってるけど、
おかしいからね!
ポットとカップは空飛ばないからね!
「君は本当に小さな事こだわるわねぇ
そんなじゃ、そこのちっちゃいのみたいに、
ちっちゃいままになっちゃうわよ」
となりの席に座るエルフの賢者が自分の皿にパンを取りながら話す。
「いや、
そこのちっちゃいのはドワーフ族だからちっちゃいんでしょ」
突っ込みを入れると、
小さな男は「そうだそうだ」と、
腕をあげてエルフの賢者に抗議している。
エルフの賢者はその抗議を完全に無視してパンを食べる。
はぁ、俺の人生いったいどこでどう間違ったんだろう。
今までの静かで平穏な日々はどこへ・・・
「とか、心の中で言ってけど、
本当は明るくなってうれしいくせに」
・・・うがぁぁぁぁぁ
「もうなんなんだよ。
心の中勝手に見ない、読まない!」
「・・・君も本当に成長しないよねぇ」
小さな男の子が、パンに手をのばして言う。
「うっさいチビ」
賢者の弟子は手を伸ばして、
小さな男の子の手がとどく位置にバケットを動かす。
「君って、本当に
言ってる事と行動がともなってないよねぇ」
「・・・うっさいわ」
「ゴミは喋ってないで、早く食べなさい。
今日はあなたがゴミ出しするんでしょ」
金髪の少女からの冷たい注意。
ゴミがゴミ出しって、もっと言葉選べよ。
「ゆっくり食べて大丈夫よ。
それに今日は祝日だから、
どこかに遊びにいきましょ」
「はぁ?今日は月曜だし、学校だ...よ」
エルフの賢者に突っ込みをいれながらカレンダーを見ると、今日の日付が祝日になっている。
「・・・なぁ、記憶の改竄って、
祝日とかもいじれちゃう訳?」
「そんなのあたり前じゃない。
私の固有魔法は、
個人の記憶の改竄するような適当な物じゃなくて、
世界の歴史を歪める物ですもの。
私の力を使えば世界を作り変えるのも簡単な事よ」
・・・世界を作り変える?やっぱ、この賢者、無敵だわ。




