異世界2日目エルフの城(3)『エクレア』
「姫様ぁ。なぜこんな所にいるのかなぁ?」
暗闇の中、聞き慣れた女性の声がする。
この声は間違いなくエルフの賢者だ。
声を聞き目が潤む。『助かった』
「エルフの賢者様、っと、なんでおじいさま?」
目の前にいるだろう、高い声の女の声。
エルフの賢者はわかるけど、おじいさま?
「いやぁ。僕の可愛いお姫様。元気にしてるかな?」
聞き覚えのある男の子の声。この声の主は小人の賢者だ。
目の前から、何かが左にかけていく足音が聞こえる。
その足音を追って左の方向を見ると、うっすらと光を放つエルフの賢者。
全身から緊張が抜ける。
エルフの賢者の姿が見えた瞬間、止まっていた呼吸も動き出し、身体の中にずっとたまっていた息を吐き出す。
「賢者様、マジおせぇ。もっと早く迎えにきてくれよ」
「君が勝手に行動するからダメなんでしょぉ」
うっすらと光を放つエルフの賢者はすぐ近くまで来てくれる。
賢者は笑みを浮かべて手をさしのべてくれる。
はぁ〜、深く息を吐く。目にたまった涙をぬぐい。
差し出された手を握り、立ち上がる。
緊張から解放された足は、膝がガクガクでまっすぐ立っていられない。
膝に手を当て、なんとか倒れないように踏ん張る。
「私に寄りかかってくれてもいいんだよぉ」
エルフの賢者は笑みを浮かべ、両手で自分を抱きかかえてくれる。
背中に回った賢者の腕のぬくもり。
暗闇の中、うっすらと光る賢者。
なんだかずいぶん久しぶりに感じる。
賢者の背中に手を回して、賢者を抱きしめる。
賢者のぬくもりを身体で感じて、涙が止まらない。
恐怖から解放されて安堵する。
・・・
「ここから出口までは私と一緒にいこうねぇ」
エルフの賢者は、弟子を持ち上げお姫様抱っこする。
「なんで?」
「きみぃ、暗くて下が見えないでしょ?
それに暗闇の中ならぁ、
誰も見てないから恥ずかしくもないでしょぉ」
エルフの賢者がいう事もわかる。
自分には暗くて下がまったく見えていない。
でも、自分は知ってしまっている。
この脇に触れているのが、賢者の胸である事も。
自分の心臓が早く動いているのがわかる。
顔もきっと真っ赤だろう。
「姫様ぁ、それでは出口に向かいますよぉ」
賢者は暗闇に向かって言葉を話す。
そういえば、さっきも姫様と言っていた。
それに、暗闇の中の女の声の『おじいさま』と、
聞き慣れた男の声の『僕の可愛いお姫様』。
エルフの賢者が『姫様』と言った物を、
小人の賢者が『僕の可愛いお姫様』と言っている。
頭の中にクエスチョンマークがいくつも浮かび上がる。
「君と一緒にいたあの子は、エルフの王女よぉ。
今のエルフの王妃は、小人の賢者の娘なのよぉ。
だから、あの子はエルフとドワーフのハーフエルフ」
「エルフとドワーフとのハーフエルフ?
って、王女様???」
「そうよぉ。
ハーフエルフの王女様よぉ。
小人の賢者から見れば、孫よぉ」
・・・いや、ハーフエルフもびっくりだけど、王女が何でこんな所に???
「僕の孫のエクレアだよ。仲良くしてあげてねぇ」
小人の賢者の声がするが、暗闇でどこにいるのかわからない。
「わりぃ。
そう言われても真っ暗で見えないし、
なんでおまえの孫はこんなとこにいるんだよ」
「うーん。お城を抜け出そうとして、落ちちゃったのかな?」
「・・・」
エルフの賢者の顔を見ると、むすっとした表情を浮かべている。
「この国の抱えるもう1つのガンよぉ」
なるほどね。小人の賢者の血筋のドワーフ。
賢者の言いたい事はわかるし、なんとなく想像もできる。
もうここに落ちている時点で、問題児確定のダメな王女だ。
しかし、エルフの国の王妃がドワーフの族長である小人の賢者の娘。
エルフとドワーフって戦争をやっていたと聞いたけど、
王と族長はもしかしてかなり仲良し?
暗闇の中をエルフの賢者にお姫様抱っこされて進む。
暗いから恥ずかしさはないけれど、胸の感触が。
どうしても神経がそこに集中してしまう。
今はもう早くここから脱出して、お姫様抱っこから解放されたい。
「君、早く慣れた方がいいと思うよぉ」
「えっ、なんで?」
「だってぇ、君は空を飛べないんだからぁ、
街に来るときはいつも私に抱っこされるんだよぉ」
賢者の弟子は凍り付く。
空を飛ぶ手段を持たない賢者の弟子には避けようのない事実だ。
賢者の弟子は、自分の異世界生活が終わったと感じた。
「なんですか?あの人間は?」
「昨日、エルフの賢者の弟子になった男の子だよぉ」
「へぇ、賢者様の弟子にですか」
「異世界から来た男の子だから変な事しちゃダメだからねぇ」
「わかってますわ。おじいさま」
小人の賢者とエクレアが暗闇の中で会話する。
エクレアは、チラッと賢者の弟子を見て笑みを浮かべる。
『また、新しいおもちゃが城にやってきた』




