異世界3日目 元の世界へ『新しい家族』
「ピリリリリリッ、ピリリリリリッ、ピリリリリリッ」
目覚まし時計が鳴っている。
もう朝か、後5分、いや後10分は寝ても大丈夫だ...
男は目覚まし時計を止めようと、右手で時計を探す。
ん?なにか柔らか物がある。なんだろこれ。
目を少し開いて右手が掴んでいる柔らかい物を見る。
膨らみが2つある。
この膨らみ、もの凄く柔らかくって手を離すと元の形状に戻る。
こんな物、うちのベッドにあったか?
その膨らみがなんなのかわからず、何度か手でさわって確かめた後、身体を起こしてその2つの膨らみと、その膨らみの先にある物をみた。
「*+◇※▲∴÷;¥!”#$%&’()=◎〜|▽♪>?+*‘P`={}_?>□●」
驚きのあまり、声にならない叫び声を上げ、後ろにのけぞりベッドから転げ落ちる。
お尻を打ち、後頭部を打ち、もの凄く痛いが、
ただ今はそれ以上にベッドの上で寝ている物に驚き、
開いた口がふさがらない。
「なっ、なんで俺のベッドに女の子がぁ」
ベッドを指差して、叫び声をあげる。
「別に胸ぐらいだったら、
どれだけ触っても怒らないわよ」
ベッドの上で寝ていた女の子が起き上がり、話しかけてきた。
女の子を指さした状態で、必死に何かを言おうとするが言葉がでない。
「・・・記憶がないって、本当に厄介よね」
女の子は眉間にしわを寄せてこちらをじっとみてくる。
動けなくなった自分に女の子は近づき、背中をさすってきた。
「落ち着くまで待っててあげるから安心しない」
見た事のない女の子に背中をさすってもらいながら、深呼吸を繰り返す。
息を深く吸い、ゆっくりと吐く。それを何度も何度も繰り返す。
「そう、ゆっくりでいいからね。
私は君のとなりで待っててあげるから」
目をつむり、深呼吸をしながら考える。
昨日は、夜遅くまでゲームをして戸締まりを確認して寝た。
部屋には誰もいなかった。
戸締まりをする前に、家に入りこまれた?泥棒?
こんな何もない家に?
でも、泥棒だったらなぜ自分のベッドで一緒に寝ていた?
こんな可愛い女の子がなぜこんな所に?
目を開けて、すぐとなりに座る女の子を確認する。
黒い髪が日の明かりを受けて赤っぽく見える。
ものすごく綺麗な肌。
そして、もの凄く可愛い。
女の子は視線に気づき、男の顔を見て笑みをこぼす。
男はその笑みを見て、一瞬固まった後、すぐに顔をまっすぐ前にむけて固まった。
誰なんだこの子?なんで自分の部屋にこんな可愛い女の子がいるんだ?それに...
男は女の子の胸に視線をむける。
顔が耳まで赤くそまるのがわかった。
女の子が背中をさすってくれているが、
男の心臓はこれ以上ないぐらいに激しく鼓動を打つ。
「君は相変わらず、心がおしゃべりさんだねぇ。
病気を治してあげたのに、本当に変わらないね」
女の子が笑みを浮かべて言う。
そんな女の子の言葉を聞いて、防空壕の事を思い出す。
もしかして、あの賢者とか、魔女とかいう人の知り合い?
異世界に迎えにきたのか?
「君は異世界から帰ってきたんだよ。
異世界での記憶は異世界の身体の脳に保存されているから、
残念だけど今の君には、異世界の記憶がないだけだよ」
女の子は笑みを浮かべたまま教えてくれる。
あの、心の声って聞こえてたりするんですか?
「うん。ちゃんと聞こえてるよ」
・・・
「ぬはぁっ・・・・」
あの時、緑色の光の粒を見た後...確かあの美人の女性に家に帰っていいと言われて家に帰った。
あれから、低血圧症状もほとんど出なくなって、内出血もおさまっている。
内出血が全然おきなくなった事で、本当に病気が治ったのだとわかった。
この人は、あの美人な女性のお知り合いの方?
それなら...夜中に自分の家に入る事ぐらい簡単だろうし...
「あの時の女性は私だよ。
むこうで色々あって、身体を変えたんだ」
「は?!身体を変えた?」
・・・どういう事?身体を変えた?確かに今そういったよね...
なに?整形の事言ってんの?でも整形にしては変わりすぎってか別人じゃねぇか!
どうなってんだよ。
「ねぇ、どうするのぉ?
こんなルール違反しちゃってぇ」
ベッドの方から、男の子の声がする。
ベッドを見ると、確かに誰かが隠れていてもおかしくない膨らみがある。
今回は2人で来たのか?
「この子は大精霊と契約してるんだし、
他の子たちと同じルールだと危ないでしょ?」
「・・・それは知識があればの話だと思うんだけどぉ」
「もしもの危険に対応するのも私たちの役目よ」
「・・・本当に君は自分に都合がいいようにルールを捻じ曲げるんだねぇ」
「それよりも、隠れてないで姿を見せなさい」
「もう、仕方がないなぁ」
布団がめくれあがり、小さな男の子が姿を表す。
「これで僕も君の片棒を担いだわけだぁ」
小さな男の子は、女の子をじっと見つめている。
「安心しなさい。
他にもたくさん連れて来てるから」
女の子はそう言うと、笑みを浮かべて手をあげる。
部屋の扉が開き、部屋の中にメイド服を着た金髪の少女と銀髪の少女が入ってくる。
金髪の少女は不満そうな表情を浮かべ、こちらをじっとみてくる。
「なっ、なんなんだよっこれ?
どういう事なの?」
「あなたを監視するために、みんなでこちらに来ただけよ」
「・・・監視?」
銀髪の少女は手にポットとカップを持っており、一人ずつお茶を入れて回る。
女の子はカップを受け取ると「ありがとう」とほんの少し笑みを浮かべて銀髪の少女にお礼を言う。
・・・かわいい・・・
「あなたは私たちの世界で、
大きな力を手に入れてしまった。
だから、元の世界に戻ってからも
私が監視する事にしたの」
「大きな力って、
俺ぜんぜんそんな記憶ないんですけどぉ
あっ、ありがとう」
「どういたしまして」
銀髪の少女からお茶の入ったカップを受け取り、
お礼をいうと銀髪の少女は小さくお辞儀して笑みを浮かべる。
・・・この子もかわいい・・・
「って、いたっ」
なにかが飛んできて、自分のおどこにあたり、思わず声がもれた。
飛んできた方向を見ると、金髪の少女が眉間にしわを寄せて睨みつけてくる。
「なっ、なんなんだよ」
「デスク、記憶がないんだから、
あんまりいじめちゃダメよ」
「申し訳ありません。賢者様。
この男が私のチェアをみて、
鼻の下を伸ばしていたのでつい」
金髪の少女は女の子に対して頭を下げる。
いや、頭を下げるなら女の子に対してじゃなくて、俺にでは?
「話を元に戻すから、君もこっち向いて」
女の子に両手で頭を持たれて、強制的に女の子の方をむかされる。
女の子の冷たい手が頭をしっかり掴んでいる。
「さっきも話したけど、
私たちの世界の記憶は、
こちらの世界には持って帰れないの。
だから、今の君には私の世界で過ごした日々も
何があったかも思い出す事は不可能なのよ」
「・・・不可能って、そんなのひどすぎじゃ」
「これもルールよ。
私たちの世界で見たことや聞いたことってのは、
この世界を変えてしまう危険があるから」
「・・・その、そっちの世界の記憶がないから、
そんな事言われても、はいそうですかとは・・・」
「ルールだからねぇ
君が何を言おうが、それは認めてもらうしかないよぉ」
小さな男の子が手にカップを持ったまま立ち上がっていう。
「認めて・・・か」
うつむき、目をつむって考える。
ルールだから、仕方がない。
あまり素直に認める事はできないが、
これ以上、記憶に関する事にこだわっても先に進まないよな。
「それで、自分を監視するって、
まさかとは思うけど、
ここで一緒に暮らすとか言いださないよな?」
「君、この家で一人暮らしなんでしょ?
部屋はたくさん余ってると思うんだけど」
「いや、部屋は確かに余ってはいるけど・・・」
男の一人暮らしに、いきなり女の子が3人と子供が1人って、近所で変な噂が立つだろうし、ちょっとそれだけは・・・
「ああ、それは気にしなくても大丈夫よ。
私はあなたのお姉さん。
彼女たちは、あなたの双子の妹で、
こいつはあなたの弟って事で、
もう世界の記憶は上書きしておいたから」
・・・なっ、なんか物凄い事簡単に言ってるけど、世界の記憶、この人たちが俺の家族に?
驚きのあまり開いた口がふさがらない。
「よろしくお願いします。お兄さま」
金髪の少女と銀髪の少女が声をそろえて言う。
その後を追うように小さな男の子が、
「よろしくねぇ。
お兄ちゃん」
と笑顔で言う。そして最後に
「これからよろしくね。私の可愛い弟」
可愛い女の子が笑みをこぼして言う。
この笑顔を見ると、顔があつくなるのがわかる。
いきなりの出来事で、なにがなんだかよくわからない。
だけど・・・どう反論しても無駄なような気がして、言葉を飲み込みこんだ。
こいつらに何を言っても無駄だろうし・・・この広い家で一緒に暮らす家族ができる事がほんの少し嬉しい。




