異世界2日目ラボ(5)『傲慢』
「君は、翻訳魔法の事は知っているかな?」
「もし聞いていたとしても、
色々な事があったので今ははっきり言って覚えて、痛っ、
ちょっ、人が話してる最中に賢者様何飛ばしてるんですか!」
話している最中に横槍を入れるように、おでこに何かを当てられた。
誰が当てたかは、実際にはわからなかったが、この中で自分にちょっかいを出してくるのは賢者だけだ。
「ここでは気をつけた方がいいぞ。
頭上から、いきなり水が落ちて着たり、
氷の塊がっと、まぁ君も体験してくれ」
主任はチラッと賢者の顔を見て、苦笑いを浮かべる。
ああ、この人も相当賢者にいろいろやられたんだろうなぁ・・・
「よし、それじゃ最初から話をしよう。
この世界には翻訳魔法と言って、言葉を翻訳してくれる魔法がある。
魔法と言っても実際は、
物質世界専用のナノマシーンに魔方陣を書いた物と、
物質世界と精神世界で両方で利用が可能な魂の外殻に魔方陣を書く2つの方法がある。
ようは、魔法じゃなくて魔術のたぐいだ。
この物質世界では、音は耳で聞くだろう。
そして、耳から脳へと伝達される訳だ。
一般的な翻訳魔法ってのは、
この耳と脳との間にナノマシーンが入り込み、
耳で聞いた言葉をナノマシーンに書かれた魔法陣が、
その人が理解できる言葉に変換して脳に送るっていう魔法だ。
翻訳の情報については、
このラボの中の情報室に全て保管されてて、
すべての翻訳魔法はここの情報とつながってる。
ここまで話した事には、ついて来れているかな?」
主任の真剣な眼差しを見ると気後れしてしまう。
精神世界について、自分は何も知らない。
どうする、この場で聞くべきなのか...
「精神世界ってのは、君たち人間にはきっと理解できないわぁ。
君は精神世界に行っても記憶を保持できないのぉ。
だから、精神世界に行っていたとしても、
それを思い出す事も、その存在も気づく事ができないのよぉ」
エルフの賢者が悲しそうな表情でこちらを見ている。
なぜ、そんな悲しそうな表情を浮かべるのか・・・
その理由を話してほしい。
「君には魂の外殻に翻訳魔法をうってあるわぁ。
だから、どの世界に行っても言葉は翻訳されるから安心してくれていいわぁ」
聞きたいのはそれじゃない。
「そういえば、もう契約済みでしたね」
主任の質問にエルフの賢者はゆっくりとうなづく。
「それでは、この続きを説明してもいいかな?
今の賢者様の話を聞く限り、
君にはまだ精神世界の事は早そうだしね」
主任の表情が寂しそうに見える。
・・・なぜ?なんでみんなそんな表情になるんだ?
目をつむり、天を仰ぐ。
自分は精神世界の事は何もわからない。
だから教えてほしい。
でも賢者は、理解できないという。
それを自分に言った本人がなぜそんな悲しい顔を浮かべる。
言いたいことがあるのなら言って欲しい。
伝えた事があるなら伝えてほしい。
そんな悲しい顔を浮かべるくらいなら全部自分に話してほしい。
「今の君では精神世界は早すぎる!
いじょっ!」
ラボの一室、エルフの賢者の怒声が響きわたる。
「その子に翻訳魔法の話しが終わったら連絡して」
エルフの賢者は、主任にそう言うと足早に部屋を出ていった。
今、間違いなく賢者を怒らしたのは自分だ。
そんなに精神世界について...
タイラさんが自分の肩を叩いて、笑顔をこぼす。
「賢者様は君にはそこにまだ行ってほしくないんだよ。
人間がそこにたどりつく時ってのは、身体から魂が離れた時。
簡単に言えば死んだ時だ。
身体を失った魂は精神世界をさまよい外殻を破って、精神のみになる。
精神だけになって、新しい命の精霊と結びつくんだ。
命の精霊と結びついた精神は魂の外殻を作って新しい身体に入る。
人間がなぜ、前世の記憶がないのか知っているかい?
人間は、記憶を脳に保存して魂には保存しない。
身体が変われば、脳も変わる訳だから、
以前入っていた身体の記憶を失ってしまう。
人間は精神が同じでも、身体が変われば記憶も変わってしまう」
「だからって、なんであんなに」
「君が精神世界の存在を知るには、
君が君ではなくなる時って事だからだよ。
しかも君は、その精神世界の記憶すら、忘れてしまうんだからね。
人間には決して精神世界を知る事はできないんだ」
死んで、記憶を失う。
「賢者様は自由に精神世界と
この物質世界を行き来できるけど、僕らは違う」
「だからって、言葉で教えてくれるぐらい良いじゃないですか?」
「ちょれが早いというのがわきゃんないのかな?ちみは」
えっ?部屋の中、主任さんとタイラさんのさらに奥く、小さな女の子がいる。
ブロンドの髪。透き通るような白い肌。青く透き通るような瞳。
「ちからもにゃいくちぇに、ちりたがる」
その小さな女の子の存在に気づいた瞬間から
胸が苦しくなり、空気が重い。呼吸がしずらい。
「ちみ、ちゅこちばかり傲慢だよ」
意識が遠くなる。
この子はいったい...
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「まさか君がこんな所にまでくるなんてねぇ」
小人の賢者は、自分より小さな女の子と歩きながら話しをする。
「エルフの賢者のでちを見にきたのよ」
小さな女の子はてくてくと足を進める。
「それでどうだったのかな?」
小人の賢者は、小さな女の子と目を合わさないように前だけをみて話しを続ける。
「ころちゅつもりだったけど、命の大精霊にちゃまされたわ」
小人の賢者は苦笑いを浮かべている。
「あの子ちわ無理よ」




